ボッチャや車いすが超カッコいい!テクノロジーで生まれ変わったパラ競技「サイバースポーツ」って?【ITとスポーツの今・パラスポーツ編】
テクノロジーとは無縁のイメージだったスポーツの世界。しかし、最近では「プレイ」「観戦」など、スポーツのさまざまな面とテクノロジーが融合し、スポーツをより楽しめるようになっています。
「ITとスポーツの今」について、全3回にわたってレポートする本連載。第3回のテーマは「パラスポーツ」です。障がいのある人が行う「パラスポーツ」は、テクノロジーや通信の力で今後どのように変わっていくのでしょうか。
東京2020で注目を集めるパラスポーツ
いよいよ来年に迫った東京五輪。オリンピックとあわせて楽しみたいのが、障がいのあるトップアスリートたちによる総合競技大会「パラリンピック」です。
しかし、「クラス分けやルールがちょっと難しい」「どんな競技があるのか、わからない」というイメージを持つ人も多いことでしょう。
そんななか、パラスポーツをテクノロジーでクールに、誰にでもわかりやすく楽しめるようにしようというプロジェクトが進行中。
それが、コチラです。
サイバースポーツと銘打って、開発された2つの「パラスポーツ×テクノロジー」競技。実際に「サイバーボッチャS」をイベントで体験できると聞きつけ、東京・日本橋エリアで開催された「BEYOND FES 日本橋」を取材してきました。
「BEYOND FES 日本橋」は東京都が運営するパラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」の一貫で、パラスポーツの体験や観戦、義足アスリートのファッションショーなど、パラスポーツに関するさまざまなイベントが催されていました。
デジタル演出がカッコいい「サイバーボッチャS」を体験!
会場の中央でひときわ目を引いていた、パラスポーツ体験のブース。そのなかでも人気で順番街の列ができていたのが、本日のお目当ての「サイバーボッチャS」。ボッチャとは、脳性まひなどにより四肢に障がいのある人のために考案されたスポーツで、パラリンピックの正式種目でもあります。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに向かって、それぞれ6個のボールを投げ合い、どれだけジャックボールに近づけられるかを競います。「サイバーボッチャS」は、「ボッチャ」とテクノロジーを掛け合わせたことで生まれた、まったく新しい競技体験!
用意されているのは、白1個、赤6個、青6個のボール。参加者は赤軍と青軍に分かれて、それぞれの色のボールを投げ合っていきます。
まずは1個だけある白のボール(ジャックボール)をコートに向かって投げます。このボールが、ゲームの「的」になります。
早速、ランダムで先攻になった青軍がボールを転がします。白いボールに近ければ近いほど良いのだそう。
お見事、的のすぐ近くで青ボールがストップしましたね!
すると目の前にあるスクリーンに、白ボールと青ボールの位置が映し出されました。白と青がほぼ同じ位置であることがわかります。
続いては後攻、赤軍のターン。かなり的の近くに寄せられましたが、青軍に比べるとちょっぴり遠いです。
ボッチャでは、「的から遠い方」のチームがボールを投げ続けていくため、次も赤軍の投球です。
赤軍の投球が続いて、現状はこんな感じです。近くに寄せるのって意外と難しい……。
そのまま赤軍がすべてのボールを投げ切ったので、青軍のターンに移りました。
ちなみに、スクリーンには「次に投球するチーム」も表示されています。
全投球が終わってゲームセット。
結果、青が絶妙なポジションを陣取って大勝利となりました!
先ほどは見た目にも明らかな圧勝でしたが、たとえばこんな僅差だと、どっちが勝ちかわからないのでは……?
なんて心配はご無用! 投球が1回終わるごとに、ボールの位置がぱぱっと計測されて、最終的にはどちらが勝ったのかがスクリーンで一目瞭然という仕組みなのです。
PreBell編集部も体験させてもらいましたが、これ、めちゃくちゃ面白いです。カーリングのような、ビリヤードのような感じ。ただボールを投げるだけでなく、「自分のボールで相手のボールを弾き飛ばす」なんていうテクニックもあったりと、知るほどに奥が深い。
かなり盛り上がって、最後は初対面のチームメイトとハイタッチして終わりました!
近未来クリエイティブ集団「ワントゥーテン」がパラスポーツにかける思い
サイバーボッチャを開発したのは、京都市に本社を置く「1→10」(ワントゥーテン)。デジタル技術を駆使した新サービスの開発や、プロジェクションマッピングを活用したデジタル演出などを行うクリエイティブスタジオです。
同社では2015年から、パラスポーツとデジタル技術を融合させた「CYBER SPORTS(サイバースポーツ)」というプロジェクトに取り組んでいます。これまでに「サイバーボッチャ(S)」と「サイバーウィル(X)」という2つの新しいパラスポーツの開発を手がけ、パラスポーツ普及のためにイベントや商業施設などでの体験会を実施してきました。
同社がパラスポーツの世界に踏み込んだ理由は何だったのでしょうか。本プロジェクトを統括する住本宜子(すみもと のぶこ)さんにお話を聞きました。
——「サイバースポーツ」のプロジェクトを始められたきっかけは何ですか。
住本:日本におけるパラスポーツへの関心はまだ低いと言わざるを得ません。CYBER開発当初の2015年、世界大会の競技会場の観客席でもガラガラということがざらにありました。
私たちはこの状況に対して当時から危機感を持っていました。2020年を前に、何とかして現状を変えなければならない。障がいのある人やそこに直接関わる人たちだけでなく、もっとたくさんの人にパラスポーツを楽しんでもらい、親しみを感じてほしい。そのために私たちが持つテクノロジーとデザインのノウハウを生かそうと立ち上がったのが、このプロジェクトの始まりです。
——パラスポーツの中でも「ボッチャ」を題材に選ばれたのはなぜでしょうか。
住本:ボッチャはパラリンピックの正式種目ではあるものの、車いすラグビーや車いすテニスと比べると、一般的にはあまり知られていない競技です。
しかし、実際にプレイしてみると、戦略性が高く、老若男女、障がいの有無関係なく楽しめる、とても面白いスポーツなんです。プロジェクトの中で2つの新しいパラスポーツを作ろうという話になった時、まずアイデアとして挙がったのがボッチャでした。
——「サイバーボッチャS」では具体的にどのようなテクノロジーが使われているのですか。
住本:コンセプトは「誰でも気軽に楽しめる」ということ。ボッチャの基本的なルールはそのままに、ルールに詳しくない人でもよりわかりやすく、よりプレイしやすくしています。
具体的には、画像認識と位置センサーによって、プレイヤーが投げたボールの座標を自動的に計測します。さらに、目の前にある大型スクリーンでつねに戦局が確認できて、コンピュータがゲームの進行をサポートするという仕組みです。コートの大きさは2.4メートル×4メートルで、実際の競技の6分の1程度にしています。
アナログで行われる従来のボッチャの場合、審判がその都度メジャーとコンパスを持ってボールの位置を計測します。観客はその様子を眺めているだけで、どちらがどのくらい勝っているのかがわかりにくい。だからゲームに熱中して応援することが難しいのです。
——スポーツのルールの理解しにくい部分を、テクノロジーがカバーするのですね。
住本:プロジェクションなどの演出を効果的に使うことで、よりエンターテインメント性を高くするねらいもあります。ビリヤードやダーツのように、バーで遊ぶクールなナイトスポーツをイメージして開発しました。現在は改良を加えて、明るい場所や屋外でプレイするのにも適した仕様になっています。
今回はその開発を、清水建設さんが支援してくださいました。
——もうひとつの「サイバースポーツ」である「サイバーウィルX」とはどんなものですか。
住本:サイバーウィルでは、陸上スポーツの「車いすレース」をVRで楽しむことができます。体験者は車いす型の専用コントローラーに乗り込んで、東京の街をベースにした3Dの未来都市空間を駆け抜けます。
レースゲームのような感覚でありながら、勾配のある道では車いすの負荷が変わったりと、現実に近い状態で車いすレースを疑似体験します。もちろん、障がいのある方も健常者と同じようにプレイできます。実際に、車いすレースのアスリートである鈴木朋樹選手に挑戦していただいたところ、過去最高スピードが叩き出されて、まだ誰もこの記録を超えられていません。
——これらのサービスの中で、インターネットが果たす役割について教えてください。
住本:インターネットを使った「通信対戦」は大きなゲーム性を持つ要素ですね。離れた場所にいる人とサイバーウィルのレースで競い合ったり、またサイバーボッチャのゲームを遠くから観戦したりといったことが可能になります。
スカイツリー内の商業施設「東京ソラマチ」に設置された、次世代通信規格「5G」の体験施設「PLAY 5G 明日をあそべ」では、「サイバーウィルX」が常設され、二台による対戦を楽しむことができます。
通信によって、ニューヨークと東京とパリにいる人たちが、そして健常者と障がい者が、サイバースポーツでつながることが可能になるのです。
——サイバースポーツを通じて、どのようなことを伝えていきたいですか?
住本:私たちが目指すのは、「垣根のない社会」です。現在の日本では、障がいのある人と健常者のあいだに、見えない壁を感じることがあります。健常者から見ると、障がい者は「自分とは違う存在」に思えて、つい一歩引いてしまうのかもしれません。でも、話してみるとまったくそんなことはないんですよ。
たとえば弊社代表の澤邊は、18歳のときにバイク事故に合い、手足が動かない状態ですが、パラスポーツへの取り組みを始めるまで、あえてプロフィールとして公表をしていませんでした。その必要が全くないくらい、バリバリと仕事をこなしているんです。
澤邊は「車いすに乗ったことで、もっと自由になれた」とも言っています。パラスポーツというと「福祉」のイメージを持つ人も多いかもしれませんが、障がいに対する捉え方は本当に人それぞれです。
サイバースポーツはひとつのきっかけです。健常者がテクノロジーを通してパラスポーツを体験し、「カッコよくて面白い!」とか「パラアスリートには敵わない!」などと実感していただくことで、パラスポーツがもっと身近になり、ひいては健常者と障がい者の垣根がなくなることを願っています。
まとめ:ITの力で、誰もが平等にスポーツを楽しめる世界がやってくる!?
「サイバースポーツ」は、テクノロジーによって健常者と障がい者、両方が楽しめるようになったスポーツです。スポーツのルールもそうですが、私たちが暮らす社会の多くは、健常者の使いやすさを前提につくられています。
スポーツに限らず、もしITの力で社会がもっとしなやかに個人に最適な形に姿を変えられるようになれば——。「障がい」という考え方は、なくなっていくのかもしれないと、今回の取材を通じて感じました。
TEXT:小村トリコ
PHOTO:小池大介
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