AIによる声の無断利用に声優たちが立ち上がる、業界が直面する課題とは
近年、生成AI技術の進歩により、声優の声を模倣した音声が無断で作成・拡散される事例が増えている。ネット上には、人気アニメキャラクターの声をAIで再現し、歌わせたり朗読させたりする動画が大量に投稿されている。こうした状況に対し、声優たちは強い懸念を抱いている。
「NOMORE無断生成AI」と題した啓発キャンペーンを開始した声優たちは、無断利用の問題点を訴える動画を公開した。この動画には、「それいけ!アンパンマン」のばいきんまん役で知られる中尾隆聖氏をはじめ、総勢26人の声優が出演。無断利用の問題や、適切なルール作りの必要性を強調した。
参加した声優の一人である甲斐田裕子氏は、「悪意なく生成AIを利用している人も多いが、著作権や肖像権の意識を持ってほしい」と語る。特に、生成AIで作られた音声が本物と区別がつかないレベルに達していることへの危機感は強い。「尊敬する声優の声がAIによって商品化されていたのを知り、私が知っているその方の演技とは違うと感じた。10年後、20年後には、それが本物だと思われる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
規制の遅れと模索される共存の道
一方で、法的な対応は遅れている。現在、日本の著作権法では「声そのもの」は著作権の対象になっておらず、生成AIが声優の音声を学習すること自体は違法ではない。欧州連合(EU)では2024年3月にAI規制法案が可決され、生成AIによるコンテンツには明示的なラベル付けが義務化されたが、日本ではまだ具体的な法整備には至っていない。
こうした状況を受け、業界団体である日本俳優連合や日本声優事業社協議会などが共同で声明を発表。「AIで声優の声を利用する際には本人の許諾を得ること」「生成AIで作られた音声であることを明記すること」などを求めた。また、アニメや外国映画の吹き替えに生成AIを使用しないよう呼びかけた。
しかし、すべての声優が生成AIを完全に排除すべきとは考えていない。人気声優・梶裕貴氏は、自身の声を元にした公式の音声合成ソフトを開発し、正規のAI音声サービスの可能性を探っている。また、青二プロダクションはAI技術を「敵」とするのではなく、「声の魅力を世界に届ける技術」と捉え、特定用途に限定した音声合成サービスを提供する方針を打ち出している。
生成AIの進化を止めることはできない。だからこそ、無断利用によるリスクを抑えながら、技術との適切な共存方法を見出すことが求められている。今後、日本の法制度や業界ルールがどのように整備されていくのかが、大きな課題となるだろう。
【関連リンク】
・「生成AIで勝手に私たちの声を作らないで」。危機感募らせるアニメ声優ら 立ちはだかる法律の壁、ネット上にあふれる人気キャラの無断利用(山陽新聞)
https://www.sanyonews.jp/article/1687768
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:Freepik
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