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2019.12.26 局アナを辞めてまで飛び込んだ「eスポーツ実況」の世界。どんな仕事をしているの?|平岩康佑さん【eスポーツお仕事図鑑】

ここ数年で日本でも大きな盛り上がりを見せているeスポーツ。実は、野球やサッカーと同じように、eスポーツにも実況アナウンサーがいることをご存じですか? そう、eスポーツには、プロ選手以外にも、いろいろなお仕事があるんです!「eスポーツお仕事図鑑」では、eスポーツに関わるさまざまな職業にスポットを当て、お仕事の内容やそれぞれの立場で感じるeスポーツの魅力や楽しみ方を伺います。

記念すべき第1回目は、eスポーツ大会を熱く活気づけるeスポーツ実況者。時にコンマ数秒を争うeスポーツの真剣勝負。その熱い戦いを的確かつエモーショナルに伝えるのがeスポーツ実況者のお仕事です。

かつてテレビ局の朝日放送でアナウンサーとして活躍していた平岩康佑さんは、eスポーツ実況の第一人者。朝日放送時代は高校野球、Jリーグ、箱根駅伝といった人気スポーツの実況を担当。2017年にはANNアナウンサー賞優秀賞を受賞するなど、同社の花形アナウンサーとして活躍してきました。

そんな平岩さんがなぜ会社を辞めてまでeスポーツ実況の世界に飛び込んだのか。また、そこまでの決断をさせるeスポーツ実況の魅力とは何なのか。今回、じっくりとお話を聞いてみました。

平岩康佑さん写真提供:平岩康佑さん

平岩康佑(ひらいわ・こうすけ)さん
大学3年次にアメリカワシントン州の大学に編入し、経営学を学ぶ。卒業後、朝日放送に入社。プロ野球や高校野球、Jリーグ、箱根駅伝などの実況を担当する。​2018年に朝日放送を退社し、株式会社ODYSSEYを設立。日本最大級のeスポーツイベントRAGEや、プロ野球機構パワプロebaseballなど数多くのeスポーツ実況を担当している。

子どものころからゲームが大好き!eスポーツ実況者として新たな道を切り開く!

子どもの頃から大のゲーム好きだったという平岩さん。就職活動時には朝日放送と大手ゲーム会社から内定をもらい、悩んだ末にアナウンサーの道を選択しました。

朝日放送入社後は、スポーツ実況のエースとして活躍。特に夏の高校野球における実況には定評があり、2017年には、「第99回全国高校野球 甲子園大会1回戦 作新学院対盛岡大付」の実況が高く評価され、優秀なアナウンサーにのみ与えられるANNアナウンサー賞優秀賞を受賞するなど、華々しいキャリアを歩んでいました。しかし、そんな中でも平岩さんのゲームへの情熱が失われることはなかったと言います。

「アナウンサー時代も1日16時間くらいゲームをしていました。本当に気絶するんじゃないかってくらいプレーしていて、よく寝落ちしていましたね(笑)」

子どものころからゲームが大好き!eスポーツ実況者として新たな道を切り開く!

テレビ局のアナウンサーとして勤務する傍ら、知り合いのゲーム関係者から日本にもeスポーツの波が来ているという話を聞くようになり、eスポーツ業界の動向に注目していた平岩さん。その後、eスポーツは東京ビッグサイトや幕張メッセなどの大きな会場で大会が開催されるまでに広がっていきました。

ですが、当時のeスポーツの現場には、プロの実況者なんて職業はありません。そんな状況を“もったいない”と感じていた平岩さんは、自らeスポーツの実況者としての道を切り開いていくことを決めたのです。

「スポーツアナウンサーとして鍛えた“話のプロ”としてのノウハウと、大好きなゲームの知識を活かすことができる。これで世に出ていけば必ず成功する!という自信があったので、すぐテレビ局を辞めようと決めました」

アナウンサーとしての安定したキャリアを捨て、ゲーム業界へ飛び込むと決めたことに、はじめは周囲も驚いたそうですが、平岩さん自身は、日本のeスポーツ業界はこれからますます活気づいていくだろうと予感していたと言います。

「会場の雰囲気作りに実況者の存在は欠かせません。eスポーツの主催者や大手のゲーム会社と一緒になって、リアルスポーツのイベントと同じように、イベントの質を高め、盛り上げていく必要があると考えたんです」

退職後の2018年にはeスポーツの実況を専門とした企業ODYSSEY(オデッセイ)を設立。“日本初のeスポーツ実況集団”として、日本最大級のeスポーツイベント「RAGE」や「東京ゲームショー」をはじめとするイベントの実況を担当するほか、eスポーツに関わるコンサルティング事業や実況者・タレントの育成にも力を注いでいます。

平岩さんによる「ストリートファイターリーグ:Pro-JP operated by RAGE GRAND FINALS」での実況。(提供:RAGE)

実況前に100時間プレー!? eスポーツ実況者の知られざる勉強法

eスポーツ実況とスポーツ実況における最大の違いは、観客の多くがプレーヤーでもあることだと、平岩さんはこの仕事がいかに特殊であるかを教えてくれました。

「たとえば、野球観戦者のなかで、自分も実際に野球に取り組んでいる人の割合は約6%前後だというデータがあります。いっぽうでeスポーツの場合は、観客のほとんどがそのゲームをプレーしたことがあり、競技に対するリテラシーがかなり高いんですよ。だからこそ、実況者は常に勉強し続けなければなりません。さらに、ルールをよく知らない視聴者でも楽しめる工夫をする必要があります」

このような状況で、オーディエンスが満足できる実況をするために、平岩さんが実践しているのが“実況するゲームのタイトルを100時間プレーして勉強する”というストイックなものでした。

「そのくらいプレーするとゲームの重要なところが見えてくるんです。ここが面白いとか、プレーヤーにとっての興奮する瞬間とか、ほかにも一番つらい状況や苦労する場面など、感覚的な部分も含めて理解を深めていきます。そのうえで、どうやって実況したら盛り上がるか、見ている人が満足するのかを考えて実況に臨みます」

実況前に100時間プレー!? eスポーツ実況者の知られざる勉強法取材当日の「RAGE Shadowverse 2019 Winter」に、MCとして出演した平岩さん。軽快なトークで会場を盛り上げる

eスポーツ大会の実況者席は、選手の戦うステージに近い場所にあるのがほとんどで、そのプレーや詳細な状況を即座に観客へ伝えていきます。また、大会の様子は同時にネットでも配信されるため、会場だけではなく、不特定多数の視聴者の存在も意識する必要があります。

「プロ選手が高度な技を繰り出し競い合う試合の内容を実況するのは、とても複雑なことです。ですから、ゲームタイトルを知り尽くしたeスポーツ選手ならではの巧妙なプロの技を、どのように会場の観客と配信視聴者に伝えるかがポイントになってきます」

そのプロの技を実況者と共に伝えるのが解説者であり、解説者に最適なタイミングで適切な質問を投げかけるのがeスポーツ実況者の腕の見せ所だと言います。

「解説者には、元eスポーツプレーヤーの方もいます。彼らに『今のはどういうプレーだったんですか?』と改めてわかりやすく説明してもらうことも、実況者の重要な役割です」

また、観客が満足できる実況をするためには、喋りのスキルだけではなく、緻密な取材も欠かせないそうです。

「選手には事前に必ず話を聞くようにしています。やっぱり、本人の言葉には一番説得力がありますから」

また、平岩さんは実況を通して、そんな選手たちの“人生のハイライト”を作りたいと考えているそう。

「たとえば、高校野球の選手たちにも“レギュラーになるために毎日1,000回もの素振りをしていた”“家族が亡くなった悲しみのなかでも練習を続けてきた”といったエピソードがあります。実況者がそれを伝えることで、観客たちの選手を見る目がガラッと変わるんです。特に高校野球の実況を担当していた頃は、選手のエラーよりも彼らの個性や魅力を引き出す実況を意識してきました。そのスタイルはeスポーツ実況者になった今でも変わりません。選手それぞれが持つストーリーやドラマをしっかりと伝えたいと思っているんです。実況に原稿はありません。選手の動きや見るべきポイントを即座に判断しながらも、彼らのストーリーを織り交ぜながら会場を引っ張っていく。すごく難しいことです。だからこそ、面白さとやりがいがあるんです」

実況前に100時間プレー!? eスポーツ実況者の知られざる勉強法

しゃべりの技術は二の次でOK!「ゲーム愛」こそ、eスポーツ実況者の必須条件

まだ数少ないeスポーツ実況者。なるにはどんなスキルが求められるのでしょうか。自身の会社で、若手の実況者育成にも取り組む平岩さんは、eスポーツ実況者に大切なのは、まず“何よりゲームが好き”であることだと言います。

「当初は、実況のスキルを求めて元アナウンサーを採用しようとしていたんです。ですが、ゲームに対する愛や気持ちがなければ、実況のために“100時間プレーする”というのは無理な話だなと思うようになって」

しゃべりの技術は二の次でOK!「ゲーム愛」こそ、eスポーツ実況者の必須条件

そんななか、平岩さんの目に留まったのが、格闘ゲームを中心に実況を担当していた大和周平さんでした。現在は、平岩さんの会社であるODYSSEYに所属し、eスポーツ実況者として活躍しています。

「大和は元アナウンサーではありませんが、もともとプロゲーマーを目指すくらいゲームが大好きで、プレーヤー目線での状況分析がとても上手だったんですよ。すぐにスカウトしました」

eスポーツ大会で良い実況をするためには、アナウンサーとしての技術や経験よりも、ゲームタイトルを熟知するための努力を惜しまないこと、プレーヤーの目線になることができ、技や戦略の理解が早い人が、eスポーツ実況者としての素質があると平岩さんは考えています。

最近では、eスポーツキャスターや実況者になるための学科を設けた専門学校なども登場し、育成環境が整い始めています。今後もますますその裾野は広がっていくのではないでしょうか。

にわかファンを増やしたい!eスポーツ実況者としてのこれから

eスポーツが今後さらなる発展を遂げるためには、eスポーツの盛り上がりとともに増えてきた「ルールはよくわからないけど、楽しいから観ている」という、“にわかファン”をどれだけ増やしていけるかが勝負だと平岩さんは考えています。

「リテラシーの高い観客だけに細かい技術的な話をしていても、ライトなファンには理解が追い付かないところがあります。そのためにも、もっと選手など人にフォーカスした実況を取り入れていきたいんです」

日本中をONE TEAMで席巻したラグビーワールドカップの日本代表のように、ゲームそのものの面白さだけではなく、選手たちの個性や魅力こそが、多くの人を惹きつける最大の要因になると平岩さんは考えています。

「高校野球も同じです。結局、うまい野球を観たかったら東京ドームに行って観戦すればいい。高校野球の人気の裏には、“若い子が頑張っている姿を観たい”“地元の高校を応援したい”など、もっとライトな視聴理由があるんです。eスポーツも同じように、そうした視聴者の想いを後押ししていきたいと思っています」

1983年に「ファミリーコンピュータ」が登場してから、日本のゲーム業界はおおよそ右肩上がりに成長してきました。PCやモバイルゲームが普及した今、15兆円ほどある世界ゲーム市場規模は、2021年には20兆円になると予測されています。

ゲーム業界の未来は明るい。そう言い切る平岩さんは、eスポーツ実況者として活動の幅を広げるべくYouTuberデビューも果たします。

「YouTubeにはもともと興味があり、しゃべりのプロとして自分たちにしかできないことをやりたいと考えていました」

番組の内容は、ゲーム界で起きた出来事をまるで現実世界のニュースのように放送する、その名も「異世界ニュース」という斬新なもの。eスポーツ実況者の枠を超え、縦横無尽に挑戦を続ける平岩さんをはじめとしたeスポーツ実況者の活躍に今後も目が離せません。

次回はeスポーツの大会運営を行う「eスポーツイベンター」のお仕事を紹介! 会場はもちろん、インターネット上でライブ配信を楽しんでいる視聴者も楽しめる大会作りの楽しさを伺います!

にわかファンを増やしたい!eスポーツ実況者としてのこれから

TEXT:小島浩平
PHOTO:宇佐美亮

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