お絵描き夫婦YouTuberが描く、チャンネル像と作業環境とは?|YouTuber なつめさんちさん【こだわりの作業部屋、おじゃまします。ルーム3】
今やデジタルデバイスやインターネットがある生活は当たり前となり、インターネット技術の進歩とともに栄えてきたコンテンツや業界は数知れず。 しかし、画面越しに映るクリエイターやゲーマーは近いようで遠い存在にあり、パーソナルな部分まで触れられているケースは多くないのではないでしょうか。
そこでPreBellでは、様々なクリエイター・ゲーマーにとって聖域とも言える、お家や作業場所におじゃまし、仕事道具となるデジタルガジェットや、インターネット回線をはじめとする作業環境や仕事のこだわりを聞く連載「こだわりの作業部屋、おじゃまします。」 をスタート。
第3回目のゲストとして、YouTuberの「なつめさんち」の夫・げんさんと妻・さやさんのお二人にインタビュー。イラストレーターかつYouTuberであり、夫婦でもあるという独自のスタイルならではの運営事情や作業環境のこだわりを伺いました。
騙し騙されて始めた? チャンネル「なつめさんち」の誕生秘話
––イラスト系YouTuberの「なつめさんち」。夫婦ならではの掛け合いがやみつきになると若者を中心に人気を誇るお二人ですが、開設当時、YouTubeをはじめるきっかけは何だったのでしょうか。
げんさん(以下:げん):もともと独立してイラストや映像の仕事をしたいと考えていたので、それと並行して「自分たちをより多くの人に知ってもらうため」にYouTubeを始めました。
実は当初、YouTube活動はあくまでもイラストや映像の仕事のサブ活動と捉えていました。しかし、2019年にフリーランスとして本格的に仕事をするようになった頃には、ありがたいことにYouTube活動の方も軌道に乗り始めていたので、徐々にYouTubeでの活動比率を増やしていくことにしたのです。
––伺っていて、チャンネルの開設はかなりげんさん主導のように感じましたが、当時のさやさんの気持ちはどうだったのでしょうか。
さやさん(以下:さや):当初は「ヤダヤダ、YouTubeなんて恥ずかしいよ〜」と言っていたんですけど、ある日突然げんが配信機材を買ってきて……まんまと乗せられましたね(笑)。
げん:(笑)。でも、さやは普段から突飛なことを言う人だったので、喋りという良い意味で一番”へん”なところが動画でも活かせると思ってました。
ただ、YouTubeを始めるとしても最初から顔を出すのはなんとなく抵抗があるし、撮影するハードルが高いじゃないですか。だからまずは、声だけで成り立つゲーム実況からスタートしました。
「より多くの人に知ってもらいたい」などと、振り返ってそれらしいことを言っていますが、正直に言うと「さやとゲーム実況をしてみたかった」という趣味的側面が強かったと思います(笑)。
––現在、チャンネル「なつめさんち」ではゲーム実況よりもお絵描きチャレンジ企画が多い印象だったので意外でした……! お絵描き系にシフトするまでにどんな経緯があったのでしょうか。
げん:初めていただいた案件動画の「1ミリも知らないキャラクターを名前から想像して描いてみた」企画が一番インパクトが大きかったです。失礼な話ですが、自分たちが全く知らないゲームタイトルのお仕事だったので、ただゲーム実況をするだけではおカタイ感じになってしまいそうと思い考えた企画でした。
そもそも、クライアントさんが商品をPRする理由には「認知度をあげたい」という側面があると思うので、僕たちのようなゲームを知らない人たちを巻き込んで一緒にキャラクターを考える企画は相性がよかったんだと思っています。
さや:そしたら実際に、私たちが想定していたよりも反応が良くて! 二人で大はしゃぎして喜んだよね(笑)。
げん:ありがたいことに、登録者さんも1か月で3万人以上増え、喜びと謎の怯えが同時にきました(笑)。でも、皆さんがイラスト系の方向性を受け入れてくださるなら……と、このタイミングで「お絵描き動画を増やそう」ということになりました。
もちろん、今までゲーム実況を目当てに観に来てくれていた視聴者さんもいて、僕たちもゲーム好きとしてゲーム実況は続けたかったので、そこで改めてゲーム実況チャンネルを開設するに至ったわけです。
二人で一緒にリフレッシュ、せわしない日常に取り入れるサイクリングと深夜徘徊
––今ではゲーム実況チャンネル含め4つもチャンネルを運営しているお二人ですが、毎日どんなスケジュールで過ごしているのでしょうか。
げん:ひたすら絵を描く日もあれば、ひたすら動画を撮る日もあるという、結構極端なスケジュールで過ごしていますね。
さや:ただどんなスケジュールでも、基本的には9時半頃に起きるようにしています。そこから朝食を取って、10時頃からチームなつめさんち(なつめさんちスタッフ)のみんなとその日のスケジュールを確認する「朝会」をします。
げん:その後、午前中は僕は業務連絡などの細々とした事務的な仕事をしたり、さやは動画の挿絵を描いたりしています。
––早速、多忙さが伝わってきますね(笑)。
さや:それで午後はちょっと自転車に乗って……。
げん:それも入れるんだ(笑)。そう、実は最近「運動しなきゃ」と思い、自転車で近所を1周するようにしています。
サイクリングが終わり次第、午後は動画の撮影をして、夕方くらいから動画に使う絵を描き始めます。その後、夜には案件や漫画の出版に向けての制作に着手するという1日ですね。
さや:でも寝る前にはできるだけ遊ぶ時間を確保するようにしていて、リラックスしながらゲームや、映画鑑賞、最近は深夜徘徊をしたりして深夜2時頃には寝るようにしています。
絵師とYouTuberを行き来する2つの作業部屋
––絵師でありYouTuberでもあるお二人ですが、作業を快適に行うための環境へのこだわりを教えていただけますか?
げん:作業環境づくりとしては、絵を描く場所と動画を撮る場所を分けるようにしています。動画を撮影する場所と絵を描く場所を同じにすると、気持ちが切り替わらないんですよね……。
さや:絵を描くときはこもりたい……(笑)。
げん:そうそう。というのも、撮影スペースは二人で使っているから、自分だけのスペースではないんですよ。そのため、絵を描く場所は1つの部屋にそれぞれ自分の区画を作っていて、そこでガッツリ集中して絵を描くようにしています。
あとYouTube用の機材については、もう半分趣味みたいになってきているのですが「より良いものを探す旅」を永遠に続けてしまっています……(笑)。
さや:気づくと新しい機材が増えてるんです……私が知らない間に!(笑)。
––撮影機材はなるべく良いものを、とのことですがこれからYouTubeを始めたいという人へ、機材や環境面でアドバイスをするとしたら?
げん:動画のジャンルにもよりますが、共通してマイクはこだわった方が良いと思います。よく、「iPhone1台あれば始められるからまずやってみなよ」というアドバイスがありますよね。はじめの一歩としてはそれで良いと思いますが、次のステップでは長時間観てもらえるように「ある程度高品質のマイク」を買うと良いと思います。やはり、どんなに目から入ってくる情報が良くても、耳から入ってくる情報(音声)の質が悪いと観続けてもらいにくいと思うので!
––絵師としてはどうでしょう。機材や環境についてのこだわりはありますか?
げん:身体を壊すのが一番良くないので、座る椅子は大事だと思います。色々と検討した結果、かなり高価なのですが思い切ってアーロンチェアという定番のオフィスチェアを買いました……! そのおかげで長時間座っていてもお尻が痛くならないです。
まあ、絵を描く時は大体前傾姿勢になるので結局背中や腰は痛くなるんですけどね(笑)。でも確実に、座面の恩恵は受けられますよ。
さや:私も良い椅子を買ってもらったんですけど、足癖が悪すぎて……。
げん:良い椅子の上で胡座や体育座りで描いてるから、なんの意味もないの(笑)。
––良い椅子あるあるですね(笑)。絵を描く道具についてはいかがですか?
げん:iPad Proめっちゃ良いですよ! 今から絵を始めたい人にも、今すでに絵を描いている人にもおすすめしたいです。それに加えて「Procreate」っていう1,220円で買えるソフトと、iPad Proにペーパーライクフィルムを貼れば十分です。今まで使ったどんなペンタブレットよりも、iPad ProとApple Pencilの組み合わせが一番紙に描いている感じに近いです。
さや:私はアナログ派なので紙に描いているんですけどね。私たち絵描きとしては両極端なんです。
二人だから始められたし、続けられた。夫婦二人三脚の運営事情
––「なつめさんち」は絵師によるYouTubeチャンネルであると同時に、カップルチャンネルや夫婦チャンネルという側面もあると思います。お二人でやっていて良かったなって思うことはありますか?
さや:一番はくじけた時ですかね。片方が折れても、もう片方が元気でいれば復帰も早い気がします。もし二人とも同時に折れたとしても「せーの」で起き上がれる感じもありますね。
げん:たしかに「一人だったら辞めてたかも」って思う瞬間は何度もありましたね。YouTuberに限らず何かを作って発信する職業の人って、突然折れてしまう人が多いんです。
実際は、突然折れているわけではなく、辛さが積み重なって、それを誰にも相談できず、ある時「パンっ」と折れる感覚なのですが……。その点、僕たちは二人で同じ仕事をしているので、完全に折れる前に小出しで言い合える。それがよかったなと思っています。
––となりに弱音を吐ける人がいる、と。
げん:その存在は偉大です。あとは動画撮影の時、夫婦の会話を普段通りギャーギャーしているだけで動画が成り立つのも大きいです(笑)。
さや:そうだね(笑)。
––たしかに、今日のインタビューからも動画の掛け合いが普段のままの自然な会話なんだなというのが伝わってきました。
さや:みんな余裕でやっているように見えるんですが、カメラに向かって一人で喋るって本当に異常事態なんですよ。私たちも企画で一人で喋ることがあるんですが、その度に「一人で喋ってるYouTuberさんすごくない!?」って思います。
げん:よく「二人ともトークが上手」って褒めてくれる方がいらっしゃるんですけど、実際は全然上手じゃないんです。パートナーなら、片方が適当なこと言っても適当に返してくれるじゃないですか。それを撮影しているだけなんです。だから他のYouTuberさんはトークが成長するけど、僕らはほとんど成長していない気がします(笑)。
さや:もし視聴者さんが私たちのトークが上手くなっていると感じるとしたら、それは単純に夫婦としての年数が上がっているだけかもね。夫婦レベルが上がっているだけで、YouTuberレベルは上がっていない(笑)。
––なるほど(笑)。でも実際、動画のコメントを拝見しても世界観やトークに魅了された視聴者さんも多いので、世間はそういった自然体な会話を求めているのかもしれませんね。
ちなみに、お二人のテンポ感のあるトークもさることながら、動画を作る上で普段から心掛けていることはありますか?
げん:そうですね……まずは世間の人たちが今何を観たいのかを考えることですかね。流行りを捉え、理由を考える。そして、そこから導き出された仮説を自分のチャンネルに当てはめてみる事が大切なんじゃないかなと思います。
あとは自分たちの動画を観てくれている視聴者さん、もしくは観てほしいターゲットと向き合うことです。企画を考える時も、視聴者さんが動画を観てくれている理由から逆算するとおのずと答えがでる気がしますし、ターゲットを明確にしておくことで誰にも刺さらない企画ができあがる、なんてことも防げると思います。
もちろん、好きなものを作ることが大前提です。その上で「この人に届いてほしい」という狙いは明確にすべきではないでしょうか。
––最後に、今後どんなチャンネルを目指したいかなど、お二人の展望について教えてください。
さや:カーデニングがしたいって色んなところで言っています!
げん:それは今求められている解答じゃないから(笑)。このインタビューで一番どうでもいい情報だよ。
さや:というのは、茶番で(笑)。
げん:僕たちは今、多くの編集者さんと協力して漫画を作っているので、漫画の出版が直近の目標ですね。そして動画の方も、「お絵描きはこうである」という枠組みに囚われず、可能性を広げていく挑戦をしたいと思っています。
さや:「こんなのもお絵描きに入っちゃうの?」みたいなね。
げん:もっと自由に、絵の楽しさを伝えていけたら良いなと思います。実際、ガーデニングもしたいんですけどね、さやは(笑)。
・・・ 仕事のパートナーとしても夫婦としてもお互いを支え合い、笑いの絶えないお二人の姿が印象的だった今回のインタビュー。 第3回目のゲストは、イラスト系YouTuber「なつめさんち」のげんさんとさやさんでした!
文:照沼健太
撮影:キムアルム
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