みんなのインターネット

2017.02.23 ネットがない時代、欲しいものは雑誌の個人売買で手に入れた!?【マンガでチラ見、前ネット時代】

あれは20年くらい前。当時中学生だった私には、ある楽しみがあった。それは、おこづかいを少しずつ貯金して、好きなバンドのライブに行くこと。ただ、おこづかいだけでは足りないことも多く、どうにかしてライブのチケット代を工面する必要があった。

バイトは校則で禁止されていたので、それ以外の方法で。

当時、音楽雑誌に「売ります・買います*1」というページがあった。自分がどんなジャンルのどんなモノを売りたいか、概要と合わせて住所・氏名・電話番号*2を掲載するというページだ。

  • *1 当時、音楽雑誌に限らず、多くの雑誌にはモノを売りたい人が、「住所・氏名・電話番号・どんなモノが売りたいか」を掲載していたページがありました。
    そのページを見た人が、売ってくれる人に直接連絡(はがきなどを送付)し、商品の詳細なリストをもらって個人間で売買をスタートできる、という仕組みでした。
  • *2 現在では考えられないかもしれませんが、当時はあたり前に雑誌に個人情報が掲載されていました。個人売買以外では、共通の趣味の友人を探すための雑誌などもあり、雑誌を開けば個人情報がたっぷり。いまではSNSが“趣味の友人をつくる”という役割を一部担っていますが、雑誌がその役割を背負っていた時代があったのです!

いろいろな人の売りますページ欄を見ていると、売られていたのは、有名なバンドやアーティストなどのポスター。それだけでなく、チラシや雑誌の切り抜きなども売られていることに気がついた*3。特定のアイドルが出ている雑誌を網羅的に切り取り、キロ単位で売っていたのだ。これなら私にもできると思った。

私の青春が、ここから回りはじめた……。

  • *3 まだまだネットが整っていなかった当時、好きな芸能人のグッズをすべて手に入れるのは至難の業でした。とくに雑誌の切り抜き。首都圏と地方では情報格差が大きく、首都圏で買える雑誌が地方では手に入らないということも。そのため、雑誌の切り抜きも需要があったのです。
大橋さんイラスト

それからは、毎週のように地元の川崎を練り歩き、誌面で高値がついていたアーティストやバンドのポスターを探し、貼られている建物を見つけては、管理者と譲ってもらえないか交渉。

ある時は地方では手に入りにくい雑誌や新聞の切り抜きをキロ単位で集めて出品し、バイトをしなくても満足できる金額を稼ぐことができた。バイト代わりというか、もうそれは、当時の私にとってのライフワークだったのだ。

当時はネット送金なんてなかったので、金銭のやり取りは定額小為替(ていがくこがわせ)*4で行っていた。商品の代金を現金化するために、月に何回も郵便局に行っていた。

  • *4 郵便局が発行し、お金代わりに郵送できる証書のことです。必要な金額に手数料を加えて郵便局でお金を払うと、引き換えに普通為替証書が発行されます。この証書を受取人(この場合は出品者)に送ることで、受取人が郵便局で証書と引き換えに現金を受け取ることができるというもの。ネットでの決済システムが整った現代ではあまり使うことはないかもしれませんね。

その後、個人売買業界ではかなりのイノベーションが起きる。それは「私書箱制度*5」を持つ雑誌の登場である。このおかげで自宅の住所を載せることなく、安心して個人間売買を楽しめるようになった。

とはいっても、当時、住所を雑誌に掲載することで危険があったかと言われると、とくに覚えがない。むしろ、バイクの音が外から聞こえてくると、私は商品売買申し込みのはがきを、郵便屋が届けにきたかも! とワクワクしながら玄関まで出ていったものだ。

  • *5 そもそもの私書箱制度とは、あらかじめ受取人として申し込んだ人専用の郵便ポストが郵便局内に設置されていて、届いた郵便物を自由に取り出すことができるという制度。 擬似的な私書箱制度を雑誌側が準備して売買することができたので、住所を載せる必要がなくなったのです。

今になって振り返ってみると、雑誌を使った個人売買は単なる売買の仕組みではなかった。そう、コミュニケーションの一貫でもあったのだと思う。雑誌に掲載されるまでの1ヶ月はワクワクしたし、見知らぬ誰かから手紙が届くのはすごく楽しかった。

何度も売り買いのやり取りをした人には、サービスでオマケをつけたし、それに対してお礼の手紙をもらえたことは今でもたまに思い出す。

そこから文通に発展したこともあった。直接会ったことがなかったからこそ吐き出せた思いもたくさんある。今でもその手紙が実家に残っているのは、そんな青春の思い出を捨てることができずにいるからなのかもしれない。

うまく言えないが、そこにはたしかに、売買関係を超えた温かい何かがあった。

私の個人売買歴はまだ、終わっていない。主戦場はインターネットに移ったが、まだまだ続けていく。やっぱりただの売り買いという関係では続かない。ゲーム性だったり、コミュニケーションのおもしろさだったりを感じられること。これが、私が個人売買を続けている理由。

(34歳 女性 IT企業勤務)

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