実現したいのは「ドラえもん」のようなロボットが一家に一台ある世界
テクノロジーの進化により、オンラインによるコミュニケーションが浸透し、指示を与えるだけで動くロボットやハードが次々と登場しています。
その一方で、人の温もりや感情のこもったコミュニケーションが取りづらく疲弊している方もいるのではないでしょうか。
ユニロボット株式会社は「モノと心を通わせる」を当たり前にする。をミッションとし、コミュニケーションロボット「unibo(ユニボ)」の開発やAI電話サービス、ボイスボットをはじめとするクラウド事業を展開してきました。
今回は、ユニロボット株式会社 取締役 CTOシステムプラットフォーム事業部門長の前田佐知夫氏よりユニボを開発した経緯や将来の展望などについてお話をお伺いしています。
ーユニボを既にご存知の方は多いかと思いますが、御社の事業内容を教えていただけますでしょうか?
私たちは「ドラえもん」のようなパートナーロボットの開発を目指して2014年に創業し、翌年の国際ロボット展では「ユニボ」が次世代型ソーシャルロボットとして多くのメディアに取り上げられました。
ユニボは、パーソナルAIに強みを持ち、ユーザーの趣味・嗜好・生活習慣等の個性を学習できるロボットで、会話内容から感情解析を行うことで感情を理解したソーシャルな会話ができます。
現在は、ロボットであるユニボの範囲を越え、教育や医療、福祉など幅広い分野のコミュニケーションテクノロジー全般に関する研究開発から製造・販売を一貫して行なっています。
ー代表取締役の酒井拓氏は約15年にわたって商社でプロジェクトマネージャー等を歴任されていますが、起業は大きな決断だったのではないでしょうか?
代表の酒井は、社会課題に対する取り組みとして週末を中心にボランティア活動やNPO支援などさまざまな活動を続けてきました。
社会が大きく変革していくなかで、スマートフォンやタブレットにとどまらず新しいデバイスが増えると考え「ロボットで起業しよう」と決意したそうです。
親族がロボット関連の事業に従事しており、ロボットに親しむ環境があったことも、テクノロジーの力で社会に貢献していきたいという酒井の強い思いを後押ししたのではないでしょうか。
少子高齢化による孤立が進むなかで、話し相手になったり、いつも側にいてわがままを聞いてくれる「ドラえもんのようなパートナーロボットが一家に一台ある世界」を実現させたいと考えました。
例えば、毎日1人で留守番をしている子どもに対して、感情のこもったソーシャルなコミュニケーションができれば多くの課題解決につながるのではないでしょうか。
誰にも言えない悩みを打ち明けたり「今日も0点だったんだよ」とドラえもんが告げ口したり、勉強を教えてあげたり、そういった家族のコミュニケーションのハブになればと考えています。
ー「家族の一員のようなロボット」という世界観は欧米にはない日本の強みなのでしょうか?
欧米ではAlexaやGoogle Homeなどに代表されるスマートスピーカーのように、指示通り動く「ユーザー先導型」の道具として捉えている傾向があります。
一方、ユニボが目指しているのは、ロボット自らがユーザーに対して行動変容のきっかけを与えるような「パートナーシップ型」のソーシャルなコミュニケーションです。
ユニボとの触れ合いのなかで、「宿題だけでもやっておこうかな」「健康のために少し歩こうかな」という気づきを与えられたらと思います。
ーユニボの開発で技術的に最も苦労したのはどのような部分ですか?
ユニボと人の自然なコミュニケーションを実現するために必要不可欠な「日本語音声認識」が難しかったです。
音声認識自体はOpenAIの「Whisper(ウィスパー)」など様々なところから取得できますが、特に日本語の音声認識エンジンは、漢字や和製英語、方言に加えて「名前」の読み方が英語などの他言語と比較して非常に複雑です。
今後も膨大なデータ解析が必要になりますが、日本語は世界のなかではそれほど大きなマーケットではないので、更なる精度向上にはもう少し時間がかかるかもしれません。
ユニボは既に「スキルクリエイター(Skillcreator)」の拡張機能によりChatGPTと連携が可能です。
会話の幅が広がることから高齢者施設や学校、オフィスなどでの活用を期待しています。
ただ、現状では弊社独自のツールと比較するとChatGPTは応答までに時間を要している状態です。
仕草や身振り手振り、表情や声色などノンバーバルなコミュニケーションを取り入れることで、より自然なコミュニケーションが実現できればと考えています。
投資や寄付を行うのは動物の分野だけではなく、芸術分野にも多く出資を行っています。
以下に解説をしていきます。
レイ・カーツワイル博士が「2045年問題」で提唱しているように、ターミネーターやマトリックスのようなロボットによる支配が現実となる可能性は否定できません。
最近は、生成AIによるフェイク動画が問題になっていますが、私たち技術者は、例えイタチごっこになったとしても、良い方向に物事を考えて情熱を持って良いものを作り続けるしかないと思います。
根本的な原因を探究し、問題に対するシステムを構築し、ロボットの暴走を制御していく使命があると考えています。
倫理や道徳は人間の根幹に関わる重要な部分なので、エンジニアと哲学、心理学、脳科学の各分野の有識者を交えた議論を続けています。
実際の研究開発のなかで「お墓にお供えしているお饅頭を食べてもいいですか?」とユニボに尋ねた場合にどう答えるかが話題になりました。
「他人のお墓のお供物は食べてはいけない」「お腹が空いているのであれば構わない」など絶対的な正解は存在せず、結局は、その国の文化背景に基づく価値観がベースになっていくのではないでしょうか。
そういった意味では、私たちが目指しているのは、利他の精神など「日本文化に基づく価値観」であり、守るべき領域をどこにするかが開発側の采配にかかっていると思います。
届けたいのは、モノと人が心を通わせほっとできる瞬間。
ー「ドラえもんのようなロボットが一家に一台ある世界観」の実現に向けた課題などはありますか?
ユニボはシャープさんのロボホンのような携帯型のロボットとは違って、家庭のリビングで完結するようなコミュニケーションを想定しています。
日本の狭小住宅では段差が多く移動が難しいので、家族の一員として自宅に迎えるためには、もう少し時間がかかるかもしれません。
また、他のロボットとの共生など、私たちの生活にいかに馴染んでいくかが今後の課題になるでしょう。
ー御社の今後の展望などについて教えていただけますでしょうか?
私たちは創業以来、モノと人が心を通わせる今までにない新しいコミュニケーションスタイルを創造してきました。
嬉しいときも辛いときも、いつも側にいて励ましてくれたり、時には叱ってくれる「ドラえもん」がいる世界観をコミュニケーションテクノロジーを通じて提供していきたいと考えています。
家庭向けや法人向けなど用途はさまざまですが、ロボティックス、AI、音声、IoTと社会が求めている技術トレンドを常に意識して、さまざまなロボットと連携しながら研究開発を進めて参ります。
key point
- 2014年に創業したユニロボット株式会社は、翌年の国際ロボット展で次世代型ソーシャルロボットとして「ユニボ」が多くのメディアに取り上げられた。
- ユニボは、パーソナルAIに強みを持ち、ユーザーの趣味・嗜好・生活習慣等の個性を学習し、会話内容から感情解析を行うことで感情を理解したソーシャルな会話が可能である。
- ユニロボット株式会社は、スマートスピーカーに代表されるような「ユーザー先導型」ではなく行動変容のきっかけを与えるような「パートナーシップ型」のソーシャルなコニュニケーションを提供してきた。
- ユニボは「スキルクリエイター(Skillcreator)」の拡張機能によりChatGPTと連携することが可能です。高齢者施設や学校、オフィスなどでの活用を期待しています。
- 将来的にロボットに理性を持たせる場合、その国独自の文化背景に基づく倫理や道徳観が重要である。
いかがでしたでしょうか?
日本の労働力人口は、2030年までに現在よりも800万人以上減少する見込みで、労働力不足や高齢化社会にも対応できるロボットは、次世代に欠かせない存在として期待されています。
少子高齢化による孤立が進むなかで、ユニロボット株式会社は、命令通りの作業を行うだけでなく、ロボットが人の温もりや感情のこもったコミュニケーションを実現することで、私たちの暮らしを豊かにしてきました。
ロボティックス、AI、音声、IoTなどのテクノロジーの連携と挑戦によって、人とモノが心を通わせて寄り添い合うことができる「ドラえもんがいる世界」は必ずやってくるでしょう。
intervieweeプロフィール
前田佐知夫
ユニロボット株式会社 取締役 CTOシステムプラットフォーム事業部門長
某大手のデジタルカメラのシステム開発に従事した後、フリーランスでスマホアプリの受託開発を始め、その時の仲間とスマホアプリ開発会社の株式会社ペンシルバイターズ(pencilbiters)を起業。 受託開発でユニロボット株式会社と出会い、携帯型ロボットのシステム開発に携わる。 その縁もあって、ユニロボットに入社し現在に至る。
PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部
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