インターネットの上手な歩き方 ~湯川鶴章さんの場合~ vol.3 これから3~5年で起きるイノベーション
テクノロジーの根幹、それに基づいた新しいサービスに関して精力的に取材を行っている湯川さん。その立場だからこそ、これからの未来の姿も見えているのではないでしょうか。今どういったカテゴリに興味を持っているのか、そして今後の社会はどう変わるのかを尋ねてみました。
注目しているのはチャットボット
ITという言葉が広く普及した現代です。湯川さんはお仕事で、全体的なITの記事を書いているのでしょうか。それとも特定分野に注視しているのでしょうか。
「基本的に、未来予測にワクワクするんですよ。あまりガジェットがどうのこうのというよりかは、未来はこうなるんだよというのを調べたいし、言いたいんです。先ほども言いましたが、大阪のおばちゃんみたいに、あそこのスーパー安いんやで!というノリで、このテクノロジーすごいんやで!というのを、誰よりも早く気がついて、言いたいんですよ」
そんな湯川さんが最近気になっているのはチャットボットとAIとのことです。チャットボットとはチャット用のロボットのこと。例えばECサイトに導入されているチャットボットは、購入品・数量の確認を人間のように返答するだけではなく、そのユーザーの購入履歴などから適切なレコメンドまで行えます。AIは皆さんもご存じ、人工知能のことです。
「(会員ユーザーとオンライン上でコミュニケーションする)オンラインサロンの会員さんがアメリカにチャットボットの取材に行ったんです。後から情報を教えてもらったら面白かったんですね。AIの進化にも関係してくる、大きなうねりだったんですよ。」
今後はテキストチャットだけではなく、自然言語の音声入力にも対応していくカテゴリとのこと。キーボードが扱えない、タッチパネルにも慣れていない子供でも、音声入力というユーザーインターフェース(以下UI)にはさほどトレーニングを要さなくても慣れ親しんでいくでしょう。またディスプレイを見ていなくてもコミュニケーションできるとなると、ECやユーザーサポートだけではなく、もっと多くの市場で導入されていく可能性もあります。
「ええ、UIの分野も伸びしろあると思っていますね。チャットボットを使ってみるとわかるのですが、AIを使うとUIが対話型になるんですよ。もともと音声によるインターフェースというのが気になっているところに、チャットボットがきた。これによりいろんな新しさがでてきて、ひいてはネット業界の再編が行われるのでは、と考えられるところも面白そうですよね」
もしかしてインターネット上の検索も変わるとか。
「変わるでしょうね」
鼻歌で曲名を教えてくれるような検索サービスが進化して、うろ覚えのストーリーを音声入力すると、小説の作品名を見つけてくれるとか、そういう進化は考えられますか?
「あると思いますね。AIが的確に情報を拾ってくるような未来はくると思いますよ。ただそこまでピンポイントなものだと、現状はそれを待つより、自分でタグづけしたほうがいいでしょうね」
AIの進化によるWEBの進化
インターネットを使った各種サービスが激変しそうなAIの進化。もしこのまま進化を続けるとなったら、どんなインターネット社会が訪れるのでしょうか。
「まず現段階で、AIによって激変しているカテゴリを上げてみましょうか。医療、自動運転、製造業です。いまはここの分野に人もお金も投資されているので他の分野の進化が見えにくいのですが、これらが一段落したら凄くなると思いますよ。これから3~5年で、いろんな分野が変貌すると思いますよ」
1つの例として、ヘルスケア分野における大きなイノベーションを予測してもらいました。
「ダイエットやヘルスケアの関係の人の最大の悩みは、日々食べているもののカロリー計算なんですね。今までにも写真からカロリー計算ができるアプリもあったんだけど、精度が悪かったんですね。で、みんな使わなくなった。しかしAIを組み込めば画像認識技術が高まります。もちろん普通の写真だと、被写体までの距離がわからないから実際の量が把握できない。大きく写したか、引いて撮影したかで差がでちゃう。そこで3Dセンサーやデュアルカメラで距離が測れるようになると、被写体となっている料理の大きさからチャーハンの中に人参がこんだけあって、お米が何粒あってとか、計算できるようになるんですよ」
うっわ、それは医療も予防医学も健康管理もガラっと変わりますね!
「これくらいの、ここ数年に起きる進化の話がゴロゴロあるんです。すべての領域に、山のようにあるんです。我々テクノロジー業界をずっと見てきた人間からすると、“こうなるといいんじゃないかな”と夢見ていた世界がこれからくるんですね」
AIには置き換えられない“人の価値”とは
AIによってインターネット産業が進化したとき、人間の考え方や価値は変化するでしょうか。ロボットマンガにあるような、ロボットが人間の能力を凌駕したときの世界についても尋ねてみました。
「アタマの良さって、その基準値が変化していくと思うんですよ。昔は『あの人アタマがいいね。人の名前覚えている』『物知りだ』といったところで評価されていたんですが、最近だと頭の良さの定義に記憶力は入ってきていないんですよ。インターネットがあって、Wikipediaがあって、という状況ですから。モノを調べたらすぐにでてくる時代ですから」
確かに図書館に行って過去の文献を探す、ということをしなくなりました。今の若い人たちもそうなのでしょうか。
「で、ですよ。今は論理的に考えられる人のことをアタマがいいと言っています。でも論理的思考はAIが最も得意とする分野です」
こういう状況があってこういうデータがあって、どう判断しますかといった題が出されたとき、人間よりもAIのほうがすばやく、的確な判断を下せるんですね。
「今の教育でやってることはAIにとって代わられるかもしれない、すると。そこを頑張っても仕方がないのかなとも感じちゃう。AIと競わなくなったとき、さて人間の価値は何になるんだろうと。1つには、論理と感情の中間的な感性はしばらくのあいだ、AIがたどり着けない世界なので、その感覚、判断力が価値になるかもしれないですね」
となると、今後“人間”として生きてくためには、どんなことをしたらいいと思いますか?
「人間にとってこれから一番重要なスキルは何かと考えると、人に愛されることだと思うんですよね。AIができないところは思いやり、志、直感あたり。だからこれらを身につける教育が必要になってくると思いますね。まあこれから直感って、ひらめきってなんなのという議論が行われていくのでしょうけど」
なおAIに今までにヒットした曲のパターンを認識させ、作曲させると、ヒットする要素を含んだ曲を出力するそうです。
「過去のデータを元に洗練させていくのはAIが得意。秀才的なものは得意なんです。でも天才的なクリエイティブはAIだと無理。時代の先をいくようなものは難しい。現在評価されていないものに価値をつけるのが難しいんですね」
クリエイティブのほかにも、マネージメント、ホスタピリティの分野においてトップクラスのサービス提供はAIだと難しいとのこと。
「だから、人間力を高めるとしたら、そこの力をつけていくのが大事ではないでしょうか」
製造業の工場内がロボットばかりになったように、AIの技術は僕らの社会の土台にどんどんと入り込んでくるでしょう。2017年には有名シェフのレシピ&調理データをもった調理ロボットも発売される時代ですし。
だからこそ彼ら秀才に任せられるところは全部任せてしまい、人間は他人を思いやれるようになればいいのではと、湯川さんは語ってくれました。ありがとうございました!
湯川鶴章(ゆかわつるあき)
ITジャーナリスト。学習コミュニティTheWave代表。
1958年和歌山県生まれ。大阪の高校を卒業後、渡米。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立、ブログメディアTechWaveを創業。2013年から、編集長を降り、新しい領域に挑戦中。著書多数。
TEXT:武者良太
PHOTO:合田和弘
Image via. Thinkstock / Getty Images
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