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2020.03.19 戦略・広報活動を担う!eスポーツアナリストはゲームの腕前より”社会人力”が大事!?【eスポーツお仕事図鑑】

すでに黎明期から時間が経ち、成熟を迎えつつある日本のeスポーツシーン。そんな中で立ち上がっているのが、「現役選手を引退したプレーヤーは、セカンドキャリアをどうすべきか」という問題です。eスポーツ選手の引退は20代半ば程度が多く、その後の人生は決して短くありません。10代からゲーム一筋で生きてきた彼らにとって、引退後のキャリアをどうすべきかは大きな問題です。

現在、eスポーツアナリストとして、またコーチングや解説の分野でも活躍を続けているiSeNN(あいせん)さんは、セカンドキャリアを自ら切り開きにいっている元プロプレーヤーの1人です。元警察官という異色の経歴ながら、マルチプレーヤーオンラインバトルアリーナ型ゲーム『League of Legends(以下LoL)』の選手として複数のチームを渡り歩いてきたiSeNNさん。eスポーツ業界で働くために大切なのは「普通の社会人としての経験」だと言います。彼が考えるeスポーツアナリストの仕事、そしてeスポーツ選手のキャリアの積み重ね方とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

iSeNN(あいせん)

高校卒業後、警察での勤務を経て2016年にLeague of legends(LoL)プロゲーマーに。プロとして2年半活躍し、昨年5月に引退。以降は広告代理店事業に従事しながら、LoLプレーヤーのコーチングやアナリスト、イベント出演や各種配信など幅広く活躍している

「リーグ・オブ・レジェンド」PV (c) 2019 Riot Games, Inc. All Rights Reserved

新卒で就いた仕事は警察官‼ eスポーツ業界に入るきっかけはスカウトだった 

iSeNNさんは愛知県出身。両親と姉との4人家族で育ちました。家族は全員ゲーム好きで、ゲームキューブやWii、プレイステーション3や4など、常にその時々の最新ハードに触れながら少年時代を過ごしたといいます。

新卒で就いた仕事は警察官‼ eスポーツ業界に入るきっかけはスカウトだった 

「欲しいと言わなくても、家にゲーム機がたくさんあったんですよ。もともとドラクエとかFFとかを家族みんなでやってました。でも、親はゲームをする時間に関してはけっこう厳しくて、3時間勉強したら1時間ゲームをやっていい、みたいな決まりはありましたね」

そんなiSeNNさんは高校卒業後は警察官の道へ進み、現役の警察官として22歳半ばまでの4年半を過ごしました。

警察官として働いている時期も、iSeNNさんは大好きなゲームをやり続けていました。仕事は3交代制で、1日勤務したら2日間が休みになるというシフト。iSeNNさんは学生時代に家の決まりで思う存分できなかったゲームに休日を費やし、FPSの『スペシャルフォース』、次いでLoLの上位ランカーとして活躍します。

「日本のLoLは今年でシーズン10、つまり10周年というタイミングなんですが、僕はシーズン2あたりからやっていました。その日本ランクで上位に入った時、プロから声がかかったんです。もともとゲームは好きでしたし、面白そうだなと思って、警察を辞めて愛知から東京に引っ越して、プロ入りを決めました」

プレーヤー引退のきっかけとなったのは韓国選手勢との明らかなレベル差

プレーヤー引退のきっかけとなったのは韓国選手勢との明らかなレベル差プロプレイヤー時代のiSeNNさん。22歳半ばから2年半ほど、プレイヤーとして活躍した。

iSeNNさんが実際にプロとしてLoLの日本リーグ(LJL)に参加していたのは、2019年6月までの2年半ほど。25歳での引退となりました。その大きな理由となったのが、LoLの選手層が厚い韓国のプレーヤー陣とのレベル差。日本では上位数名に入るほどの実力を持っていたiSeNNさんも、韓国のランキングでは5000位以下だったのです。日本のリーグにも韓国人プレーヤーは参加しており、iSeNNさんと同じポジションでぶつかることも。レベル差を考えると、これ以上プロの選手として活動するよりも早めに引退して別の道を探す方が、iSeNNさんにとって得策に思えたのです。

「引退することに迷いはありませんでした。元々プロになった時から韓国のプレーヤーには勝てないのはわかっていたので…。元公務員という経歴もあるし、プロプレーヤーとして身につけた経験もできたので、そういう“手札”ができたところで辞めようと思ったんです」

プロを引退したiSeNNさんがその後のキャリアを模索する中でたどり着いたのが、アナリストとしての道でした。現在eスポーツのアナリストには2種類があり、ひとつはチームに所属してゲームの最新情報や対戦チームの情報を分析するもの。もうひとつが、同じように分析した情報をファンに向けて解説・発信するものです。iSeNNさんが選んだのは、後者でした。

プレーヤー引退のきっかけとなったのは韓国選手勢との明らかなレベル差

「最初から『アナリストになろう!』と思って引退したわけでもないし、自分では自分のことをアナリストとは呼んでないんですよね。でも、プロゲーマーとしての経験があって、実況や解説とは別に試合や戦術を分析して…という仕事を続けるうちに"アナリスト"と呼ばれるようになったので、そう名乗っているという感じです。だから、大会で普通に解説として仕事をすることもありますね」

アナリストとしての仕事は“自分でとってくる”ものが多い。そのためには社会人スキルが必要

現在のiSeNNさんの主な仕事は、以下の通り。その内容は多岐にわたる。

[eスポーツ関連]
・アナリスト業務…全国高校eスポーツ選手権での解説を始めとした、視聴者向け解説

・コーチ業務…女性プロゲームチームのヘッドコーチなど

・個人でのライブ配信…一般プレーヤーに向けたアップデート解説、戦術解説など

[eスポーツ以外]
・代理店業務…株式会社Change By Connectionに籍をおき、PCメーカーの製品プロモーション代理店業務を担当

アナリストとしての仕事は“自分でとってくる”ものが多い。そのためには社会人スキルが必要

「全国高校eスポーツ選手権では、実況とは別にデスクを作ってもらって『今のはこういう作戦だった』みたいに直接モニターに書き込んで解説したりしました。高校生向けのコーチングや、今年の夏に開設されるプロプレーヤー育成ジムのトレーナーとしても声をかけていただいています。プロプレーヤーのセカンドキャリアとしては、やっぱり新しい子にゲームを教えるのが理想的と思うんです。その道を切り開くということでも、まず僕が第一人者としてやっていこうと考えてます」

とりわけiSeNNさんが重視しているのが、「普通の社会人」としての経験。特に昨年7~12月はパソコンを触ることができないくらい代理店業務が忙しく、民間企業としての仕事にどっぷり浸かったと言います。その成果が、現在のアナリストとしての仕事に結びついていることもあるとか。

アナリストとしての仕事は“自分でとってくる”ものが多い。そのためには社会人スキルが必要

eスポーツアナリストの立場は“信用”と“コミュニケーション力”が支えている

また、eスポーツに関わる以前からのキャリアも、iSeNNさんはうまく活用しています。

「全国高校eスポーツ選手権が自分を使ってくれたのは、元公務員っていうキャリアがあるからだと思っています。やっぱり、eスポーツプレーヤーでも『元公務員』っていう肩書があれば親御さんも安心してくれると思うんですよ。そういうイメージは大事にしているので、例えば配信中に危ないことは言わないように、言葉遣いは注意しています。初期のプロゲーマーはそういう点をあまり気にせずに済みましたが、やっと日本のeスポーツも黎明期が終わり、選手のセカンドキャリアについて考え始める時期がきました。ここで関係者の言動が社会的に通用しないものだと後に続く方たちが大変なので、最近はみんな気をつけてますね」

eスポーツアナリストの立場は“信用”と“コミュニケーション力”が支えている

「eスポーツアナリストに必要なスキルってなんでしょう」と尋ねると、iSeNNさんは以下のことを教えてくれました。

『情報の分析力と伝達力』
アナリストの仕事はクリエイティブなものではなく、情報を読み取って自分で考え、相手に伝えることこそが基本です。

『信用を得る力』
情報の価値は「誰が言っているか」によって大きく左右されます。信用できない人から聞いた情報の場合、自分たちで改めて調べなおす必要があり、手間です。信用できる人間だ、と思ってもらうにはプロプレーヤーとしての経験値や能力が、現時点では重要です。

『コミュニケーション力』
若い頃からゲーム一本で生きてきたeスポーツ選手にとって、基本的なビジネスマナーや会話のいろはは馴染みがないもの。しかしそれがeスポーツ選手のセカンドキャリアにとって非常に大事な要素だと、iSeNNさんは強調します。

eスポーツアナリストの立場は“信用”と“コミュニケーション力”が支えている

「eスポーツの選手として色々な人と知り合いましたが、正直一緒に仕事ができるなと思ったのは1~2人ほどです。eスポーツ選手のセカンドキャリアを保証したいという気持ちで活動していますが、一般企業の方やeスポーツ関係者以外の方とも関わることを考えると、全員を自分とつながりのある仕事に紹介することはできません。セカンドキャリアに移行するためには、まずコミュニケーション能力を身につけてしっかり話せるようになるのが大事ですね」

アナリストをして鍛えられるのは“伝える力”。これがあればどんなことにもチャレンジできる

 iSeNNさん自身も、この先ずっとアナリストとして活動していくという気持ちで固まっているわけではありません。現在日本のeスポーツ業界は周辺産業が充実しかけており、プロの選手以外にもキャリアの選択肢が増え始めています。

アナリストをして鍛えられるのは“伝える力”。これがあればどんなことにもチャレンジできる

「まずアナリストという仕事を広めることが目的だったので、“アナリストとしての自分のキャリア”については、そこまで考えていません。今後はアナリストの活動にとどまらず、もっと色んな仕事をして、あんなこともこんなこともできますよ、ということを見せていきたいんです」

試合以外で収入を得る方法がようやく確立されてきた日本のeスポーツ。現在そういった試みが成功しているのはLoLのみだそうですが、以前に比べればグッと選択肢は増えていると言えそうです。さらにアナリストという仕事で磨かれるスキルも、社会人として役立つものだとiSeNNさんは語ります。

アナリストをして鍛えられるのは“伝える力”。これがあればどんなことにもチャレンジできる

「アナリストに必要なのは、根本的に物事を考える能力や調べたことをわかりやすく伝えるスキルです。これは色々な仕事で役に立つのではないでしょうか。あと、現在の僕の活動は元々なかった仕事をすることが多いので、新しいことにチャレンジする力はついたと思います」

戦略的にeスポーツ関係者としての自らのキャリアを蓄積し、さらに新しい仕事を見つけ出して確立する……。成熟期を迎えた日本のeスポーツにとって、必要不可欠な試みです。そしてそれは「普通の社会人」と「eスポーツ選手」の両面を備えているiSeNNさんだからこそ可能な、前人未到の大仕事なのかもしれません。

TEXT:しげる
PHOTO:宇佐美亮

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