答えは全て自分の中にある。AI時代の学校に必要なことは、生徒に努力を求める「ティーチング」ではなく、夢中にさせる「コーチング」。
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2022.12.03 答えは全て自分の中にある。AI時代の学校に必要なことは、生徒に努力を求める「ティーチング」ではなく、夢中にさせる「コーチング」。

技術革新によるAI革命の波は社会の基盤を変貌させ、地球規模に拡大するグローバル化の波はとどまることを知りません。

時代が大転換期を迎えるなかで、日本の教育システムも変革が迫られ、2014年には学習指導要領に「アクティブラーニング」が盛り込まれ、コロナ禍では「GIGAスクール構想」が注目を集めました。

しかし、教育現場において、従来の偏差値重視の教育制度や暗記型学習からの脱却は進んでいないのが現状ではないでしょうか。

そのような状況下で、「学校法人ドルトン東京学園」は、前例のない予測不可能な社会において「能動的・主体的に課題と向き合い他者と協働しながら解決していく力」を養う教育を実践してきました

学校法人ドルトン東京学園

「学校法人ドルトン東京学園」のインタビューは2回に渡ってお送りします。

第1回目となる今回は、校長の安居長敏氏から、本校が目指す「生徒中心の学校」「社会のリアルとともに歩む学校」を実現する「次世代型教育のテクノロジー」を中心にお話をお伺いしました。

教え方が上手い先生はYouTubeにたくさんいる。先生の飛び抜けた熱量が、どれだけ目の前の生徒のモチベーションを上げられるか。

教え方が上手い先生はYouTubeにたくさんいる。

ー「学校法人ドルトン東京学園」は河合塾のグループ校で50年前には幼稚園も創立されているとお伺いしています。教育方針の柱となっている「ドルトン教育」とはどのようなものなのでしょうか?

学校法人ドルトン東京学園は、アメリカで100年前に誕生したヘレン・パーカストによる「ドルトン・プラン」のもとに「先生が鋳型を作って生徒を当て込むのではなく、生徒が自己肯定感を高め主体的な学びに導く生徒が中心の学校」を目指して4年前に設立されました。

本校では、自主性と創造性を育む「自由」と「協働」の2つを原理として掲げ、複数の学年で形成されるコニュニティ「ハウス」、意欲を高め学びを深める「アサインメント」、自分で計画した学びを実践する「ラボラトリー」という3つを軸にした教育を行っています。

教育方針の柱となっている「ドルトン教育」とはどのようなものか

具体的には、教師が生徒にやってほしい課題やその単元の学び方、課題によって身につけてほしいこと、評価基準などを提示し、それをもとに生徒が自分で学習計画を立てて学べる環境を提供してきました。

学校で授業を受けなくても、学びが完結するシステムができているので、コロナ禍においてもスムーズに自宅でのオンライン学習へと移行できました。

ー時代に応じて教育も変化させるべきなのかもしれません。ドルトン教育における先生はどのような役割を担っているのでしょうか?

最近はYouTubeなどで優れた授業をする先生がたくさんいますから、それぞれの教科を教えて記憶させるだけでなく、「私生活含め全てが生徒にとって憧れを抱くような魅力ある存在」であることが求められます。

先生自身が夢中になってその教科の面白さをイキイキと伝えて、目の前の生徒達のモチベーションをいかにあげられるかが重要でははないでしょうか。

ドルトン教育における先生はどのような役割を担っているか

どれほど崇高な理想を掲げても、最終的には「大人に従う生徒を育ててください」「大学の合格実績を残してください」という従来の枠にとらわれた目標や制限を先生に強いている学校が多いように感じます。

本校の先生は、都立、私立など経験は問わず、大学院や海外の大学も含めて、理想に向かって貪欲に学んできた方ばかりが集結しています。

ー「ドルトン・プラン」は従来の教育とは全く違うようですが、成績の評価はどのように行なっているのですか?

本校では、短期記憶に偏った評価しか得られないことから中間テストも期末テストもありません。

ICT教育(情報通信技術そのものや取り組み)を最大限に活用し、学習目的や手順を示した「アサインメント」に基づいて学習を進め、到達度や観点別評価をオンラインで蓄積し、どれだけ主体的な学びを確立できたかを多角的に評価しています。

学校では正解がありますが、社会に一歩踏み出せば、学校で学んだルールやシステムは通用しません。

「ドルトン・プラン」における成績の評価

変化の激しい現代社会において「将来は絶対にこうなるから準備しましょう」と明確に定めることも難しいものです。

ですから、本校では「全てにおいて60点を取れる生徒」ではなく「飛び抜けたところで200点を取れる生徒」を目指しています。

これからの時代は、地頭の良さや学歴を追い求める「アカデミックスマート」ではなく、多くの選択肢と卓越した推理力を発揮しながら、どんなに困難な状況であっても目標を見失うことなく臨機応変な強さを発揮する「ストリートスマート」がますます重要になるでしょう。

「起業ゼミ」を通じて、学んだ知識を生涯使える知恵に変える。

「起業ゼミ」を通じて、学んだ知識を生涯使える知恵に変える。

ー「ドルトン教育」の柱のひとつである「ラボラトリー」ではどのような活動が行われているのですか?

「ラボラトリー」は、自らの課題を思う存分探究し、自由に学びを深める時間で、学年ごとのテーマに取り組む「基礎ラボ」と、教科や枠組みを超えた「探求ラボ」があります。

その一つが「起業ゼミ」で、生徒自らが「ビジネスプラン」を企画し、実社会と関わりながら事業化を目指す探究型学習です。

ガイアックススタートアップスタジオと共同で「ガイアックス特別ラボ企業ゼミ」が開催され、「リアルタイム・クーポンアプリ」を発表した生徒のアイデアに対して、「コロナ禍で苦しむ飲食店の助けになるだけでなく、食品ロスを減らすSDG'sの観点」が評価され200万円が投資されました。

こういったラボラトリーでの活動は、学校のブランディングにもなりますし、何よりも、飛び抜けた才能ある生徒を発掘できるところが非常に魅力的だと思います。

ー中学生のアイデアが「起業」という形で社会で実現するのは素晴らしいですね。ラボラトリーでは外部の方を先生として招かれることもあるのでしょうか?

ラボラトリーでは外部の方を先生として招くこともあるのか

昨年は、Pepperの「感情エンジン」を発明した東京大学大学院工学系研究科・特任准教授光吉俊二先生と生徒が対話を行いました。

光吉教授は、人工自我だけでなく人の意識を変え、世界のあらゆる課題を解決させる可能性を持った四則和算の発明者でもあります。

さらに、​​​​スーパーフォーミュラを主催する日本レースプロモーション(JRP)と共に、車両の走行データから「感情」を読み取り、ファン、ドライバー、チームスタッフとの「シンクロ率」を計算してリアルタイムに表示するプロジェクトも担っています。

光吉俊二先生と生徒の対話

生徒達は、光吉教授との対話を通じて、常識を疑い、自分の考えが周囲と違っていたとしても、それを突き詰めることの大切さなど多くのことを学んだのではないでしょうか。

将来的に学校は、こういったラボラトリーのように、地域に開かれた空間として外部の人達と連携しながら学びを深める「創造のハブ」になれば面白いと思います。

先生が共通で教える部分は、オンライン授業にするなど棲み分けを講じれば、他校への転校や移動も自由にできるので、移動することで学びを活性化するシステムも構築できるのではないでしょうか。

10代からテクノロジーを使い倒すことで、良し悪しを自分の頭で判断させる。

10代からテクノロジーを使い倒すことで、良し悪しを自分の頭で判断させる。

ー2022年9月に誕生した「STEAM棟」は「ドルトン・プラン」を実現する夢の校舎とお伺いしましたが、どのような施設なのでしょうか?

「STEAM棟」は「Science, Technology, Engineering, Art and Mathematics)」の頭文字をとったもので、生徒のクリエイティブな学びをサポートしています。

3階建の「STEAM棟」は、「クラフト・ラボラトリー」「ライブラリー」「サイエンス・ラボラトリー」という構造で、国土交通省のサステナブル建築物等先導事業に採択された、環境配慮型の校舎になっています。

棟内の設備の多くは、企業の枠を超えて「ドルトン・プラン」に賛同する方々によって実現しました。

本校の高性能PC、高速LAN、デジタルコンテンツ制作アプリ、3Dプリンターなどのハイスペックな周辺機器は、外部連携が軌道に乗るまでの実証実験ということでインテルさんにご協力頂いています。

ーシリコンバレーの親達は子供からスマートフォンやタブレットを遠ざけていると話題になっていましたが、学校内のルールや規則などはどのようになっているのでしょうか?

学校内のルールや規則について

「ドルトン・プラン」は、生徒は常に個人のパソコンからクラウド上にアクセスしながら活動履歴を蓄積しているので、デジタル機器を使わなれば授業そのものが成立しません。

本校の生徒は、それぞれが自分の好きなパソコンを購入し、学校では、MACアドレス(Media Access Control address)と言ってそれぞれのパソコンに予め割り振られた番号で管理しています。アダルトと暴力に関するフィルタリングは設定していますが、YouTubeやゲームは自由にできます。

デジタルネイティブの生徒に対して、一切のデジタル機器を使わせないのはストレスですし、今後、デジタルツールを使いこなして生きていかざるを得ない生徒にとって、時には失敗も経験しながら、より良い使い方を学んでもらうことが重要ではないでしょうか。

制限をかけて取り上げるのは簡単かもしれませんが、ブラックボックスをいかに扱うかは生徒自らが決めることであり、それらの判断も含めて主体的にできる生徒を育てたいと考えています。

答えは全て自分の中にある。生徒の主体的な学びを支えているのは「ティーチング」ではなく「コーチング」

生徒の主体的な学びを支えているのは「ティーチング」ではなく「コーチング」

ー欧米ではコロナ禍のテレワークで、一人でどのように仕事を進めていいか全く分からなくなり「コーチング」を求める人が増えたそうです。 「ドルトン東京学園」では、主体的に判断できる生徒を育てるためにどのような教育をされていますか?

本校の教育の役割は、まさに「ティーチング」ではなく「コーチング」にあると考えています。

中学受験を経て「ドルトン東京学園」に入学する生徒は、非常に真面目で素直ですから、当たり前のように先生からの「ティーチング」を期待して待っています。

しかし、本校では「これをやりなさい」という指示は一切与えません。先生から「あなたは何をしたいの?」と問われても、多くの生徒は戸惑うばかりです。

しかし、そういった期間を経て、自分と徹底的に向き合い、自我を再構築することで、「答えは自分の中にある」ことに気が付き、自己肯定感が高まり、多少の失敗でもへこたれない揺るぎない自信を持つ生徒が育まれます。その過程は「コーチング」と言えるのではないでしょうか。

本来誰もが「尖ったもの」や「その人にしかない才能」を持っているはず

本校の生徒は、「コーチング」によって、指示を待つことなく主体的な学びを実践できますから、今回のコロナ禍においても、全く問題なく普段と同じ学びを継続することができました。

本来誰もが「尖ったもの」や「その人にしかない才能」を持っているはずです。「この学校は変人(=変化を楽しみ・つくる人)が多い」と言われます。

「コーチング」を通じて、それぞれの才能を発揮し、快適に過ごせる環境をこれからも最新のテクノロジーを搭載した「ドルトン・プラン」で支えていきたいと考えています。

ーこれからの時代を生きる子ども達がグローバルに活躍するには何が必要でしょうか?

英語などのコミュニケーションツールを使いこなすことはもちろんですが、それよりも、日本人としてのアイデンティティを深め「世界に通用する日本的な思考」をしっかりと身につけて欲しいと思います。

日本人が持つ「曖昧さを認め合う価値観」や「みんなを幸せにする包容力」など素晴らしさから目を背けて、欧米の無駄を省いた効率化や白黒はっきりさせるデジタル化を追い求めるのは、真のグローバル化とは言えないのではないでしょうか。

これからの時代を生きる子ども達がグローバルに活躍するには何が必要か

ですから、今後、生徒達が留学した際には、この素晴らしい日本の文化に自信と誇りを持って輸出してほしいと願っています。

今後、メタバースやWeb3.0が浸透するこれからの時代において「日本人としてのアイデンティ」がますます大切になるに違いありません。

また、時代の変化に応じて教育のオペレーションも変化させるのは当然で、従来の教育で、子ども達の欲求を押さえ込み、大人が理想とする枠にはめ込んでしまっては可能性の芽を摘んでしまうでしょう。

イーロンマスクやジェフ・ベゾスのようなグローバルに活躍する人材を育成するためには、生徒の欲求を最大限に吐き出し、あらゆる制限を取り払うことが重要だと考えています。

まとめ

安居長敏

POINT

  • 「ドルトン東京学園」では「自由」と「協働」を軸に「生徒中心の学校」「社会のリアルとともに歩む学校」を目指している。
  • 「ドルトン・プラン」の「学習者中心の教育」は、主体的に学び、興味関心のあることと真剣に向き合い、探究・挑戦し続ける生徒を育む。
  • 自由に学ぶマインドやスキルを身につけ、自分の探究を行うことができる「ラボラトリー」には、主に学年毎のテーマに取り組む「基礎ラボ」と、個人の興味関心の幅を広げ・深める「探究ラボ」がある。
  • 2022年9月に完成した「STEAM棟」は教科・授業の型にとらわれないクリエイティブな学習空間で、多様な省CO2技術を採用した環境配慮型の新校舎である。

いかがでしたでしょうか?

激動する時代のなかで、多様な生き方や価値観が認められる社会へと世の中は確実に変化しています。

「ドルトン東京学園」がめざす「生徒中心の学校」は、大人が信じた価値観に生徒を従わせようとする教育とは一線を画すものです。

先を見通すことができない不確実な世界を生き抜くためには、生徒の個性を伸ばし、最新のテクノロジーを駆使して、知的好奇心や探究心を湧き起こす学びを生徒自らが追い求めていく「ドルトン・プラン」のような教育が求められるのではないでしょうか。

interviewee

安居 長敏(やすい ながとし)

ドルトン東京学園 中等部・高等部
校長 Director

私立高校で20年間教員を務めた後、コミュニティFMを2局設立、同時にパソコンサポート事業を起業。滋賀学園中学・高等学校校長、沖縄アミークスインターナショナル学園長を経て2019年より同校。2020年副校長に就任。2021年には入試広報部長を兼任するとともに二期校舎(STEAM棟)建設の責任者としてプロジェクトのマネジメントを行う。2022年7月より現職。

TEXT:PreBell編集部

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