茶殻をアップサイクルする「茶殻リサイクルシステム」とは みんなのインターネット

茶殻をアップサイクルする「茶殻リサイクルシステム」とは

かつて、お茶は家庭で急須に茶葉をいれて飲むものでした。

1985年に缶入り煎茶、1990年にペットボトルの緑茶飲料が発売されて以来、緑茶飲料の消費量は年々拡大しています。

近年では、健康志向や和食の人気が高まり、緑茶の輸出量も増加しています。2023年度、伊藤園で茶殻の年間生産量は56,600トン、10トン車で約6,000台分でした。

このような状況の中で、株式会社伊藤園は、「茶殻リサイクルシステム」によって開発された「茶殻紙」を活用し、株式会社キングジムと「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」を共同開発したと発表しました。

今回は、株式会社伊藤園中央研究所の佐藤様より「茶殻リサイクルシステム」についてお話をお伺いしています。

「茶殻リサイクルシステム」で開発した「茶殻紙」で紙製ホルダーを開発

「茶殻リサイクルシステム」で開発した「茶殻紙」で紙製ホルダーを開発

御社の業務内容について教えていただけますでしょうか?

株式会社伊藤園は「お~いお茶」などで知られる総合飲料メーカーです。茶葉、ティーバッグ、インスタント製品や、茶系飲料、野菜飲料などの開発から販売までを手掛けています。

総合飲料メーカーとして食材の健康性、おいしさ、地球環境に関する研究・技術開発を続けています。環境に関する研究では、廃棄物の削減、リサイクル、アップサイクルなどをテーマに取り組んでいます。

その1つに、茶系飲料製品を製造する際に排出される「茶殻」を活用して工業製品にアップサイクルする取り組みとして「茶殻リサイクルシステム」があります。こちらの「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」は、「茶殻リサイクルシステム」で開発した「茶殻紙」を使って株式会社キングジム様と共同開発しました。

「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」とはどのようなものなのでしょうか?

「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」は、茶殻と紙パルプを混合して生産したA4サイズが入る紙製ホルダーです。

通常使用していた紙の重量は1㎡あたり85gですが、茶殻紙は1㎡あたり68gで、17gの差があります。つまり通常の紙を使用するより紙パルプの削減にもつながっています。また、茶殻の地模様で中が見えづらい情報保護効果があります。ほのかなお茶の香りがあるのも特長です。

キングジム様は、グリーン購入法やエコマークに適合した商品など、環境に配慮した商品開発に積極的な企業です。弊社と企業理念が一致していたことが共同開発の背景にあります。

「茶殻リサイクルシステム」で約100種の商品を開発

「茶殻リサイクルシステム」で約100種の商品を開発

「茶殻リサイクルシステム」について教えていただけますでしょうか?

「茶殻リサイクルシステム」は、茶殻をアップサイクルして工業製品にする取り組みです。抗菌効果や消臭効果といった機能を持つ茶殻を工業製品などの原料に配合し、「茶殻アップサイクル製品」を開発しています。最近は、茶殻の地模様による情報保護効果などを利用して選挙封筒などにもアップサイクルしています。

私が入社した2000年より前から、茶殻は堆肥や牛のエサにリサイクルされていました。しかし、耕作地は年々減少しているというデータがあり、20年先の未来を考えて茶殻を別のものにリサイクルすることになり「茶殻リサイクルシステム」の研究が始まりました。

工業製品にするためには茶殻を乾燥させる必要がありますが、そのために燃料を使うとCO2が発生します。そこで事前乾燥せずにリサイクルする方法を開発しました。

リサイクルとアップサイクルはどのように違うのでしょうか?

本来廃棄されるものに新たな価値をつけて新しい製品へと生まれ変わらせる手法をアップサイクルといいます。例えば、紙に茶殻を混ぜたときにお茶の香りがしたり、抗菌効果や消臭効果、情報保護効果があったりといったような、紙に価値を上乗せしてより良いモノをつくることです。

実は、当時は茶殻の持つ機能性を工業製品に付加したいと研究を進めていましたが、最近になりアップサイクルという言葉が誕生しました。

「茶殻リサイクルシステム」で開発した茶殻リサイクル製品の主な基本素材は、建材、樹脂、紙です。

その他にも様々な分野に茶殻をアップサイクルしており、スポーツ分野や伝統工芸品などにも茶殻を配合しています。珍しいものとしては車のボディもあります。製品の数は100種類くらいです。

研究の端緒はおばあちゃんの知恵袋

研究の端緒はおばあちゃんの知恵袋

「茶殻リサイクルシステム」の開発ではどのようなご苦労があったのでしょうか?

茶殻のリサイクルを研究する上で、まず思い浮かんだのがおばあちゃんの知恵でした。子どもの頃、祖母が茶殻を畳の上にまいて掃除していて、茶の香りは畳と相性がいいと思っていました。そこで畳の中に茶殻を入れたら面白いものができるかもと思いました。

畳を調べたらインシュレーションボードという建材を使っていたので、茶殻をインシュレーションボードに入れてみたら、消臭効果があることがわかったのです。

一番困難だったのは、茶殻が腐りやすかったことです。テストのために4トンの茶殻を運んだら工場からクレームの電話があり、翌日工場に行ったら、茶殻が腐って真夏なのに雪山のように白くなってしまっていました。

その後、実験室や工場でテストを重ねた結果、お茶の香りがするボードが完成しました。それが、茶殻リサイクル製品の第1号「さらり畳」です。

他にも問題があったのでしょうか?

建材会社などいろいろなところに持ち込んだのですが、どこでも「お茶屋さんが作ったボードで本当に大丈夫なの?」と言われました。

当時、弊社に面白い営業マンがいました。別件の会議で会ったときに、こういうものを開発したけど見向きもされなくて、と話したら「こんな面白いものなら僕が売ってくるよ」と言ってくれたのです。

建材として使うためにエコマークを取得するよう頼まれたのですが、社内に経験者がいなかったので、エコマーク事務局に問い合わせして準備しました。もともとJIS規格品質で開発しましたが、エコマークにも認定されたことで畳屋さんのファンも増えて、畳業界では「茶ボード」という愛称で呼ばれてロングセラー商品となっています。

アップサイクルの商品開発が抱える難しさ

アップサイクルの商品開発が抱える難しさ

これは失敗したという製品はありますか?

ある意味失敗、ある意味成功だったのはマッチです。マッチを擦ると硫黄臭さが出ます。マッチの先端に茶殻を入れたら、硫黄臭さが出ない無臭のマッチになりました。

ですが、無臭マッチは使用する茶殻があまりに少ないことが課題でした。1回の生産で使用する茶殻は、数百キログラム程度でした。

また、マッチの先端に茶殻を入れるには、茶殻を非常に細かくしなくてはいけません。そのためにエネルギーを使うともったいないので、そのままの茶殻で何とかできないかと研究を重ね、茶殻液化技術を開発しました。そして、この技術を革製品のなめし剤や繊維製品の染色剤として応用しています。

アップサイクルは従来の商品開発より難しいのでしょうか?

様々な観点で考えなくてはいけないので、普通の製品開発より難しい部分もあります。

例えば、「茶殻染色剤」を使用した革製品の開発がその一つです。鞣し工程で茶殻を使用する場合、全ての茶殻が有効利用されるわけではなく、加工の過程で使えない部分が廃棄物として残ってしまうという課題がありました。そこで私どもは、飲料工場で茶殻を液化して鞣し工場に運ぶことで、その課題を解決しました。

リサイクル製品の多くは、エネルギーを使って乾燥させたものを混ぜていたり、飲料工場の廃棄物は減ったけれど他の工場で廃棄物が出ていたりしますが、私どもは先の先まで考えています。

これからも「ここに茶殻が入っているの?」と驚かれる商品開発を

これからも「ここに茶殻が入っているの?」と驚かれる商品開発を

開発した商品でユニークなものはありますか?

2023年にBANDAI SPIRITS様と連携して、茶殻を配合した樹脂で作ったガンダムシリーズのプラモデル「1/1ザクプラくん」を商品化しました。

10年くらい前に「茶殻は緑色なのでザクに入れませんか。」とBANDAI SPIRITS様にお声がけしたのですが、そのときは面白いプラモデルができそうだという反応をいただきました。

その後、昔の成型品がBANDAI SPIRITS様の倉庫に残っていたらしく、お茶の香りがして面白いとお声がけいただき開発に至りました。当初はマニアックすぎて一部の人しか驚いてくれませんでしたが、今では皆さんから「ここに茶殻が入っているの?」と驚いていただくことが増えました。

御社の今後の展望などはありますか?

新橋の「お~いお茶ミュージアム」は、お~いお茶の知識を体感できる施設です。そこにはアップサイクルコーナーがあり、茶殻を活用したアップサイクル商品を紹介しています。

また、私どもの研究所にも工場に併設されたミュージアムがあり、小学生や中学生が訪れます。茶殻の話をするとみなさんが喜んでお茶の香りを楽しみ、茶殻が入ったパネルを使用したトラックのボディを見て感動してくれます。

「え、こんなものにも茶殻が入っているんだ。」と驚いてもらえるのが、技術者としては一番うれしいことです。これからも面白いものを開発していきたいと思います。

終わりに

茶殻をアップサイクルする「茶殻リサイクルシステム」とはのまとめ

KeyPoint

  • 「茶殻リサイクルシステム」は、抗菌効果や消臭効果などの機能を持つ茶殻をアップサイクルして工業製品にする取り組みである。
  • 「茶殻リサイクルシステム」では、化石燃料を使って茶殻を乾燥するのではなく、含水のまま茶殻を輸送する技術を確立した。
  • 茶殻リサイクルの研究の端緒は、おばあちゃんの知恵だった。

いかがでしたでしょうか。

緑茶は日本人の生活に欠かせない飲み物です。ただ飲むだけでなく、茶殻でクッキー、おひたし、つくだ煮、てんぷらなど、食べてもおいしいものです。

茶殻には抗菌効果や消臭効果があるので掃除にも使えます。畳に茶殻をまいてほうきで掃けば、茶殻の湿気でホコリが立ちにくくなりますし、乾燥させた茶殻を下駄箱に置けば、嫌なニオイを吸収してくれます。

茶殻はほかにもさまざまな活用方法があります。お金がかからずサステナブルなお茶活をはじめてみてはいかがでしょうか。

TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock

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