信頼性が高く、持続可能で、セキュアな通信を目指すドイツ企業「Inter.link」の野望とは
クラウドサービスやインターネットの利用が増える中、企業ネットワークやデータセンターの通信需要が高まり、膨大な通信をマニュアルで管理するのは難しくなっています。
また、コロナ禍でリモートワークが普及したことにより、企業ネットワークやデータセンターを標的としたサイバー攻撃も増えました。
中でも、意図的に大量の通信を発生させてサーバーなどに負荷をかけ、ウェブサイトやサービスの機能停止を引き起こすDDoS攻撃は、日本でもよく耳にする攻撃です。
実際に2015年には、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会に対し、大規模DDoS攻撃が仕掛けられ、2021年の大会期間中も多くの攻撃がありました。
企業ネットワークやデータセンターで通信障害が発生した場合、顧客やその他の利害関係者にも影響があり、大きな経済損失につながる恐れもあります。
また、大量の電力を消費するデータセンターのCO2削減も、喫緊の課題です。通信需要に合わせてデータセンターを増設していけば、自然とCO2排出量は増えてしまうでしょう。
これらの課題に対応しているスタートアップがあります。ドイツの首都ベルリンを拠点とする「Inter.link」です。同社は最新鋭のAPIと自動化技術を駆使し、企業やデータセンター向けに信頼性が高く、持続可能で、セキュアな有線通信ソリューションを提供しています。
今回は、Inter.linkが提供するソリューションや創設に至った背景、今後の目標、若手起業家へのアドバイスについて、同社の共同創設者であるマーク・コルトハウスさんにお話を伺っていきます。
- Inter.linkは、既存の通信キャリアが提供している有線通信よりも、信頼度が高く、持続可能で、セキュアな通信を提供している
- 同社の対象顧客は欧州やアジア、米国の企業やデータセンターで、最先端のAPIと自動化技術で、顧客による通信管理を支える
- 共同創設者がクラウドサービス企業を運営していた経験から、クラウドとの親和性があるソリューションの提供を重視している
- ベルリンはドイツの中でも特殊で、起業家に優しい都市。ただし、物価高とリモートワーク普及で、郊外に住む人も増えている
コルトハウス:Inter.linkは、信頼度が高く、持続可能で、大部分を自動で運用できる有線通信ソリューションを提供しています。
既存の通信キャリアが提供しているサービスを上回ることが目標で、ネットワークの常時稼働(アップタイム100%)を保証しており、顧客は安全なエンドツーエンド通信を利用可能です。
グローバルにソリューションを提供していますが、主な顧客は欧州とアジアを拠点とする企業やデータセンターとなります。欧州では100G/400Gの有線通信を実現可能です。
2023年7月には、今後の欧州におけるビジネス拡大に向けて、西ヨーロッパを中心に通信網を整備・提供しているインフラ企業euNetworksと連携することを発表しました。2023年後半以降に、米国市場への進出も計画しているところです。
Inter.linkの顧客は、一つのAPIを活用して自社の通信を独自に管理することができます。また料金体系の透明性が高いため、想定していなかった料金が追加請求されるということもありません。
加えて、既存の通信サービスにはマニュアル設定が必要ですが、Inter.linkのソリューションでは多くの部分が自動化されており、顧客にも使いやすくなっています。
Inter.linkのソリューションのユニークな点は、持続可能性とセキュリティに配慮しているところです。
我が社では、2023年中のカーボンニュートラル達成を目標に掲げており、通信インフラに対する攻撃として主要となっているDDoS攻撃への対策も万全を期しています。
さらにInter.linkのソリューションは、AmazonのAWSやMicrosoftのAzureなどの主要なクラウドサービスとの親和性も高く、拡張性があります。
ーInter.linkはどのような経緯で創設された企業でしょうか?
コルトハウス:Inter.linkは2021年に創設した企業ですが、ビジネスの構想自体は20年近く前から存在していました。
2007年にAppleの共同創設者であったスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表した時、私もその会場にいたのです。
非常にセンセーショナルな発表であり、イベントの参加者も多かったことから、当時、会場周辺で大規模な通信障害が発生しました。
また当時、電子商取引が一般にも広く普及し始め、より強固で安定しており、拡張し易い通信ネットワークへのニーズが高まったのです。
これらの経験から、通信サービスプロバイダになることに強い関心を持ち始めました。
コルトハウス:学歴がない人こそ、起業し、実務経験を積むべきかもしれません。
起業すれば、さまざまな問題に直面することになり、それを解決する力が自然と養われるからです。
私はこれまでのキャリアの中で4回起業し、そのうちの2社を売却しました。
しかし、大学では情報学のクラスをいくつか履修しただけで、MBA(経営修士号)も持っていません。技術的な専門性のあるビジネスパートナーがいれば、起業は可能なのです。
ただし、完全にゼロの状態から起業するのであれば、少なくともビジネスのアイディアを形にした、プロトタイプを作る必要はあるでしょう。
小規模でシンプルなもので問題なく、モバイルアプリの開発を目指すのであれば、既存のアプリを真似したものでも構いません。
それで、潜在的な顧客や投資家の反応を見るのです。何も形になっていない状況で、他人を説得するのは難しいでしょう。
また、最終的にどういったビジネスにしたいかのビジョンを持ち、アドバイスや投資を得られそうな人脈をある程度開拓しておくことも重要です。
可能であれば、外部の投資を得ないで、最初は自分の財源だけで起業する方がリスクは低くなります。
ビジョンについては、起業してから詳細を詰めていくことも可能ですが、製品やサービスの方向性は、ひとつに絞っておく必要があります。
これは私が自身の失敗から学んだことでもあるのですが、ひとつのスタートアップの中で複数の事業を進めることは非現実的です。
既存の投資家や顧客、従業員を説得し、社内でリソースを分割するのは、困難でしょう。
もし、1社目のスタートアップを起業し終えているのであれば、数年間はその会社に注力します。
ただし、その後運営に慣れてきて、新しい製品やサービスのアイディアが浮かんだら、同じ会社の中で実現を目指すのではなく、2社目を起業すべきです。
またスタートアップ経営で難しいのは、ある段階で起業家からマネジャーに転職しなくてはならない時期が来るということです。
マネジャーの仕事も好きで、どちらも器用にできる人もいますが、そうでない場合には、マネジャーになる前に会社を売却するのがベストかもしれません。
私は個人的にリスクを取るのが好きで、起業家の方が向いており、誰かを管理するのは自分の強みではないと思っています。
自分の強みと弱みを客観的に知ることが重要です。
加えて、成功を目指すのであれば、米国もしくは英語圏の市場を目指しましょう。
ドイツのスタートアップの多くは、まずはドイツ市場をターゲットとし、その後欧州市場を目指しますが、欧州には14の言語が存在しており、それぞれの言語圏の人口が多いわけでもありません。
つまり、サービス提供に14倍の労力がかかり、効率的にリターンを得られるわけではないということです。
米国や英語圏の市場の方が競争は激しいですが、欧州をターゲットとするよりも高いリターンが期待できるでしょう。
Inter.linkが米国市場進出を目指しているのも、これが理由の一つです。
また、創設者だったとしても、トラブルや失敗を全て自分の責任だと考えないことです。
スタートアップには多数の利害関係者が関わり、世界経済の状況などの外的な要因も影響するため、自分の責任ではなくてもトラブルや失敗は避けられません。
共同創設者、投資家、従業員、顧客などの利害関係者は、さまざまな考えを持っていますし、また人は時間を経るごとに変わるのです。
起業してから数百人の従業員を抱える企業に育つまで、通常は10年ほどかかりますが、多くの人材は5年で転職します。このため、共同創設者や従業員が会社を離れることになった場合を想定して、ある程度準備しておくと安心でしょう。
コルトハウス:まず、ベルリンはドイツの他の都市とは大きく違うことを覚えておいてください。
他のドイツの都市では、起業家に対する風当たりはもっと強いです。ベルリンは、ドイツの中でも特殊な都市と言えるでしょう。
ベルリンは10年ほど前まで、経済的・財政的に厳しい時代にありました。
しかし、それにより、家賃や物価が下がり、若者にも住みやすい都市になったのです。優秀な若者が集まったことで都市に活気が溢れるようになり、現在のようなイノベーションの街になりました。
今ではベルリンの家賃も上がっており、若者が初任給で住むのは難しくなっているかもしれません。
しかし幸いなことに、ハイブリッドワークが一般的になっているので、無理してベルリンに住む必要もなくなっているのではないでしょうか。より安価な郊外に住む人も多いようです。
Inter.linkもハイブリッド企業で、6-7人はベルリンにいますが、その他のスタッフはドバイや英国、オランダ、オーストリア、ドイツのフランクフルトなどに分散しています。
意図的にそうなったわけではなく、優秀な人材を集めていたら、今のような状態になりました。
コルトハウス:日本とドイツは、社会的な状況が似ていると思います。
どちらも高齢化が進んでおり、若年層は仕事や私生活のストレスに悩まされていますね。そして、社会問題は年々複雑化しているのです。
一方で、働き方や仕事に対する姿勢、結婚や子供の教育などに対する考え方は、日本とドイツで大きく異なるように思います。
日本の方が住み難いと感じるかもしれませんが、ドイツでも、精神的に成長する前に大人になる若者が増えているという課題があるのです。
スタートアップの数は、国の経済が健全であるかを測る指標の一つでしょう。そういう意味では、中国のイノベーション戦略は、理に適っていると言えるかもしれません。
中国では、国が短期的・長期的な技術目標を定めており、それに応じて国からスタートアップや大学に対して計画的に補助金が出ます。
そういった環境では、起業家が長期的な資金調達計画を立て、安心して技術開発を進めることが可能でしょう。
もちろん、それができるのは、中国の政治制度がドイツや日本のものと異なるためですが。
起業は難しく思えるかもしれませんが、何かを開発したいというアイディア、エネルギー、計画、人脈などがあるのであれば、実現は不可能ではありません。
コンフォートゾーン(快適な場所)から飛び出し、積極的にリスクを取り、問題を解決していく姿勢を持つことが重要でしょう。
KeyPoint
- Inter.linkは、最先端のAPIと自動化技術を駆使して、信頼度が高く、持続可能で、セキュアな有線通信を提供している
- 主な対象顧客は、欧州やアジアの企業やデータセンターであるが、2023年後半以降には、米国への進出も計画している
- 同社のソリューションは、通信の常時稼働を保証しており、クラウドとの親和性がある。料金体系の透明性も確保されている
- 起業する場合、一つの製品・サービスに絞り、まずはプロトタイプを作ることが重要。可能な限り英語圏の市場を目指すべし
いかがだったでしょうか?
20年近く温めていたアイディアを形にし、また複数回の起業を経てビジネスの方向性を調整していったというお話は、興味深いものでした。環境先進国であるドイツの企業らしく、カーボンニュートラルを目指している点も、他国の類似企業と差別化するポイントとなっているのではないでしょうか。
また若手起業家に対するアドバイスも、実際のご経験に基づいた具体的なもので、大変参考になりました。起業家を目指す方は、会社を起こすだけでなく、その後の長期的な経営を見据えた上で計画を練る必要があるでしょう。
Inter.link
2021年にドイツのベルリンに創設されたスタートアップで、既存の通信キャリアが提供するサービスよりも、信頼性が高く、持続可能で、セキュアな通信の提供を目指している。同社のソリューションは、最先端のAPIと自動化技術を活用しており、ネットワークの常時稼働(アップタイム100%)とクラウドサービスとの容易な統合を保証している。主な対象顧客は、欧州やアジアの企業やデータセンターだが、米国市場への参入も予定している。
PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部
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