【特集】学校ってホントに行かなきゃだめ? ネットの高校「N高」現役生に話を聞いた
大学受験予備校ではオンラインの授業は当たり前に行われ、スタディサプリなど学習をサポートするサービスも広く普及しました。そんななか、「高校」自体をオンライン化してしまおうとはじまったのがインターネットを使った通信制高校「N高等学校」。
授業とテストだけなら確かにオンラインでもいいのでは?と思いつつ、あの思い出がいっぱい詰まった青春時代を振り返ると、いやいや高校ってそれだけじゃないしょう!とも…。
インターネットで「高校生活」は十分なのか? N高に伺い、現役生の田邉快哉さんにお話を伺いました。
高卒資格取得に必要な授業はすべてオンラインで
PreBell編集部:N高ではどんなことを勉強しているのですか?
田邊:僕は今、N高の3年に在籍していて、映像制作を中心に勉強しています。将来はミュージックビデオやプロモーション映像の制作をしたいと思っています。
PreBell編集部:N高を選んだ理由を教えていただけますか。
田邊さん:中学生のとき、学校に違和感を覚えて、馴染めなくなりました。学校に通うことにトラウマがあったので、そこに縛られず、自分の好きだと思うことが勉強できるN高を志望しました。
PreBell編集部:実際にN高に入ってみてどうでしたか。
田邊さん:僕みたいに中学校には馴染めなかったけれど、自分の好きなことは勉強したいっていう子もいれば、都道府県を代表する進学校からN高に来るケースもあります。いろいろな生徒がいますね。
それもあってか価値観も多様なので、他人の考えをちゃんと受けとめてくれる子が多くて、意見交換がしやすい環境です。今はすごく学校の居心地がいいですね。
PreBell編集部:授業はどう進めているんですか?
田邊さん:N高にはオンライン授業のみの「ネットコース」と、オンライン授業に加えキャンパスにも通う「通学コース」があり、僕は週3日の通学コースに在籍しています。
高卒資格取得のための英語や数学などの通常授業は、すべてオンラインで受講します。決められた期日までに授業動画を見てレポートを提出するんです。
対面式の授業だと、先生の授業のスピードや決められたカリキュラムについていけない人もいれば、遅いと感じる人もいるじゃないですか。動画だと、自分のペースで学んで、好きなときに復習できるのはメリットだと感じています。
PreBell編集部:パソコンさえあれば、家にいながら自分のペースで勉強して、高校を卒業できるんですね。通学コースの学生はなぜ登校しているんですか?
田邊さん:オフラインの授業はプロジェクト形式でグループワークを行います。1~2カ月かけて1つのプロジェクトを進めていきます。
去年は、スクラップという脱出ゲームをつくっている会社とコラボレーションをして、オリジナルの脱出ゲームを作りました。企画書をつくってプレゼンテーションし、企業の社長からフィードバックをもらったりするんです。
PreBell編集部:一緒の教室にいないときは、グループのメンバーとどうやって連絡を取り合っているんですか?
田邊さん:連絡は、チャットアプリのSlack(※)を使っています。ネットコースの学生は、ホームルームをSlackで行いますよ。その時間に参加していなくても、伝達事項はログとして残っているので後で見返せばいいんです。
※Slack … ビジネスやIT開発の現場でよく使われるチャットツール
PreBell編集部:チャットでホームルーム! 未来を感じる…。他の学校よりもオンラインでの関わりが多いと思いますが、ちゃんと友達はできるんですか?
田邊さん:できますよ。全国各地に生徒がいるので、Slackだけではなく、Twitterから共通の趣味でつながることもあります。住んでいる場所が近いから会おうよ、なんて話にもなりますし。
PreBell編集部:じゃあ、学内遠距離恋愛なんてことも…?
田邊さん:よく聞きますよ。東京と名古屋のカップルとか、大阪と石川のカップルとか——。まあ、これはN高に限らず、インターネットのネイティブ世代だとSNSで知り合って、つき合ったり、結婚したりは当たり前ですからね。
文化祭の準備はGoogleのクラウドで
PreBell編集部:N高の文化祭と言えば、ドワンゴ主催のニコニコ超会議のなかで行われるので有名です。田邊さんは今年4月の文化祭で実行委員を担当したんですよね。
田邊さん:はい、N高文化祭には昨年から関わっています。昨年は映像の編集を担当し、今年は副委員長としてスケジュール調整や、全体のまとめ役をしました。
PreBell編集部:文化祭の打ち合わせも、やはりオンラインで?
全国各地に生徒がいるので、家が近い生徒は東京や大坂などの拠点に集まり、遠い人はビデオチャットでオンライン参加しました。ここでも業務連絡はSlackで行います。
全員が顔を合わせるのは文化祭の前日準備のタイミングになるんです。ずっとオンラインのみでやりとりをしていて、前日に初めて会えたというメンバーもいます。
PreBell編集部:同じ場所にいれば作業の進捗などがわかりやすいと思うのですが、オンラインだと、みんなをまとめあげるのは大変じゃないですか?
田邊さん:G Suite(※)を積極的に活用して作業や進行の管理をしました。Googleドライブ上に実行委員が見られる共有フォルダを作って、そこにアクセスすれば企画書や作業進行表など必要なデータが見られるようになっているんです。
※G Suite … メール、カレンダー、ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションなど、クラウドでビジネス向けアプリケーションを利用できるサービス
N高のTwitterアカウントで、文化祭出店者のPR動画を配信する企画を担当したのですが、そこでも動画の素材はGoogleフォームからアップしてもらって、僕の方で編集して公開をしていました。
【#N高文化祭】超会議とN高文化祭がついに明日に!!
— N高等学校(学校法人角川ドワンゴ学園) (@nhigh_info) 2019年4月26日
文化祭の魅力は一旦ここでおしまい☆
最後のPR動画は委員長のあやちゃからです♪ 私の話は10秒で収まるか!?(笑) 乞うご期待!!
N高文化祭へのご参加お待ちしてます♪ スタッフより#超会議2019 pic.twitter.com/6XHxrm2iec
PreBell編集部:企業のプロジェクト管理さながらですね…。
田邊さん:もちろん、N高のなかでもITツールを使い慣れているかは個人差があります。Slackを全然見てくれなかったり、Googleドライブ上の権限設定を間違えたり。そこをフォローしていくのも大変でした。
PreBell編集部:授業で学んだことが活かされているのですか?
田邊さん:僕の場合はTwitterの投稿それぞれにターゲットを設定して内容を決めていたのですが、それはN高のプロジェクト型学習のなかで、ペルソナの立て方を教わったことが活かされています。
G suiteもN高に入ってから本格的に使うようになりました。表計算の関数にも詳しくなってしまいました(笑)。
PreBell編集部:高校の文化祭というより、企業のプロジェクトみたいですね。
田邊さん:今年から各コーナーの来場者数やニコニコ動画での生放送の視聴数など、数値を取得するようにしました。その数値を指標に来年も改善していくと思います。
PreBell編集部:PDCAを回す文化祭…すごい。
教育は永遠のβ版、学校と生徒が一緒に作る学校
通常の授業はオンライン動画。オフラインではグループワークや課外活動など対面ならではの価値を提供する。型破りでありながら、とても合理的にも感じられるN高のカリキュラム。学校側はどのような思惑で運営をしているのでしょうか。
N高の副校長・上木原孝伸さん、コミュニティ開発部部長・秋葉大介さんにもお話を伺いました。
PreBell編集部:N高のカリキュラムはとても合理的に感じられました。一方で、学校は人格形成の場であり、友だちと思い出をつくる場でもあると思います。
秋葉さん:現在1万人の生徒がいてSlackを使っています。1万人とオンラインで繋がれることでどんなにマニアックな趣味などを持っていても、似た関心や趣味、目的を持っている子がだいたい見つかるんですよ。
PreBell編集部:なるほど。他の学校であれば、クラスでせいぜい数十人。そこに趣味が合う人がいなかったら、たとえ同じ場所にいても友だちができない子もいるかもしれませんね。
秋葉さん:Slackでは趣味のチャンネルもつくることができます。きっかけのつくりやすさはオンラインの特徴で、親和性の高い生徒同士だと友情も深まりやすい。通常の学校だと、もっと少ない人数の中から自分に合った人を見つけなくてはいけません。
思い出という意味では、ホームルームの内容もすべてSlackでログとして残るので「学校生活を振り返れてうれしい」と生徒から言われたことがありますね。
PreBell編集部:学校生活の何気ない会話がずっとログとして残っていくんですね。学校生活といえば部活動も大切ですよね?
秋葉さん:部活はオンラインでできることがメインになります。囲碁将棋、 Eスポーツ部などですね。
ちなみに、一番盛り上がっているのは美術部です。
これもSlackメインで動いていて、月に2回ほどプロのイラストレーターさんが生徒が提出したものに添削してくれるんです。現在部員は285人なんですが、こんなに美術部員がいる高校ってないですよね。
PreBell編集部:確かに(笑)。授業の方に話が移りますが、1万人も生徒がいてオンラインとなると強制力がなく、落ちこぼれてしまう生徒も多そうですが…。
上木原さん:生徒がログインしているか、動画を視聴しているか、レポートを提出しているかはすべてログが残ります。生徒が期限までにレポートを提出していなかったら、連絡をして。もし1時間後にレポート提出済みにログが更新されたら、褒めてあげることもできます。
PreBell編集部:ログが残る分、むしろオフラインの学校より、細かく生徒の進捗を把握できそうですね。
上木原さん:ログは生徒の進捗の把握だけでなく、学校運営にも活かすことができます。こうすれば生徒のレポートの進捗率が上ったなど、教える側のノウハウにもなるんです。アンケートもあらゆる場面でとるようにしていて、定量的なデータと生徒のリアルな声を合わせて、常にPDCAを回しています。N高は永遠のβ版ですね。
PreBell編集部:なるほど、今の教育者に必要なのは常にβ版だという謙虚な意識なのかもしれないですね。
上木原さん:生徒もSlackから直接学校の運営についての建設的な意見を送ってくれます。私のところにも生徒からDMが届きますよ。一緒に学校をつくっているというイメージを持っています。
PreBell編集部:オフラインの学校だと、職員室の扉を開けて学校についての意見を言うなんて、ハードル高すぎですが…。slackだと言いやすいのかもしれないですね。
最後にN高の教育理念を教えてもらえますか?
上木原さん:教育理念…難しいですよね。理念を語るより「子ども達にとって本当に必要なことはなにかを大事にしよう」ということが、開校当初からの合言葉です。実際に社会に出たときに武器になるものを身につけさせたいんです。
それがプログラミングスキルの場合もあれば、大学受験の結果が武器になることもある。N高としてはそれぞれの生徒の願いを叶えるために、いろいろな材料を用意したいと思っています。
PreBell編集部:オフラインの学校にとっても見習うべき点が多いように感じました。この先、N高のような学校は今後増えていくと思いますか?
上木原さん:すべてがN高のような学校になればいいとは思っていません。隔たりが少なく平均レベルまで学力を引き上げる日本の教育はよくできていると思います。
でもそこからはみ出てしまう生徒もたくさんいる。そういう子が学びたいと思えるものがN高にあればいいと思っています。
ただ、N高のような学校はまだ少ないし、N高がすべての子をカバーできるわけではありません。そういう意味では、N高のような学校が他にもでてきたらいいなと思いますね。
オンラインだからこそマイペースに学べる。新しい学校の形。
4年目を迎えるN高では、昨年はじめて卒業生を輩出しました。進路決定率は81.8%で、これは他の通信制高校と比べると高い数字だといいます。なかには慶応大学や早稲田大学に進路が決まった生徒もいるそうですが、大学の進学実績だけを追うのではなく、生徒一人ひとりの目標に合わせてサポートをしていきたいというN高。1万人を越える生徒にそれを提供するのは、オンラインだからこそできること。
学習プログラムも学習ペースも学ぶ場所も、オンラインを利用して生徒に最適な環境を提供していく。ITの導入が進むリアルな学校でも、参考にできる点がありそうです。
TEXT:PreBell編集部
PHOTO:小池大介
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