シグナルの闇、高度な匿名性がもたらす両義性 ニュース

シグナルの闇、高度な匿名性がもたらす両義性

近年、首都圏で相次ぐ「闇バイト(組織的強盗犯)」による強盗事件で、犯罪者間の連絡手段として注目を集めているのが「シグナル(Signal)」という通信アプリだ。メッセージ暗号化や自動消去機能を備えたこのアプリは、アメリカの暗号ソフト開発者モクシー・マーリンスパイク氏により2014年に開発され、高度な秘匿性が特徴である。

WhatsAppやフェイスブックメッセンジャーにも採用されたシグナルの技術は、元NSA職員のエドワード・スノーデン氏も「日常のコミュニケーションではシグナルのみを使用する」と評価するなど、その信頼性は世界的に認められている。しかし、その強固なプライバシー保護機能が、思わぬ形で社会問題を引き起こしている。

闇バイトの温床となった通信アプリ

2024年8月以降、首都圏では十数件もの強盗事件が発生。10月には横浜市で強盗殺人事件も起きた。これらの事件では40人が逮捕され、その多くは20代の若者で、SNSを通じて「闇バイト」に応募した結果だという。

捜査関係者によると、犯行の指示はすべてシグナルを通じて行われており、実行犯たちは互いに面識がないという。「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ばれる組織の関与が疑われているが、シグナルの徹底したプライバシー保護機能により、首謀者の特定は難航している。

元刑事で一般社団法人刑事事象解析研究所代表理事の森雅人氏は「シグナルのメッセージは強力に暗号化されており、米国本社が解析依頼を了承しても、内容の解読は極めて困難」と指摘する。ただし、最近の特殊詐欺グループの検挙事例では、シグナルではなく、犯罪収益の資金洗浄に使用された仮想通貨取引の追跡から犯人の特定に成功したという。

このように、独裁国家における反体制派やジャーナリストを守る「盾」として開発されたシグナルが、犯罪者の「矛」として悪用される事態が深刻化している。プライバシー保護と治安維持のバランスをどう取るべきか、社会的な議論が求められている。

実際、2024年8月にはロシアがテロと過激派活動防止を理由にシグナルへのアクセスを制限した。一方で、Amazonのジェフ・ベゾス元CEOらが証拠隠滅のためにシグナルの自動消去機能を使用したとして、連邦取引委員会から非難される事態も起きており、プライバシー保護技術の在り方が問われている。

【関連リンク】
・「シグナル」闇バイトに悪用されるアプリの正体 徹底したプライバシー保護姿勢が生まれた背景(東洋経済)
https://toyokeizai.net/articles/-/838304?display=b

TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock

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