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2020.04.14 eスポーツの魅力を世界に発信!「愛が止まらない」ライターのスイニャンさん【eスポーツお仕事図鑑】

野球やサッカーなどフィジカルスポーツの世界では、プロの記者・ライターの存在は当たり前。でも、eスポーツとなれば、プロのライターはまだまだ少数。そんな中でプレーはせずに「観戦勢」の立場で数々の仕事をこなしている、eスポーツ専門ライターのスイニャンさんに、「好きなことを仕事にする」ということの面白さを聞いてみました。

韓国企業の日本支社で貿易事務の仕事をしつつ、週末はLeague of Legend(以下LoL)の大会で通訳としても業務をこなし、その合間にライターとして原稿を書くという、多彩な活躍を見せています。

もともとはF1やK-POPアイドルにハマっていたというスイニャンさん。いかにしてeスポーツの世界に浸かり、仕事として関わることになったのでしょうか。

スイニャン

韓国在住時にeスポーツに触れたことで興味を持ち、帰国後にブログにて文筆活動を開始。その後eスポーツ関係媒体にてライターとしてデビューしつつ、League of Legend Japan Leagueにて通訳としても活躍。プロプレーヤーではない「観戦専門」の立場から、大会レポートや選手へのインタビューなど幅広く記事を執筆している。

eスポーツにハマったきっかけはK-POP

スイニャンさんがeスポーツと出会ったのは、韓国に語学留学していた最中。K-POPに夢中になり、彼らの話す言語を身に着けるために現地で学ぶことを選んだのでした。その留学中、テレビをつけるとたまたまeスポーツのテレビ番組が放送されていました。

eスポーツにハマったきっかけはK-POP

「韓国のeスポーツ人気って日本と全然違うんです。向こうでは人としゃべる時『どのプロゲーマーのファンか』という話題が自然に出ます。テレビでもプロプレーヤーのリーグが放送されていて、たまたま見たらハマったんですよね」

プロリーグを観戦していて、とあるプロゲーマーのファンになったスイニャンさんは、現地の私設ファンクラブに入会することに。ファンクラブ主催のミーティングに行ったスイニャンさんを待っていたのは、「ゲームをしないeスポーツファン」たちでした。スイニャンさんがかつてハマっていたF1同様、「プレーはしないけど、選手のファンになって追いかける」という韓国のeスポーツ観戦カルチャーにすぐになじみます。しかし、日本に帰ってきたスイニャンさんは、日本のeスポーツの観戦が、韓国と全く違うことに戸惑いました。

eスポーツにハマったきっかけはK-POP

「日本に戻ってきて、とある大会を見に行ったんですよ。そしたら会場にいたのは男の子ばっかりで、女の子は大体その子たちの彼女か友達。選手は観客席の人たちと普通に会話してるし、みんな地べたに座って観戦してたんです。観客席がちゃんとあって、ステージの上で対戦してっていう韓国の会場しか見たことがなかった私にとっては、カルチャーショックでしたね」

個人ブログがメディア担当の目に留まり、仕事の依頼が訪れる

しかしスイニャンさんはそこで諦めませんでした。なんとかして日本でもeスポーツの面白さを共有したい、日本語でeスポーツについて語り合いたい…。そう思ったスイニャンさんは、韓国のプロシーンについてブログを書き始めます。
とにかく自己流で思いの丈をネットに書きつづっていたスイニャンさん。ある日、とあるウェブメディアから原稿の依頼が届きました。

個人ブログがメディア担当の目に留まり、仕事の依頼が訪れる

スイニャンさんが初めてお仕事として原稿を書いたのは、韓国で絶大な人気を持つ『スタークラフト』のプロシーンについて。はじめのうちはしっかりと原稿料が出る仕事は少なく、交通費が出る程度でしたが、それでもブログから商業媒体に文章を書く場所を移したことは有意義だったとスイニャンさんは語ります。

「個人ブログだと取材の許可をいただけないことが多かったんですが、商業サイトを経由すると通るんです。それはすごくよかったですね。そこからトントン拍子に仕事が増えて、いろんなところからオファーが来るようになりました」

「自分一人で、できること」はライターとしての仕事の幅につながる。

「自分一人で、できること」はライターとしての仕事の幅につながる。

現在スイニャンさんが仕事をしている媒体は10個ほどで、ほぼ全てがウェブメディア。同時に、League og Legends Japan League(以下LJL)での通訳の仕事もこなします。
スイニャンさんのライター業において大きな武器になっているのが、海外への渡航経験の多さと韓国語のスキル。たとえば韓国での大会の取材であれば、取材のオファーから飛行機のチケット購入、現地での移動、取材での会話や撮影も全部1人でこなします。通訳が務まるほど韓国語が堪能のため、直接選手にインタビューをすることもできます。韓国のeスポーツシーンを取材するのに必要なスキルが、一通り以上にそろっているのです。

ライターにとって大切なのはコミュニケーションスキルと、思いやる心

ライターにとって大切なのはコミュニケーションスキルと、思いやる心

そんなスイニャンさんが取材の際に気をつけているのが、とにかく選手と仲良くなっておくこと。取材陣に対し緊張してしまう選手も少なくないため、スイニャンさんは取材の前からなるべく選手に接して、取材時に緊張せずに話を聞けるよう気を配ります。

「選手はみんな若いし、『この選手めっちゃ緊張してる!』って思うこともあるんですよ。『普段はもっと面白いのに!』っていうことも多いから、なるべくそういうところを引き出したいと思っています。あと、私は取材相手への思い入れが深くなっちゃうというか、ファンの立場で取材をしているんです。だから相手も喜んでくれて、リラックスしてくれたりします」

記事を書く上でスイニャンさんが意識しているのは「難しい言葉を書かない」という点。もちろん編集部から「ゲーマー向けに書いてほしい」というオーダーが出れば専門用語も使いますが、基本的には中学生くらいの読者が読んでも内容を理解できることを目標としています。日本のeスポーツ関連の記事はビジネスの話も多く、選手へのインタビューもどちらかと言えば大人向け。そんな中で、スイニャンさんは中高生にももっとプロゲーマーに憧れてほしいと語ります。

ライターにとって大切なのはコミュニケーションスキルと、思いやる心

「いい意味でカジュアルに書きたいんです。理路整然とした記事が好きな人もいるだろうけど、私はそういうものが得意なわけでも好きなわけでもないので…。私はもっとeスポーツが中高生とかに広がってほしいと思ってるんですよ。だから、そういう子たちがページを開いた時に『無理!』って思うような記事よりは、カジュアルな記事のほうがいいと思ってます。だからあんまり難しい言葉は使わないですね」

スイニャンさん直伝、eスポーツライターになるには“プラスアルファ”が重要

これまでも多くの仕事をこなしてきたスイニャンさん。そんな彼女に、eスポーツライターにとって不可欠なものを聞いてみました。

「基本的な文章力はやっぱり大事だと思います。どうしても苦手という人もいますが、努力で克服できるはずなんですよ。だから、文章を書くのが苦手な人でも、勉強すればなんとかなると思います」

加えて、何らかの“プラスアルファになる要素”があるとeスポーツに関する仕事もスムーズに継続できると、スイニャンさんは話します。

「私の場合、語学はアドバンテージではあると思います。もちろん最初から『eスポーツライターになりたい!』と思っているなら遠回りかもしれないけど、やっぱりeスポーツとはどんなものかを韓国語で覚えたという流れは、役には立っています。たまたまですけど(笑)。だから、もともと語学ができる人なら、並行してeスポーツのことを勉強するのはいいかもしれません」

スイニャンさん直伝、eスポーツライターになるには“プラスアルファ”が重要

ライターとしての次の目標は、中国で活躍すること

eスポーツへの情熱と韓国語のスキルを武器にeスポーツライターとして活躍してきたスイニャンさんですが、次は中国語圏のeスポーツシーンを取材したいと話します。現在中国語圏には巨大なeスポーツのリーグが立ち上がっており、その様子を取材することは、スイニャンさんにとって大きな目標です。

ライターとしての次の目標は、中国で活躍すること

「中国語は大学の時に第二外国語として勉強していたし、今でも辞書を引きながらメールでインタビューすることはできるんです。でも、口頭でのインタビューはやっぱりついていけない。今中国語圏のeスポーツはすごく大きくなっているんですよ。だから今の韓国と日本の取材に合わせて、中国でも取材できるという路線でやりたいんです」

「好きだから、伝えたい」初期衝動のままに続けてきたライターと、それを可能にするeスポーツ業界の今

eスポーツライターとしてのお話をスイニャンさんに伺う中で見えてきたのは、「大好きなもの」を発信する仕事の強さでした。スイニャンさんの仕事で一番重要なのは、自身がeスポーツやLJLをとにかく好きだという点でしょう。そこに関しても、スイニャンさんはこう話します。

「好きだから、伝えたい」初期衝動のままに続けてきたライターと、それを可能にするeスポーツ業界の今

「最近取材は増えましたけど、まだまだ日本人選手に対するアプローチは少ないと思うんです。LJLには選手同士のドラマチックなエピソードもたくさんあるし、勝負の世界で全力で戦う選手たちの姿はとにかくかっこいい。そういうLJLが大好きなので、仕事で行くのが申し訳ないくらいで…。普通にチケット買って入ったほうがいいんじゃないってよく言われます(笑)。魅力的なのにまだ埋もれている選手はたくさんいるし、とにかくやりたいことがたくさんあるんです」

「好きだから、伝えたい」初期衝動のままに続けてきたライターと、それを可能にするeスポーツ業界の今

好きだという一心で思いの丈を書きつづっていたら、それがそのまま仕事になった…。ある意味で非常にうらやましい仕事の仕方をつかんだスイニャンさんですが、一番重要だったのは好きだという強い気持ちと、それを発信する行動力ではないでしょうか。まだ「eスポーツに関わる仕事」が固まりきっていない日本のシーンだからこそ、そんな熱い気持ちと行動でつかめるチャンスはたくさん眠っているのかもしれません。

TEXT:しげる
PHOTO:宇佐美亮

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