【なるほど!5Gの世界】無人バスやタクシーが、お年寄りなど移動に困っている人を救う!?自動運転が実現するとどうなるの? ニュース

【なるほど!5Gの世界】無人バスやタクシーが、お年寄りなど移動に困っている人を救う!?自動運転が実現するとどうなるの?

5Gの実用化によって、僕たちの生活にどのような影響があるのか迫る連載もいよいよ大詰め。 前回は、音楽ライブやスポーツ観戦など、5G時代のエンターテインメントのカタチを知って思わず興奮してしまいました。今回は、5G技術の大本命と言われているらしい「自動運転」に注目!と言いつつ、「自動運転」ってイマイチどんな技術なのかよくわからない。車がボタン一つで自動的にピューっと走っちゃうとかそういうこと……? 

今回お話を伺ったのは、この分野においての第一人者で慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の大前学さん。

そんなスゴイ時代が本当にやってくるんでしょうか……?

最近、ドライブデートとかしてないライター早川大輝(左)と、現在は研究のためタイに留学中で、気持ちも優しく穏やかな「タイマインド」になっているという大前学教授(右)。最近、ドライブデートとかしてないライター早川大輝(左)と、現在は研究のためタイに留学中で、気持ちも優しく穏やかな「タイマインド」になっているという大前学教授(右)。

大前学(おおまえ・まなぶ)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授。自動運転システムや自動隊列走行システム、遠隔操縦操縦システム、高度運転支援システムなど、自動車交通の知能化・情報化に関する技術開発や評価研究を通じ、スマートモビリティ社会の可能性を探求している。

自動運転って、そもそもどんな技術なの?

大前教授の研究室を訪ね、さっそく「自動運転」の基本を教えてもらおうと思ったのですが、「まずは乗っちゃってください!実際に体験したほうが話が早いから!はっはっは 」

と、いきなり自動運転の実験車に試乗させてもらうことに……。

ジャーン! これが実験車! キャンパス内を走りまわります
天井にはアンテナのようなものが立っています
アンテナのようなものは「ライダー」と呼ばれるセンサーで、車の周囲の状況をキャッチします
内部の様子。機械がいっぱい……
いよいよ発進です!

手を離してみると、とハンドルが勝手に動いて車を操作しているのがわかります

早川 いやー、ちょっと怖かったけど、実際に実験車に乗ることができて、大興奮でした! 今まで自動運転って、「ボタン一つで目的地まで自動で運転してくれる」SF映画に出てくるような、ものスゴいマシンというイメージだったんですけど、その実態がつかめてきました。
大前 自動運転に対して、夢のような技術だと思っている人が多いんですが、結局のところ、ハンドル・アクセル・ブレーキなどの操作を人間の代わりにシステムが行なう、ということなんですよ。今のところは、高速道路や渋滞時の走行、駐車など、極めて限られた状況での実用が考えられています。
早川 いきなりどこでも無人の車が走っちゃう、みたいなことではないんですね?
大前 たとえば、特定のルートをゆっくり走行する無人巡回バスやタクシーのようなものは現実的に考えられていますね。高齢少子化が進んで、人手が不足している地方などで人々の移動を助ける足になってくれると期待されているんです。
早川 自分の車も、ボタン一つで行きたいところにピューって連れてってくれたらすごくいいなぁと思うんですけど。
大前 はっはっは、そうですね。早川さんはそもそも自動運転の目的って何だと思いますか?
早川 うーん、やっぱり、人間がラクになることじゃないでしょうか? 移動時間に何か別のことに取り組むこともできたらいろいろ効率的だし。
大前 もちろんそういうことは付随的なメリットとして考えられますが、一番の目的はまず「安全」。自動運転技術の進化は、何を自動化することが安全につながるか、を考えることから始まります。
早川 確かに、一番大切なことですね……!

1,000回に999回上手くいったとしても難しい。完全自動運転実現への道

大前 実は自動運転の技術自体は、それほど難しいものではないんですが、公道を普通の車と同じように走るとなると、そのハードルは一気に上がります。人間の命を乗せた自動車は、たとえ1,000回中999回走行に成功しても、たった1回の失敗も許されないですよね? これがスマホのアプリだったら、一回リリースしてからアップデートを繰り返して改善していくこともできるんですが……。
早川 そうか…技術的には可能でも、安全性を考慮すると商品として市場に展開していくのを慎重にならざるを得ないということなんですね。
大前 今は段階を踏みながら、実験を繰り返しているんですね。たとえば、普段私たちが運転している車が「レベル0~2」なのですが、いよいよ日本で実用化されようとしているのが「レベル3」。レベル2との違いは、自動運転モード中の運転責任がシステムにある点です。
早川 なるほど。自動運転が難しい状況になったら、人間にバトンタッチするわけですね。
大前 そうです。システムが交代を要求したらドライバーが対処する。「レベル4」は、限られた場所だけですが、システムがすべて操作・対処します。
早川 となると、「レベル5」が制限なく走行できる「完全自動運転」ですね?
大前 そうです。だけどこれはまだまだ課題も多い。ただ、5G技術が実用化すれば、自動運転に必要な膨大なデータ処理やリアルタイムの通信の能力が、飛躍的に向上すると思いますよ。
早川 自動運転って、そんなにデータを使うものなんですか?
大前 さっきの実験車の天井にもアンテナのようなものが立っていたかと思うんですけど、あれは「ライダー」と呼ばれる周りの物体の位置を検知するセンサーです。自動運転はこうしたセンサーで周囲の情報をキャッチして状況を把握します。車同士の通信や、信号機や路側機など道路システム間での通信も搭載されれば、より正確に、しかもリアルタイムで交通状況を把握することができるようになるでしょうね。
早川 おお! そうなればまわりの情報を先回りしてキャッチできるから、システムが走行の仕方とかスピードを操作してくれて……
大前 渋滞緩和や交通事故の減少につながっていくわけです!

自動運転はセンサーの宝庫。街全体がデータ化すると……?

早川 他にも5Gが自動運転に影響することってありますか?
大前 これから注目されると思われるのが、「ダイナミックマップ」です。
早川 なんだかスゴそうですが、いったい普通の地図と何が違うんですか?
大前 自動運転は地図のデータを元に走るので、その地図データがとっても重要なんですね。で、「ダイナムックマップ」とはいったいどんなものなのかというと、車線や標識、横断歩道、停止線位置、周囲の構造物など、道を走るために必要な走行環境の3次元位置情報に加えて、歩行者や渋滞の状況といったさまざまな情報を正確に記録したデジタル地図なんです。
早川 めちゃくちゃ便利な地図じゃないですか!
大前 これに車載センサーの情報を合わせれば、より安全で正確に走ることができます。リアルタイムでの情報更新もどんどん行なわれていくでしょうね。
早川 これは、5Gの「高速大容量」が活きそうですね。他にも5Gの特徴が生かされることはありますか?
大前 車の「遠隔操縦」の分野では、5Gの特徴の一つ「低遅延性」が注目されています。遠隔操縦は、映像が少し遅れるだけでも運転の感覚が大きく変わってしまうので、高速で映像データを送れる5Gへの期待は大きいんですよ。
早川 遠隔操縦か……! でも、実際のところどんなときに使われるんですか?
大前 たとえば無人の自動運転車の場合、システムでの判断が難しいところを遠隔操縦で手助けするとか。他にも、タクシーやバス、物流トラックなどでも活用が考えられています。
早川 なるほど! 離れたところから操作できるなら、海外に住む人に現地から人手不足を補ってもらうなんてことにもなるかもしれませんね。そんなふうに、自動運転が実用化されたら、新しいサービスも何か生まれそうです。
大前 センサーを積んだ車が街中にたくさん走るわけなので、四方八方に防犯カメラが設置されるみたいなものなんですよ。街中がデータ化されて監視や追跡もできてしまう。そう考えると、新たな防犯サービスが生まれる可能性はありますよね。
早川 確かに、使い方によっては、より安心・安全な街づくりにつながりそう!

目指すべきは、みんなが安全に生き生き暮らせる社会

早川 完全自動運転の車が安全かどうか、まだ議論されているということは承知の上で、一般の人々が完全に自動運転化された車を手に入れることができるのは、何年後になるんでしょうか?
大前 うーん、まあでもやっぱり、20年はかかるんじゃないですかね。
早川 あれ!?  けっこうかかるんですね!
大前 自分の車として完全自動運転車を手に入れるには時間がかかりますが、人々の足としてバスやタクシーといった形で実用化されるのはもっと早いでしょうね。個人的には、なんでもかんでも機械がやるよりは、機械の助けによって100歳の人でも安心安全に運転できるようにした方がみんな喜ぶんじゃないかと思っています。人間が生き生きと暮らせる社会の実現につなげたいですよね。
早川 テクノロジーと人間の理想の付き合い方ですね。でも、僕は完全自動運転の車に早く乗ってみたいなぁ……。車に乗りながら原稿も書けちゃうなんて便利だし!
大前 自動運転によって、早川さんみたいに「車の中でも仕事ができます」なんてことを考える人もいますが、車の中でまで仕事をしようとする、その心の方が問題なんじゃないかと思いますけどね(笑)。
早川 うーん確かに。これは時間に追われてしまっている現代人の病かもしれません……。
大前 今、私は留学中でタイに住んでいるので、心がすっかり「タイマインド」になってしまっていて、時間の感覚がスローなんですよ。だから渋滞も気にならなくなってしまいましたよ。はっはっは。
早川 えー! もしかして僕たちが心のゆとりを取り戻す方が先決なのか……!?

5G時代における自動運転技術の進化について伺った第4回。SF映画のような世界が間近に迫っているといっても、やはり安全第一!慎重な研究が進められていました

今後、僕たちがどのような形で自動運転車を手にするかは分かりませんが、自動運転技術の力によって、人間がいつまでも生き生きと暮らせる社会が実現するといいなと思います! 最終回は、人間100年時代の今、気になる「医療」の分野で5G技術がどのように活用されるのか、迫ります!

TEXT:早川大輝
PHOTO:宇佐美亮

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