「スマートフォン貸与契約書」を導入したら、親子の絆が深まったのはなぜ? 作成者の元Yahoo!執行役員 村上さんに理由を聞いてきた みんなのインターネット

「スマートフォン貸与契約書」を導入したら、親子の絆が深まったのはなぜ? 作成者の元Yahoo!執行役員 村上さんに理由を聞いてきた

2018年2月、中学にあがる息子に父が渡した「スマートフォン貸与契約書」の内容が"ガチ"だと話題になりました。

スマートフォン貸与契約書

この貸与契約書を作成したのは、現LinkedIn日本CEOであり、元Yahoo! Japanで執行役員としてスマートフォン事業を牽引していた“インターネットとモバイルのプロフェッショナル”村上臣さん。「LINEでは知らない人や直接会ったことのない人を友達登録しない」「定期テストの1週間前からは一切の利用をしない」など、息子さんがスマートフォンと上手に付き合っていけるように配慮されたこの契約書は、その後複数のメディアで取り上げられるほどの反響を呼びました。

契約書が結ばれてから2カ月が経過した現在、息子さんはどのようにスマートフォンを使っているのでしょうか。今回は村上さんへのインタビューを通じて、スマートフォン貸与契約書が子どもの教育にどのような役割を果たしているのかを紹介します。

メディアの情報は子どもには刺激が強すぎる

村上さん

──まずはじめに、村上さんがスマートフォン貸与契約書を作成したきっかけについて教えてください。

元々、息子には「中学受験が終わればスマホを買ってあげる」と約束をしていたのですが、僕はその際、どのようにしたら双方とも気持ち良くスマホライフを送れるのかを模索していたんです。そこで思いついたのが今回の“契約書”でした。

──中学生になるまではスマートフォンは禁止だったのですね。

ええ。これはうちの家庭における“情報リテラシーに関する教育方針”についてお話ししたほうが良いと思うのですが、僕こう見えて、メディアについてはかなり保守的なんですよ。

──村上さんは、先日までYahoo! Japanの執行役員としてスマホ事業を牽引してきたエキスパートですよね。日本最大級のWebの会社で働いていた方が、なぜ……

そんな僕だからこそだと思います。Webだけではなくてメディア全般、たとえばテレビとの付き合い方は子どもが生まれた時から気をつけていて、息子が幼稚園に通っている時は基本的にテレビをほとんど見せていなかったんですよね。現在もリビングにもテレビはないです。

テレビから流れてくる情報って、幼稚園とか小学校に通っている子どもの頭の処理能力を超えているわけですよね。まだまだ経験を積んでいない頭では善悪の判断がつかない。そんな頃に、それを盲信してしまうような環境をつくってしまうことが良くないと考えていて、テレビを見る時は、僕や妻が選んだ番組しか見せていませんでした。

メディアは自分が支配するもの。メディアに支配されるな

メディアは自分が支配するもの。メディアに支配されるな

ネットのメディアに関しても同じです。本やテレビなどのメディアは、内容を担保している出版社やテレビ局がいますが、インターネットは誰もが自由に発信できる場所です。裏取りも何もされないまま情報が発信できてしまう。もちろん、最近は正しい情報を発信しようと努力しているサイトも増えてきてはいますが。

なので僕の息子には、「すべてを信じ切ってはいけない。インターネットを使ってもいいけど、ネットで調べたものは自分で裏取りをして初めて真の情報だよ」と教えています。

わたしの家では、家族の共用パソコンに息子用のアカウントをつくって、たとえば何かを調べたり友達の中で流行っているYouTube動画を見たりできる環境にはしています。ただ、フィルタリング(編集部注:インターネットを安全に利用できるよう、有害なサイトなどへの接続をあらかじめできなくすること)はガッチリかけていますし、部屋のどこからでも画面が見えるところにパソコンを置いているので、何をしているのか確認できるようにしています。

──正しいことを正しいと見抜ける目を養う必要がありますよね。

そうですね。本やテレビ、ネット、ゲーム、そして人。世の中に溢れているメディアには、それぞれ魅力があって、特性は違います。「テレビの情報は全て正しい」、「あの人が言っていることは全部間違っている」などといった、偏った考え方をしないようにするための訓練が必要ですね。

情報を正しく管理できるようになることは、社会人になっても大切なこと。息子にはよく、「メディアに支配されるな。自分が支配しろと」と言っています。

村上さん

スマートフォン貸与契約書を親子のコミュニケーションのきっかけとして使って欲しい

──スマートフォン貸与契約書の話に戻りますが、息子さんは契約書を渡された際にどう思ったんでしょうか。

彼は、「お父さんらしいな」と感じながらも、特に不満はなかったようです。一見難しそうに見えても、ちゃんと読んでみると納得出来る内容が多かったので、文句はなかったらしいんですよね。ちょっと面倒くさいなとは思ったらしいですけど。契約書付きのスマホを手にしたことで、「受験勉強が終わって中学生になるっていうのが実感できて嬉しかった。ちょっぴり大人になった感じもする」とも言っていました。

村上さん

──息子さんも、「大人として接してもらった」と感じているわけですね。

そうですね。息子が実際にスマホを使ってみてどう感じたのか聞いてみたんですが、良いと思った点は、「便利なところ。知らないことはすぐ調べられるし、すごいと思ったものは写真撮って保存できるし」とのことで。逆に悪い点は、「まだ起きてないけど、取り返しのつかないことが起こるかもしれないところ。自分が送ったLINEの文章が誰かにスクショされて拡散されるかもしれない」なんて言っていましたね。

──立派な息子さんですね…。

あはは(笑)。ちなみに、「誓約書兼スマートフォン貸与契約書」は一般公開しているので(編集部注:当記事末尾にてダウンロード可能)誰でも使用することができますし、各家庭によってカスマイズしてもらうことも可能です。僕はこれを、単なる契約書としてだけではなく、コミュニケーションのきっかけとして使ってもらえればいいなと思っています。

スマートフォン、パソコン、タブレットPCを持つ親子

子どもにスマートフォンをはじめて渡す際は、各家庭それぞれ、どんな風に使わせるかかなり迷う方もいるかと思います。そんな時に、あの契約書を見ていただいて、うちはもっとゆるくていいからこの項目はいらないとか、使っていい時間はもうちょっと長くしてみようとか、子どものスマホ利用を考えるたたき台にしてもらえたら。子どもと一緒に、どういう契約にするか話し合ったっていいわけですよね。

僕はどんな家庭でも、親は子を守らなければいけないと考えているので、こういった約束事は必要だと思います。

ただ単に約束事に縛られることは、子供は好きではないことがほとんど。そんな際に、この契約書を使って子どもを大人として扱うことで、良いコミュニケーションをしていってもらえればと思うんです。この契約書をそのまま使っていただいても良いし、参考程度に見ていただいても良いし。そしてお子さんの現在や未来、親子の関係について考える機会にしてみてほしいと思うんです。

ただ、契約書の意味を親が理解していないといけませんけどね(笑)。

村上さん

見知らぬ人間と子どもがコミュニケーションを取れてしまう環境をつくらないこと

面識のない人間とコミュニケーションが取れてしまうというのもインターネットの功罪ですよね。例えば、子どもが道端で見知らぬ人から声をかけられたら、ちょっとした“事案”になりうることですよね。でも、ネットだとそれが容易に起こってしまうんです。

これまで、子供は親が見える範囲でしか行動できませんでした。でも、インターネットの普及によって目の届かない世界、それこそネットの世界で国境をも越えて子供が自由に歩けるようになっているわけです。

──子どもを1人で海外旅行させるようなものですね。

そう! なので、村上家ではTwitterは今のところ全面禁止にしていて、LINEで連絡を取っていいのも現実でつながりのある友達だけです。ID検索やアドレス帳連携など、他人とつながることができる機能も使用禁止。GPSもオフにしています。これらは見知らぬ人と子どもが直接コミュニケーションを取れる場所を塞ぐという観点で決めたルールです。

知人から「娘にTwitterをやらせてよいか」という相談を受けたときは、アカウントのIDとパスワードを親子で共有して、親がそのアカウントにログインできる環境にしておくこと。そして、親がログインすることがあるかもしれないということを娘さんに事前に理解してもらったほうがいいとアドバイスしたこともあります。そうしておけば、見知らぬ人から娘にダイレクトメッセージが来ても対処できますし。

これらはインターネットによって現実世界が拡張したことで生まれたリスクです。こうしたリスクから子どもを守る知識や対処法を親は持っておくべきだと思いますね。

この前、ちょうど中学生に上がる娘を持つ友人から電話がかかってきて。娘とこの契約書を結んだんですって。そしたらもうね、契約書を結んだら娘さんが泣いたっていうんですよ。契約が嫌だったっていうんではなくて、スマホを使えるっていう喜びだったり、大人扱いしてもらえたことによるものだったみたいなんですが、なんだかいい話ですよね(笑)。

村上さん

今回村上さんからお話を伺って思ったことは、スマートフォン貸与契約書が子どもの安全なスマホライフに貢献するだけでなく、親子のネットリテラシーを向上させるきっかけになりうるということです。

株式会社オプトが18歳未満の子どもを持つ保護者を対象に実施した親子のモバイル事情調査(2014年6月)によると、「子どもの携帯電話・スマートフォンなどの使い方について、家庭でどう教育したらよいかお考えがありますか」という問いに対して「どう教育したらよいか、明確な考えがある」と回答した保護者の方はわずか12.4%にとどまっています。

村上さんが作成されたスマートフォン貸与契約書は、ダウンロードしてご利用いただけます。契約書に目を通し、各条文が設けられている背景について子どもと考え、議論してみることで今回村上さんが仰っていたことをより深く理解できるようになるかもしれません。契約書は文章を改変して使用することができますので、ぜひこの機会にご家庭の事情に合わせてカスタマイズして使ってみてください。

Google Driveからダウンロード 誓約書兼スマートフォン貸与契約書
※この文書はクリエイティブ・コモンズ(表示 - 非営利 4.0国際)ライセンスの下に提供されています。

また、村上さんがスマートフォン貸与契約書を作ったきっかけについては、村上さんがCSOを務める株式会社フィラメントのこちらの記事でより詳しく語られています。

元ヤフー執行役員・村上臣がお子さんに渡した「誓約書兼スマートフォン貸与契約書」がガチだった

TEXT:PreBell編集部

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