「FIGUR」で実現するリアルなオンライン試着
洋服は、できれば試着して色柄・スタイル・着心地などを確かめた上で購入したい商品です。
しかし、コロナ禍以降お気に入りのアパレルショップが閉店してしまったという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
ECサイトで洋服を購入することが一般的になりましたが、購入してみたらサイトに掲載されている商品画像とはイメージが違っていたということもあります。
このような状況の中で、株式会社メタクロシスはニッセン、BIPROGYとともに、画像生成AIを活用して衣類の着用パターンを自動生成する実証実験を行ったと発表しました。
今回は、株式会社メタクロシスの新井康平様よりアパレルDX アプリケーション「FIGUR(フィギュア)」についてお話をお伺いしています。
アパレルDX アプリケーション「FIGUR」とは?
御社の業務内容について教えていただけますでしょうか?
株式会社メタクロシスは2022年8月に設立しました。衣服や人体の3Dモデリング技術の研究・開発を行っています。
主な事業内容はバーチャル試着事業、アパレルDX事業、3DCG制作事業などです。
メインで取り組んでいるのは「FIGUR(フィギュア)」という画像生成のサービスです。ニッセン様が保有している既存のデータをもとに「FIGUR」の画像試着機能を活用して、衣類の着用パターンを自動生成しました。
「FIGUR」とはどのようなものなのでしょうか?
「FIGUR」は商品の実物を送付してもらう必要がなく、写真データさえ送付していただければ、そこから新しい画像を生成するサービスです。ECの初期撮影は、商品を手配し、モデルさんをアサインし、スタジオをアサインし、手間と時間がかかります。「FIGUR」はこれをすべてスキップして画像を生成できるので、撮影にかかるコストを削減できます。
ご依頼があれば弊社で生成してお渡しとなりますが、将来的には管理画面ごとお渡しして企業様のほうで生成していただくことを考えています。今は最短2営業日で、実際の生成自体は1生成30秒以内とスピーディーな生成が可能です。
画像生成AIを活用した「FIGUR」で着用パターンを生成
「FIGUR」はどのように使われるのでしょうか?
「FIGUR」は着用パターンを生成します。たとえば商品Aというトップスと商品Bというボトムスをそれぞれ別のタイミングで撮影していて、両方が定番商品として売れてきたとします。
AとBをコーディネートした着用写真を撮るとき、これまではモデルさんをアサインしていましたが、「FIGUR」を使えば撮影の手配は不要で、AとBを組み合わせた着用パターンの生成が可能です。
通常、EC用の撮影では一つの商品を一人のモデルさんが着用します。モデルさんやサンプル品を手配できる数には限りがありますが、商品を購入する消費者の身長・体形・肌の色はさまざまです。
「FIGUR」は着用するモデルさんのバリエーションを生成することで、消費者の多様なニーズに対応します。
「FIGUR」はどのようなしくみで画像生成しているのでしょうか?
「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」という画像生成AIをベースに、自社独自の学習処理や、チューニングを加えて開発しています。遠くから見るとわかりませんが、よく見ると不自然さがまったくないとは言えません。チェック柄は再現できますが、若干ゆらぎがあることがこれからの改善点です。
ファッション好きの一消費者からアパレル業界の変革を目指す
事業を始められたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
もともと新卒でメルカリに入社してファッションに関する技術開発を行っていました。テクノロジーの力でアパレルのショッピング体験を向上させたいと思っていたところ、コロナ禍で自分が行っていた店が一時閉店してしまったのです。
アパレルのために何かしたいという漠然とした思いがあったので、考えるいい機会だからと会社を退職して、服飾の専門学校に半年ほど通いました。
並行して、落合陽一さんを輩出した一般社団法人未踏の人材育成プログラムで、3Dを作ったのが開発の第一弾です。今は生成AIに切り替えて開発しています。
アパレルメーカーの課題を感じておられたのでしょうか?
どちらかと言えば、企業というより自分が一人のアパレル消費者としてファッションが好きだからです。
もともとECはあまり使わず、自分で着て自分のスタイルに合っているか確認したかったのですが、コロナ禍をきっかけにECの重要性が増し、ネットでのお買い物の体験を充実させることが必要と感じました。
また、アパレル業界が環境に与える負荷は大きいので、業界全体の改革が必要だと感じています。
B(ビジネス)向け、C(消費者)向けに生成AIができることとは?
生成AIを活用するとアパレルメーカーにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
中国の工場に洋服の試作を依頼した場合、中国から試作品が戻ってきたら確認して修正で戻して、とやりとりしていると3~6週間はかかってしまいます。生成AIでデータを作り、デザインして3Dで見た感じを確認し、サンプルを作るなど、生成AIと3Dを活用するとリアルタイムを縮めることができます。
また、不要なサンプルや大量の在庫を生み出さないサスティナブルな生産フローの提供が可能です。
消費者向けにはどのようなサービスが考えられるでしょうか?
今はB(ビジネス)向けのサービスとして提供していますが、これによってC(消費者)にもメリットを感じていただけると思っています。
自分の写真をあらかじめ登録しておけば、AIが「これもお似合いでは?」と選んでくれたり、自分の顔や自分が持っている洋服に合いそうな商品をコーディネートしてくれたりというサービスが考えられます。
生成AIは学習すればするほど性能が上がっていくものです。身体の特長からストレートタイプ、ウェーブタイプ、ナチュラルタイプの3タイプに分類する骨格診断というものがあるのですが、例えば「ストレートタイプの骨格の人が着るとこんなイメージです」という提案ができるといいなと思います
進化する生成AIとともに
生成AIは今後どのように進化していくのでしょうか?
今まで生成に2、3分かかっていたものが、最新モデルでは数秒でできる場合もあるので、スピードは間違いなく早くなり、リアルタイムでの生成も遠からず実現するでしょう。今、動画生成が注目されており、これからは動画生成AIを活用したコンテンツが増えてくると思っています。3Dモデルはコストが高いのですが、高精細な3Dモデルを低コストで生成できるようになれば、実際に商品を見に行かなくてもいいほど情報の解像度は上がると思います。
御社の今後の展望などはありますか?
まずは今開発しているものをリリースすること、その次のステップとして今の機能をC(消費者)に届けること、それによって自分がアパレルで洋服を買うときに、生成AIで検討できるところまで持っていきたいです。
その先は、アパレル企業様が今まで店舗でやっていたことをデジタルでできるようにし、消費者の購買体験を充実させます。
また、コストの削減や業務の効率化とともにアパレル業界の環境負荷軽減を目指してまいります。
終わりに
KeyPoint
- 「FIGUR」は、商品の実物がなくても着用写真があれば衣類の着用パターンを生成できる。
- 「FIGUR」を使用すれば撮影にかかる手間とコストを削減できる。
- 生成AIと3Dを活用すれば、不要なサンプルや大量の余剰在庫を生み出さないサスティナブルな生産フローが可能になる。
- 生成AIを活用して画像、動画、3Dができれば、実際に商品を見に行かなくてもいいほど情報の解像度は上がる。
いかがでしたでしょうか?
日本でECが本格的に展開したのは1990年代後半。以前は試着ができないなどの理由でアパレルECを敬遠している人もいました。
しかし、コロナ禍でリアル店舗に行けなくなり、その一方でスマホやSNSが普及して、アパレルEC市場は今後も成長が見込まれています。
試着するのは、もちろんサイズや着心地や似合っているかどうかを確かめるためですが、店員さんの「よくお似合いですよ」の一言に背中を押してもらいたいからかもしれません。
実物を見なくてもいいほどの解像度で商品が閲覧できたり、自分のスタイルに合う商品をすすめてくれたりするなら、ぜひアパレルECを利用してみたいものです。
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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