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2022.05.12 着メロに赤外線!モバイルの進化を専門家に聞いたら胸アツな思い出が蘇ってきた【So-net25周年企画 そこにはいつもネットがあった#5】

2021年、So-netはサービス開始25周年を迎えました。1996年にインターネット接続サービスがスタートし、2001年にはADSLサービスを開始。翌2002年には光接続サービスを開始し、今に至ります。

その傍らにはいつも、インターネットを盛り上げるサービスがありました。この連載「そこにはいつもネットがあった」では、インターネットとその周辺にあるものに焦点をあて、インターネット黎明期から現在までを振り返ります。

第5回目となる今回のテーマは「モバイル(携帯電話/スマートフォン)」。1980年代後半に日本でサービスを開始し、90年代後半に普及した携帯電話。そして2008年には日本でのiPhone発売を機に広まったスマートフォン。いずれも私たちの生活に欠かせない製品となりました。

そんなモバイルの歴史について、20年以上携帯電話を中心に国内外のモバイル業界の最先端を取材し続けているジャーナリスト・石川温(いしかわ・つつむ) さんにお話を伺います。

石川温さん石川温さん スマホ/ケータイジャーナリスト。20年以上モバイル機器を中心に国内外のモバイル業界を取材する。日経電子版で『モバイルの達人』の連載やラジオNIKKEIにて『石川温のスマホNo.1メディア』をラジオ配信するなど幅広く活躍している。著書には『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(エムディエヌコーポレーション)「仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞社)など。

約10年スパンで世代が変わってきた、モバイルの歴史

■携帯電話とスマートフォンに関する発展の歴史

年代 出来事
1979年 セルラー方式による自動車電話サービスを開始
→1G(アナログ無線技術)
音声通話サービスが中心
1985年 通信自由化、ショルダーホン登場
1987年 携帯電話サービス開始(NTT)
1991年 超小型携帯電話「mova」が登場
1993年 デジタル携帯電話サービス開始
→2G(デジタル無線技術)
メールやインターネットが携帯電話で使えるように
1999年 「iモード」登場
2000年 カメラ付き携帯電話が発売
2001年 「FOMA」発売、アプリサービス開始
→3G(2000年以降、データ速度10M~20Mbpsクラスの高速化技術)
ひとつの端末を世界中で使用でき、音楽や映像などのマルチメディアに適応
2002年 着うたサービス開始
2004年 おサイフケータイ発売
2006年 音楽プレイヤー付き携帯発売、ワンセグ放送開始
2007年 アメリカを中心にiPhone発売 ※日本未発売
2008年 日本でiPhone3G発売
2012年頃 4G(3G更なるデータ速度高速化・大容量化技術)
スマートフォンのためのネットワーク技術とも言われている
2020年頃 5Gスタート(高速大容量通信、超低遅延、多数同時接続)
モバイルに限らずあらゆる端末がモノが通信可能になると期待される

––携帯電話から最近の5Gスマホまで、モバイルの歴史はどのような道筋を辿ってきたのでしょうか?

まず、1Gから5Gまで通信方式の世代がおよそ10年ごとに変わってきました。技術の進化に伴い、大容量の高速通信が可能になりサービスや端末が進化してきたという歴史があります。2020年ごろから第5世代である5Gが始まり、2030年の少し手前には第6世代の通信が始まるだろうと言われています。

––5GのGは「Generation=世代」のGと言いますもんね。では具体的に携帯電話はスマホが登場するまでにどのように変化してきたのでしょう?

第1世代の頃は、「自動車電話」に始まり、「携帯電話」という文字の通り、電話を持ち運ぶだけの時代でした。非常に大型なショルダーフォンがその代表例ですね。重さはなんと3kgくらいありました。

第2世代では通信がデジタル方式になりました。その初期はまだ機能としても「どこでも電話できる」程度でしたが、2Gの終わり頃に携帯電話の歴史を語る上で欠かせない大きな出来事がありました。それが1999年の「iモード」サービス開始です。

––「iモード」とはどんな機能だったのでしょうか?

簡単に言えば、携帯電話でインターネット機能が使えるようになったということです。それ以前もメール機能は使えましたが、iモードが出たことでWebとデコメなど機能の充実したメールが使えるようになったんです。それをきっかけに、カメラ、音楽、テレビ、おサイフケータイといった携帯電話への付加機能の競争が始まりました。

その次にモバイルに訪れる大きな変化といえば、2007年のiPhone登場をきっかけとしたスマートフォンの普及ですね。

––端末の進化について印象深かったタイミングはありますか?

iモードが登場したことで、端末の画面が大きくなり始めたことですね。折りたたみ型の「N501i」がその代表だと思います。それまでも折りたたみ型はあったのですが、iモードでWebやメールを閲覧するようになって、大画面の意義が出てきたんですね。

––たしかに電話機能だけだったら、画面の大きさは必要ないですもんね。でも、今のスマホ世代からすれば「何で折りたたんでたの?」という疑問も出てきそうですよね(笑)。

そうですね(笑)。物理的なテンキーと大画面をコンパクトに持ち運ぶという点では、折りたたみが合理的だったんですよね。「N501i」を筆頭とするNECの折りたたみ端末が爆発的に売れたのをきっかけに、他社も参入して一つのトレンドになりましたね。

他にもカラー液晶やカメラ機能の搭載も、端末の進化としては大きく印象に残っています。

携帯電話

––今では信じられませんが、2000年頃まではモノクロ画面が当たり前でしたもんね。

2000年前後は「次はどのメーカーがどんな進化をさせてくるんだろう?」という期待があって、携帯電話業界は非常に面白かったですね。自分もその頃に携帯電話にどっぷりハマって、今の仕事に繋がっています。当時いろいろな人を取材しましたが、「携帯電話のサービスで世の中を変えよう」と考えてる人がたくさんいて、この業界はすごい勢いがあると思ったし「我々の生活はこれから変わるんだ」と気付かされました。

カメラからテレビまで、2000年代に花開いた「携帯電話」

––2000年にはカメラを搭載した初の携帯電話「J-SH04」が発売されました。

もともとカメラの部品を作っていたシャープが、J-PHONEと一緒に作ったと言われている端末ですね。非常にウケて「写メール」という言葉とともに爆発的にヒットしました。
一方シャープはドコモに対しても「カメラをつけましょう」という話をしていました。はじめは頑なに「カメラなんて流行らない」と拒否されていましたが、結局、カメラをつけることになりましたね。

––やはりカメラと携帯電話の相性は良かったということなんでしょうか?

2022年の今でも各メーカーはカメラ機能を競っていますからね。もちろん、それだけユーザーが使う機能に成長したということでもありますし、キャリアからすると写真を添付して送った方が通信量も増えるので、より多くの通信料金を取れるというメリットがあります。ユーザーと企業の需要がマッチしたというのも大きいと思いますね。

––現在ではZoomなどのビデオ会議も珍しいものではないですし、静止画/動画問わず、カメラのない端末はちょっと想像できないですね。

ビデオ通話は昔から「未来の技術」として語られることが多かったですが、20年の時を経てついに当たり前の技術となりましたね。実は2001年には既にドコモが「FOMA」という第3世代のサービスの中で「テレビ電話」をサービスの売りにしていたんですよ。でも当時は誰も使わなくて、散々な言われようでした。

しかし、iPhoneにFaceTime機能が搭載されると家族間のビデオ通話が珍しいものではなくなり、2020年からはコロナ禍もあってみんなが当たり前のようにZoomなどのビデオ通話をするようになりました。

––当初は流行らなかったけれども、日本の携帯電話はiPhoneよりもずっと前にビデオ通話を実現させていたのですね。

長い間「ガラケー」と揶揄されてはきましたが、日本の携帯電話は世界を先取りしていました。今はApplePayがありますが、そのずっと前から「おサイフケータイ」機能がありましたし、音楽プレイヤー機能もあった。当時は今では考えられないくらいメーカー数が多かったですし、各社頑張って知恵を振り絞り、世界に先駆けたことをやっていたんですよね。
ケンウッドとかパイオニアとか三菱とか、今はもう存在しなかったり端末を作っていなかったりするメーカーが、多種多様な機能を搭載した各社オリジナルの機種を作っていた非常に面白い時代でした。

とはいえ、ワンセグやデジタルラジオのように、受け入れられずになくなってしまった機能がいっぱいあったのも事実ですが。

––たしかに。当時を振り返ると、本当にいろんな携帯電話がありましたね。

シャープの「サイクロイド」という、折りたたみを開いてから画面が横に回転する携帯電話もありましたね。パナソニックもやってましたけど、ワンセグでテレビを見るために横長の画面にできるという機能です。他にもサイフっぽい素材を周りに貼り付けた端末とか、最近復活したカシオの耐衝撃性に優れた「G’zOne」シリーズなんかもありました。これはG-SHOCKを作っていたカシオがその製品思想を携帯電話に昇華した端末でしたが、シャープはアクオス、ソニーはブラビア、パナソニックはビエラと、テレビの名前を付けた携帯電話も流行しました。

Leicaのカメラを搭載したスマートフォン「Leitz Phone 1」も昨年話題になりましたが、あれもまさに当時の携帯電話と同じ発想だと思いますよ。

石川温さん

––当時の携帯電話って、自己主張するためのアイテムでもありましたよね。

まさにそうですね。ケータイの頃って端末にデザインのしがいがあったんですよ。端末ごとに形も違えばカラーバリエーションもたくさんあったので、みんなどういう端末を使いたいかで選んでいました。形状にしても「スライド式がいい」って人もいましたし、「やっぱり折りたたみがいい」という人もいて、とにかく選ぶ楽しさがありましたよね。
一方、スマートフォンは端末で見た目を差別化することが難しいので、今はいかにケースで個性を出すか、みたいな方向に行っていますね。

––アクセサリーといえば、携帯電話の頃はストラップや光るアンテナキャップなんかも!

ストラップホールは日本の携帯電話の大きな特徴で、いろんなものをぶら下げる文化がありました。当時はそういう携帯電話周辺のビジネスがいっぱいあって、着メロも自分たちで打ち込むための本がいっぱい売られ、当時大ヒットしていましたよ。

––懐かしい(笑)。当時は着メロを打つのが上手い友だちや同級生が周りに一人はいた気がします。

当初は単音の着メロしか鳴らせなかったのが、徐々に3和音、4和音、16和音に対応していって、いかに着メロを綺麗に鳴らせるかが端末の重要な機能の一つでした。着メロ配信を行なっているiモードサイトが人気で、新曲が出るたびにみんなアクセスして聴いていましたね。

iPhoneの衝撃と、日本から世界に広まった「絵文字」

––日本独自のガラケー文化の中、多種多様な端末が販売されていた2000年代ですが、2007年に初代iPhoneがアメリカを中心に発売され、2008年には日本でもiPhone 3Gが発売開始されました。

2007年、アメリカで発売されたタイミングで、iPhoneを買うためだけにハワイに行きました。それぐらい「アップルが常識を変えていくんじゃないのか?」という危機感と、「世界はどう変わっていくのか?」という期待があったので、誰よりも早く手に入れたいと思ったのです。

そうして購入したiPhoneをいろいろな携帯業界やメーカーの人に見せたところ、「たしかに面白いけど、日本では流行らないんじゃないかな?」という意見が大多数でした。というのも、日本の携帯メーカーの人はユーザーの声をたくさん聞いていたので、「iモードが使えないとダメ」とか「赤外線が付いてないとダメ」とか、iPhoneに対してかなり懐疑的な意見を持っていたんです。

––僕自身も当時iPhone3Gを購入しましたが、「流行らない」「すぐ消える」といった批判的な意見が本当に多かったですね。

たしかに当初は苦戦していたようですが、当時独占販売していたソフトバンクの孫さん主導で販売戦略に注力したこともあって盛り返し、やがてau、ドコモと続いたことで、うまく広まっていきました。

––iPhoneは日本の携帯電話市場を一変させましたが、一方でガラケーの象徴でもあった絵文字はiPhone経由で世界に「emoji」として普及しましたよね。

iモードが出てきたとき「インターネットが使えてすごい」と驚かれましたが、むしろ絵文字という文化を生み出したことの方が大きかったかもしれません。実際、iモード端末を買うと「絵文字でやりとりができる」というのをみんな面白がって使っていましたし、ドコモから絵文字がついたメールが送られてくると、当初J-PHONEやauの人は読めなかったんですよ。なので「仲間と絵文字でコミュニケーションできないから、自分もドコモに変える」みたいな流れもありました。「絵文字で仲間はずれにされたくない」って。

emoji

––技術のすごさよりも、仲間とコミュニケーションしたいという欲求の方が普及の要因として強かったんですね。

やっぱり携帯電話はコミュニケーションツールですからね。いつの時代も「仲間はずれになりたくない」という想いは強く、LINEが一気に普及した一因はスタンプのやりとりが楽しいLINEグループの輪に入りたかったからだし、LINEが使いたいからスマートフォンを買う人も相当数いたはずですからね。

あらゆる業界を取り込んだモバイルの進化、これからも続く?

––今日お話を伺う中で、携帯電話がその進化とともにほかの業界を吸収していき、私たちの生活の中心に位置するデバイスになっていった流れを感じました。

そこは携帯業界の非常に面白いポイントだと思います。もう20年以上この業界を取材していますが、いろいろな業界の人が入ってくるので、多種多様な人と仲良くなれるんですよ。
ワンセグが搭載されるとテレビの人たち、着うた®︎が導入されると音楽業界の人たちが入ってくる。おサイフケータイ®︎のときは「nanaco」や「WAON」などの決済サービスを展開する小売業界の人たち、といった感じで、あらゆる業界が携帯電話やスマートフォン上でサービスを提供しようとするので、どんどんと広がっていくんです。

––携帯電話はもともとビジネスツールとしての側面もありましたが、スマートフォンの普及以降、よりその側面が強くなっているとも思います。石川さんご自身は、スマートフォンによってお仕事の仕方が変わったなどありますか?

一番大きいのは、やっぱりデジカメを持ち歩かなくなったことですね。以前は記者会見や新製品のタッチ&トライなどの場で写真を撮るためにデジカメを持ち歩いていたのですが、今はスマートフォンを使えば記事でも十分使える写真が撮れますからね。

他にも、昔はICレコーダーを持ち歩いていましたが、今は基本スマートフォンで録音するようになりました。録音が終了したらiCloudにもバックアップされるので安心です。本当に「スマートフォン1台あれば取材できちゃう」っていう状況になりました。

––最後に、今後10年かけてスマートフォンはどんな方向に進化していくと思われるか教えてください。

スマートフォンのモノとしての進化は、正直なところ曲がり角に来ている気がします。もうこれ以上画面も大きくならないと思いますし、カメラもトリプルカメラが限度じゃないかと。そして今のスマートフォンの売れ筋は2〜3万円程度と安価なモデルです。2000年前後の携帯電話のように、端末の進化がすごく面白いってことにはなりそうにないなとは思います。

でも、その一方で何でもかんでもアプリで済ませられる時代になってきているので、スマートフォンはますます生活に欠かせないツールになっていくはずです。5Gの普及でこれまで以上に家電をはじめとする身の回りの暮らしと繋がって、さらに便利な世界になっていくのではないでしょうか。

石川温さん

文・撮影:照沼健太

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