YouTuber「ワクワクさん」インターネットに感じた可能性とは
1990年から2012年までNHK教育テレビ(Eテレ)で23年間放送された「つくってあそぼ」。 工作を発明する「ワクワクさん」とクマの「ゴロリ」が、牛乳パックやストローなど、身近なものでおもちゃを作って遊ぶ番組です。子ども時代によく観ていた人も多いのでは。
そのワクワクさんこと久保田雅人さんが2019年2月、なんとYouTuberデビュー!
赤い帽子に黒い丸メガネ。軽快なトークもあの頃のワクワクさんのまま。
当時、番組を観ていた視聴者やその子どもたちからも絶大な人気を誇り、チャンネル開設1カ月ほどで登録者数は30万人に迫りました(2019年3月取材時)。
そんなワクワクさんは、なぜYouTubeを始めたのでしょうか。
インタビューを依頼したところ、「せっかくだから何か作りましょうか?」と、なんとその場で工作を実演してくださることに!!
まさに子どもの頃、番組を見て育った筆者(30代)には胸熱な展開となりました…。
生「つくってあそぼ」に大興奮
ワクワクさん:やっほー!ワクワクです!今日は何回でも音が鳴る「紙コップクラッカー」を作ってみよう!
PreBell編集部:すごい!声もあの頃のワクワクさんのまま!
ワクワクさん:まずは輪ゴムを2つ繋げたら、紙コップの底にセロハンテープでしっかりと貼り付ますよ〜。
PreBell編集部:懐かしい…。
ワクワクさん:おめでとう!(パチンッ!)何回でも音を鳴らすことができます!え?音だけじゃ寂しい?
PreBell編集部:うんうん。
ワクワクさん:それじゃ、こうしましょう。
(紙コップに細かく切った色画用紙を入れて)
ワクワクさん:「おめでとう〜!」(パチンッ!)ね、面白いでしょ?
PreBell編集部:私、今年35歳になるおっさんですが、今だけ心が5歳児に戻りました…。
テレビで観ていたままの、ワクワクさんの工作の実演に、取材現場は大盛り上がり。場を温めていただいたところで、本題のインタビューに。
なぜテレビからYouTubeに?
PreBell編集部:先月からYouTubeでの番組配信をスタートして、早くもチャンネル登録者数は30万人を達成していますね!
ワクワクさん:ありがとうございます。テレビで放送が終わってしまったので、違う媒体で子どもたちに作る喜びを伝えたかったんです。
PreBell編集部:なぜ数ある媒体の中でインターネット、YouTubeを?
ワクワクさん:「つくってあそぼ」の頃から時代は変わり、誰もがスマホでインターネットに気軽にアクセスできるようになりました。
お父さんやお母さんはもちろん、小さなお子さんもです。
YouTubeは多くの人が使っているサービスですし、テレビ放送と違って何度も見直しができますよね。
PreBell編集部:「今のところもう一度見たい!」って思っても録画していないと見直せないですもんね。
ワクワクさん:そう。だからお父さんとお母さんに、動画を何度も見ながら子どもと一緒に工作をする体験をしてほしいと思ったんです。
PreBell編集部:ワクワクさんもご自身のお子さんとは、一緒に工作をしたりしたんですか?
ワクワクさん:娘と息子がいますが、お雛様やこいのぼり、クリスマスツリーなどは買わずに、毎年一緒に作っていましたね。
PreBell編集部:ワクワクさんとリアル「つくってあそぼ」!羨ましい…。
ワクワクさん:自分の手で何かを生み出す楽しさを知ってほしかったんです。だから毎年「お父さんと一緒に作る」ということは大切にしていました。
PreBell編集部:ちょっと意外と言ったら失礼なんですが…。
ワクワクさんも、YouTubeは普段から観ていらっしゃったんですか?
ワクワクさん:実は機械の類は苦手でして…。
牛乳パックとか紙コップとかは得意なんですけどねぇ…(笑)。
PreBell編集部: テレビと比べて、YouTubeで配信して感じたことは?
ワクワクさん:YouTubeだと視聴者からのコメントなど、ダイレクトに反応があるのが嬉しいですね。これはテレビではないことです。
PreBell編集部:高評価のコメント数がすごい数ですよね。チャンネル登録者数や生配信の視聴数はチェックしていますか?
ワクワクさん:あんまり数字のことは気にしないんです。どちらかというとコメントでのリクエストなど、視聴者の要望のほうを大切にしています。
テレビで放送した昔の工作を覚えていてくださる方もいて「ペッタンテープ作ってほしい」「最終回で作った紙飛行機を作ってほしい」とかリクエストが来ることもあって、いつかは生配信でその場でリクエストに応えて作ることに挑戦したいですね。
PreBell編集部:それは盛り上がりそう。インターネットならではの楽しみ方ですね!
そういえば、視聴者の年齢層が幅広いと感じました。まさに「つくってあそぼ」の頃のように、親子で見られているような。
ワクワクさん:そうなんです。当時、私のテレビを見ていた子どもたちは、もう親世代の年齢ですから。
PreBell編集部:子どもの頃に観ていた番組を、自分も子どもと一緒に見て工作する…。すごく素敵です。
ワクワクさん:今は「#ぺったんミュージアム」という工作コンテスト企画を実施しているんですが、親子で工作をしている動画を送ってくれる方もいらっしゃって。
PreBell編集部:視聴者が紙コップロボットを作って、動画や画像を応募するコンテストですよね。
ワクワクさん:はい。うまく作れなかったりもするんですけど、子どもの笑顔がかわいいんです。失敗してもいいんですよ。親子で一緒に作ったという思い出のほうが、よっぽど大切なんですから。
PreBell編集部:視聴者とのインタラクティブ性の良さもインターネットの強みですよね。
ワクワクさん:「つくってあそぼ」の頃も、視聴者の方から工作をするお子さんのお写真やお手紙を送っていただいていて、私の宝物だったんですけど、今はYouTubeのコメントや送っていただく動画や画像なども宝物です。
そういう意味でも、インターネットやYouTubeの良さを感じています。
YouTubeは「大人が一度立ち止まって考えるべき」
PreBell編集部:テレビの撮影とYouTubeの撮影で変わったことはありますか?
ワクワクさん:たとえば、テロップを入れるなどの、バラエティー的な映像編集は、当時の教育系のテレビ番組ではやらなかったように思います。
YouTubeのコメント欄でも「編集が上手すぎる」「YouTubeを分かってる」と話題
PreBell編集部:工作も失敗しても、それをあえて公開していますよね。そうすることでワクワクさんに親近感を覚える視聴者も多いように感じます。
ワクワクさん:そう言っていただけると、ありがたいですね。役作りみたいなものは全然していなくて、ほぼ素なんです。いまも全国の保育園や幼稚園を回って工作をさせていただいているのですが、できるだけ素のほうが子どもたちも親しみやすいと感じたので。
PreBell編集部:時代が変わって工作で扱う材料も変わりましたか?
ワクワクさん:たとえばフィルムカメラのケースのキャップは、柔らかくて子どもたちでも簡単に穴が開けられるのでよく使っていたのですが、今はほとんど売ってないでしょう。
PreBell編集部:よく工作で使っていましたね!懐かしい…。
ワクワクさん:今だとペットボトルのキャップがその代わりにあたるんですが、これが固くて穴が開けづらいんです。ペットボトルを切ろうとすると、これも固いものが多くてカッターナイフを使う必要があり、危ない、ハサミを使おうにも固いからハサミをダメにしてしまう。そんなものをYouTubeでやっていいものか…と悩みますね。これが、今の課題です。
PreBell編集部:YouTubeの動画の中には、再生回数を稼ぐために危険なことをしたりする動画もあるので、親御さんの中には「子どもにYouTubeを観せたくない」という方もいらっしゃいます。でもワクワクさんは、そこまで考えて番組作りをされているので、コメント欄には「安心して観せられる」というコメントが多いと感じました。
ワクワクさん:テレビにしてもインターネットにしても、どちらもただの箱。大事なのは伝える内容なんですよ。インターネットの動画は子どもたちも簡単に観られるだけに、それを私たち大人がもうちょっと考えなくちゃいけない。私はテレビでそのことを学んできたつもりです。
今は、奇をてらった危険な動画や、不快に感じる動画がアップされてしまう。ここで一度立ち止まって内容を考えるべきなんじゃないでしょうか。
まとめ
誰でも自由に動画を公開することのできるインターネットのコンテンツ。なかには子どもに観せたくないような内容のものも含まれている可能性があります。一方で、ワクワクさんのYouTubeチャンネルのように、テレビでは放送されなくなった良質なコンテンツの発表の場となりうるのも、インターネットならではの特徴です。
「インターネットのコンテンツ」とひとくくりにできなくなっている今。「悪貨は良貨を駆逐する」ということにならないよう、作り手と受け手の双方が協力して、良質なコンテンツを応援していきたいものです。
ということでみなさん、ワクワクさんのYouTubeチャンネルを今後とも応援よろしくお願いいたします!
TEXT:ケンジパーマ
PHOTO:河合信幸
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