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2017.10.10 死後、ネットのブクマ見られても大丈夫…?人間の尊厳を守る「デジタル終活」に迫る

パソコンというものがある。今や一家に一台ではなく、一人一台の時代だ。パソコンがないという人でも「スマホ」は持っているだろう。プライベートでも仕事でも、もはやこれらのデバイスがないと生活できない。

ただ問題もある。秘密が詰まっているのだ。パソコンやスマホは秘密の花園。誰にも見られたくない。もし自分が死んでから誰かに見られると、肉体的にだけではなく、尊厳まで死ぬ可能性がある。そこでプロに「デジタル終活」なるものを教えてもらおうと思う。

「秘密の花園」を持ち歩く時代

人間誰しも秘密を抱えて生きている。その秘密を墓場まで持っていくのだ。それが人の営みである。しかし、もろもろの事情で墓場に持って行けなかった秘密が、故人の予期せぬところで露呈してしまうことがある。遺族が遺品を整理して秘密の趣味がバレることもある。その時点で肉体だけでなく、その人の尊厳までもが死ぬのだ。

パソコンが秘密の花園の地主ですパソコンが秘密の花園の地主です

現代においての秘密は「パソコン及びスマホ」のデジタルな領域に多くあるのではないだろうか。動画、写真、検索履歴など、これらを見られたら死ぬ。生きているときでさえ、これらを見られたら死ぬ。

秘密が集約されています!秘密が集約されています!

生きているときはまだ人に見られないようにコントロールできるけれど、死んでいてはこちらからはどうにもできない。そこでデジタル領域の「終活」を学びに行きたいと思う。「日本デジタル終活協会」というものがあるのだ。

ということで日本デジタル終活協会を訪ねましたということで日本デジタル終活協会を訪ねました

終活もデジタルへ

終活とは、生前に自分が死んだあとの準備をしておく活動を指す言葉だ。お墓を買ったり、遺言書を作成したり。そして、この終活に現代では「デジタル」も加わる。その終活の方法をまとめ、広めているのが日本デジタル終活協会だ。

日本デジタル終活協会の代表理事で弁護士の伊勢田篤史さんにお話を聞きます日本デジタル終活協会の代表理事で弁護士の伊勢田篤史さんにお話を聞きます
そもそもデジタル終活とは何なんでしょう?
デジタル遺品の「死後の取り扱い」について考えることです
デジタル遺品というと、パソコンとかスマホとかですか?
そうですね、パソコンやスマホ本体というよりも、パソコンやスマホのローカルにあるオフラインのデータや、インターネット上に存在するオンラインのデータが「デジタル遺品」となりますね
どっちも見られたくない、見られたら死ぬ、死んでからの話ですが、さらに死にます
「デジタル終活」について説明するときは、まず「あなたはパソコン、スマホを遺して死ねますか?」という問いかけから始めますね
みなさん、NOでしょ!
意外にもNOは5割くらいなんですよ!
嘘だ、絶対に嘘だ。そんな無垢な穢れを知らない人なんていない!
「見られなくないデータ、パソコンやスマホに入ってませんか?」とか、具体的に説明すると「NO」となる人が多いですね
そうですよね! 大人のピンクなやつとか、大人の夜の世界的なやつとか、大人の営み的なやつとか、ありますもんね!
地主さんは勘違いされていますが、そういうものだけではありません!
え、そうなんですか!
急に自分が恥ずかしくなりました急に自分が恥ずかしくなりました
もちろん地主さんが考えるような隠したいデータの整理も含みます。まずは「自分自身がめちゃくちゃ恥ずかしいもの」。アダルトなものですね。または「家族に内緒にしていた趣味」とか。あと女性が言っていたのですが「体重の記録」とか
体重の記録! 乙女! それをエクセルで管理するのが現代ですね!
そして、「残された家族が不幸になるもの」も隠したいですね。不倫相手との写真や自分の裏の顔がわかる日記、異常な趣味がわかるもの、など。
やっぱり見られたくないものばっかりですね。パソコンって。
ここからが違います! 遺さなければならないデータもあるんです! これがデジタル終活のポイントです。隠すだけではなく、家族に知ってもらわなければならないデータもパソコンやスマホにはあるんです
 (ないな…)
まずは「ビジネス関係の資料」です。引継ぎ・処分等をしなければならないもの。個人事業主で仕事をしている人は特にたくさんあると思います。2つ目が「インターネット金融機関(特に証券会社)」関係のID/パスワードなどです。遺族が、故人のネット証券取引について知らず、気付いたら為替等が暴落して多額の追加証拠金等を請求されてしまったという話もあります。そして、「ブログやWebサイト」のID/パスワードですね。故人サイトとなってしまい、悪意のある他者に乗っ取られるて犯罪に使われることなどもあるんです
え、遺族がいきなり多額の支払いを要求されるなんて、まずいじゃないですか!
そうでしょ! 隠せばいいだけではないんです。確かにセミナーには男性が多いですが、この話をすれば男女関係ないことがわかると思います。
ピンクなことしか考えていなかった自分が恥ずかしい!
めちゃくちゃ熱心に聞いていますめちゃくちゃ熱心に聞いています

処分するのではなく、整理する必要がある

遺されたパソコンやスマホは「処分」すればいいのだとばかり思っていた。処分さえできれば尊厳は守られると。しかし、そうではない。家族に遺さなければならないデータもあるのだ。それを家族に知ってもらわなければならない。

では、どうすれば、隠すデータと遺したいデータを家族に知ってもらえるのでしょうか?
まずデジタル遺品の棚卸をして分類します。分類は「遺す」と「隠す」です。その中でも「絶対に遺す」と「できれば遺す」とに仕分けします。隠すも同じです。
デジタル終活の方法の図日本デジタル終活協会のwebサイト「デジタル終活の方法」ページより引用
そして、「エンディングノート」を作成するわけです。
これですね!
まず誰にこのノートを読んでもらい行動をしてもらうかを記します。そして、デジタル機器やネットサービス、それぞれで行ってほしいことを書いておけば大丈夫というわけです!
どこどこのフォルダを別のパソコンに移してもらったら、すぐにこのパソコンを破壊、できればハンマー的なもので粉々にして欲しい、とかでしょうか
そうですね。これで尊厳もデータも守られるわけです
でもですね、いずれにせよパソコンの中を見られるわけですよね? そうなると隠したいデータに行き着く可能性が出てきますよね?
はい、その可能性はあります。そこで、そのようなデータについては、そのデータが入っているフォルダの階層を深くして、さらに遺族が興味を持たないようなフォルダ名にしてしまうという方法があります。たとえば、フォルダ名を「囲碁将棋」とかにして、その中に西暦がフォルダ名になっているフォルダがたくさんあり、さらにその先は「タイトル戦」ごとにフォルダを分けるなど……相手に「ここから先におもしろいものは何もないな」と思わせるわけです!
おぉ! 生きているときから活用できそうなテクニック!
拡張子を変えちゃうのも手ですね。簡単に開けないような拡張子にすれば、わざわざ拡張子の謎を解いて、とかしないので。ちょっと知識のある人による、「画像・動画ファイル系拡張子のPC内検索」という攻撃からも身を守れます。ただし、データが壊れてしまう可能性がありますので、ご注意くださいね。
おぉ、いま平和が守られようとしています!
引継ぎノートはこのようになっています!引継ぎノートはこのようになっています!
イメージですが、パソコンの中は、ご遺族にとってみればいわばジャングル。そこに遺族でも分かりやすい遊歩道を作ってあげるんです。このノートを使って、その遊歩道に誘導してあげることで、ご遺族など、エンディングノートでデータ整理を託された方は故人が用意しておいた遊歩道を使って、必要なデータを回収していくことになります。こうすることで、ジャングルの奥に不用意に立ち入らせないことが可能となります!
策士ですね!
もちろん、隠したいデータのことを書いちゃダメですよ。「このフォルダだけは見ないで」と書いてあったら、絶対に見るじゃないですか
見ますね、100%見ますね。ありとあらゆる手段を使って見ますね!
そうでしょ、だから遺したいもののありかだけを書いて、他は壊すように指示するわけです
ノートにはパソコンやスマホ、SNSのパスワードも書いているわけですよね?
そうですね、なのでノートを置いておく場所も重要です
生きているときに見つかるとヤバい場合もあるし
生きているときに見つかってしまうことも問題ですが、死んでから見つからないのも問題です。
確かに! せっかくジャングルに遊歩道を作ったのに、それに気づかれない可能性が…
そこで勧めているのが銀行の貸金庫です。そこに他のもの(何かの権利書とか)と一緒にノートも預けておけばいいわけです。貸金庫のグレードはいろいろありますが、安いものなら年に2万円ほどですから
いま死後の平和な世界が見えました!
世界が平和になってきています世界が平和になってきています
普段から気をつけておくことも大切ですよね?
そうですね、家族が知っていてもいいこと、ネット証券の取引の存在とかは最初から言っておくことも大切です。写真などは家族で共有できるクラウドサービスにアップしたり
見られたくない検索履歴などもあるじゃないですか?
あるでしょうね!
私はChromeのシークレットウィンドウを活用しています。あれを使えば履歴が残らないので。そういう注意も必要ですか?
生きているときから注意深く過ごすのはよいことだと思います
じゃ、いつこのノートを書けばいいんですかね?
20代でも、「あ、まずいかも?」と思ったタイミングで書いていただければと思います。デジタル世代ですからね
確かに隕石が当たって急に死んじゃう可能性もありますからね、書くべきですね!
そうです、死んだご本人も家族も幸せになれるのがデジタル終活なのです!
私もノートを書くのはもちろん、引き続き、Chromeのシークレットウィンドウを活用していきます!
賛成です! 生きているうちから死後の対策をしていきましょう!
平和になりました!平和になりました!

ちなみに信用できる親友に死後のパソコンの処理を頼むという手もあるのだけれど、急にパソコンだけ第三者に託すむねを遺書に書くと、家族が怪しがる、と言っていた。確かにそうだ。デジタル終活ノートを書いて、尊厳を守るしかないのだ。これが21世紀なのだ。

書いておこうと思います!「大切なデータはないので全部壊して」だけど!書いておこうと思います!「大切なデータはないので全部壊して」だけど!

ライター
地主恵亮 (じぬしけいすけ)

1985年福岡生まれ。思い立ったが吉日で行動しています。地味なファッションと言われることが多いので、派手なメガネを買おうと思っています。無職でもリア充になれる方法を紹介した「インスタントリア充」(扶桑社)発売中です。ほかに「妄想彼女」(鉄人社)、「東京おのぼり観光」(アスペクト)もあります。

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