高校で堂々とゲーム?イマドキな部活「eスポーツ部」に潜入!
「eスポーツ」という競技をご存じでしょうか。
「eスポーツ」は、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームで技術を競い合う新しい競技。2018年のジャカルタ夏季アジア大会で公式競技になったり、2022年のアジアオリンピック大会の正式種目にも選ばれたりするなど、スポーツの国際大会でも競技として認められつつあります。
なお、海外のeスポーツ大会は、数十億円の優勝賞金が用意されているなど、一攫千金を狙える夢の競技として世界中から注目を集めており、日本でも「eスポーツ」で生計を立てる「プロゲーマー」を目指す人が増えています。
今回は、eスポーツを部活として取り入れているという、東京都北区の高校「成立学園高等学校」にお邪魔しました。果たして、未来のプロゲーマーはいるのでしょうか…!?
成立学園は、サッカー部や野球部に全国大会出場実績があるほか、多くのプロスポーツ選手を輩出するなど、部活動が非常に盛んな学校です。同校のマルチメディア部ではコンピューターを使って3D動画やゲームの制作をしていましたが、昨年2018年10月、eスポーツをするためのグループ(eスポーツ班)が誕生。部員のみなさんに詳しく話を聞いてきました。
PreBell編集部:先生、今日はよろしくお願いします!
田島先生:こちらこそ。まずは部室を案内しますね。
PreBell編集部:(ガチャッ)お邪魔しま~す…って、めちゃくちゃゲームしてる! 学校でめちゃくちゃ堂々とゲームしてる!
田島:ゲームが部活動ですからね。
PreBell編集部:(時代は変わったな…)
田島先生:はい、みんな注目~!
今日はこの方たちが取材をしてくださるそうだから、まずは全員で挨拶しよう。
…気をつけ、礼!
部員のみなさん:よろしくお願いしまーす!!!
PreBell編集部:すごい。こういうの、めっちゃ部活っぽい…。
ゲーム好きの先生と自由な校風から生まれたeスポーツ班
まずは、顧問の田島先生にeスポーツ班が生まれたきっかけを聞いてみることに。
PreBell編集部:そもそも、なぜ学校でeスポーツを部活に?
田島先生:実は私、もともとゲーム好きなんです。
PreBell編集部:え!すごく意外。どんなゲームをプレイされていたんですか?
田島先生:学生時代は「ザ・キング・オブ・ファイターズ」や「ストリートファイター」などの格闘ゲームにハマっていましたね。
PreBell編集部:格ゲー派だったんですね。
田島先生:はい。eスポーツの世界的な人気の高まりを知ってはいたものの、学校で部活としてやるのは保護者の目などを考えると難しいなと、二の足を踏んでいました。
PreBell編集部:ゲームは勉強と対極で「遊び」というイメージが強いですもんね。
田島先生:そんな時に校長が「第1回 全国高校eスポーツ選手権」(高校生を対象としたeスポーツの大会)が開催されているという記事を見て「うちでもやりたい」と言ったんです。それがきっかけで部活を作る準備が始まりました。
PreBell編集部:まさかの、いきなりトップからGOサインが出たわけですね。
田島先生:本校はサッカーや野球など、勉強以外でも頑張る生徒を応援したいという校風があり、新しい挑戦を歓迎しています。eスポーツは歴史の浅い競技ですし、もしかすると今後世界に通用する選手が生まれるかもしれない、という期待もあります。せっかくやるなら、eスポーツに部活として取り組む先進校を目指そうという想いではじめました。
eスポーツも他の部活動と同じ
PreBell編集部:先ほど「保護者の目」という話がありましたが、eスポーツ部をつくるまでに苦労はありましたか?
田島先生:やはり保護者が心配する点は、ゲームが勉強の妨げになるのでは…ということです。そこで、ゲームに依存して学力低下に繋がらないよう、部活でのプレイ時間は2~3時間ほどに制限したり、テストで赤点を取らないなどの条件を設け、保護者向けの資料を作成して賛同いただきました。
PreBell編集部:それなら勉学と両立ができそうですね。
田島先生:それに、eスポーツも従来のほかの部活と同じなんです。ルールという制約の中で、どのようにすれば勝てるのか考えて、練習を重ね、個人やチームとして成長していく。その過程はほかの部活と共通する価値があります。
PreBell編集部:おっしゃる通りですね。プレイするのがリアルの場かバーチャルなのか、という違いだけかもしれません。
田島先生:そうなんです。励ましあったり、戦略会議を開いて情報を共有したり、ゲームを共通点に生徒同士が仲良くなったりと、たとえバーチャルでの対戦であっても、得られるものはほかのスポーツや部活と同じなんです。
PreBell編集部:昨年12月の大会(第1回 全国高校eスポーツ選手権)では、惜しくも2回戦敗退とのことでしたが、大会ってどんな感じで行われるんですか?
田島先生:その時はオンライン戦だったので、部室で大会の生中継番組をスクリーンに映し出してプレイしました。プロの解説者が実況してくれるので、ほかの部活では味わえない興奮がありましたよ!
PreBell編集部:部室でも臨場感がありそうですね!
田島先生:はい。私も部員たちの試合を観戦しながら、「戻れ戻れー!」「まだ1点取られただけ。気にするなー!」などの声を掛けて熱くなりました。
PreBell編集部:まさに本物のスポーツと同じですね。
戦術はYouTubeで学び、オンラインで実践
続いて、部員の方にも話を聞いてみました。実際の部活動はどのように行われているのでしょうか。
PreBell編集部:なぜ、eスポーツ班に入部したの?
小杉くん:中学生の頃からプレイしていた「リーグ・オブ・レジェンド」が大会の競技ゲームになるということで入部しました。「ついに来たな」って興奮しましたね!
若杉くん:「ロケットリーグ」をプレイしたことはなかったんですが、もともとゲーム好きで、友人に勧められて入りました。
第1回 全国高校eスポーツ選手権の競技タイトル
▶ロケットリーグ
ジャンプや飛行が可能な「バトルカー」を操り、3対3でサッカーするゲーム
▶リーグ・オブ・レジェンド
5対5でキャラクターを操作し、先に相手の本拠地を破壊することを目的としたゲーム
PreBell編集部:部活では、どれくらいのペースでどんな練習をするの?
若杉くん:大会前でなければ、基本的には平日週2日。1日2時間くらいです。
小杉くん:僕らのチームは5人中2人が初心者だったので、最初はAI戦(対コンピューター)で経験者がルールやコツを教えながら一緒にプレイしていました。今はオンラインの対人戦に挑戦しています。「リーグ・オブ・レジェンド」は、1ゲームだいたい30分~1時間くらいかかりますね。
若杉くん:「ロケットリーグ」の試合は1ゲーム5分なので短いです。僕らは3人とも全員初心者だったので、先生からアドバイスをもらったり、YouTubeの初心者向けの動画などで学んだりしながら、オンラインの対人戦で実践を積んでいきました。
PreBell編集部:部活以外に自宅で自主練もするの?
小杉くん:YouTubeでうまい人の動画を見てプレイをマネしてみたり、どのタイミングでどんな攻撃をするか戦略を立ててみたり、それをチームのメンバーと教え合っていますね。
PreBell編集部:学ぶのはYouTubeなんだ!でも、家で長い時間ゲームをしてると親に怒られない?
小杉くん:いや、怒られないです。
PreBell編集部:え、そうなの?
小杉くん:やることさえやっていれば特に何も言われない家庭なので。
若杉くん:僕も「成績が落ちなければいいよ」という感じでした。
PreBell編集部:これは意外。家庭にもよると思うけど、勉強をちゃんとしていれば家でゲームをプレイすること自体はOKなんだね。
若杉くん:そうですね。そこは厳しくありません。
PreBell編集部:あと最後に、ひとつ聞いていい?
小杉くん:何ですか?
PreBell編集部:…eスポーツ部って、ぶっちゃけモテるの?
小杉くん:いや、やっぱりサッカー部とか野球部に比べて、eスポーツはまだ地味なイメージなんで…。
PreBell編集部:そうなんだ…。いや俺も仕事でパソコンばっかり見てるから彼女できなくて…。
小杉くん:あ、でも彼女はいます。
PreBell編集部:え。
若杉くん:あ、僕もいます。
PreBell編集部:……。(めちゃくちゃリア充じゃん)
「ゲームが好き」にスポットライトを当てる
最後に田島先生に、eスポーツを通した教育やゲームの魅力について伺いました。
PreBell編集部:あの、僕の勝手な思い込みで失礼な話ですが、僕が学生の頃、ゲーマーはどちらかというとオタクのイメージでした。でも実際に部員の方々と話してみたら、すごく明るくて全然そんなことないですね。(彼女いるし…)
田島先生:いまはスマホでゲームをするのが当たり前ですし、少しずつイメージが変わりつつあるのかもしれません。部員はみんな明るくて、コミュニケーション能力が高い生徒が多いですね。
PreBell編集部:話した印象も、しっかりしていて勉強ができそうな感じでした。
田島先生:eスポーツ班は、生徒会の副会長がリーダーを務めているほか、成績も学年内で真ん中より上の生徒たちが多いですね。学力との相関は分かりませんが、学力の高い生徒がeスポーツのゲームでも効率よく情報を吸収して、勝ちに行く戦略をしっかり考えられる傾向にあるように感じています。
PreBell編集部:そんな生徒たちがeスポーツを通じて、どのように成長していると感じますか?
田島先生:さっきの小杉くんは技術的にエースでチームをリードしていますが、もともと人の前に進んで立つタイプではなかったんですよ。
PreBell編集部:そうだったんですね。
田島先生:今まで学校は、勉学やスポーツでしか生徒が輝けませんでした。でもeスポーツという部活ができたことで、「ゲーム」という特技を持つ生徒にもスポットライトが当たり、小杉くんのように人間的に成長してくケースもあります。その経験や成長の過程がとても大事だと思うんです。
PreBell編集部:スポーツでのチームワーク作りや経験って、社会に出てから活きてきますよね。
田島先生:そうですね。それにゲームには、無条件に人と人をつなげる魅力があると思うんです。私が学生の頃はゲームセンターで格闘ゲームをプレイしていたんですが、ずっと通っていると顔見知りになったり、同じ学校で接点がなかった人と友達になったり。今はオンラインでのチャットが主流ですが、そんな新しい出会いのきっかけにもなると感じています。
PreBell編集部:たしかにそうですね。もし来年、格闘ゲームが大会種目に選ばれたらどうします?
田島先生:入部の条件を「私を倒したら」にしますね!
バーチャルの試合であれ、チームで切磋琢磨して、同じ目標に向かっていくその姿勢は、まさにスポーツそのものでした。たとえ身長が高くても低くても、足が速くても遅くても、みんなに平等にチャンスがある競技という一面ももっています。
部活動でeスポーツに励む。職業が「プロゲーマー」。それらが当たり前になる未来は、意外とすぐそこまで来ているのかもしれません。
TEXT:ケンジパーマ
PHOTO:河合信幸
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