大会も練習も配信も筋トレもぜんぶ自室で完結するお部屋とは? | プロゲーマー ときどさん【こだわりの作業部屋、おじゃまします。ルーム1】
今やデジタルデバイスやインターネットがある生活は当たり前となり、インターネット技術の進歩とともに栄えてきたコンテンツや業界は数知れず。 しかし、画面越しに映るクリエイターやプレイヤーは近いようで遠い存在にあり、パーソナルな部分まで触れられているケースは多くないのではないでしょうか。
そこでPreBellでは、様々なクリエイター・プレイヤーにとって聖域とも言える、お家や作業場所におじゃまし、仕事道具となるデジタルガジェットや、インターネット回線をはじめとする作業環境や仕事のこだわりを聞く連載「こだわりの作業部屋、おじゃまします。」 をスタート。
第1回目のゲストとして、東大卒プロゲーマーとして知られ最近YouTubeも開設された「ときど」さんにインタビュー。コロナ禍で激変したライフスタイルをはじめ、人生経験を反映できる格闘ゲームの面白さなどを伺いました。
趣味で続けるつもりだったゲーム……、梅原大吾さんのプロゲーマー宣言が人生の転機に
––情熱大陸の出演や自らの経験を活かし本を出版するなど積極的にプロゲーマー界を盛り上げている「ときど」さん。読者のみなさんに向け、自己紹介をお願いします。
私は「ときど」というリングネームで格闘ゲームをプレイし生計を立てている、いわゆるプロゲーマーです。2011年からプロになり、もう10年以上経ちました。
––プロゲーマーになろうと思ったきっかけを教えてください。
大学院1年の頃でした。格闘ゲーム(以下、格ゲー)仲間の一人で、高校生の頃から切磋琢磨してきた梅原大吾さんという方が、日本で初めて格ゲーのプロゲーマーになったことを大々的に発表したんです。それまでの僕は漠然と「カタい会社に就職して、趣味としてゲームを続けていくんだろうな」と考えていたのですが、彼の発表を見て大きく道が狂ってしまいました(笑)。
というのも、中学生の頃にゲームセンターに通い始めて以来、ずっと格ゲーを趣味でやってきて、「この世界だったら自分はナンバーワンなんじゃないか?」とまで思えた世界だったんですよ。そう思っていた頃に梅原さんが趣味を仕事にできるということを見せてくれたことで、シンプルに「自分もその世界でチャレンジしたい!」と思うようになりました。
––なるほど……! その頃はまだプロゲーマーという概念が確立していなかった時代だと思うのですが、プロになるためにどんなことをされたのでしょうか?
先輩にあたる梅原さんに話を聞いて、積極的に海外の大会に足を運んで存在感を出していきました。というか、当時は日本のプレイヤーレベルが飛び抜けていたので、海外の大会が箔をつけるために日本人プレイヤーを招待していたんです。
そうしたところに積極的に参加するようにして、結果的にスポンサー企業に声をかけていただけるようになったことがきっかけとなりプロデビューできました。
プロゲーマーでも主戦場はゲーマーが集まる「夜」
––ときどさんの1日のルーティンを教えてください。
だいたい次のような感じで1日のスケジュールをこなしています。
時間 | スケジュール |
---|---|
10:00~ | 起床 朝食 雑務(メール返信やその他の確認業務など) (雑務が早く終わった場合)ゲーム練習 |
13:00~ | 昼食 |
14:00~ | 残りの雑務処理 ゲーム練習開始 |
16:00~ | 筋トレなどの運動 |
17:00~ | 対戦など、プロゲーマーとしての活動 (合間に)夕食 |
25:00~26:00 | 就寝 |
––メインのお仕事は17時からなんですね。
ゲーマーは大体夜型の人が多いので、それくらいの時間からがオンライン対戦で人と出会える時間帯になるんですよ。僕の場合も夜に対戦が組まれることが多いですね。
––ちなみにプライベートでゲームをプレイすることはありますか?
はい。ソーシャルゲームとか全然遊びますよ。
––…格ゲーは?
さんざん仕事でプレイしているので、格ゲーはプライベートでは絶対やらないですね(笑)。もう少しリラックスできるゲームがいいので、最近は城を大きくしていくようなゲームを遊んでいます。
コロナ禍をきっかけに整えた、すべて自室で完結する「こだわりの作業環境」
––お仕事環境について伺いたいのですが、主にこちらのお部屋で仕事されているのでしょうか?
そうですね。以前は事務所に行って練習していたのですが、近年はコロナ禍ということもあり、練習・対戦・配信だけでなく、筋トレも自宅でできるように環境を整えました。以前は起きてすぐ事務所に行っていたので、家は寝る場所って感じだったんですけどね(笑)。
––プロゲーマーの仕事道具といえばPCが気になります。どのようなこだわりがありますか?
オーバースペックと感じるくらい、性能の良いPCを使うようにしています。やはり快適にプレイする上で、良い性能があるに越したことはないですからね。
とはいえ、将棋の藤井聡太さんが使っているようなレベルのPCではありませんよ(笑)。将棋の世界ではCPU性能があればあるほどメリットが得られるようですが、ゲームではそこまでのメリットはないので、実際はゲーミングPCの一番良いモデルを選ぶような感じです。あとはモニターも良いものを使うようにしています。
––カメラや照明、キャプチャーボードなど、配信機材も揃えられていますね。
一式揃えました。ただ自分はその辺の機材知識が疎いので、詳しい人に教えてもらって揃えました。
––その他、こだわっているものはありますか?
コントローラーなどのデバイスを改造したり、自作したりしています。
––改造に自作!? それはゲームルール的にアリなんですか!?
大丈夫です(笑)。格ゲーはデバイス利用に融通が利くルールになっているんですよ。なので、詰め物をしてボタンの戻り具合を調節したり、レバーレスにしてみたり、タッチパネル式を作ってみたり…と自分と自分の使うキャラクターと相性がいいコントローラーをとことん探求しています。
ときどさん自身のYouTubeでも自作の格ゲーコントローラーについて解説しています。
僕は東大卒プロゲーマーと呼ばれることが多いのですが、まさにこの辺は大学の工学部で得た知識がゲームプレイに影響を与えている部分ですね。ゲームだけやっていたら、こういう発想はなかなかできないと思います。
––近年は大会もオンライン対戦で行われるようですが、通信環境についてこだわりはありますか?
この世界ではWi-Fiはご法度とされているので、有線で接続しているくらいですね。周りには運が悪くて、プロバイダや回線を変えざるを得なくなってしまった人も少なくないですが、僕は幸いなことにこれまで回線でハズレを引いたことがなく、引っ越して最初にある回線で毎回問題ありませんでした。
––筋トレも自宅でできるように機器を揃えたとのことですが、トレーニングはゲームプレイに影響するのでしょうか?
長時間プレイする際や海外遠征などで長距離移動する際には、やはり影響がある気がします。海外の大会の場合だと、移動の疲労に加えて時差の影響も受けやすいのですが、僕は割と移動後でもパフォーマンスを出せる方なんです。それは日々のトレーニングが良い効果を与えているということじゃないかと思います。
ただ、実はトレーニングの目的はゲームの成績のためだけではないんです。プロゲーマーは競技だけでなくエンタメの世界でもあるので、引き締まったルックスをしている方が、良い印象を持ってもらいやすいじゃないですか。それもまたe-Sports及び格ゲーを盛り上げていくために大切な要素だと僕は考えています。
––格ゲー業界を担うプレイヤーの1人として、ゲーム以外のことでも真摯に向き合う姿はとても痺れますね……! ちなみに先ほど、長時間プレイすると仰っていましたが、プロゲーマーの職業病とも言える腰痛や腱鞘炎などは大丈夫ですか?
自分の場合、これといったものはないですね。画面をずっと凝視しているので目も疲れるのですが、スポンサーさんに目薬を提供していただいているので、今のところ特にトラブルはないですし。むしろ、筋トレで怪我をすることの方が多いくらいです(笑)。
––(笑)。
でも、筋トレのおかげで肩凝りは防止できているんじゃないかと思います(笑)。
プロゲーマーは「ゲームが上手」だけでは不十分
––ときどさんのようにプロゲーマーになりたい方に向け、ゲームが上手くなるコツを教えていただけますか?
プロ志望なのであれば、今となってはゲームだけをやっていても周りと差をつけるのは難しいと思います。というのも、今やプロゲーマーは「なりたい職業」の上位になっているようですし、ライバルがたくさんいますからね。
そんなゲームが上手い人がわんさかいる状況なので、自分ならではの個性や魅力をゲームプレイの中に反映して、観客の印象に残るようにならないと難しい。……逆に言えば、それができればチャンスはあると思います。そこに気づいているプレイヤーはまだ少ないですからね。
––ゲームプレイで活かす“自分ならではの個性”とは、どんなものでしょうか?
例えば僕の場合、勉強で得た知識を活かしたコントローラーの改造なんかがそれに当たると思います。
––なるほど! たしかに、コントローラーを自作するなんて普通なら思いつかない発想ですよね。
勝つための練習や研究を行う一方で、そういう「今までの経験をプレイに反映するためにどうしたらいいのか」を考える時間を作ると「なんかこの人のプレイは魅力的だな」と言われるようなことができるんじゃないかと思います。そして、そういうプレイが定石を超えた新たな一手になる可能性もあります。ぜひチャレンジしてみてほしいですね。
––これまで10年以上プロゲーマーとして活動してきてみて、大変でしたか?
大変ではなかったです。その理由の一つとして、かなり早い段階でこの世界に飛び込んだことによって恩恵を受けられていることがあるのは間違いないと思います。やはり人気商売というか知名度商売としての側面が強いので、そこの部分で下駄を履かせてもらっていると感じています。
そして二つ目の理由として、僕はそもそもプロゲーマーに向いていたんだと思います。近年は格ゲーがビジネスになると知られたことで、毎日少し時間を使うだけで強者になれる世界ではなくなり、より競技的な側面が強くなってきています。そんな状況の中でも振り落とされずに続けられているのは、小さい頃から受験などを通して、自分が望んでいないことでもやり切るということを教育として受けていたからだと思います。
––最後に、e-Sports及び格ゲーに対する想いをお聞かせください。
今は、e-Sports界隈全体で見るとFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)やTPS(サードパーソン・シューティングゲーム)の方が盛り上がっているかもしれないけれど、業界全体が盛り上がることによって、e-Sports繋がりで古くからある格ゲーにも興味を持ってもらえたらいいなと思っています。
格ゲーは競技としてのルール性も整いつつ、正解のない自由なプレイスタイルが許されたゲーム性をバランスよく兼ね揃えたところが魅力です。そのゲーム性により千差万別で多様性のある好敵手がどんどん登場するので、頂点へ向かうルートもさまざま。
僕自身にとっても闘いたいライバルが沢山いるので、頂点を狙うプロゲーマーとしての挑戦はまだまだ続きます。
・・・
高みを目指し続ける現役プロゲーマーらしい締めくくりとなった今回のインタビュー。第1回目のゲストは、ストリートファイターを主戦場とするプロゲーマーときどさんでした。
次回は映像技術の中でもVFXを得意とするクリエイターのお部屋におじゃまします! お楽しみに。
文・撮影:照沼健太
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