いつでもどこでも行きたいところへ一瞬で行ける。落合陽一と考える、インターネットが実現する未来
いまや私たちの生活になくてはならなくなったインターネット。今こうしている間にも、新しい技術が開発されています。このスピード感で今後10年、20年と経過した場合、いったい我々の生活はどのように変わっていくのでしょうか。
今回は、メディアアーティストであり実業家、そして筑波大学助教も務める「現代の魔法使い」落合陽一(おちあいよういち)さんにお話を伺いました。
落合さんは、デジタルとアナログの世界を組み合わせた斬新なアート作品や研究で知られています。その落合さんは、インターネットのある未来の生活をどう予想するのでしょうか。
スマートフォンの普及で「液晶モニター」が減った
デジタルなものが増えつつある現代において、減っているものもあると落合さんは指摘します。それは家電製品に備え付けてある「液晶モニターと、その周囲のボタンの数」です。
「ちょっと前までは、あらゆる家電製品に液晶モニターが搭載されていました。しかし、ここ最近は液晶モニターを搭載している機器が減っています。その理由は、スマートフォンの普及です。複雑な機能を使う場合は、スマートフォン経由でインターネットに接続するのが前提となっているんです。昔は小さい画面にボタンがいくつかついていて、それを組み合わせて使っていましたが、そういう傾向減りましたよね。大画面で使うか、そもそもスマホ前提か」
スマートフォンがあらゆる家電製品の液晶モニター代わりとなり、リモコンとなる。今後、スマートフォンは電話やメールといったコミュニケーションツールという側面よりも、生活の中心となる機器になっていくはず、と落合さん。
家の冷蔵庫がコンビニに?冷蔵庫に話しかければ、買い物が完了する世界
落合さんは「音声認識が重要になる」と言っています。現実のモノとバーチャルのモノの区別がつかなくなるミクスドリアリティ(以下MR)の世界では、キーボードは実在せず、空間上に投影されたものになる可能性があります。物質的なキーボードで文字を入力することに慣れた私達には、入力が難しいため、ますます音声によるコミュニケーションが必要になるという意味でした。
もちろん、あらゆる家電の操作も音声で行う世界になるでしょう。そこでポイントとなるのが、音声認識技術。そのなかでも近年注目されているのが、Amazonが開発する音声認識技術「Alexa」(アレクサ)です。
「昨年のCES(ラスベガスで行われる、国際的なテクノロジー産業の見本市)を見ていると、あらゆる家電製品にAlexaが搭載されています。すごく可能性が広がりますよ。ちょっと前までは、インターネットで買い物をする場合にはパソコンやスマートフォンを経由する必要がありました。しかし、Alexaが搭載されていれば、どこにいても家電やデバイスに話しかけるだけで買い物が終わるんです」
たとえば、冷蔵庫にAlexaが搭載されている場合、「Alexa、牛乳が切れたから牛乳買っておいて」というだけで、買い物が完了。あとは、数時間後に牛乳が届くというわけ。
「時間差はあれど、冷蔵庫がコンビニになっているのと一緒ですよね。牛乳が切れたときにAlexaに口頭で注文をすると、ディスプレイに牛乳が表示され、6時間後には実物に入れ替わっているというイメージですね」
行動を起こす前に“「0円」で体験できる”ことが増える
モノの概念やデータはできあがっていて、あとは実物ができあがるのを待つだけ。落合さんは、そんなことが社会のあらゆるところで実装されるのではと予想しているそうです。
「車の自動運転が実用化されると、運転する必要がなくなりますよね。そのとき、移動中にVRで移動先の空間を体験して、私たちの身体は後から到着するといったことがしばらく続くと思うんです」
どこかに「行く」であったり「買う」であったり、行動を起こすことは非常に労力が必要ですが、おいしいラーメンを食べたいと思ったら、お店に行く前に検索できる現代。今後は、その検索の結果、外観、内装を体験できるようになるのです。
音や映像、いわゆるAV(オーディオビジュアル)はデータ化されることで、インターネットを通じて一瞬で手に入れることが可能。それはすでに、瞬間移動ができる世界の商品だということです。逆に、味覚、嗅覚、触覚といった物質をターゲットにした感覚は、まだ瞬間移動ができない状態ですが、店の雰囲気だけでなく、味や匂いをも事前に感じられることが重要になってくるかもしれません。
家電のIoT化の注目株は「冷蔵庫」
IoTの黎明期において、最も注目された家電製品は「冷蔵庫」でした。なぜなら、家庭内においてほぼ唯一「24時間通電している家電」だからです。冷蔵庫をサーバーにしたり、インターネット接続のためのアクセスポイントにしたりといったアイデアもありましたが、実現には至らなかったようです。
しかし、今でも冷蔵庫はIoTにおける注目株であることは間違いありません。事実、海外ではドアが液晶ディスプレイになっている冷蔵庫なども開発されていました。
「あれ、僕結構気に入っていたんですよね。でも、冷却効果が下がるでしょうね。そういう意味では冷蔵庫としては現実的じゃなかったのでしょう」
そういう落合さんも、冷蔵庫はキーとなる家電だと感じているそう。
「屋外から家庭の冷蔵庫の消費電力をカットするとか、現在の中身をお知らせする気づきセンサー内蔵なんていう製品も開発されていましたが、結局冷蔵庫の中身のものを購入できなければ、意味がないんです。Alexaがあれば、それも実現できるようになると思います」
冷蔵庫を開けて、「Alexa、特売ページ見せて」と話しかける。するとAlexaは特売ページをディスプレイに表示。そこからタイムセールの肉を買いたいと指示をすれば、Amazonなどから自動的に配達される。そんな世界は、実は割と近い将来に実現されるのかもしれません。
“音声の3次元化”で、群衆のなかであなただけに聞こえる声・音が生まれる
落合さんは、PixelDustという会社を設立し、“音声の3次元化”をする事業を展開しています。
「指向性スピーカーを使って、空中の特定の一点に向けて音を出せるという技術を開発しています。これはいまのところうちでしかやれていません。大勢の人がいるところで、特定の人にしか聞こえない音を流すことができるようになります」
この技術はどんなところで使うのでしょうか? そう尋ねると、「使うところはたくさんありますよ」ということ。たとえば、
- ・カフェでテイクアウトのコーヒーを待っている人に直接出来上がりを知らせる
- ・病院の受付で特定の個人だけに聞こえる声で呼び出す
という、”その人だけに伝わる”という、まるでテレパシーのようなことができるようになるのです。個人情報を守るという視点でも大活躍しそうですね。
「MRというと、どうしても視覚的な技術ばかりが目立っている気がしますが、実は音声のほうがまだ技術が発展していないから、注目度は高いです」
よりリアルに、より直接的に呼びかけることができる“音声の3次元化”。これがあらゆる場所で使われるようになれば、これまで以上にMRの世界を感じることができるかもしれません。
SF映画のような世界までもうすぐかもしれない
リアルとバーチャルが融合して、境目がなくなるMRの時代が訪れると、私達の生活はより便利に、よりスピーディになるでしょう。欲しいものが、ワンアクションですぐに手元にやってきて、行きたいところを一瞬で見に行ける。そんな世界は意外とすぐ来るのかもしれません。
「ポテトチップス食べたい」
そう言うだけで、しばらくするとポテトチップスが配達されてくる。
「グランドキャニオンに行きたい」
そう言えば、目の前にグランドキャニオンの景色が広がる。
まるでSF映画のようですが、あと数年、数十年後には実現する可能性が高くなってきました。子どもの頃に夢見た世界までは、あともう少し。その日まで、あらゆる技術の進化を見届けていきましょう。
メディアアーティスト 筑波大学助教 デジタルネイチャー研究室主宰
落合 陽一
1987年東京都生まれ。筑波大学情報学群情報メディア創成学類卒でメディア芸術を学び、東京大学で学際情報学府にて博士号を取得(学際情報学府初の早期修了者)。2015年より筑波大学助教現職。映像を超えたマルチメディアの可能性に興味を持ち、映像と物質の垣根を再構築する表現を計算機物理場(計算機ホログラム)によって実現するなど、デジタルネイチャーと呼ばれるビジョンに基づき研究に従事。情報処理推進機構より天才プログラマー/スーパークリエータ認定に認定。2015年、世界的なメディアアート賞であるアルス・エレクトロニカ賞受賞など、国内外で受賞歴多数。
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