選手経験がなくても大丈夫!?eスポーツコーチになる方法を日本初のプロに聞いてみた|Lillebeltさん【eスポーツお仕事図鑑】 ニュース

選手経験がなくても大丈夫!?eスポーツコーチになる方法を日本初のプロに聞いてみた|Lillebeltさん【eスポーツお仕事図鑑】

順調に競技人口も増え、日本でも20~30代を中心にファンが増えているeスポーツの世界。そこには、チームを支える裏方の人々も関わっています。たとえば、野球やサッカーなどのフィジカルスポーツでは当たり前に存在している「コーチ」という存在。実は、すでにeスポーツの世界でも当たり前の職業となりつつあります。

「リーグ・オブ・レジェンド」PV (c) 2019 Riot Games, Inc. All Rights Reserved

マルチプレーヤーオンラインバトルアリーナ型ゲーム『League of Legends(以下LoL)』は、そんなeスポーツコーチが数多く活躍するゲームタイトルとして知られています。5人1組で戦い、ハイレベルな個人プレーとチームとしての戦略を同時に要求されるLoLには、チームプレーの方向付けと選手同士の人間関係の調整を行うコーチは不可欠な存在。

そして、そんなLoLの日本人コーチとしてパイオニアと言えるのが、Lillebelt(リールベルト)さんです。今回の「eスポーツお仕事図鑑」では、彼にチームを支える縁の下の力持ちとしてのeスポーツコーチのお仕事について伺いました。

Lillebelt(リールベルト)さん

Lillebelt(リールベルト)さん
国内外問わず人気を誇るオンラインゲーム『League of Legends(LoL)』の、国内最高峰リーグである『League of Legends Japan League(LJL)』にてコーチを務めた経験を持つ、日本人としては数少ない存在。
元々はプレーヤーとして活躍したが、海外チームとの交流をきっかけに現役を退きコーチへと転身を果たした。
現在は所属チームを脱退し、フリーという立場から次世代を担うプレーヤーの育成を図っている。
自炊にハマっている。

プレーヤー時代に感じた「コーチ」という存在の必要性

プレーヤー時代に感じた「コーチ」という存在の必要性

Lillebeltさんは、元々はLoLのプロプレーヤー。2014年の頭に立ち上がった「League of Legends Japan League(以下LJL)」に設立当初から招待チームの一員として参加し、スポンサーがついたタイミングで大阪から東京に拠点を移動。プレーヤーとして活躍した後、コーチへと転身を果たします。

そのきっかけとなったのが、Lillebeltさん本人がプレーヤー時代に韓国人コーチから指導を受けたこと。実際にプレーしてみた時に、コーチがいない状態と比べ格段にチームの力が向上したことを感じたのです。
自分たちのチームが世界レベルになるためにコーチの存在は不可欠、ならば自分が選手兼コーチになろうとも考えましたが、eスポーツコーチは想像以上の激務。Lillebeltさんは「コーチ一本でやっていく」という決断を下すことになりました。

プレーヤー時代に感じた「コーチ」という存在の必要性

「コーチがいるのといないのとでは全然違います。たとえば選手同士で作戦について話しても、立場が同じだから正しい答えが出るかわからない。強く言える選手のいうことが通ることもあるし、言っていることは正しいけど言い方が悪くてチームメイトが受け入れてくれないこともある。コーチという立場からであれば、選手に言葉を届けやすいし、スムーズに状況を整理することもできるんです」

eスポーツコーチのおもな業務は“情報収集”と“マネジメント”

今や世界的にもeスポーツのコーチはチームにとって不可欠な存在ですが、Lillebeltさんによれば、その存在が世界的に認められるようになったのは5年ほど前。LJL関しては、全チームにコーチがつくようになったのはここ2年ほどだといいます。
コーチをつけることで実力に差が出るのはもちろんですが、およそ3~4ヶ月に渡るシーズンを年に2回繰り返すLJLにおいて、コーチにはチームの雰囲気を調整したり選手同士の人間関係を保つという役割もあります。

eスポーツコーチのおもな業務は“情報収集”と“マネジメント”

「コーチの仕事は、大きく分けるとゲームや、対戦チームに関する情報を収集する分析(アナリスト)の仕事と、チームの課題や目標を設定して、チームをうまく機能させる仕事(指導)があります。LoLはゲーム自体の内容も頻繁に更新されるし、アメリカとヨーロッパ、韓国と中国と台湾に大きなリーグがあるので、それらの最新情報もチェックしなくちゃいけない。そうなるとデータを取るだけでも大仕事なんで、選手をやりながらでは難しいですね」

情報収集をしたら、チームにフィードバックすることも重要です。練習ごとの課題設定と練習内容、練習試合のブッキングもコーチが行います。

eスポーツコーチのおもな業務は“情報収集”と“マネジメント”

「課題設定は、まずチームを組んで練習を始め、各選手が今後どういったスタイルで戦うのかを決めるところからスタートします。他のチームとオンラインで対戦しつつそこで出た課題に取り組むんですが、そういう練習試合のスケジュールを組むのもコーチの仕事ですね」

プレーヤー以上に“ゲーム漬け”なコーチの日常

プレーヤー以上に“ゲーム漬け”なコーチの日常

eスポーツのプロプレーヤーは、ゲーミングハウスと呼ばれる一軒家でチームごとに共同生活を送るのが基本。当然コーチも一緒に住み込んで、彼らの指導にあたります。シーズン中選手たちは週に5日練習し、1日が大会。そして大会の次の日は休み、というリズムで生活しています。 

しかし、コーチの仕事に休みはありません。選手たちの練習に付き添いながら、練習試合の相手を探したり大会運営サイドからのフィードバックをまとめたり、次の大会で対戦する相手の情報を仕入れたりと、やることが山積みなのです。必然的にそれらの仕事は選手が休んでいる日にこなすことになるため、3~4ヶ月にわたるシーズン中、丸一日休める日はほぼないそうです。

プレーヤー以上に“ゲーム漬け”なコーチの日常

「大会がない日は、だいたい昼の15時くらいから3~4時間練習して、休憩の後で20時くらいから23~24時くらいまでまた練習……という、二部制で練習してます。チームの状況によっては24時からもう2時間くらい練習して、あとは個人練習してから寝る、というスケジュールですね。コーチもそれに付き合いますけど、24時までの練習が終わったら情報収集したり練習試合のブッキングをしたりします。朝も選手より2時間くらい早く起きて、その日の課題を考えますね」

コーチとプレーヤーが一つになって戦うために必要なオンとオフの切り替え

コーチとプレーヤーが一つになって戦うために必要なオンとオフの切り替え

過酷な生活ですが、その中でLillebeltさんが忘れないようにしていたのがオンとオフの切り替え。10代後半から20代前半のeスポーツ選手とは年齢もそれほど離れていないので、一緒にご飯を食べにいくなど、オフの時は徹底して仲良く過ごします。チームには韓国人をはじめ、日本人以外の選手もいるため、会話はだいたい英語。韓国人選手が少し覚えた日本語と日本人選手が少し覚えた韓国語も混じるので、三ヶ国語が飛び交うことも多いといいます。

コーチとプレーヤーが一つになって戦うために必要なオンとオフの切り替え

練習や大会当日など、オンの時には口論になることもあるので、オフの時は徹底的に仲良くするようにしています。ただ、オンの時に仲がいいと甘えが出るので、そこは意図的にスイッチを切り替えていますね」

eスポーツコーチに必要な能力は、論理力と情報蓄積力、そして何より言語化力

選手からコーチへと転身したLillebeltさんですが、スタープレーヤーが全員優秀なコーチになれるわけではないと話します。そのポイントとなるのが、自分のプレーを感覚ではなく理屈で説明できるかという点です。

eスポーツコーチに必要な能力は、論理力と情報蓄積力、そして何より言語化力

「感覚的にプレーしている子も多いので、シーンに応じたプレー選択の理由が説明できないんですよ。判断や思考は合っているけど、なぜそれが正しいのかがわからない。そういうプレーヤーがコーチになった時に、うまくいくかはわからないですね。そういう意味では、プロ選手としての経験がなくても理屈で物事を分析できて、情報を一定レベル以上に蓄積できる人であればコーチになれるんじゃないかと思います」

ノウハウの蓄積がないeスポーツの指導は、常に手探り、常に反省

Lillebeltさんはコーチとして仕事をする際、サッカーや野球、ラグビーといったフィジカルスポーツのなかでも、チームの指導に関する本を大量に読んだと話します。その内容はeスポーツにも活きるものでした。プレーヤーとしての経験が未熟でも、コーチングスキルを磨くことが出来れば、チームを勝利に導くコーチを務めることも不可能ではないのかもしれません。
また、eスポーツコーチの特徴として「指導の方法論が確立されていないこと」にあるとLillebeltさんは言います。

ノウハウの蓄積がないeスポーツの指導は、常に手探り、常に反省

「このジャンルのゲームはこう教えてこうステップアップさせよう、というガイドラインがないんです。だから最初は手探りでした。失敗したなと思うのは、最初のうちは否定的に物を教えてしまったことですね。よくないプレーに対して『よくないよ』って言い続けると、選手が主体的に動かずに言われたことだけやるようになるんですよ。だから選手に直して欲しいところがある時は、問いかけ続けて、自ら正解に辿り着かせるのが理想ですね」

Lillebeltさんの今とこれから。育てたいのは“プロ一歩手前の人”

そんなLillebeltさんは、昨年でプロチームでのコーチ活動を一旦停止。今現在は大会の解説などと同時に、高校生をおもな対象にeスポーツの講師として活動しています。その目標は、eスポーツプレーヤーのアマチュア層を分厚くすること。日本eスポーツ界の次なる課題は、選手一歩手前の人材を確保することだと、Lillebeltさんは考えています。

Lillebeltさんの今とこれから。育てたいのは“プロ一歩手前の人”

「ピラミッドみたいな図で考えた時に、トップのプレーヤーはそれなりに揃ってきてるんですよ。で、一般層というか、裾野の人たちもそれなりにいます。でもその中間の、プロ手前くらいの実力の人間が少ないんです。どうやったら上手くなって、プロに迫る実力をつけることができるかという情報発信がうまくいっていないので、今後はそこをなんとかしたいですね」

コーチを離れても、形を変えて続いていくeスポーツキャリア

Lillebeltさんは、現在もこの先もLoL一本でやっていく予定。今まで積み重ねてきたLoLでのキャリアは、Lillebeltさんにとっては最大の武器です。

コーチを離れても、形を変えて続いていくeスポーツキャリア

「自分も趣味では色々なゲームをするんですけど、本格的に人に教えることができるのはLoLだけです。とはいえLoLも数あるゲームの中の一つでしかないし、いつ終わるかわからないのは確かです。その中でゲームの方法論を教えつつ、次のキャリアについても考えていきたいですね。今は高校生にも教えてますけど、それは僕が高校生だった当時にこういう環境が欲しかったなっていうことをしているんですよ。これからも男女問わず、強いプレーヤーをフックアップしていきたいです」

 今後もLoLの伝道師としてeスポーツ界に貢献していくことを目標に据えるLillebeltさん。第一線を離れた後も、未来のスタープレーヤーを育てる「コーチ」としての仕事は、形を変えつつこれからも続いていきそうです。

TEXT:しげる
PHOTO:宇佐美亮

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