ネットの歴史は騙し騙されの歴史? これからも続くいたちごっこ【So-net25周年企画 そこにはいつもネットがあった#2】 みんなのインターネット

ネットの歴史は騙し騙されの歴史? これからも続くいたちごっこ【So-net25周年企画 そこにはいつもネットがあった#2】

2021年、So-netはサービス開始25周年を迎えました。1996年にインターネット接続サービスがスタートし、2001年にはADSLサービスを開始。翌2002年には光接続サービスを開始し、今に至ります。

その傍らにはいつも、インターネットを盛り上げるサービスと、時にはそれらを邪魔する者たちも現れました。この連載「そこにはいつもネットがあった」では、インターネットとその周辺にあるものに焦点をあて、インターネット黎明期から現在までを振り返ります。

第2回目となる今回のテーマは「ネット詐欺」。1990年代から「ブラクラ」などのいたずらや、ネットオークション詐欺など、数々のいたずらや詐欺がインターネット黎明期から存在していました。そんなネット詐欺の変遷について、情報リテラシーの専門家・小木曽健さんにお話を伺います。

小木曽健さん小木曽健さん 国際大学GLOCOM客員研究員。情報リテラシーの専門家として、書籍執筆や連載、メディア出演などを通じて、「ネットで絶対に失敗しない方法」や情報リテラシーに関する情報発信を幅広くおこなっている。PreBellでは、「サイバー護身術」の監修を担当。著書に『13歳からの「ネットのルール」 誰も傷つけないためのスマホリテラシーを身につける本』(メイツ出版)、『ネットで勝つ情報リテラシー』(筑摩書房)など。

笑えるものからトラウマ級まで、ネット黎明期のいたずら

■ネット関連のサービスの発展と詐欺の歴史

年代 出来事
1995年 Windows 95 発売
→モデムを利用したダイアルアップ接続を利用した
「ダイヤラー」が登場
1995年頃 ブラウザクラッシャーなどのいたずらが発生
出会い系サイトが登場
1998年 ネットバンキング開始
1998年頃 データ削除や曝露ウイルスなど、実害の伴ういたずらが発生
1999年 Yahoo!オークションがサービス開始
→オークション詐欺(デジタル家電やチケットなど)
2002年 ファイル共有ソフトWinny配布
スパムメールでNTTドコモが勝訴。特定メール法ができる
2004年 フィッシング詐欺が確認される
2005年 ワンクリック詐欺で逮捕者が出る
2008年 Twitter、Facebook日本上陸
2015年頃 ウイルス詐欺(偽警告)
SNSのアカウント乗っ取り

––この「ネット詐欺年表」をご覧になって感じられることはありますか?

黎明期のいたずらである「ブラクラ(※ブラウザクラッシャーの略。ウインドウをたくさんポップアップさせてブラウザを落とす)」なんて、今からすればかわいいものですよね。

今のネット詐欺は、個人を特定する情報など目もくれず、利益に直結するクレジットカード情報だけ欲しがりますから。

––愉快犯であるいたずらから、利益を求める詐欺に変わっていったわけですね。

もっとも、当時ブラクラでパソコンが落ちてデータが飛んだ経験があって、ものすごく腹が立ちましたけど(笑)。

––ブラウザが落ちるだけじゃなく、パソコンまで落ちてしまったんですね。

あの頃のパソコンは動画再生どころか音声データですらフリーズするような性能でしたからね。そんなパソコンで、ウインドウを大量に開けば処理が追い付かず、大抵はOSの強制終了。やっていた作業は全部やり直し、みたいなことが多かったのです。

今のアプリケーションはデータを自動で復旧してくれるものが増えましたが、「フリーズしたらおしまい」の当時から考えると夢みたいな話です。

––他にいたずらで思い浮かぶものはありますか?

これは絶対に検索してほしくないし、検索しちゃだめなやつだし、とにかく私、ちゃんと忠告しましたからね! 絶対に画像検索しちゃいけないワードなんですが「蓮コラ(※集合体恐怖症を煽る画像)」は忘れられません。

––ご忠告ありがとうございます(笑)。ありましたね~。

僕ら世代の何万人もの心をえぐりつづけていると思います。僕自身、本当に苦手で、今でも夢を見ますから……。そういう「騙し」「クリックさせてダメージを与える」みたいなものが当時はびこっていて、「自分はこのURLを怖くてクリックできない。俺の代わりに開いてくれ」みたいな定番スレッドが2ちゃんねるに存在しているくらいでした。

––はいはい。

「この写真ちょっと心霊写真っぽいんだよね」と言われて、「どこが?」とじっと見ていると、実はGIFで怖い演出がバーンって飛び出してくるいたずらもありました。今でもYouTubeやTikTokで似たようなものがあるでしょう?あれってWindows 95の頃からあったんですよ。

––突然叫び声が鳴るページとかもありましたね(笑)。

うずまきウイルスなんていうのもありました。「これをクリックすると、すごくきれいだよ」って言われて、クリックしてみるとデスクトップ上にうずまきが出てきてぐるぐる回るんですよ。「催眠術っぽいだろ」なんて。でも、実はその裏側でデータがどんどん消去されているっていう。

––それは怖い……!

今でもうずまきマークを見ると、他人の画面だとしてもドキドキします。他にも、「パソコンが最近重いんだよね」っていう人に対して、「このコマンド打つとすっごく軽くなるよ」って提案するネタがあって。実はそれCドライブの初期化コマンドなんですよ。

––MS-DOS(※)で入力させるやつですね(笑)。なつかしい!

当時、初心者はみんなやられていました。その少し後には、暴露ウイルスというのも流行りましたね。ウイルス感染したパソコンのマイドライブを、ユーザー名と一緒に丸ごと抜き取り、Winny(※当時流行したファイル共有ソフト)にアップロードするんです。

あの頃は暴露ウイルスで流出したデータを専門に取り上げているサイトもありましたし、今でも当時の流出データをネットで見かけることがあります。

※MS-DOS…マイクロソフトがかつて開発・販売していた、PC向けのオペレーティングシステム。

––初期化や暴露ウイルスって、現代の感覚からすると、もはやいたずらではなく犯罪ですよね。

法解釈や世間の認識がなかっただけで、実は当時でも犯罪だったと思いますよ。暴露ウイルスで人生に大きな影響が出た人もいます。あの頃はみんな利益目的じゃなくて、単純にいたずらでやっていて、でもそれに歯止めがきかなくなっていったように思います。

その一方で、まだ「ネットはトイレの落書き」とも言われていて、Webサイトを持っていない企業も多い時代でした。ネットにまつわる「コスト」「相場」もいい加減で、私の友だちなんか、ある企業の初歩的なWebページを構築しただけで、200万円請求していましたよ。企業もちゃんとそれ払ってくれていましたからね。

ブラウザクラッシャーのイメージ
ブラウザクラッシャーのイメージ。そのページを開くと、無限にウインドウが開いたりして正常に操作できなくするなどの異常な動作も引き起こす。

いたずらから、「利益を求めるネット詐欺」の時代へ

––ネット詐欺といえば、当時の「出会い系サイト」は非常に怪しいものがありましたね。

ネット黎明期、初期の出会い系サイトは業者が介在していない、どちらかというとまあ、今のSNSに近いものでした。サクラや騙しも少なく、普通に男女が知り合い、個別にやり取りしているような界隈だったんです。

それを見て、いろんな人たちが「儲かるのでは」と出会い系に参入してきたわけですね。人が集まれば、犯罪も事件も増える。ガラケー(※)でネットができるようになった時期とも重なり、それまでパソコンを使っていなかった、ネットをやっていなかった一般層が一気に流入してきた、というのは大きな転換期だったと思います。

※ガラケー…ガラパゴス・ケータイのこと。別名、フィーチャーフォン、折り畳み式携帯電話。

––初期の「Yahoo! オークション」でも「振り込んだのに商品が送られてこない」なんて詐欺が大々的に報道されていましたよね。

当時はメディアも「インターネットは匿名」という認識が今よりもっと強く、「ネットという特殊な世界で起きていること」という温度感で伝えていたので、世間も「ネットなんか使うから悪いんだ」くらいの反応でしたね。

––なるほど、そうでしたね。

どんなサービスでもそうなんですが、一部のマニアだけが使っている間はともかく、誰もが使うようになると、当然そこにはうっかり者も悪人も混じってくるわけで。

そこからいろんな問題が起き、トライアンドエラーで解決していき、最終的に現実生活と同じリテラシー・法律が浸透していく。これが過渡期とよばれる、犯罪者にとって絶好の儲け時なのです。

––ネットが「怪しいもの」とされていた時代からの変わり目ですね。

当時はまだ、大手IT企業の社長でも「何やっているかわからない。詐欺師?」みたいに言われていましたから(笑)。

––2004年にはフィッシング詐欺が確認されましたが、これはAmazonなどのECサイトを装ったものでしょうか?

いや、ネット通販よりも銀行のネットバンキングを装って口座情報を入力させるケースのほうが先だったと思います。

ネット通販はまだ普及半ばでしたが、銀行がやっているサービスは、それだけで信頼させてしまう「錯覚」効果があり、ロゴなどそのままコピーすれば、多くの人を騙せた時代でした。

「ネットにクレジットカード番号を入力するのが怖い」という人も今より多かったので、銀行を偽装する手口が金融系の詐欺での突破口になったんじゃないかと思いますね。

いたずらから、「利益を求めるネット詐欺」の時代へ

これからのネット詐欺はどうなっていく?

––いろんなネット詐欺が出てきましたが、どういう時に新しいネット詐欺が生まれやすいのでしょうか?

これまで大きなタイミングが3つあったと思います。
それはWindows95、ガラケー、スマホがそれぞれ普及したとき。要するに、それまでそのサービスを利用していなかった人が利用するようになったタイミングです。
利用者が増えたタイミングで、犯罪者も一緒に入ってくるということですね。

––ダイヤルアップ接続からISDN、ADSL、光と、回線の速度が上がってきた影響はありますか?

回線がリッチになるにつれ、扱えるコンテンツの濃度もボリュームも増え、それに伴って犯罪手口もより巧妙になってきたと思います。

「あなたのパソコンのデータを丸ごと暗号化しました」みたいなのは、ダイヤルアップ接続の時代は難しかったでしょう。ただ、どちらかというと回線速度よりも常時接続になった影響の方が大きい気がします。

そもそも「常時接続」という言葉さえ、今や死語になりつつある。携帯・スマホがもたらした大きな変化です。それ以前の「パソコンを立ち上げて、ネットにアクセスして、さあインターネットやろう」だった頃は、犯罪者が悪さを働ける時間も限られていました。

––スマートフォン以降、ネットにつながっていて当たり前ですからね。

自宅の高速回線もそのきっかけでした。世の中にブロードバンドが普及し、常時接続が当たり前になった結果、今や家電や車といった道具もネットにつながり始めていますよね。

車なんて、自動車を制御するOSがネット接続を前提に設計されているものもあります。将来、自動運転のレベルが上がって完全にレベル5に到達したら、東京の住宅街に停められている車を地球の裏側からハッキングして盗む、なんてことも可能になるわけです。

––自動運転で港まで走らせて船に積み込むことだってできるようになるかもしれませんね。

だから、防犯目的の頑丈なガレージが流行ったり、車輪を固定する車止めが当たり前になる、そんな未来もありえます。

そしてセキュリティの面から言えばスマートホームも注意が必要です。遠隔でドアをロックできるということは、その逆も可能ということですから。今日この瞬間だって、世界中に初期パスワードのままのぞかれ放題の家庭用防犯カメラがたくさんあります。そういうカメラばかり集めて閲覧できるようにしているサイトもあります。

無意識に、不用心に使っている道具にも、ネットのリスクが忍び寄っていることは知っておいた方がよいでしょう。

––これまでネットのいたずらや詐欺を振り返りましたが、我々はどのような対策をとるべきでしょうか?

いろんな詐欺が生まれましたが、「人が人を騙す」という構図は変わりません。例えば仮想通貨詐欺を見ても、やっている手口は高度でもなんでもない。昔の未公開株詐欺や原野商法と一緒です。だから「リアルな感覚」を忘れないことが大切なんだと思います。

––リアルな感覚?

「このパソコンはウイルスに感染しています。サポートするのでクレジットカードの情報を入れてください」っていうウイルス詐欺(偽警告)がありますよね。

あれってリアルに置き換えたら、駅前でいきなり「あなた、ウイルスに感染していますよ!さあ、私にクレジットカード情報を教えてください」ってホワイトボードを差し出されているようなものです。

書きませんよね? でもそれがネットになるとやってしまう人がいる。それはきっと現実への置き換えが出てきていないからだと思います。

––メタバース(※)が普及したら、ネットを現実のものとして認識する人が増えそうな気もしますね。

メタバースでの生活が当たり前になった未来の若者は、きっと「昔ってネットと現実を分けていたの?」なんて驚くと思います。

インターネットが画面の向こう側にある別世界ではなく、現実そのものになったその瞬間、ネットリテラシーはただの「リテラシー」に変わるでしょう。私はその瞬間を是非この目で見届けたいです。

※メタバース…ヴァーチャル空間の一種。コンピュータやネットワークの中に構築された、3次元の仮想空間やそのサービスのこと。

小木曽健さん

文・撮影:照沼健太

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