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2022.08.10 現役大学生と映像クリエイターを両立するお部屋とは?|VFXクリエイター 三宅智之さん【こだわりの作業部屋、おじゃまします。ルーム2】

今やデジタルデバイスやインターネットがある生活は当たり前となり、インターネット技術の進歩とともに栄えてきたコンテンツや業界は数知れず。 しかし、画面越しに映るクリエイターやプレイヤーは近いようで遠い存在にあり、パーソナルな部分まで触れられているケースは多くないのではないでしょうか。

そこでPreBellでは、様々なクリエイター・プレイヤーにとって聖域とも言える、お家や作業場所におじゃまし、仕事道具となるデジタルガジェットや、インターネット回線をはじめとする作業環境や仕事のこだわりを聞く連載「こだわりの作業部屋、おじゃまします。」 をスタート。

第2回目のゲストとして、現役大学生にしてプロのVFX(ビジュアル・エフェクツ)クリエイターとして知られる「三宅智之」さんにインタビュー。実写映像とCGを合成して誰も観たことのない映像を作り上げるVFXの魅力や、学業とプロクリエイターを両立させるライフスタイルを伺いました。

「まるで魔法のような映像」。VFXとの出会いと、プロとして仕事を始めるまで

三宅智之さん三宅智之さん 早稲田大学在学中のVFXクリエイター。小学生から映像制作を始め、2016年度には総務省の「異能vation」プログラムに採択。『YouTube Rewind in JAPAN 2021』にてVFXスーパーバイザーを担当したほか、『シン・ウルトラファイト/制作No.8 ゼットン火の車』(監督:樋口真嗣)にてCGディレクターを担当。クリエイターとしての活動を行う傍ら、初心者向けにVFX講座の講師を多数務めるなどVFX普及への活動も精力的に行っている。

––現役大学生にして、映像クリエイターとしてVFXを中心にお仕事をされている「三宅智之」さん。読者のみなさんに向け、自己紹介をお願いします。

小学生の頃、山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』という映画のメイキングを観て「VFXならこんな魔法のような映像が作れるのか」と感動し、独学で映像作りを始めました。現在は映像製作者として主にCM、映画、ミュージックビデオ、YouTubeの制作に携わっています。また、早稲田大学の3年生でもあります。

––VFXに惹かれた理由とは?

僕は現実と地続きの映像が好きなんです。例えば『ALWAYS 三丁目の夕日』で再現されていたのは、本物っぽく見えるのに現在は存在しない風景でした。カメラで撮った時は存在しない”空想”が、後処理を施すことで実在しているかのように見せられる。そこがおもしろいと思いました。

三宅智之さんの部屋の様子お部屋に飾ってあった公衆電話の模型を元に3DCGを作成してもらっているところ。四角や丸といった基本の形から、微調整を重ね空想を実現するパーツを作り上げていく。

––冒頭でVFXは独学で学んだと仰っていましたが、映像の世界で働くことになったきっかけは何だったのでしょうか?

中学生の頃、奥田誠治さんという映画プロデューサーが学校に講演会にいらした時に、映像のポートフォリオを見てもらい名刺を頂いたのがきっかけでした。
そこから監督さんたちを紹介していただいて。高校3年生の時に、ある監督のところにお願いをしに行ったことで初めてお仕事をいただけました。

––仕事で関連して伺うと、三宅さんは映像制作をする一方で積極的に情報発信を行い、VFX技術普及の活動も行っていますよね。その原動力とは?

シンプルに「楽しさを共有したい」ということだと思います。「新作ゲームおもしろいから、一緒にやろうぜ」みたいなノリですね(笑)。楽しさを共有できる仲間が増えると嬉しいですし、みんなにもやってほしいんですよ。

今は「Blender」とか「DaVinci Resolve」のような無料でも非常に多くの機能が使えるソフトがあるので、PCさえあれば誰でも始められる環境はあるのですが、CGは全てコンピュータの中のマヤカシですから、技術がブラックボックスになりがちな側面もあると感じています。だから、独学で得た技術は公にしてもっと仲間を増やしたいなと思っているんです。

映像制作の仕事と学生業、忙しい日常にもアイデアの源泉が

––三宅さんは現役の大学生でもあるわけですが、両立するためにどんな工夫をしていますか?

仕事と学業を両立するため、なるべく火〜木曜に大学の講義を固めて、金曜の午後〜月曜にかけては仕事に時間を使えるよう工夫しています。

––多忙極める三宅さんですが、プライベートも気になります。お休みの日や休憩時間は何をしているのでしょうか?

よく映画を観ていますね。ジャンルはSFや特撮が多く、ハリウッドのSF作品ならクリストファー・ノーラン監督の『テネット』とか『インターステラー』が好きです。彼は映像美や、映像表現の面白さで物語を伝えるところにこだわりがあるので、観ていて勉強になります。

また、アニメもよくNetflixで観ています。一番好きなのは『電脳コイル』で、他にも同じ礒光雄監督の新作『地球外少年少女』はすごくおもしろかったです。これもやっぱりSF系ですね(笑)。流行りの作品も観るようにしていて、最近は『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』とか『リコリス・リコイル』も観ています。

––特撮は意外でした。2000年代生まれの三宅さんにとって特撮は過去の映像ジャンルなのでは…?と思うのですが、興味を惹かれたきっかけとは?

小学6年生の時に東京都現代美術館で行われた企画展『館長 庵野秀明 特撮博物館』です。そこで上映されていた、樋口真嗣監督『巨神兵東京に現わる』がめちゃくちゃ衝撃的でした。現在DVDとして販売されている『巨神兵東京に現わる 劇場版』では3DCGが使われているんですけど、博物館版は全部が特撮で作られていて「特撮ってこんな映像が作れるんだ」と驚かされました。

また小6の頃は自分のCG技術がおぼつかなかったのもあり、映像を模型や工作で作っていたこともあったので強烈に惹かれました。実際、特撮の作り方も同時上映されていた『巨神兵東京に現わる』のメイキングで学びました。本当に何回も通って観ました。

––特撮には独特の魅力がありますよね。

特撮は空気感のある生っぽい建物の崩れ方やつぶれ方もいいですし、特撮ならではの炎の熱量感がすごく好きです。小学生の頃、将来なりたい職業を立体で作る授業があったのですが、「破壊されたビルを作る自分」を作ったくらいです。今ではCGで同じことをしています。

小学生の頃に図工で制作した模型小学生の頃に図工で制作した模型。題名は「破壊されたビルを作る自分」。

––作品鑑賞をしながらも映像制作のためのインスピレーションを得ているんですね。

はい、CGのインスピレーション源は現実全般だと思っているので、作品鑑賞以外でもいろんなものを観察するようにしています。例えば自分は電柱が好きなのですが、普通の視点で見たら街の風景を雑然とさせる邪魔なものだと思われがちですよね。
でも、よく観察してみると、上部に付いている柱状変圧器の形が色々あって、東京と関西では形が違うなど、そこから歴史や人の営みが見えてくるんですよ。そういう観察をノートにメモするようにしています。

日常的にメモする癖はついていて、映画館で映画を観るときも気になったカメラワークや脚本があったら暗闇の中でも手元を見ずにノートにメモを取ったりします(笑)。

––日頃から観察を欠かさない三宅さんですが、VFXクリエイターを目指す人は、映像作品のどんなところに注目して観るべきだと思いますか?

順番が前後するのですが、まずは自分で実際に何か映像を作ってみるのがいいと思います。CGじゃなく、工作したものをスマホのカメラで撮るとかでもいいので、一度やってみる。そうすると、自分がどんな表現に惹かれるのかが見えてくるはずです。自分の場合は、それが背景やライティング、爆発などでした。
次に、作品を観る際に、そうした自分の好きなポイントに着目していくと「自分は爆発の中でもこういう爆発が好きなんだ」と気づくことができると思います。

身体に触れる椅子とインターフェースにこだわった作業環境

三宅智之さんの部屋リラックスできるので、作業環境は暗めがベーシックスタイル。ただし、人間の目は照明の色に左右されてしまうため、色味の調整をする時は電気を消して作業しているそう。

––作業環境についてお聞きしたいのですが、正面に2台、右側に1台ある、合計3台のディスプレイはどのように使い分けていますか?

正面はメインとなる作業用の4Kディスプレイ2枚で、右側にあるのはカラーマネジメントディスプレイです。ディスプレイって発熱によって数か月で色が変わってきてしまうので、本来は数か月に一回色を調整してあげる必要があるのですが、これはそういう調整ができる製品です。
無駄な発熱を抑えるために普段は電源オフにしていますが、カラーグレーディング(画像や映像に色彩補正を加え、作品の世界観を作り上げる作業)やコンポジット(実写やCG素材を組み合わせ一枚絵のように合成すること)などの色を詰めていく作業をするときはこれを使っています。

他にも、デスクの後ろにあるベッドにプロジェクターとスクリーン、それから5.1chのスピーカーを設置して、寝ながら映画が観られるようになっています。これもPCに繋がっているので、実質ディスプレイ4台です(笑)。自分が作った作品を大きな画面で見たい時にも活用しています。

––PCはどんなスペックのものを使っていますか?

総務省の「異能vationプログラム」(ICT分野において破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援するプログラム)の予算を使って作ってもらったWindowsマシンを使っています。Macと違ってギリギリまで性能をカスタマイズできるのが良いところですね。これは家庭用の1500Wギリギリまで電力を使う構成で作っていて、冬場でも暖房をつけなくてもいいくらい発熱します(笑)。
特にこだわったのはグラフィックボードで、当時一番良かった「GeForce GTX 1080」が4枚入っています。あとはXeonのCPUと、256GBメモリを搭載しています。5年前のPCなのでそろそろ買い替えたいと思っているのですが、これだけの性能にしたから5年も使えたんだと思っています。

––他に作業環境でこだわりはありますか?

ユーザーインターフェース周りで言うと、Thinkpadのキーボードを昔から使っています。プログラマーの父親から「Thinkpadのキーボードについているトラックポイントが良い」と言われ、それを信じて使い続けています(笑)。でも、実際に使いやすいですし、キーボードを打ちながらポインタを動かせるのが便利だと感じています。

あとはCGのモデリング用にペンタブを使っています。ペンタブは好み次第なのですが、自分はペンタブでの作業が効率良いですね。

ThinkpadのキーボードThinkpadのキーボード。キーボード中央部にある赤い丸のようなものがトラックポイント。

––これからVFXを作ってみたいと思っている方に向け、作業環境を整備する上で特にこだわった方がいいポイントがあれば教えてください。

一番おすすめしたいのは…椅子です。中学生の頃はテキトーな椅子を使って作業をしていたんですけど、ずっと座っているので神経痛になってしまって、大変でした。
入学祝いで買ってもらった良い椅子に変えた途端に腰の痛みや神経痛、肩こりなどがほぼなくなって「椅子って大事だな」と思いましたね。

あとは手で触れるものもこだわった方がいいと思います。適当なものでやっていると効率が落ちるので、自分に合うものを選ぶのが一番だと思います。

監督になる将来を見据え、じっくり積み重ねていく経験と知識

––三宅さんは現在VFXのお仕事がメインですが、今日お話を伺って、ゆくゆくは監督に進まれるのかと感じました。いかがでしょうか?

そうですね。将来監督にはなりたいと思っています。でも、今の自分には監督になるほどの人生経験の引き出しがなく、納得できる物語も書けないのでまだ自分には早いと思っています。そのため現在は自主的に表現の技術や方法を学びながら、監督に求められる経験や知識を大学で学んでいるところです。早稲田大学教育学部の複合文化学科に入ったのも、そうした点からいろいろな文化を学びたいと思ったからです。

––目標としている映像作家や監督はいますか?

自分は自分なので一概には言えないですが、山崎貴監督、樋口真嗣監督、庵野秀明監督は自分の原点でもあり、それぞれ別ベクトルで尊敬しています。作品やディレクションの毛色は各々全く異なりますが、エンタメを熟知されながら自分の性癖をぶつけてくるような、上手さというか狡猾さにそれぞれの監督のセンスをひしひしと感じています。自分としては、自分が好きなものを多くの人に見てもらえるような人間を目指したいので、どの監督もとても尊敬していますが、自分のゴールではない、といったところでしょうか。

––最後に。小学生の頃から映像を作ってきて、今改めて映像制作への想いやこだわりを教えてください。

想いっていうと難しいんですが、ただ「好きで好きで仕方がない」っていうそれだけですね。本当にやって全部が楽しくて、CGの作成はもちろん、1コマずつ画像を切り抜いていく作業もすごい好きなんです。同じ世代の映像クリエイターにそれを話すと「おかしいんじゃないの?」って言われたりするんですけど(笑)。でも、僕にとっては全部おもしろいんですよ。

映像制作へのこだわりは、自分が後悔しないかどうか。反省点はあれども、後悔はしない納得できる映像にする。誰もがそうかもしれないですが、それがこだわりです。
そして、自分が楽しいと思えることや、「こういう映像を観てみたい」と思えることを、感情のままに素直に作る。それが僕がVFXを仕事にしている理由だと思います。

三宅智之さん

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VFXに魅了され、独学で飛び込んだ世界。圧倒的な情熱と技術への探究心を原動力に駆け抜ける姿がとても印象的だった今回のインタビュー。
第2回目のゲストは、VFXクリエイターの三宅さんでした。

次回もお楽しみに!

文・撮影:照沼健太

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