地上波とネット、テレビ番組はどう違う? AbemaTVが若者に人気の謎
インターネットやスマホの普及にともない、若者のテレビ離れが叫ばれていますが、そんな若者たちが注目しているのが、PCやスマホで視聴できるインターネットテレビ局「AbemaTV」です。
南海キャンディーズの山里亮太さんと女優・蒼井優さんの結婚会見の全編ノーカット最速放送や、新たなスタートをきった新しい地図の3人が72時間生放送に挑んだ『72時間ホンネテレビ』など、強烈な話題を提供する同サービス。
ニュース、ドラマ、アニメ、釣りや将棋など国内最大級の約20チャンネルを無料で楽しめるということもあり、10代から30代を中心に注目されています。
なぜAbemaTVは若者を取り込み、ムーブメントを起こせたのでしょうか?
株式会社AbemaTV 編成制作本部・制作局長の谷口達彦さんにお話を伺いました。
ネット放送局は「ターゲットに向けて全力で刺しにいく」
PreBell編集部:地上波のテレビがあるなかで、なぜネット放送局を立ち上げたのでしょうか?
谷口:今がタイミングとして適していると判断したからです。若者がテレビ自体を見る機会が減っているいっぽうで、スマートフォンの通信速度が速くなり、使う時間が爆発的に増えているという背景を受け、じゃあそのみんなが覗き込んでいる手元にテレビ局を作ろう、となったのです。
すでにいくつものサブスクリプションサービスが登場しているなか、後発サービスのオリジナリティとして、テレビのようなクオリティの多チャンネル視聴を無料にして、放送終了した番組のアーカイブ視聴のみ有料にすれば、ニーズがあるのではないかと思いました。
PreBell編集部:実際、ユーザーはどういう目的でAbemaTVを観に来ていますか?
谷口:たとえば、緊急ニュースや会見があったらAbemaで観ようとか、アニメの新作はAbemaで観ようというユーザーがいたり、AbemaTVでしか観られないオリジナルドラマや恋愛リアリティーショーを求めていたり、それぞれで面白いです。
PreBell編集部:テレビだと、すべてのターゲットに向けて最大公約数的になってしまうコンテンツも、AbemaTVだとコアなターゲットに刺さるものを作っていけるということですね。
谷口:ジャンルもそうですがターゲットもそうで、10代のなかだけで起こっている流行や現象を直接とらえて深掘りしていくと、面白いものになると思うんです。
でも地上波でやろうとすると、年代問わず誰が観ても理解できるようにして提供しますよね。
ネット放送局はどちらかというと、そこだけを見つめて付加価値をつけて、全力でターゲットに向けて刺しにいく、という作り方・考え方の違いがあります。
PreBell編集部:地上波だとチャンネル、番組の数、放送時間に制限がありますが、インターネットだと特定のユーザーに向けて、尖ったコンテンツを提供できるんですね。
谷口: はい。僕らは編成の自由度が圧倒的にあるので、新たにチャンネルを作ってもいいし、100時間やってもいい。メディア側で作為的に情報を切断することもなく、表情も発言もフルで届けられるので、視聴者の満足度はかなり高いと思います。
番組を企画するのではなく、話題から企画
PreBell編集部:AbemaTVは、話題になっていることへの取り組みが速い印象ですが、実現できるのはなぜでしょうか
谷口:単純に面白いものを見たいし、見せたいと思っているからかもしれません。「ホンネテレビ」の時のように、あのタイミングで72時間ずっと生放送をするという発想は他のメディアにはないかもしれません。そういう自由があるからかもしれませんね。
社長の藤田が直接総合プロデューサーを兼任していて、AbemaTVをどの社員よりもチェックしていますし、企画書も全てチェックしています。毎週何時間も企画会議の時間を取ってもらっているので意思決定のスピード感があります。
PreBell編集部:番組編成にも特徴がありますか?
谷口:編成スピードも速いですし、尺にとらわれず、ターゲットをとにかく明確にしています。「特定の誰かにとって強烈に観たいもの」という軸でしっかり企画して編成する、というのがネット放送局の特徴だと思います。
PreBell編集部:そういうコアターゲットを狙ったなかでヒットした番組は?
谷口:コアターゲットだとまず、麻雀です。社長の藤田がチェアマンを務め「Mリーグ」という麻雀のプロリーグを立ち上げて業界を盛り上げ、全試合の生中継や選手にクローズアップをした番組の放送などを行っています。業界全体で観る層も爆発的に増えていますし、若手の女流雀士が活躍して、今までのギャンブル的なイメージを払拭しています。若い女性が普通にAbema麻雀チャンネルを観てくれるようになりました。
PreBell編集部:他にもありますか。
谷口:格闘チャンネルなどもそうですね。たとえばK-1の試合も多数放送していますし、オリジナルで『格闘代理戦争』という格闘界に次世代スターを送りだす、日本初のドキュメンタリー番組の放送も行っています。コアなファンも、今まで観ていなかった層の取り込みにも成功しています。
PreBell編集部:テレビに近い品質で制作されていると思いますが、インターネットだからこそ意識していることはありますか。
谷口:番組を企画するのではなく、話題から企画しようとしていますね。話題がネットで拡散していかないと、視聴習慣がついているテレビのように「たまたま観たら面白かった」が成立しないからです。ネット放送局は観に来てもらわなくてはいけません。
作ると届けるを分断させずに取り組もうとすると、たとえばどうしてもタイトル一つで興味を持たせることも重要になります。「亀田興毅に勝ったら1,000万円!」って番組内容も一瞬で分かるし、予定不調和な雰囲気も感じさせる良いタイトルだと思います。
PreBell編集部:キャスティングですが、テレビと違いネットは有名なタレントが出たら視聴者が増えるわけではないですよね。
谷口:そうですね。人からだけで入るという企画はあまりないかもしれません。視聴者に感じてもらいたいワクワクとか、その人がテレビや他のメディアでは通常やらなそうなことなど、人×サプライズ的な企画から入っている感じは多いです。
PreBell編集部:10代を中心に人気の恋愛リアリティショーシリーズ『白雪とオオカミくんには騙されない』では、ユーザーが投票して誰を脱落させるか決めるというルールがありますが、ユーザーとのコミュニケーションを意識してコンテンツを作られていますか?
谷口:はい、何か感想を言いたくなるようなものをいつも意識して作っています。それがSNSを通じて拡散され、新しい人の興味を生み出し、またその新しい人が番組を観て感想を言う、という形で、インターネットの広がりを絶えずイメージしていますね。
PreBell編集部:番組外でもインターネットを通じて、ユーザー同士のコミュニケーションの広がりで繋がっていくわけですね。
谷口:そうですね。「Aくんがオオカミに違いない」とか、「そう思っていたけど今週見たらBくんなのかもしれない」など、毎回SNSで盛り上がるんです。
ネットの進化で地上波とネットテレビ局は変わる?
PreBell編集部:回線の速度と視聴関係はある程度関係があるのではと思いつつ、今後始まる5Gなど、インターネットの発展に伴う今後の展望はありますか?
谷口:僕らがAbemaTVを作った2016年、まさにスマホ動画元年みたいなことが言われましたけど、通信環境やデバイス環境が比例していかないと流行るものも流行りませんので、まだまだスマホで番組を見るという視聴環境は確立されていません。
今よりももっと通信環境が進化していけば、よりいつでもどこでも観られるようになるので、緊急ニュースなどをよりリアルタイムで視聴することができると思います。複数のユーザーとコメントしながらリアルタイムで楽しみたい人はリニア放送で視聴し、自分の好きなタイミングでじっくり何度も楽しみたい人は、Abemaビデオで視聴するなどテレビ型とビデオ型のハイブリットのニーズは増えてきています。
PreBell編集部:そうなると地上波のテレビは、今後どうなると考えていますか?
谷口:ネット放送局が登場したからといって、テレビと同じ視聴がなされるわけではないと思います。地上波は地上波として、形を変えながら的確なターゲットを刺すコンテンツとして残ると思いますし、インターネット動画配信サービスはもっと増えた後に、一定の淘汰がなされるのは間違いないでしょう。
まとめ
お茶の間の娯楽としてあったテレビと、インターネットの進化によって生まれたネットテレビ。両者は共存しながら少しずつ形を変え、次の時代へ向かっているようです。その先にはどんなテレビの未来が待っているのか、楽しみですね。
株式会社サイバーエージェント 執行役員
株式会社AbemaTV 編成制作本部・制作局長
谷口達彦
2006年株式会社サイバーエージェントに新卒入社。社長室に配属され社長の運転手をしながらAmebaブログの新規開発や宣伝広報に携わる。2013年、タレント動画配信プラットフォームを事業化した子会社を設立、代表に就任。その後AbemaTVを立ち上げのためサイバーエージェントに戻り、株式会社AbemaTV 編成制作本部・制作局長に就任。オリジナル番組の制作マネジメントを担当。
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