データとAIを活用し食の課題を解決する。オイシックス・ラ・大地の専門組織DMOとは
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2024.02.19 データとAIを活用し食の課題を解決する。オイシックス・ラ・大地の専門組織DMOとは

世界規模での食料危機やフードロスが与える環境への影響、孤食や肥満の問題など、地球規模でさまざまな食の課題が山積しています。

そうした状況のなかで、オイシックス・ラ・大地は、企業理念を「これからの食卓、これからの畑」と定め、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決することで持続可能な社会の実現を目指してきました。

今回は、オイシックス・ラ・大地株式会社ソフトウェアエンジニアリング本部 Data Management Office シニアマネージャーの中野高文氏より「宅配ECサイト」のパイオニアとしてのフードロスへの取組みや2023年11月に新たに立ち上げた「Data management office(DMO)」によるデータ活用と将来の展望などについてお話をお伺いしています。

全国4000戸以上の生産者と共に51万世帯に笑顔をお届け

全国4000戸以上の生産者と共に51万世帯に笑顔をお届け

御社の事業内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?

当社は、2000年の創業からインターネットでご注文をいただいた食材を定期的にお届けする「EC宅配サービス」を行ってきました。

全国で契約している4000戸以上の生産者と共に51万世帯に安心安全で美味しい有機野菜や無添加加工食品をお届けしています。

「宅配EC事業」では、子育てや仕事で忙しい世代に寄り添った「Oisix」、健康志向の高いシニア層をターゲットにした「大地を守る会」、料理好きな方に向けた「らでぃっしゅぼーや」の3つのサービスを展開しています。

インターネットでの買物が珍しかった時代からECサイトを運営されていたのですね。食材はどのようなシステムでお客様のもとに届くのですか?

会員数が最も多い「Oisix」は、毎週木曜日に「定期ボックス」で1週間分の献立を提案しています。商品は既にカゴに入った状態なので、お客様はゼロから買い物をする必要はありません。

「定期ボックス」の商品は入れ替え自由で、必要ない商品は抜くこともできますし、季節の特集などからお好みの商品を追加することも可能です。

毎日の献立を考える手間や買い物に行く時間をカットできますし、豊富なミールキットには全てレシピがついているので、仕事が忙しい社会人や子育て中の主婦(夫)の方にお喜びいただいています。

フードロス削減から物流のDX化まで専門組織「DMO」がひらく可能性

フードロス削減から物流のDX化まで専門組織「DMO」がひらく可能性

新たに立ち上げた専門組織DMO(Data management office)について教えていただけますでしょうか?

創業以来、データの数値は常に意識してきましたが、DMOを立ち上げることによって、全社員がデータを有効活用することにより、迅速な意思決定ができることを目指しています。

全社員が質の高い分析ができるような土壌を構築する「データマネジメントチーム」と高度なデータ利活用を推進し価値を創出する「データサイエンスチーム」の2チームで構成されています。

DMOは事業部を横断する部署になり、データ分析を行ったうえで、それぞれの事業部に対するフィードバックを行います。

今まで以上にデータが有効に活用されるのですね。DMOはどのような課題解決を目指しているのですか?

最も大きな期待が寄せられているのが、AIを活用した精度の高い需要予測です。

需要予測の精度を高めることができれば、的確な発注や在庫につながるので、流通の過程で発生する食品ロスの削減につながるでしょう。

また、少子高齢化による労働力不足が緊急の課題となるなかで、物流に関わる作業をDX(Digital Transformation)により省力化することが可能になります。

さらに、商品開発やマーケティングの領域においても、信頼できるデータが常時活用できる環境を整備することでサービスの向上につながるのではないでしょうか。

流通によるフードロス脅威の約0.2%を達成

流通によるフードロス脅威の約0.2%を達成

御社は以前からフードロスに関する取組みをされていますが、具体的な数値など教えていただいてもよろしいでしょうか?

一般的な小売業の流通におけるフードロスが5〜10%と言われるなかで、データを活用した需要予測によって弊社は約0.2%に抑えています。

また、ミールキットの活用により、家庭での食品廃棄量が約3分の1まで減少したというデータもあります。

さらに、どんなに美味しくても、見た目が不揃いだったり豊作によって処分されてしまう「規格外・豊作野菜」をお届けすることによるフードロスの削減に創業当時から取り組んでいます。

コンビニエンスストアやスーパーでもAIを駆使してフードロスをゼロに近づけることは可能なのでしょうか?

コンビニエンスストアやスーパーなどの小売業は「消費者が欲しいと思う商品が常にある」状態を保つ必要があります。

欲しい商品がない状態では「機会損失」につながるため、欠品のないように発注陳列をしているので、将来的に需要予測の精度があがったとしても、廃棄ゼロという数値は厳しいかもしれません。

ただ、最近は、大手コンビニやスーパーなど小売業者がさまざまな企業努力をしているので、流通によるフードロスは減少していくのではないでしょうか。

将来的にはお客様の体調や嗜好に寄り添った提案をしたい。

将来的にはお客様の体調や嗜好に寄り添った提案をしたい。

御社のデータを活用すれば、お客様ひとりひとりに合わせた提案も可能なのでしょうか?

食はお客様の健康状態や嗜好、季節の移り変わりにも影響されるので、音楽やファッションなど他のサービスと比較すると提案が難しい分野として知られています。

また、お客様に喜んでいただける商品全てを提案すれば良いわけではなく、フードロスなど多岐にわたる分野に適応しなければいけません。

健康志向が高まっている中、その時々の体調や健康状態にも寄り添った、食の提案ができると、よりお客様に喜んでいただけるとも考えています。

DMOを中心に全社員がデータを駆使して食の課題解決に取り組む

DMOを中心に全社員がデータを駆使して食の課題解決に取り組む

これからの課題などあれば教えていただけますでしょうか?

現在の流通における在庫ロスを如何に削減するかが直近の課題です。

お客様が欲しい商品や食材が売り切れることのない状態で在庫を減らしていくためには、需要予測の精度をあげてバランスの取れた環境を構築しなければいけません。

2023年11月にはオイシックスの主力商品であるミールキット「Kit Oisix」の需要予測システムをスタートしましたが、リリース前のテスト運用では予測誤差率が30%から20%となる実績も出ているので、引き続きお客様の満足とフードロスの削減につなげていきたいです。

DMOの立ち上げが社会課題の解決とお客様の満足に寄与していくのですね。将来の展望などはありますか?

食に関するデータの提示は今までは画像やテキストが中心でしたが、これからは、音や匂いなどで味を表現できるようになるなど多様なデータ活用が期待されています。

非常にチャレンジングですがさまざまな可能性があると考えています。

また、健康の分野では「治療から予防へ」という考えが広まり、食習慣の改善によって健康寿命を伸ばそうとする動きが進むなか、テクノロジーを活用した変革が求められています。

DMOを中心に、社員全員でデータを活用することで、目の前にあるフードロスを削減しながら、中長期的な視点で食を通じたお客様の幸せと社会課題の解決に取り組んで参ります。

終わりに

地球規模の社会課題や健康意識への高まりによって、食への意識が大きく変化している

key point

  • オイシックス・ラ・大地は2000年の創業以来食材を定期的に届ける「EC宅配サービス」を展開している。
  • 全国4000戸以上の生産者と共に51万世帯に安心安全で美味しい有機野菜や無添加加工食品を届けている。
  • 「宅配EC事業」では「Oisix」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の3つのサービスを展開している。
  • 専門組織DMO (Data management office)は「データマネジメントチーム」と「データサイエンスチーム」の2つの組織で構成されている。
  • AIを活用した精度の高い需要予測や物流に関わる作業をDX(Digital Transformation)により省力化することなどが期待されている。

いかがでしたでしょうか?

世界的な食料危機や環境破壊など地球規模の社会課題や健康意識への高まりによって、食への意識が大きく変化しています。

日本では海外のような大規模な食料危機は起きていませんが、低い食料自給率で多くの食料供給を海外からの輸入に頼っているため、災害や国際情勢によって深刻な食料危機に陥る可能性は否定できません。

不確実性の高い時代のなかで、オイシックス・ラ・大地は、食のサブスクリプションビジネスのパイオニアとして、創業以来お客様と生産者とつながり膨大なデータを蓄積してきました。

オイシックス・ラ・大地のDMO創設によって実現する精度の高い需要予測は、食品ロスの削減と食品トレーサビリティの普及、流通・小売業の人手不足・労働環境を改善するロールモデルとして持続可能な社会に寄与するのではないでしょうか。

intervieweeプロフィール

中野 高文

オイシックス・ラ・大地株式会社 ソフトウェアエンジニアリング本部Data Management Office シニアマネージャー
中野 高文

コーポレートコミュニケーション部
広報室 室長 田頭 優子
オイシックス・ラ・大地株式会社

2000年マッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍していた現代表取締役高島宏平氏によりオイシックス株式会社を設立。2017年代表取締役会長に藤田和芳氏、代表取締役社長に高島宏平氏が就任。2018年株式会社NTTドコモとの業務資本提携および「らでぃっしゅぼーや」のグループ化を発表。2018年7月、経営統合に先駆け「オイシックス・ラ・大地株式会社」へ商号変更。同年10月、らでぃっしゅぼーや株式会社との経営統合を実施。国内主要宅配事業である「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」をはじめ、子会社の「とくし丸」「Purple Carrot」などの事業を通じ、食の社会課題の解決を目指している。

PHOTO:iStock
TEXT:PreBell編集部

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