史上最高エネルギーのニュートリノを観測、地中海の深海に設置された検出器が捉えた宇宙の痕跡
イタリアやフランスなどの国際研究チームが、地中海の深海に設置したニュートリノ検出装置で、観測史上最高のエネルギーを持つニュートリノを捉えた。発表は英科学誌「ネイチャー」に掲載され、研究者たちは宇宙の奥深くから届いたこの粒子の正体に注目している。
ニュートリノは、物質をほとんど透過する素粒子の一種で、「幽霊粒子」とも呼ばれる。宇宙で発生する超高エネルギー現象の痕跡を調べる手がかりとして、長年にわたり観測が続けられてきた。しかし、その性質上、直接検出するのが極めて難しく、観測には大規模な設備が必要とされる。
今回の観測に使用されたのは「KM3NeT」と呼ばれるニュートリノ望遠鏡だ。地中海の水深約3500メートルに設置されており、水中でニュートリノが原子と反応して発する微弱な光を捉える仕組みになっている。
2023年2月、KM3NeTの一部がまだ未完成の状態で稼働していたにもかかわらず、極めて高いエネルギーを持つニュートリノが確認されたのだ。そのエネルギーは約220ペタ電子ボルト(PeV)で、これまで観測された値の約30倍に達した。人類が作り出せる加速器のエネルギーをはるかに超える規模である。
このニュートリノの発生源は銀河系の外にあると考えられているが、正確な起源は不明のまま。研究チームは今後、さらなるデータの収集と解析を進め、発生源の特定を試みるとしている。
超高エネルギーニュートリノが解き明かす宇宙の謎
観測されたニュートリノのエネルギーは、既存の理論では説明が難しいレベルに達している。南極の氷床に設置された「アイスキューブ」など、他の大規模観測装置では今回のニュートリノに相当する信号は捉えられておらず、研究者たちはその特異性を慎重に検討している。
今回の観測データから、ニュートリノは地球の表面とほぼ平行に移動していたことがわかっている。この飛来方向を詳しく分析した結果、宇宙の遠方に存在するブレーザーと呼ばれる巨大ブラックホールが関連している可能性が指摘されている。ブレーザーは、高エネルギーの粒子を宇宙空間に放出する天体であり、これまでにもニュートリノの発生源候補として挙げられてきた。
今回のニュートリノは、ブレーザーを含む約12の高エネルギー天体が存在する方向から到達したとされ、宇宙線が極端に加速される現象との関連が調査されている。
研究チームは、KM3NeTの観測能力を向上させるために、検出器の増設とデータ取得時間の延長を進める計画だ。これにより、さらに多くの超高エネルギーニュートリノを観測し、その発生メカニズムを詳しく調べることができると期待される。こうした観測は、宇宙線の起源やブラックホールの物理現象を理解する上で重要な役割を果たすことになる。
【関連リンク】
・過去最高の「ニュートリノ」エネルギー観測、地中海の深海3500mの装置で…伊仏など国際チーム(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/science/20250218-OYT1T50106/
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:Freepik
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