TP-Linkのルーター、国家安全保障上の脅威?米政府が調査、販売禁止の可能性も
米国政府が中国のネットワーク機器メーカーTP-Link製ルーターの販売禁止を検討していることが明らかになった。調査の焦点は、同製品がセキュリティ上のリスクを抱え、国家安全保障に対する脅威となり得るか否かにある。TP-Linkは、中国深圳に本拠を置く企業であり、米国の家庭および中小企業向けルーター市場で約65%のシェアを持つ主要プレイヤーだ。さらに、同社製品は国防総省やNASA、さらには複数の政府機関でも使用されており、これが懸念を一層深める要因となっている。
この問題の発端となったのは、Microsoftによる2024年11月の警告である。同社は、中国政府の支援を受けたハッカー集団がTP-Link製ルーターを含む複数の機器を悪用し、大規模なサイバー攻撃を実行していると指摘した。特に、ボットネットの構築を通じてクラウドサービスや政府関連機関への不正アクセスが試みられたことが報告されている。また、中国のAPTグループ「Volt Typhoon」がTP-Linkルーターを踏み台にして米軍施設への攻撃を行った事例も確認されている。
これを受け、米商務省、国防総省、司法省がそれぞれ個別にTP-Linkに対する調査を開始した。特に注目されるのは、TP-Link製品が出荷時から脆弱性を抱えていた可能性と、製造コストを下回る価格での販売が市場支配を目的とした戦略であるとする疑念だ。これらの点について、米政府はセキュリティ上の懸念だけでなく、独占禁止法の観点からも問題視している。
中国製品規制の強化とその影響
TP-Linkに対する調査は、米国が中国製テクノロジーに対して規制を強化する一環と位置づけられる。すでにファーウェイやZTEなどの主要通信機器メーカーの製品は米国市場から排除されており、2025年にはTikTokの禁止法が施行される予定だ。さらに、コネクテッドカーに使用される中国製ハードウェアやソフトウェアに対する規制案も進行中である。
TP-Linkは「製品のセキュリティ基準は米国の規制を完全に順守している」と主張し、調査に協力する意向を示している。さらに、同社は信頼回復を図るため、2024年10月には本社を米国に移転する計画を発表している。しかし、下院超党派の中国共産党特別委員会は、「TP-Link製品の脆弱性は依然として懸念材料であり、中国政府がそれを利用したサイバー攻撃を実行している」と指摘している。
このような状況下で、TP-Link製品の市場撤退がもたらす影響は甚大である。米国の家庭や中小企業では広く使用されており、禁止措置が実行されれば通信インフラに深刻な混乱を引き起こす可能性がある。また、既存のインフラの置き換えには多額のコストが伴うため、短期的には逆に脆弱性が高まるリスクも懸念される。
この問題は単なるセキュリティ対策を超え、米中間のテクノロジー競争の一端を象徴している。TP-Linkに対する規制は、サプライチェーンの安全保障強化という観点から理解される一方で、米国内の通信環境に及ぼす影響を慎重に評価する必要があるだろう。
【関連リンク】
・米国政府、TP-Linkルーター販売禁止を検討 – 中国製機器のサイバーセキュリティリスクに警鐘(XenoSpectrum)
https://x.gd/2alk6
TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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