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重要な公共インフラや企業資産への気候リスクを「見える化」。repathが鳴らす警鐘とは。

熱波、豪雨、洪水、台風、干ばつ、山火事、海面上昇———。

ニュースを見れば、気候変動が要因と言われる、さまざまな異常気象や自然災害、地域環境の変化についての国際報道が溢れています。

日本でも、2023年夏の猛暑は各種メディアで大きく取り上げられ、日本政府は2030年までに熱中症による死者数を半減させる計画を打ち出したばかりです。

2030年までに、気候リスクが世界にもたらす年間損害額は最大で10兆ドルに上る可能性があるとも言われています。

しかし、気候リスクはさらに長期的な視点に立って考える必要があるでしょう。

特に、重要な公共インフラや企業資産に対する気候変動の影響は、複数の要因を踏まえた上で、シナリオ別に精査し、今後の設備投資に反映させる必要があります。

気候リスクに関する適切な評価と対応が遅れれば、企業は経済的な損失を被るだけでなく、サプライチェーンの混乱や社会的評判の失墜、周辺住民・従業員の安全と健康の危機に直面する可能性があります。

企業の気候レジリエンス強化をサポートする目的で、ドイツの気候技術スタートアップ「repath」は、世界各地の気候データの収集、気候リスクの分析、シナリオ整理、対策の提案などを行っています。

今回は、repathの創設秘話やサービス、今後のビジョンについて、同社の共同創設者兼CCO(最高顧客責任者)のリザ・アルテナさんにお話を伺っていきます。

repath
  • repathは、気候モデルの研究者らを中心に創設されたスタートアップで、気候リスクの「見える化」を目標に掲げる
  • repathの気候データプラットフォームでは、世界のさまざまな場所・施設に対する気候リスクを3つのシナリオ別に整理している
  • すでに60%以上の企業が気候変動の影響により、経済的な損失を被っているという調査結果がある

ーrepathはどのような経緯で創設された企業でしょうか?

ーrepathはどのような経緯で創設された企業でしょうか?

アルテナ:repathのビジネスは元々、私を除く3人の創設者の発案で始まりました。

3人のうち、CRO(最高研究責任者)のトーマス・レムケとCEO(最高経営責任者)のジュリアス・プロエルは当時、ドイツの気候変動研究機関「ドイツ気候サービスセンター(GERICS)」の研究者をしていました。

当時レムケは、2021年にノーベル物理学賞を受賞したクラウス・ハッセルマン博士と地域気候モデルについて研究を行っており、プロエルは都市や自治体などの気候変動対策をサポートしていたのです。

この2人がある時出会い、気候変動の科学的リスクを誰にでもわかるような形で発信するアイディアで意気投合。私たちの生活や人命にも関わる重要な情報は、科学者だけでなく、一般にも共有されるべきだと考えたのです。

私たちの生活や人命にも関わる重要な情報は、科学者だけでなく、一般にも共有されるべき

また2人は、異常気象などを含む気候リスクに関する情報は、単発の学術論文やデータで発表するだけでは十分ではなく、関連データを自動で収集し、継続的に発信する必要性も感じていました。

その後、3人目の創設者でCTO(最高技術責任者)でもあるセバスチャン・バーテルスが加わり、より具体的なビジネスのアイディアを練り始めたのです。また気候リスク分析に使うデータセットの選出なども始めました。

当時私は、ドイツ最大の鉄道会社であるドイツ鉄道に勤務しており、高速鉄道や重要インフラに対する気候変動の影響に強い関心を持っていました。起業に対する興味もありました。

その時、たまたま3人から連絡をもらい、repathのチームに参加することにしたのです。

ドイツ鉄道の安定した仕事を辞めるのには勇気がいりましたが、全く後悔していません。最終的にrepathを気候技術スタートアップとして起業したのは、2021年8月のことです。

ーrepathの現在の組織形態を教えてください。

アルテナ:repathは完全なリモート形態の企業で、一応の拠点はドイツのハンブルクにありますが、テーブルが3つしかない小さなオフィスです。従業員はほとんど自宅で仕事をしています。

ただし、3ヶ月に一度は社員全体で直接会うようにしています。社内の団結や信頼を深めるためです。

現在の従業員数は15人ですが、来年には増員を予定しています。15人のうち、8割が気候変動の研究者やソフトウェアデベロッパーなどで、残りがマーケティングや財務などを担当しています。組織内に上下関係はありません。

ーrepathが提供するサービスや、気候データプラットフォームについて教えてください。

アルテナ:repathのプラットフォームでは、欧州であれば12km×12km、それ以外の世界の地域であれば25km×25kmのグリッドを単位に気候データをまとめています。

世界中の研究機関が公表しているオープンソースのデータを収集し、グリットごとの気候データを整理しています。この結果、repathのプラットフォームには、400以上の気候シミュレーションが統合されています。

ーrepathが提供するサービスや、気候データプラットフォームについて

世界中の膨大なデータを統合することで、顧客が関心のある特定の場所や施設の気候リスクを分析することができるのです。場所と施設の両方の気候リスク分析ができるのがポイントです。

データの収集・分析には、降水確率、海面上昇率、最高気温、最大風速など、計13の気候指標を活用しています。

また集めたデータを基にプラットフォーム上で、①気候変動対策が万全なシナリオ、②対策をある程度するシナリオ、③対策を全くしないシナリオの3つのシナリオごとのリスク予測を提示しています。

リスク評価は10段階

リスク評価は10段階で行っており、2080年頃までの予測を共有しています。

それぞれのシナリオでは、発生確率が特に高い気候リスクを中心に予測しています。ただし、repathでは情報の透明性を重視しているため、確率が低いと考えられる気候リスクについても予測を公表しています。

ーすでに60%以上の企業が気候変動を原因とする損失を被っているというデータがありますが、repathのサービスを活用して気候リスクを把握した後、企業はどのように対策を立てれば良いでしょうか?

アルテナ:現在repathでは、気候リスク情報の提供に力を入れていますが、最終的に企業の設備投資や重要インフラ管理、気候レジリエンス強化を包括的にサポートする予定です。

例えば、ある企業の拠点の1階に重要インフラであるサーバールームがあり、将来的にその拠点周辺の洪水リスクが大幅に高まり、水没の可能性があるとします。

その場合、企業はサーバールームを2階以上に移動させる、排水システムを整備する、洪水対策設備を導入する、洪水保険にはいる、もしくは拠点自体を移動させるなどの方策を検討することができるでしょう。

repathのサービスを活用して気候リスクを把握した後、企業はどのように対策を立てれば良いでしょうか?

この時に考慮すべき要因には、気候リスクだけではなく、事業効率、財務状況、環境面・社会面のサステナビリティ、サプライチェーン、従業員の安全や健康などが含まれます。

頻繁な熱波の到来が予測されている地域で、十分な施設整備が行われない場合、従業員や関係者が熱中症で倒れる、最悪死亡するというリスクもあるわけです。

こういった要因に配慮しなければ、ビジネスや企業の成長に弊害が出始め、社会的な評価の悪化やライバル企業に遅れを取る可能性すらあります。

対策の取り方はさまざま

対策の取り方はさまざまです。例えば、自社が保有する施設の80%に対する気候リスクが低く、その他の20%に対する気候リスクが高い場合、20%の方に重点的に設備投資を行い、拠点の災害対策を強固にしたり、重要な設備を移動したりといった最適化もできるわけです。

ーrepathの既存顧客は、repathのサービスをどのように活用していますか?

アルテナ:repathが提供しているソリューションは大きくわけて3種類あり、特定の場所の気候リスクを評価する「repath.core」、電力会社向けの企業資産を評価する「repath.energy」、企業の設備投資をサポートする「repath.investing」となります。

現時点では、全てのソリューションを100%提供できているわけではありませんが、プラットフォームを通じた気候リスク予測の提供に加え、各企業の今後の設備投資に対するコンサルティングも行なっています。

具体的に何をすべきなのか、さまざまな観点から企業に提案をするわけです。

また欧州を中心に、気候リスクの報告が法規制やガイドラインで必須化される動きがあり、顧客はrepathの分析を活用しています。

repathの既存顧客は、repathのサービスをどのように活用していますか?

欧州では、EU(欧州連合)がサステナブルな経済活動の実現を求めてさまざまな枠組みや規則、ガイドラインを提示しており、その中で企業に対し、気候リスクの報告を求めています。

こういった枠組みや規則、ガイドラインには、EUタクソノミー、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の9条、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言などがあります。

今後、同様の報告義務が他の国からも求められるようになる可能性が高いため、企業は規制動向を注視する必要があります。

ー欧州に比べ、アジアではまだ気候リスクに対する注目度が低いように思われますが、アジアの企業はどういった心構えでいるべきでしょうか?

アルテナ:気候リスク研究者の間では、2011年にタイを襲った洪水の影響で、世界の半導体産業に大きな損害が出たことがよく話題にのぼります。

また、中国や今後急速な経済成長が見込まれているインドでも、熱波などのリスクが高まっています。

アジアの企業はどういった心構えでいるべきでしょうか?

熱波が発生した場合、経済的な損失に加え、人命への影響も無視できません。ドイツでも、熱波による死者数は年々増えています。

また、世界的に台風やストームが大型化しているだけでなく、頻度も増えており、間隔も短くなっています。

こういった状況の中で気候リスク対策に乗り出さない企業は、目隠しをしたまま、世界中で無鉄砲に設備投資を行っていると言っても過言ではありません。非常に危険な状況なのです。

例えばrepathの気候データプラットフォームによれば、中国の大連にある、とある企業の施設に対する干ばつ、熱波、強風、海面上昇などの気候リスクは、将来的に高まる見込みです。

特に、2023年から2085年までのおよそ60年間で、強風リスクは最低レベルから最高レベルまで上がると予想されています。

2023年から2085年までのおよそ60年間で、強風リスクは最低レベルから最高レベルまで上がると予想

これは気候変動対策が万全なシナリオに基づく予測であり、対策を全くしないシナリオでは、より短期間にリスクレベルが上がる可能性があります。

問題は、企業が実際にこういった気候リスクに気がついているかということです。

例えば、電力会社が保有する電力ケーブルは、強風には非常に脆弱です。突風でケーブルが切れる可能性もあれば、強風による倒木で切れる可能性もあるでしょう。

その場合、周辺地域において大規模な停電が発生する危険性もあります。複数の角度からリスクを評価することが重要なのです。

終わりに

自然災害が発生した場合、長期的な財務状況、従業員の安全や健康、社会的な評価にも影響がでる可能性がある

KeyPoint

  • ドイツの気候技術スタートアップのrepathは、科学的な観点から、透明性の高い気候リスクの「見える化」を進めている
  • 世界中の場所や施設の長期的な気候リスクを、repathの気候データプラットフォームで把握することができる(3つのシナリオについて、リスクレベルは10段階で評価される)
  • 気候変動の経済的な影響を受けていると答えた企業は60%以上に上ると言われており、甚大な経済的、社会的、人的損害を回避するには、気候リスクの考慮が求められる

いかがだったでしょうか?

気候変動により、自然災害の頻度や規模が大きくなっている昨今、重要インフラや企業資産への影響は検討せざるを得ない状況になっています。

気候リスクに対する準備が十分でないまま、自然災害が発生した場合、事業やサプライチェーンへの影響だけでなく、長期的な財務状況、従業員の安全や健康、社会的な評価にも影響がでる可能性があります。

製品やサービスを安定的に提供し、ライバル企業との差をつけるため、自社施設の気候リスク評価を行ってみてはいかがでしょうか?

repath

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ドイツのハンブルクを拠点とするrepathは、気候モデル研究を専門とする研究者を中心に構成される、気候技術スタートアップ。

企業の気候レジリエンス強化をサポートする目的で、気候データの分析、気候リスクの「見える化」を目的としたプラットフォームの運営、気候変動対策への提案などを行う。

気候リスクの度合いを3つのシナリオ別に整理し、一般にもわかりやすく、科学的データに基づいた透明性の高い形で共有することを目標としている。

PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部

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