【なるほど!5Gの世界】遠隔から手術をアシスト!「スマート治療室」から見る5G時代の医療のカタチとは ニュース

【なるほど!5Gの世界】遠隔から手術をアシスト!「スマート治療室」から見る5G時代の医療のカタチとは

これまで「5Gの基本」「5G時代のスマホ」「5G時代のエンターテインメント」「自動運転」と、4回にわたってお届けしてきた5Gをめぐる連載もいよいよ最終回となりました! 初めはまったくわからなかった5Gのこと。その特徴や活用場面、いろんなスゴさが見えてきたところで、今回は5G時代の医療について迫りたいと思います。 「最先端医療」なんて言葉を聞くと、ちょっと遠い次元の話のようにも感じてしまいますが、今、医療の世界ではどんなことが起こっているのでしょうか…?

【なるほど!5Gの世界】遠隔から手術をアシスト!「スマート治療室」から見る5G時代の医療のカタチとは

今回、お話を伺ったのは、東京女子医科大学先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野/ 脳神経外科(兼任)教授で、最先端テクノロジーを活用したスマート治療室「SCOT」を開発した村垣善浩さん。

スマート治療室とは一体……? そんな疑問を胸に東京女子医科大学先端生命医科学研究所を訪ねました。

村垣善浩(むらがき・よしひろ)

東京女子医科大学先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野/ 脳神経外科(兼任)教授。 臨床医として悪性脳腫瘍の治療を専門とし、手術件数は国内一。手術中にMRI画像などを活用できる「インテリジェン ト手術室」の研究開発に携わり、その発展型であるスマート治療室「SCOT」の開発を主導。最先端医療のパイオニアとして安全で精度の高い治療技術の確立を目指す。

スマート治療室「SCOT」とは「移動する治療室」みたいなもの?

早川 そもそも村垣教授が開発された「スマート治療室」とはどういったものなのでしょうか?
村垣 スマート治療室「SCOT」は、IoTを活用してさまざまな医療機器や設備を接続・連携させることで、患者の状況をリアルタイムで把握しながら診断から手術まですることのできる治療室です。東京女子医大、広島大学、信州大学など5つの大学と国内企業12社が協力して2014年から研究開発を進めてきました。

今日は、プロトタイプの「SCOT」をご案内しながらお話しましょう。
スマート治療室「SCOT」とは「車」みたいなもの?こちらがスマート治療室「SCOT」の入り口
スマート治療室「SCOT」とは「車」みたいなもの?これまでに 開発されたモデルには「ベーシックSCOT」「スタンダードSCOT」があり、2019年、東京女子医大病院に設置されたのが最上位モデル「ハイパーSCOT」
スマート治療室「SCOT」とは「車」みたいなもの?
早川 うわ〜モニターがいっぱいあって、本当に近未来的な空間ですね!
村垣 この大型のモニターで、手術中の動画情報や患者の生体情報、手術器具の位置情報などのデータが全部見られるんですよ。
スマート治療室「SCOT」とは「車」みたいなもの?
こちらは東京女子医科大学の「ハイパーSCOT」臨床版。東京女子医科大学先端生命医科学研究所提供
早川 従来の手術・治療室とは一体何が違うんですか?
村垣 これまでの手術・治療室というのは、単に手術をするために滅菌された「場所」でしかなかったんです。一方、「SCOT」はこの「治療空間」自体が一つの医療機器になっているというイメージです。
早川 うーん、いまいちわからない…。
村垣 これまでは医師によって手術に使う道具はバラバラで、対応するスタッフも大変でした。それを一つにパッケージ化してしまったんです。「SCOT」が一台の車だと考えてみてください。ハンドルやタイヤエンジンなど部品が全部つながって、誰が乗っても安全な運転ができるようになったと。
スマート治療室「SCOT」とは「車」みたいなもの?
早川 おお!なるほど!使うものが最初から備わっていれば、人も道具も少なくて済みますね。
村垣 そうなんです。さらに、手術中のデータも取得しやすくなりました。これまではそれぞれの機械がそれぞれ独立して機能していて、データを同期することができなかったんです。そのため手術中には、機器や機械ごとに担当スタッフが、「〇〇の反応はどうですか?」「半分に落ちました」と会話をしながら、その場でデータを共有していました。
早川 医療ドラマでよく見る光景ですね!
村垣 本当にあんな感じです。ただしそうしたデータは残らないし、後で利用することもできない。そこで「SCOT」では、バラバラだった機器の情報を統合的に、しかも時系列で表示したり保存したりできるようにしました。
スマート治療室「SCOT」とは「車」みたいなもの?
早川 そうしたデータはどのように役立てるんですか?
村垣 このとき術者はどうしてその判断をしたのか、ということを振り返ることができるようになり、技術の分析や医療ミスの防止にもつながります。将来的にはビッグデータの解析も可能です。
早川 なるほど…。そもそも手術にそんなにたくさんのデータが必要だってこと、全然知らなかったなぁ。

難関手術のために、世界中から名医の英知がオンラインで結集!なんてことも…

村垣 実を言うと、これまで脳の手術は医師の経験や感覚に頼っていた部分が大きく、極めてアナログなところがありました。
早川 経験のない新人医師はドキドキするだろうなあ・・・。
村垣 「SCOT」では、機器からのデータや情報をネットワークにつないでリアルタイムに集約することができます。それを収集解析することができるいわば戦略室から、術者にフィードバックすることができます。
早川 運転中にナビをしてもらえるようになったみたいな感じでしょうか。5Gの「大容量高速通信」「高信頼低遅延」「同時多数接続」の特徴が生かされてきそうですね。
村垣 まさにそういうことです。私のデスク前のモニターにはリアルタイムで「SCOT」の手術の様子が映し出されるようになっているんですよ。
難関手術のために、世界中から英知が結集!なんてことも…
早川 難しい手術も、現場だけの判断じゃなくて、戦略室と連携しながらできるようになれば心強いですね!
村垣 5Gを使えば、たとえば内視鏡を使った手術の動画も、高画質で大きな遅延なく戦略室に届くので今、どこを触っているか、どんな判断をしているかがわかります。そうするとこちらからもより正確な支援をできる。つまりは治療の精度や安全性が高まるわけですね。
難関手術のために、世界中から英知が結集!なんてことも…
早川 将来的には、何人かの専門医がディスカッションしながら指示を出したりすることがあるかもしれませんね。各国のゴッドハンドみたいな先生たちが、ある一つの難しい手術のために集まるなんてことも……?
村垣 うーん、あるかもしれないですね!

医師不足も解消!新幹線で移動しながらスマホで手術できるなんて

早川 5Gによって、現場の外から手術の様子を確認できるようになるメリットって、他にどんなことがありますか?
村垣 たとえば、私の出張中に緊急手術があったとしても、スマートフォンへリアルタイムのデータを飛ばせば、新幹線で移動中でも術者に指示を出すということは可能だと思います。それこそ、現地にいるのと変わらないくらいの環境で。
医師不足にも光明!新幹線で移動しながら手術できるなんて
早川 それはスゴい!どんな環境であってもいつも同じ手術チームが維持できるっていうのも安心ですよね。そうなると「遠隔医療」というものも気になるのですが…。
村垣 たとえばAIやロボットを使った遠隔治療にも、5Gの特徴は大いに生かされるでしょうね。ただ、「万が一、回線が遅延したり途切れたりしてしまったらどうするの?」という問題がありまして。
早川 人命に関わることですもんね。
村垣 現場にある程度スキルのある医師がいる上で、遠隔の医師がロボットを通じて手術というシチュエーションは今後増えていくと思うのですが、現場にロボットだけの遠隔手術となるとやはりなかなか難しく相当時間がかかると思います。
早川 今、地方は特に医師不足も叫ばれてるじゃないですか。となれば、けっこう需要はありそうな気はするんですけど。
村垣 そうなんですよね。今やらなきゃいけない!というような緊急手術だったら、今後、可能性はあるかもしれませんね。
医師不足にも光明!新幹線で移動しながら手術できるなんて
早川 AIがもっと進化していけば?
村垣 医師と同じレベルにまでAIが進化するには、教育するためのデータが必要ですよね。
そこで「SCOT」でこれから溜まっていくデータが生かされます。
早川 なるほど!これまでアナログだった手術をデジタル化して、AIにフィードバックしていくわけですね。直接人命に関わらない場面では、「遠隔」でできることも進んできているんでしょうか?
村垣 遠隔での診察、たとえばオンライン診療は一つの形として広まりつつありますよね。これは医師不足の補完にもつながると思います。診察のとき、医師は患者の症状以外にも顔色や様子など、さまざまなことを見ていますが、実際に対面しているのと同じくらいの診断が遠隔でできるなら問題はないと思います。
早川 一人の医師の負担も軽減されて、働き方も変わっていきそうですね!

一人ひとりが医師とつながる?!通院や入院のない社会が実現しそう

早川 5Gが普及することで、医療サービスの形が変わっていくと、僕らの生活にはどんな影響がありますか?
村垣 そうですね、誰もがリアルタイムに自分の健康状態を把握できるようになるのではないでしょうか。
早川 たとえば、みんなが常にウエアラブルデバイスを付けて、自分の健康情報がデータとして見える状態になるとか?
一人ひとりが医師とつながる?!より健康に安心して暮らせる社会が実現しそう
村垣 そこまでデータがとれるようになったとすれば、将来的には入院がなくなるかもしれないですね。
早川 それは大きな変化ですね…!
村垣 入院がなくなるということは、身体にとっての負担も少なくなるんです。ストレスが格段に少なくなりますし、寝たきりや認知症にもなりにくくなると思います。
早川 薬の処方はどうなるんでしょうか?
村垣 医師が遠隔で患者のデータを確認して「じゃあこのお薬を飲んでください」と、ドローンで飛ばすなんてこともできるかもしれません。
早川 おもしろい!なんだか、医師に診察してもらうことがもっと身近になりそうだなぁ。先生個人としては、今後、5Gに期待していることはありますか?
村垣 「SCOT」が病院から飛び出して、さまざまな場所やシチュエーションで診断・治療・手術を行えるようになればいいなあと思っています。
一人ひとりが医師とつながる?!より健康に安心して暮らせる社会が実現しそう
早川 移動する手術室みたいなことですね!
村垣 そう、災害現場で手術が必要になったときも「SCOT」が移動して行って、5Gでデータを飛ばしてもらえば、救命にあたる現場の先生にこちらから指示を送ることができます。最終的には宇宙でも遠隔手術ができる日が来るかもしれません。
早川 宇宙とはスケールが大きい!でも、そんなことも夢じゃなくなってきてるんですね…!
一人ひとりが医師とつながる?!より健康に安心して暮らせる社会が実現しそう

5Gによる医療の進化に迫った最終回。
手術や治療の技術が進歩するだけでなく、僕たち一人ひとりの健康意識にも変化が起こりそうです。これからは「人生100年時代」どころではなくなるのかも…?

これまで連載を通して学んできた「5Gの世界」。単純にいろんなことが便利になる、速くなるってことだけじゃなく、社会課題を解決したり、僕らの生活をより豊かにしたりするために5Gは大きな役割を果たすものだとわかりました。
変化はもう、あちこちで始まっているようです。5Gの実現するスゴい未来が待っていると思うと、ワクワクしますね!

TEXT:早川大輝
PHOTO:宇佐美亮

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