インターネットの上手な歩き方 ~岩佐琢磨さんの場合~ vol.2 IoTにはまったきっかけ
これまで見たこともないようなインターネットにつながる“ヘンテコなモノ”を次々と世に送り出していることで、熱烈な支持を集めている家電メーカーCerevo(セレボ)。今回は、その創業社長である岩佐琢磨(いわさたくま)さんのルーツを解明します。
インターネットと出会い、世界の広さを知った
ものづくり企業を経営する岩佐さんだけに、小さな頃からモノを作るのがお好きだったんでしょうか。
「よく、そういうふうに言われるんですが、実際は全くそんなことはありません(笑)。作るというより、消費することを徹底的に楽しむタイプでした。ただ、周りのみんながやっていないことには早い段階で興味を持つ子どもだったかも。ブームになるころにはもう飽きていて、次を探し始めるみたいな」
そうした「みんながやっていないこと」「注目していないこと」に魅せられるようになっていた理由については、今となっては分からないそうです。しかし、現在のモノづくりへの姿勢は確実にこの頃に養われているようです。
そして、もう一つ、インターネットとの出会いも、確実に現在の岩佐さんの姿につながっています。
中学2年生の時に買ってもらったPCでパソコン通信デビューした岩佐さんは、高校でインターネットに遭遇します。1995年に時間帯制限型の定額制通話サービス「テレホーダイ」が開始されたのと合わせて、インターネットにのめり込むようになっていきました。
「やっていたのはひたすら対戦ゲームですね。インターネットなら海外のゲームファンとオンラインで対戦ができますから。それまでは同学年で、自分ほど本気でPCゲームをプレイしているヤツは1人もいなかったんですが、インターネットにはそういう人が1000人も1万人もいる。インターネットってすごい、世界は広いって感動しましたね」
1学年120名の中にたった1人しかいない存在(PCゲームマニア)が、世界全体を見渡せば数えられないほどいる。インターネットの広がりを、体感した瞬間でした。
そこからさまざまなネットサービスを自らユーザーとして使いこむ内に、自分の手で何かを作りたいと考えるようになった岩佐さん。大学時代はアルバイトでエンジニアの道を選び、Webサイトの制作を行うようになります。現在は経営者として商品・サービスのアイデアを「ほとんど一人で考える」という岩佐さんですが、豊かな発想の裏には作り手としての経験が着実に生きているようです。
最初の製品はネットにつながるデジタルカメラ
その後、大学を卒業した岩佐さんですが当時、活況だったインターネットベンチャーではなく大手家電メーカーに就職します。「家電」と「インターネット」をつなげる、という大きな目標を考えた上で、むしろ、老舗家電メーカーの方が、新しいことができるのではないかと考えたからだそうです。しかし、すべてが思い通りにはいきませんでした。
「ただ、大きな企業には大きな企業の難しさがありました。ソフトとハードの距離が遠かったり、いろいろな状況が絡んでいましたが、私がやりたいこととは少し違ったんですね。その分、チャンスもあったのではあるのですが」
そうして自分が本当にやりたかった「家電」と「インターネット」をつなげる商品が作れる会社として2008年にCerevoを創業しました。
Cerevoの製品第1号は、2009年12月に発売された無線LAN搭載デジタルカメラ『CEREVO CAM』。撮った写真や動画を単体でインターネットにアップロードできることが特長の製品で、特に後日追加された、動画をライブでインターネット配信できるという機能(『CEREVO CAM Live!』として製品化)は大いに注目を集めました。
そしてこれが、翌年、国内でも本格スタートした「Ustream」などの波を見事にキャッチ。当時のCerevoは市場において全く無名の存在だったのですが、現在のYouTuberブームにつながる、ライブ配信人気を盛り上げていきます。
「この製品はその後、いくつかの後続、関連製品を挟み、最新の『LiveShell X』につながっています。実はこれ、ソニーなどのプロ向けビデオカメラと相性抜群。カメラにポンと『LiveShell X』をつないでやるだけで映像がインターネットにライブ配信できるということで、いろいろな現場で使われているそうです。その意味でもインターネットでいろいろな物事が広がる波に上手に乗ることは大事だと痛感しています」
インターネットにつながる製品づくりだけでなく、商品を流通させる術としてもインターネットを活用する。そんな一貫した考えができるのも、インターネットの本質を、体でしっかりと感じ取った岩佐さんならではでしょう。
岩佐琢磨(いわさたくま)
松下電器産業(現・パナソニック)でカメラやレコーダーなど、インターネット対応家電の商品開発に携わった後、2008年独立。ハードウエアベンチャー「Cerevo」代表取締役に就任。東京・秋葉原近くの本社を拠点に、少数精鋭のスタッフたちと、これまでにはなかった、さまざまなガジェットの開発・販売を行っている。
TEXT:山下達也
PHOTO:合田和弘
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