【なるほど!5Gの世界】5Gによって実現するのはどんな世界? 僕らの暮らしを変えるそのスゴさを徹底解剖!
みなさん、2020年から実用が開始されるという「5G」って知っていますか?
小学生の頃にはそれなりの快適なネット環境があった世代の僕は、「4G」という言葉を初めて聞いたときも、「通信速度がちょっと速くなる」くらいの曖昧な認識しか持っていませんでした。
ですが、どうやら「5G」は、そんなレベルの話ではないようで。「すべてのモノがネットにつながる世界」がやってくるなんて話もあり、「何それどういうこと?」と混乱してしまいます。
そこで今回、「5G」は、いったい何がどうすごいのか、「5G」技術を応用した分野の研究・開発キーマンである東京工業大学・阪口 啓 教授に聞いてみたいと思います。
阪口啓(さかぐち けい)
東京工業大学工学院電気電子系 教授、超スマート社会推進コンソーシアム コーディネーター。現在の研究分野は5Gセルラーネットワーク、ミリ波通信、無線電力伝送。5G技術の国際標準化を牽引した中心人物の一人として活躍中。2018年3月より株式会社オロの社外取締役に就任。
5G(第5世代移動通信システム)って何なんですか?
2020年から「5G」が実用化されると聞いたのですが、そもそも「5G」って何なんですか?「G」の意味すらわかりません。 |
「5th Generation」の「G」ですよ。「第5世代移動通信システム」という意味ですね。通信システムにおいて、約10年の間隔で技術革新がありまして、その第5世代目が「5G」。 |
具体的には、一体何がスゴイんですか? |
「5G」の軸とされているのは、この3つ。 ・大容量高速通信 ・高信頼低遅延 ・同時多数接続 です。 |
すごそうな感じはなんとなくわかるのですが、もう少し詳しく知りたいです。 |
「大容量高速通信」「高信頼低遅延」は、そのままの意味ですが大容量のデータを高速で、ほぼ遅延なく通信できるということです(最大10Gbps)。どれくらい速いかと言うと、2時間の映画のダウンロードにこれまで30秒かかっていたところを、3秒でダウンロードできるくらい。 |
速っ!!!!! では、「同時多数接続」はどんなことができるようになるのでしょうか? |
そもそも携帯電話の電波は、直接相手に届くのではなく、一回、基地局を経由します。 |
音楽フェスや通勤ラッシュ時間の大きな駅など、一ヵ所に大勢が集まる場所で電波が繋がりにくいのは、近隣の基地局が混雑しているからってことですかね? |
そう。そして「同時多数接続」は、一つの基地局に同時に接続できる端末の数が増えるということ。スマホやPCに限る話ではないので、これからはインターネットに接続することが前提の家電製品なども増えていくでしょうね。 |
ただ通信速度が上がるって話じゃないんですね。「4G」と比べてどれくらいスゴイんですか? |
「4G」と比べるなら、通信速度は通信速度は100倍、遅延は10分の1、同時接続数は100倍です。 |
おお、数字で比較すると、スゴさが分かってきました。 |
5Gに至るまでの歴史
そもそも、「5G」ってどういう経緯で作られることになったんですか? |
それを説明するためには、まず「5G」に至るまでの移動通信システムの歴史について説明しましょう。 |
よろしくお願いします。 |
まず1980年代に携帯電話が登場し、外でも電話ができるようになりました。 |
それが「1G(第1世代)」なんですね。 |
そのあと、1990年代に「2G(第2世代)」が生まれ、ショートメッセージを送れるようになりました。 |
僕が生まれたのが1992年なので、このあたりですね。もちろんこの頃の記憶はありませんが。 |
「3G(第3世代)」が始まったのが2001年。通信速度が上がったことで、メールや写真の送信が可能になり、国際ローミングができるようになりました。 |
国際ローミング? |
海外でも、日本の携帯電話で通信ができるようになったんです。 |
え、じゃあそれまでは海外で日本の携帯電話は使えなかったんですね。 |
「2G」までは、地域ごとに別の通信技術が使われていました。それを、世界どこでも使えるように、この時、国際標準化されたんです。 |
なるほど。 |
そして、いま私たちが利用しているのが「4G(第4世代)」ですね。YouTubeのようなビデオストリーミングサービスや、Google Driveのようなクラウドストレージサービスが使えるようになりました。こうした大容量のデータを扱うには、広い周波数帯域が必要になります。 |
周波数帯域? |
日本では、300MHz から3GHzの低い周波数の領域は、テレビや携帯電話などさまざまな電波によって埋まってしまっていて、混雑状態なんです。6GHz以上の高周波の領域になると空いている。「5G」はそこを活用するんです。 |
なるほど。混んでいて制限速度も低い道路 が「4G」で、空いていてめちゃくちゃ高速で走れる道路が「5G」 みたいなイメージですね。 |
5Gが作られたのは、「ネットワークがパンクするから」
ここまでは分かりました。でもなぜ、いま「5G」が必要なんですか? 正直、僕は「4G」に大きな不満ってないのですが。 |
そうですよね。ただ、YouTubeやビデオ通話、Instagramなどをみんながいまのペースで利用していくと、どうなると思います? |
何かまずいことが起きるんでしょうか? |
はい、モバイルデータトラヒック(※)がパンクしてしまいます。 データの通信量って年率2倍程度増えているので、10年経つと1000倍です。パンクしないために先回りして開発を進めていたということです。 |
※「トラヒック」…回線上を流れる通信、通信要求といったデータ、あるいは、流れるデータの量をさす言葉。
そんな速度で通信量って増えていくんですね。それはもう世界的にってことですか? |
世界的にではありますけど、日本は特に早いですね。 |
え? |
モバイルネットワークの通信量という意味なら、日本はトップクラスだと思います。普段、YouTubeなどの動画サービスを何も気にしないで利用していると思うんですけど、どこの国でも当たり前にできるわけではないんですよ。 |
5Gで実現するのは、すべてのモノがネットにつながる「超スマート社会」
いままでの技術革新は、「メールができるようになった」とか「インターネットに繋がるようになった」といったように、変化が分かりやすかったのですが、「5G」では具体的に何ができるようになるんですか? |
「5G」が当たり前の世界になるとどうなるかと言うと、「同時多数接続」の話にも出てきましたが、すべてのモノがインターネットに接続されていることが前提になっていきます。 |
最近よく聞く「IoT(Internet of Things)」ってやつですね。 |
そうです。すべてのモノがネットにつながっているのであれば、データの送受信や閲覧をおこなう端末はスマホじゃなくても良くなります。 |
おお、確かに。 |
いま、有力だと言われているのがメガネ型のデバイス。特に、医療や工場などの複数人がデータを共有することが必要な現場では確実に導入されると思います。データをレンズ上に表示して作業をしながら確認することができるので、手を使ってスマホを操作するよりも便利です。 |
なんだかSFの世界のようですね。 |
後日、5Gになったらスマホがどうなるかも聞きに行ってみました。
それで言うと、「5G」によって変わるテクノロジーの最たる例が、「自動運転」かなと思います。車が住居にも、レストランにも、ショッピングモールにもなります。 |
え? どういうことですか? |
たとえば、いままでは人間が店まで移動をしていましたが、これからは自分がいる場所に向けて、店側に来てもらうことができるんです。 |
うわ……。車が乗り物じゃなくて「移動する空間」という概念になるってことですか。 |
そうです。それから、仕事についての考え方もだいぶ変わると思います。たとえばリモートワークも増えるでしょう。「5G」技術を使えば、VR/AR(仮想現実)などを利用して遠隔でのコミュニケーションも可能になるので、場所にとらわれる必要は無くなります。 |
「VRオフィス」なんてものもできそう。 |
超高画質の映像を見ながらほぼ遅延なしでロボットを操作できるので、医療や建築など繊細な作業が必要な現場でも大きな変革が起きると思いますよ。 |
いろんなことが変わりそうだなぁ……。 |
車自体が住居になり得るため、「仕事があるからここに住む」といったことも無くなるでしょうね。移動に縛られないので、自宅で家族と過ごす時間が自然と増えていくのではないでしょうか。 |
なるほど。これからは、暮らしを主軸に置いて考えることができるようになると。 |
ほかにも考えられるのが物流の影響。足腰が弱って、買い物に行くのが大変なお年寄りに、ドローンで配達ということもできますよね。 |
社会への恩恵はかなり大きそうですね。「すべてのモノがネットにつながる社会」とは、「人がより快適に暮らしていける社会」ということでしょうか。 |
そうですね。そうした社会を「超スマート社会」と言うのですが、5Gの究極の目標はこの実現だと、考えてもらえればいいかなと思います。 |
「5G」は、新しい社会を見据えた技術革新ということですね。やっと「5G」のスゴさが見えてきた気がします。 「5G」の基本から社会にもたらす影響までを教わった第1回目。次回は身近なスマートフォンにフォーカスを当て、5Gになるとスマホはどう変わるのか、その進化について迫ります! |
TEXT:早川大輝
PHOTO:宇佐美亮
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