「直感的なショッピング」への回帰。Vviinnが目指す、新しいオンラインショッピングのあり方とは。
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2023.10.02 「直感的なショッピング」への回帰。Vviinnが目指す、新しいオンラインショッピングのあり方とは。

新しいソファーが欲しいと思った時、あなたはどうやって商品を探すでしょうか?

自宅近くのインテリアショップに行けば、ソファーの大きさや他の家具との相性などをイメージしやすいでしょう。

ただし、好みの色やデザインの商品があるとは限りません。値段も割高かもしれません。

複数のオンラインショッピングサイトを周り、いろいろな商品を見てから検討したいという方も多いのではないでしょうか。頭の中でイメージが固まっていなかったら、どういった商品があるのか、まずは見てみるというのが得策かもしれません。

良さそうなデザインのソファーを見つけましたが、他に同じような商品がないか気になります。より良いデザインや色、値段のものがあれば、そちらを選びたくなりますね。ただし、どういったキーワードやフィルターで検索をかければ、思い通りの商品が出てくるでしょうか?

そんな時に役に立つのが、ドイツ・ベルリンに拠点を置くスタートアップ「Vviinn」が提供する、AIによる画像分析ソリューションです。

同社は、色、デザイン、スタイルなどを商品画像から特定できるAIを用いて、オンラインショッピングのあり方を変えようとしています。

今回は、Vviinnの創設秘話やソリューション、日本の若者へのアドバイスについて、同社の創設者であるフィリップ・ダークセンさんにお話を伺っていきます。

新しいソファーが欲しいと思った時
  • Vviinnは、AIベースの画像分析ソリューションを用いて、直感的なオンラインショッピングを達成しようとしている
  • ユーザーは、キーワード検索や複雑なフィルターに頼ることなく、好みの商品の画像から類似商品を容易に探すことができる
  • AIが商品画像を基にフィルター検索向けのタグ付けなども行うため、販売側の時間と労力の節約にもつながる
  • 起業に関心のある学生は、まずは自分の興味を持った分野の勉強に集中し、社会人経験を積んでから本格的な起業準備をすべし

ーVviinnはどのような経緯で創設された企業でしょうか?

ーInuruが開発している製品について教えてください。

ダークセン:6年ほど前だったと思いますが、AI(人工知能)を活用して、ユーザーのオンラインショッピングの体験を、より直感的にできないかと思いつきました。

AIを活用して、商品のデータをよりわかりやすい形に加工し、ユーザーによる商品検索を支援できないかと考えたわけです。

思案しているうちに、ユーザーが求めている商品の画像をAIに分析させ、その特徴を掴み、似た商品をAIに提案させるというアイディアを思いつきました。

従来のオンラインショッピング

従来のオンラインショッピングでは、複数のキーワードや条件でフィルターをかけ、商品を絞り込んでいきますね。

しかし類似商品でも、商品に異なる説明や説明タグ、キーワードがついていたら、検索フィルターから外れてしまうでしょう。

そもそもどういったキーワードや条件でフィルターをかければ良いのか、悩みどころです。

また、商品に文章の説明書きが付いていたとしても、読むのは面倒ですし、時間がかかります。販売側としても、一つ一つの商品の説明やキーワード、検索フィルター用のタグを考えて入力するのは、容易ではありません。

他方で、商品画像で見比べられるとしたら、どうでしょうか。言語には国境がありますが、画像には国境がありません。

画像は、誰もが直感的に見て判断できます。商品の画像を見比べれば、色やデザインなどの特徴を瞬時に認識し、他の商品との相性や合わせ方などもイメージできますね。

Vviinnを創設

実はこれは、オンラインショッピングが生まれる前の買い物のやり方でした。近くの店舗を訪問し、いくつかの商品を目で見て、良さそうなものを直感的に探して購入する――。当時、商品説明や検索フィルターを気にする必要はありませんでした。

ただし、店舗に望みの商品があるとは限りませんでしたし、品揃えも限られていました。

オンラインショッピングが普及したのは、こういった制限がなく、自宅や職場からでも気軽に多数の商品を比較し、購入できるためです。

直感的なショッピングとオンラインショッピングの強みを統合できたら、ユーザーエクスペリエンスは大きく改善されるでしょう。

つまり私たちは、オンラインショッピングの強みである品揃えや使いやすさ、拡張性を活かしつつ、買い物の方法をより直感的なものに回帰させられないかと考えたわけです。

前述のようなアイディアで、AIを活用した商品画像分析についても研究を進め、2019年に形にすることができました。その後、その技術を基にVviinnを創設することにしました。

ーVviinnの提供するソリューションについて、もう少し詳しく教えてください。

ーVviinnの提供するソリューションについて、もう少し詳しく教えてください。

ダークセン:Vviinnでは、「Visual Relevance Machine」と呼ばれるAIによる画像分析ソリューションを用い、家具や産業部品、ファッション製品などを販売するウェブサイトや企業を支援しています。

例えば、ユーザーがリビングのテーブルの上に置く、新しい花瓶を探しているとします。

オンラインショッピングサイトで良さそうな商品を見つけましたが、他にも似たような商品があれば、見比べたいというのが正直なところです。

もし、当該サイトにVviinnのソリューションが導入されていれば、商品画像の真下に画像検索のボタンが表示されているでしょう。

ユーザーがそれをクリックすると、瞬時に見た目が同じような商品が画面に複数表示されます。ユーザーはその中から、色や形などの自分のイメージにぴったり合った商品を選べるわけです。

AIに画像分析をさせる場合

AIに画像分析をさせる場合、ユーザーはショッピングサイトで見つけた商品画像を使うこともできますし、ネット検索で偶然見つけた商品の画像を使うこともできます。

自身のスマートフォンを使って撮影した花瓶の写真や、手書きのイラストを活用することも可能です。カメラがキーボードのように機能するわけですね。

産業用の部品などの販売においても、Visual Relevance Machineは活用できます。部品の具体的な名前がわからなくとも、CAD(コンピュータ支援設計)などで描かれた部品のイメージを基に、AIが類似部品を検索することも可能です。

ー商品を販売する側にとってのメリットには、どういったものがあるでしょうか?

ー商品を販売する側にとってのメリットには、どういったものがあるでしょうか?

ダークセン:まず、商品の説明書きやフィルター向けのタグ付けにかかる時間や労力を節約できます。

AIが商品画像を基に自動で商品の特徴(色、デザイン、スタイルなど)を特定し、タグづけするため、効率的に商品管理ができるわけです。

AIが特定する特徴は、100以上に及ぶこともあります。取り扱う商品数が多い場合は特に、AIが大きな助けになるでしょう。

また、ユーザーが探している商品と相性の良い商品をおすすめする機能も備わっています。

例えば、ユーザーがソファーの画像を使って検索を行なった場合、それに合わせたローテーブルをAIが選出し、提案します。こうすれば、ユーザーがソファーとローテーブルをセットで買う可能性が高まるでしょう。

実際に、弊社のソリューションを導入

実際に、弊社のソリューションを導入したところ、ユーザーによる商品のクリック回数が2倍になり、カートに入れられるおすすめ商品が60%アップしたというデータがあります。

商品画像を基におすすめされた商品の方が、従来の説明や条件ベースでおすすめされた商品よりも、3倍近く閲覧されやすいというデータもあります。

また、Vviinnのソリューションは、欧州連合(EU)の個人情報保護の枠組みである、EU一般データ保護規則(GDPR)にも則しています。

必要なユーザーやサイト運営者のデータは最小限ですし、Vviinnのインフラはベルギーにあるため、欧州顧客のデータを保管する場合でもGDPRの求める要件を満たすことができます。

加えて、Cookieを使う必要がないため、個人情報をさらに保護できるのです。

ーVviinnも、ベルリンを拠点としているスタートアップですね。他にもベルリンを拠点とするスタートアップは多いですが、なぜベルリンでは多くのイノベーションが生まれるのでしょうか?

なぜベルリンでは多くのイノベーションが生まれるのでしょうか?

ダークセン:まず、ベルリンは若者にとって魅力的な都市だからという理由が挙げられるでしょう。

現在は徐々に少なくなっていますが、かつてのベルリンには、安く住めるアパートや、研究を行うスペースがたくさんありました。これにより、多くの優秀な若者が惹きつけられたわけです。

また、公的な補助が豊富であることも、理由に挙げられるでしょう。

ベルリンで起業を目指す場合、大学を卒業したての学生の給与の半分に対しては補助が出ますし、大学からスピンオフという形で会社が生まれる場合にも、政府からの支援があります。

企業側が研究インフラにかかるコストを負担すれば、政府側がリサーチャーの給与をカバーしてくれるという仕組みもあります。

ー日本には極度に失敗を恐れる文化があり、それがイノベーションの妨げになっているという声も聞かれます。起業を考えている日本の学生に対して、何かアドバイスはありますか?

起業を考えている日本の学生に対して、何かアドバイスはありますか?

ダークセン:起業と失敗は、切っても切れない関係にあります。ベストな製品を作るためには、試行錯誤が必要です。一度失敗したとしても、選択肢は複数残されていることを忘れてはいけません。

最終的に、「何があっても、どうにかなる」というマインドセットを形成することが重要でしょう。

私が起業のアイディアを最初に持ったのは、学生時代でした。私の失敗は、学生時代に勉学や研究に集中せず、起業することに集中してしまったことです。また、大学の研究アシスタントとして働いていましたが、起業に必要な経験や人脈を開拓するには十分ではありませんでした。

このため、学生のみなさんには、異なる方法をおすすめします。つまり、大学時代に自分の関心のある分野やトピックを特定し、とにかく勉強や研究に没頭してみる。大学を卒業したら、大きな企業や研究組織に就職してみて、社会人としての経験を積みつつ、人脈も広げる。

その後、仕事をしながら、自分の会社を立ち上げる準備を始める。こういった着実なステップを踏んでいくことが、失敗への恐怖を克服する最良の方法かもしれません。

起業に重要なのは、問題解決能力

また起業に重要なのは、問題解決能力です。アイディアがあっても、ビジネス化して利益を得るには、リソースを最適化しながら、直面するさまざまな障害を乗り越えていかなくてはなりません。

また、常に学び続け、開発し続けることも重要です。社会が直面する課題を的確に特定し、既存の枠組みを超えたソリューションを考え出し、それを技術力で形にする必要があります。これはまさにエンジニアの仕事です。

日本でもそうだと思いますが、現在ドイツでもAIを恐れる声が強まっています。

AIが人間の仕事を奪うのではないかという懸念があるわけです。しかし人間の「創造力」は、容易にはAIには奪われないでしょう。

創造力は、アーティストや音楽家だけではなく、一般的なビジネスマンや起業家にも必要です。AIは人間の創造力を強化する技術であるべきで、創造力を奪うものではないはずです。

ただし、機能が高まっていくAIに負けないよう、私たちも社会課題を特定する能力や問題解決能力など、スキルを磨いていく必要があるでしょう。

終わりに

自社の強みを活かしたソリューション展開を行うVviinn

KeyPoint

  • VviinnのAI画像分析ソリューションは、オンラインショッピングと従来の「直感的なショッピング」のメリット同士を統合する
  • AIによる商品の画像検索は、ネット上に存在する画像やユーザーが自分で撮影した写真などでも実行可能
  • AIが商品のタグづけも行うため、販売側は商品の細かい説明書きを考える必要がない。また個人情報保護も万全となる
  • 起業家を目指す場合、学生時代は自分の興味を持った分野の勉強に集中し、社会人になったら経験を積みながら人脈を広げるべし

いかがだったでしょうか?

オンラインショッピングに潜む問題点を的確に捉え、AIを活用してそれを解消し、また自社の強みを活かしたソリューション展開を行うVviinnの事例は、起業のモデル事例と言っても過言ではないでしょう。

ショッピングサイトのユーザーだけでなく、運営者側にもメリットのある同社のソリューションは、今後徐々に市場に普及していくのではないでしょうか。

Vviinn

Vviinn

2020年に創設されたVviinnは、ドイツのベルリンを拠点とするスタートアップ。商品画像から色、スタイル、デザインなどの特徴を特定し、類似商品や一緒に買うと良いおすすめ商品などを提案できるAIソリューション「Visual Relevance Machine」を提供しており、オンラインショッピングにおけるユーザーエクスペリエンスをより直感的なものにしようとしている。

同ソリューションは、商品タグをつける機能も有しているため、販売側にもメリットが大きい。複数のタグを検索やフィルターに利用できるため、ユーザーが好みの製品を探し易くなり、パーソナライズ化されたショッピングを実現することができる。また同ソリューションは、EU一般データ保護規則(GDPR)の要件を満たすものとなっている。

PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部

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