【ドイツの連続起業家にインタビュー】ヨーロッパでのビジネスの鍵は、言語と文化の理解、そしてSNSを使ったネットワーキング
技術革新により、今まで関係の無かった分野にまでITの影響が及んできています。
その中でも大きな影響があったのが、ショッピングの分野です。
従来は買い物は店舗でやるものが全てでした。
ですが、1994年にAmazonが創業されてから、徐々にその姿は変化しています。
2023年の現在では、日本の市場だけでも、約20兆円以上の買い物がネット上でなされているとの分析結果もあります。
ネット上のショッピングはEコマースと呼ばれています。
今回のインタビューでは、Eコマースの始まりであった1990年代からその分野に関わっているThomas Gottheil氏(以下 トーマス氏)のキャリアをインタビューしました。
トーマス氏のキャリア、ヨーロッパでのビジネスのコツ、日本との違いについて語っていただきます。
point
- トーマス氏はEコマースの分野で20年以上のキャリアを持っている
- ヨーロッパでビジネスをするにあたっては、言語や文化を理解することが最初のステップとなる
- ドイツでは生産性高く働いているが、その理由は労働法など様々である
- ヨーロッパでは、LinkedInが業界や働き方(起業家、会社員等)に関わらず幅広く使われている
-トーマス氏のバックグラウンドについて教えていただけますか?
私はこの分野に21年間関わってきており、私は自身のことを「E Commerce分野の起業家」であると考えています。
私のキャリアは1999年、15歳の時に始まりました。
当時、高校生であった私は、友人とともにマーケティング会社のようなものを立ち上げました。これがきっかけです。
その後、同年代の学生がやるように大学には一旦入ったのですが、「ここは私がいるところではない」と判断して、1週間で退学しています。
その後、2005年にドイツ国内の市場に特化した広告会社を立ち上げました。
こういった事業をやる中で、小売店のカスタマーのフィードバック等を管理するソフトウェアがないことに気づきました。
これをきっかけにして、立ち上げた会社の株式を売り、2017年に会社を辞め、ソフトウェア会社を立ち上げました。
-トーマスさんは、ゲッシャーで最初の会社を立ち上げ、ベルリンに引っ越しされたと理解しています。ベルリンはドイツの他の都市と比べて若者に魅力があると考えますか?
私がベルリンに引っ越した理由は「単純にベルリンに行きたかったからベルリンに行った」ことがきっかけでした。
一方で、他のクリエイティブな若者がベルリンに来る理由としては、様々な理由があるかと思いますが、私の推測では大別して以下2つです。
1つ目が、文化的な多様性です。
ベルリンはそもそも文化的に多様な都市です。そういった多様性に惹かれた多くの若者がベルリンに引っ越してきます。
多くの若者が引っ越して来ると、必然的にスキルの高い人材も他の都市に比べて多くなります。
2つ目が、ベルリンの持つ高い芸術性です。
ベルリンは元々アートの街として知られています。
そのため、多くのアーティストや芸術家もベルリンに住んでいます。
こういった芸術性と文化的な多様性が融合して、様々なイノベーションが生まれているのではないでしょうか。
加えて、ベルリンの生活費の安さも関係しているかと思います。
私がベルリンにいた15年前は生活費が非常に安く、家賃は月200ユーロ(約25000円程度)で見つけることも出来ました。
そのため、若者を惹きつけてきたのではないかと思います。
-スタートアップが多いという点では、ベルリンはシリコンバレーと似ているかと思いますが、違いは何であると考えますか?
ベルリンとシリコンバレーは「昔からテック企業があったかどうか」が違いなのではないかと思います。
この違いは人件費に現れているかと思います。
シリコンバレーは昔からテック企業が多く存在しており、現在は世界中の優秀な人材が多く集まり、給料を非常に高く出す大企業もたくさん存在します。
そのため、シリコンバレーは人件費がとても高く、スタートアップの経営者としては負担になります。
一方で、ベルリンは最近になって発展してきた都市です。そのため、シリコンバレーに比べて人件費を安く抑えることが出来ます。
最も基本的かつ重要なスキルは、文化と言語を理解することであると考えています。
アジアの人がヨーロッパでビジネスを行う場合だけでなく、ヨーロッパの人がアジアでビジネスを行った時と同じであると考えています。
文化を理解しないと、現地のニーズをきちんと掴んだビジネスを行うことが出来ません。
たとえば、ヨーロッパ向けの製品を作って販売したかったら、現地の生活スタイルや文化を深く理解する必要があるかと思います。
そのためには、現地の人とのコミュニケーションをスムーズに行うために言語の習得は必須になってくると思います。
また、文化という点では、コミュニケーションの仕方も現地のやり方に合わせて変える必要があるかと思います。
文化圏によって、言わずとも理解するような間接的なコミュニケーションを取るのか、直接的に伝えるコミュニケーションを取るのか、変わってくると思います。
ヨーロッパでビジネスを行う際には、そういった文化背景も理解する必要があると思います。
仰る通り、スペインも良い場所なのではないでしょうか。
シンプルな理由ですが、スペインは天気がとても良いので、人が集まりやすい街かと思います。
その他にも、税制度の理由もあります。
スペインだけでなく全ヨーロッパに関わるものですが、スキルが高い人材に対しての税金が安くなるような法制度があります。
そういった法制度や天気等、色々な理由が組み合わさってスペインが良い場所になっているのだと思います。
-ほとんどの日本人は大企業で働きたいと考えており、自分のビジネスを作ることを躊躇しています。ドイツでは、若者はどのように自分のキャリアを築いていますか?
日本だけではなく、ヨーロッパも似たような状況であるかと思います。
私の主観では、若者の約8割程度は会社に入って安定性と福利厚生を求める人がいます。
残りの2割程度が、自分のビジネスを作ったりして、自分のやりたいことを追求しているように思います。
そのため、スタートアップに入るのは例外的なケースかもしれません。
ただ会社に入って安定性を求める若者も、同じ会社に長く勤めることはあまりないかと思います。
多くの場合、3年〜5年程度で次の会社に移るため、同じ会社に10年以上いることはかなり稀かと思います。
ドイツの一般的な話をすると、強い労働法がワークライフバランスを保てる理由の一つになっているのではないかと思います。
ドイツには強い労働法があるので、経営者としては従業員を1日8時間以上の労働時間で長く働かせることが難しいです。
それに加えて、たまに1ヶ月程度の休暇を取ることもできます。
懸念点としては、こういった労働法や休暇は創造性の邪魔になるということです。
ですが、私としては積極的に休みを取ることは良いことなのではないかと考えます。
疲れている状態では、創造性を発揮して良い仕事が出来ないからです。
仕事は短距離走ではなくマラソンだと考えているので、長期目線で考える必要があるかと思います。
その代わりに、8時間の中で自分の強みにフォーカスして効率よく働くことを考えるべきです。
-一般的に、ヨーロッパの方は日本をどう見ていますでしょうか? 私たちの目線では、90年代以降、経済成長は止まっており、「失われた数十年」と呼ばれています。
一般的に日本はポジティブに見られているのではないでしょうか。
進歩したテクノロジーがあり、勤勉な印象を持っています。
ただ、先ほどの話にも戻りますが、ヨーロッパでは、日本人が休暇を取っていないことをあまり知られていないのではないかとも思っています。
近年は、自分の健康は自分で管理することが重要です。
日本もヨーロッパのように休暇を積極的に取るなどして自分自身の健康に気を使ってほしいとも考えています。
ヨーロッパでは、LinkedInはビジネスによく使われているSNSかと思います。
むしろ、他の通常のSNSはビジネスのためにあまり使われてはいません。
私自身は、LinkedInに課金をしてネットワークを構築することに使っています。
ヨーロッパでビジネスをすることはもちろん、通常の転職活動でも重要なSNSなのではないでしょうか。
一般的にドイツのネット環境は良いものなのではないでしょうか。
プロバイダーに関してはVodaphoneとTelecomの基本的に二択です。
ネットスピードによって値段が変わってくるケースが多く、一番ネットスピードが速いものを申し込もうとすると、1ヶ月100ユーロ(約15000円)を支払う必要があります。
これも大きな都市限定です。
ベルリン等の大きな都市では、お金を出せば速いインターネットへのアクセスが容易に出来ますが、小さな都市ではそもそもサービスが展開されていないことがあります。
そのため、田舎に住んでいる場合はネット環境の整備が難しいケースがあります。
Ecommerceの分野は最近発展してきた分野ですが、今回インタビューをさせて頂いたトーマス氏は、その分野で20年以上の経験をお持ちです。
トーマス氏が住まれていたベルリンは、文化的な多様性や生活費の安さ等の理由があり、様々なスタートアップが出来ています。
トーマス氏によると、日本人がそういったヨーロッパ市場をターゲットにビジネスを始める際には、言語と文化の理解、そしてLinkedIn等を使った人脈作りが重要であると考えを示されています。
また、働き方という点でも、キャリアをマラソンと考えて生産性を高く働きつつ、積極的に休暇も取ることが良いという考えが示されました。
もし「ヨーロッパで働きたい」、「起業をしていきたい」という考えがある場合には、この考えを取り入れてみてはいかがでしょうか。
TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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