生成AIを利用して中途採用業務の効率化を目指す
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2024.08.01 生成AIを利用して中途採用業務の効率化を目指す

転職で売り手市場が続いています。求職者にとっては有利な状況と言えるでしょう。

しかし、売り手市場だと大企業への応募が集中することがあります。

優れた人材を確保したいけれど大量の応募書類をさばくのに苦労している人事担当者も多いのではないでしょうか。

このような状況のなかで、株式会社トランスコスモス・デジタル・テクノロジーは、生成AIを利用した採用業務効率化の実証実験を行ったと発表しました。

今回は、株式会社トランスコスモス・デジタル・テクノロジーの三谷様と越田様より、生成AIを利用した採用業務効率化の実証実験についてお話をお伺いしていきます。

ChatGPTを利用して中途採用業務の効率化を目指す実証実験

ChatGPTを利用して中途採用業務の効率化を目指す実証実験

御社の業務内容について教えていただけますでしょうか?

三谷)株式会社トランスコスモス・デジタル・テクノロジーは、トランスコスモス株式会社の戦略子会社です。

業務としては、ソリューション活用、ソフトウェアの開発・運用・コンサルテーションなどを行っています。弊社では以前から生成AIの活用について研究や開発を行ってきました。

今回、生成AI活用の可能性を探るため、ChatGPTを利用して中途採用の業務効率化を図る実証実験を社内で行いました。

実証実験の概要を教えていただけますでしょうか?

越田)実証実験の目的は、生成AIを使用して職務経歴書を要約し、中途採用選考時の負担を軽減することです。

もともと中途採用の選考フローは、エージェント会社から候補者を紹介してもらい、職務経歴書を読んで面談の要否を決めるという流れでしたが、職務経歴書のフォーマットがまちまちで読むのが大変でした。

そこで、担当者が書類を読む前段階として生成AIが選考書類を要約し、応募者の特性、職歴、学歴などが我々の選考条件にかなっているかを客観的に抽出して判断するシステムを作りました。

実証実験で書類選考にかかる作業時間の削減を確認

どのような結果が出たのでしょうか?

どのような結果が出たのでしょうか?

越田)生成AIを活用することによって、中途採用の書類選考にかかる時間が短縮し、人事部門および評価者の業務効率化につながることが確認できました。

これまで様々なフォーマットの応募書類の内容確認に時間がかかっていましたが、AIが事前に応募書類を要約することで確認すべきポイントが明確になりました。弊社の場合は、年間で約400時間の工数削減になるという試算が出ています。

お問い合わせをくださる企業様は、採用業務にすごく負荷がかかるとおっしゃっているので、その手助けをする手段として有効なものになると感じています。

人間とAIの判断は一致したのでしょうか?

越田)DXプロジェクトマネージャー、Microsoft Power Platformエンジニア/コンサルタント、RPAエンジニア/コンサルタントという職種については人間とAIの判断の一致率が100%、採用・育成は80%と、かなり高確率で一致していました。

資格、スキル、経験年数など定量的な情報による書類選考では、人間とAIの判断はほぼ一緒ということです。ただ今回はサンプル数が少なかったので、もっと規模が大きな実証実験であれば多少ブレるかもしれません。

一方、未経験可のWebシステム開発エンジニアの職種では一致率が59%でした。未経験可といっても、ある程度の素養は必要と考える人間の思惑に、AIは忖度できません。マネージャー職のように資格や学歴などはっきりした基準がないところが難しいと思います。

ChatGPTとの対話を重ね、2カ月でシステム開発

ChatGPTとの対話を重ね、2カ月でシステム開発

実証実験を始めるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

三谷)採用担当部門から、(当時)ひとりで1カ月200〜300枚くらいの応募書類を見ているが、AIを活用して効率化できないのか、という相談がありました。ChatGPTがリリースされる前から研究を進めていたのですが、なかなか結果を出せず頓挫しかかっていました。

一方、AIの活用について様々な可能性を模索していました。そんな中、ChatGPTリリースの衝撃は大きく、これを活用して何らかの実績を残さなければエンジニア会社として時代遅れになるという危機感もあり、我々としても取り組みを進めるのは自然な流れでした。

採用業務の効率化に使えないかと苦し紛れにChatGPTにやらせてみたら、いい感じの答えが返ってきて本格的に取り組もうという話になりました。週一でディスカッションしたり、過去に書類評価したものを全部試してみたり、プロンプトを何度も繰り返したりして、2カ月ほどでカタチになりました。

開発期間2カ月とはかなり短期間ですね。どのように開発を進めたのでしょうか?

越田)マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを利用しているので、アジュールに詳しいメンバーにフォローしてもらい、ChatGPTとの対話を重ねながら、ChatGPTの力を借りて開発しました。

自分で考えたアーキテクチャを「レビューしてください」と投げかけると、「こうしたらどうでしょう」と返ってくるので、「それはいいね」と採用するなど、開発のあらゆる工程でサポートしてもらいました。

ChatGPTは人間と違って24時間365日文句を言わずに回答してくれるので、何の気兼ねもなく質問を投げられます。もしChatGPTを使っていなかったら、期間の面でも品質の面でも今回できたような結果には届いていなかったでしょう。

生成AIの使い方は人が決める

生成AIの使い方は人が決める

生成AIにまかせるのは書類選考まででしょうか?

三谷)これは生成AIの使い方の問題だと思います。やろうと思えば生成AIで評価ができてしまうと思います。しかしそれが本当にいい使い方かは議論が必要です。

AI自体が完璧ではないとしたら、人の判断の補助として使うべきだろうと思います。

我々はテクノロジーの会社ですが、一緒に働く人をAIだけで評価するというのは違うと思い、最後はちゃんと人が見て評価する部分を残しておいたほうがよいと考えました。

今回は中途採用での実証実験でしたが、新卒採用では難しいのでしょうか?

三谷)資格、スキル、経験年数など定量的なものは向いているのですが、新卒や未経験者のポテンシャルを読み取ることについては、まだ実証実験のところまで至っていません。

新卒に限らず中途採用でも、本当に会社にマッチした人材を選べるかというところは、もう少し時間をかけて研究しないといけない領域です。

ポテンシャル採用したもののすぐ辞めてしまったり、スキルマッチしなかったりということもあったので、入社後の動きも含めてデータとして蓄積していき、評価する仕組みを作ったほうがいいと思います。

生成AIで仕事の結果は大きく変わる

今後、生成AIはどのように活用されていくのでしょうか?

三谷)我々はテクノロジーの会社なので生成AIを身近に感じて使っていますが、別にテクノロジーの会社でなくても、おそらく通常の業務の中に生成AIが組み込まれていくでしょう。

生成AIを使わずに出す結果が1とすれば、生成AIを使うことによって結果が10にも100にもなる可能性があると思います。

人が成長するのと同じで、生成AIも今はあくまで人の指示に基づいて要約するレベルですが、今後は新しい仕事を与えてレベルアップさせていくのではないかと思います。マイクロソフトがCopilot(コパイロット)と名付けたとおり副操縦士のイメージです。

御社の今後の展望などはありますか?

越田)Webエンジニアとして応募してきたけれど「別のスキル、別のポジションのほうがあなたの才能を活かせるのではありませんか」とレコメンドする機能を作ってみたいと思います。

今は応募に対して判断しているわけですが、もう少しフィールドを広げて、人材のデータベースから我々が欲しい優秀な人材を発見してくれるエージェント的な機能もぜひ作ってみたいです。

今回の実証実験はあくまで工数削減を目的としていましたが、企業にマッチした人を選択できるように精度を高めたり、企業様のニーズに合わせてカスタマイズしたり、より発展的なしくみを考えていきたいと思います。

終わりに

今はまだ応募者自身の言葉で想いを伝え、採用者自身の評価で判断してほしい

key point

  • 生成AIを活用することによって、中途採用の書類選考にかかる時間を短縮できる。
  • 資格、スキル、経験年数など定量的な情報による書類選考では、人間とAIの判断はほぼ一致するが、新卒や未経験者のポテンシャルを読み取るところまでは至っていない。
  • AIは人の判断の補助として使い、最後は人が見て評価すべきである。
  • テクノロジーの会社でなくても、おそらく通常の業務の中に生成AIが組み込まれていくことになる。

いかがでしたでしょうか?

生成AIに職務経歴書を作成してもらい、生成AIに書類選考してもらう。

生成AIが書類を作ってくれるからたくさん応募して、生成AIが大量に届いた書類を読み込む。 

それではまるでイタチごっこです。

もしかしたら遠くない将来、面接の録画をAIが見て応募者の表情や声の抑揚、話す内容から評価を下したり、生成AIが面接官になったり、それが当たり前になるのかもしれません。

しかし、今はまだ応募者自身の言葉で想いを伝え、採用者自身の評価で判断してほしいと思います。

株式会社トランスコスモス・デジタル・テクノロジー
https://www.trans-cosmos-digtec.co.jp/

PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部

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