「1000キロ先の油圧ショベルをスマホで操作」建設業界のDX化に挑む
少子高齢化社会の影響により、労働者人口が減少し、さまざまな業界で人手不足が問題となっています。
特に、建設業は1997年の685万人をピークとして減少傾向が続き、長時間労働の常態化や人手不足の深刻化、後継者不足などの課題が山積しています。
こういった課題を打破すべく、ARAV株式会社は建機の遠隔操作や自動運転の技術を開発し、建設業のDX化に挑んできました。
今回は、代表取締役社長の白久レイエス樹氏から建設機械の遠隔操作における最新のテクノロジーや建設業界が直面する2024年問題に向けた取り組みについてお伺いしています。
ARAV株式会社の事業内容について教えていただけますでしょうか?
私たちARAV株式会社は、建設業界の省人化への貢献を目指して、スマートフォンやノートパソコンを利用すれば、離れた場所からも建設機械をリアルタイムで遠隔操作できる後付けのシステム開発に取り組んできました。
遠隔操作システムに使用される装置は、20年以上前に製造された建機であっても、後付けで装着が可能ですので、幅広い企業が導入しやすい仕様になっています。
建設機械の自動運転や遠隔操作が省人化に貢献につながるのですね。ARAV株式会社を立ち上げたきっかけなどはありますか?
ARAV株式会社は私にとって3回目の起業になります。最初は、高専時代の仲間と「スケルトニクス株式会社」を創業し、電力を使わずに人力で操作する外骨格スーツを開発しました。
その後、大手自動車メーカーに1年半勤務し、2年後にシリコンバレーで、後付けでトラックの運転支援システムを実装する「Yanbaru Robotics Inc」を立ち上げています。
高専ロボコン全国大会で優勝した経験もあり、ロボット技術を通じて社会課題を解決したいという思いがあります。
建設業にニーズがあり、技術的に実現可能で、公道を走らないため法律的にも問題がなく、ビジネスとして成立することから、東京大学アントレプレナーラボにARAV株式会社を創業しました。
建設業界は一般的にDX化が進んでいないイメージがありますが、実際にはどうなのでしょうか?
建設業界は、業務にiPhoneやiPadを導入している現場が多く、ITリテラシーは比較的高いですし、最新のサービス等の受け入れも進んでいます。
ただ、大型建機の設計にはさまざまな工程があるので、デジタル化が難しいこともあり、参入障壁も高いかもしれません。
今後、建設機械の自動運転や遠隔操作が浸透することが予想されますが、人間でなければできない作業などはありますか?
人間が作業した方がコストが低く抑えられるのであれば、あえて遠隔操作する必要はないので、人間がやる作業にはまだまだ需要があります。
建設業界のテクノロジーによる課題解決は、装置などの開発にかかるコストと人件費における分岐点を考慮しながら進めるという考え方が昔からあります。
例えば、宇宙飛行士の人件費とロボットのコストを比較した場合、開発などを含めたテクノロジーにかかるコストが人件費を下回れば遠隔ロボットが導入されるイメージです。
感情論ではなくコストとニーズが導入の鍵を握っているのですね。遠隔操作自体は誰でもできるのでしょうか?
重機や建機は特殊な作業を行うために作られた機器ですから、遠隔であっても専用の資格を取得する必要があるので、誰でも運転できるわけではありません。
そうは言っても、自動車免許ほど難しいわけではなく、1週間程度の安全講習を受講すれば資格は取得できます。
自動制御技術の発達により、自動運転の操作はシンプルになっているので、より多くの方に利用していただきたいと考えています。
危険な現場での負担軽減や労働力の省人化を実現し、2024年問題に立ち向かう
建設業界は「2024年問題」に直面しています。建設業界の労働力について懸念していることはありますか?
全体的に建設業界で働きたい人が減っているのはもちろんですが、特に、若手の就業者の減少が課題になってくるのではないでしょうか。
2024年4月には建設業でも時間外労働に対する罰則付きの上限規制がスタートするため、残り2年と迫った今、労働力の確保は必須です。
そして、2024年問題は非常に大きなトレンドではあるのですが、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」に続き、日本の人口の3人に1人が65歳以上になる「2030年問題」にどう立ち向かうかも重要な課題と言えるでしょう。
「2024年問題」及び「2030年問題」に向けて具体的な解決策はありますか?
建設現場では今でも年間3300名の負傷者が出ており、そもそも危険な現場ですので、そういった意味でも、遠隔操作の普及は早急に進めるべきだと思います。
もちろん、現在は過渡期なので、現場に人が全くいない状況は厳しいですが、徐々に現場の人数を減らして、ゼロに向かっていけたら良いのではないでしょうか。
建設現場はアナログなイメージがあるかもしれませんが、測量の分野ではドローンやAIなどテクノロジーの導入が積極的に行われています。
職人の方が培ってきた経験や感性を尊重しながら進めていけたらと考えています。
求めているのは泥臭い仕事にも果敢に立ち向かうガッツのある人
まさに待ったなしの社会課題に挑まれているのですね。御社ではどんな人材を求めているのでしょうか?
最先端のIoT技術を駆使して、それぞれの企業に対する特殊な機械への取り付けやコントローラーのカスタマイズなどのソリューションを提案し開発を進めていきます。
屋内で研究開発というよりは、実際の現地へ出向いて調整するフィールドエンジニアの要素が強いかもしれません。
電気や水道がない山奥の現場をテクノロジー化するのですから、泥臭い仕事にも果敢に立ち向かえるようなガッツのある方を求めています。
建設業界のDX化についてどのようにお考えでしょうか?
現在、建設業界で自動運転や遠隔操作を推進している企業は少ないと思うので、多くの企業が参入してほしいです。
技術革新という観点からも、競合が増えて業界全体が盛り上がることを期待しています。
日本のみならずグローバルに建設現場が抱える課題解決に邁進したい。
御社のこれからの展望などあれば教えていただけますでしょうか?
建設現場が抱える課題に対するソリューションを提供し、現場をアップデートすることがARAVが目指す方向性です。
これからの30年、建設業界に必要となってくるのは「ロボット工学」を用いた遠隔化や自動操縦だと予測されるので、将来的には、Webサービスと連携しながら、お客様の期待に応えていきたいです。
日本のロボット技術はレベルが高いと言われていますが、グローバルな展開も視野に入れているのですか?
弊社は、2020年に国交省より建設現場の生産性を向上する革新的技術として選定され、現在も10社以上の様々な業界の方々と遠隔操作・自動化を進めている状況です。
日本に限らず世界における建設現場にも同じような課題があると思いますので、今後も、建機メーカや建設会社との共同実証実験を行い、遠隔操作をグローバルに進めていきたいと考えています。
終わりに
key point
- ARAV株式会社は、建設業界の省人化への貢献を目指して、遠隔操作できる後付けのシステム開発に取り組んでいる。
- 代表の白久氏は、高専ロボコン全国大会で優勝した経験もあり、ロボット技術を通じて建設業における社会課題を解決したいという思いからARAV株式会社を創業した。
- 建設業界は、業務にiPhoneやiPadを導入している現場が多く、ITリテラシーは比較的高いが、大型の重機に関しては開発の工程が複雑でDX化が難しい。
- ARAV株式会社では、現地へ出向いて調整するフィールドエンジニアの要素が強いので、泥臭い仕事にも果敢に立ち向かえるようなガッツのある人を求めている。
- 建設業界で自動運転や遠隔操作を推進している企業は少ないので、技術革新という観点からも、競合が増えて業界全体が盛り上がることを期待している。
いかがでしたでしょうか?
日本における建設業界は、年間60兆円を超える巨大市場でありながら、労働生産性は横ばいで、労働時間は他産業と比較して300時間以上長く、過酷な労働環境から若年層の定着率低下を招いています。
建設業界の労働人口における60歳以上の高齢者は全体の25.2%を占め、人出不足など「2030年問題」を見据えた対応が急務です。
エンジニアかつシリアルアントレプレナーという日本では非常に希少な存在である白久氏率いるARAV株式会社の挑戦は、長時間労働の常態化や人手不足の深刻化、後継者不足などの難題を解決に導くことでしょう。
interviewee
ARAV株式会社代表取締役 白久レイエス樹
東京大学大学院修了後、スケルトニクス株式会社を学生時代の同級生らと創業。ドバイ首長国オフィスへのロボット販売など受注販売および派遣事業を牽引。2016年株式会社SUBARUに入社し、アイサイト開発部署においてアイサイトツーリングアシスト開発業務に従事。2018年米国シリコンバレーにてYanbaru Robotics Incを創業。既存自動車への後付け自動運転キットを開発。
2020年ARAV株式会社を創業、東京大学FoundX,東大IPC,東大アントレプレナーラボ等のスタートアップ支援を受けながら重機の遠隔・自動化で現場のアップデートを実現するBtoBソリューションを提供中している。
PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部
この記事を気にいったらいいね!しよう
PreBellの最新の話題をお届けします。