人間の五感を数値化へ。脳波測定を通じて人間の内面を数値化するSandBoxの挑戦
近年の私たちの生活は、スマートフォンやスマートウォッチといったデバイスといったものと切って切り離せなくなりました。
それに合わせて、VR等の機器も身近なものになりつつあります。
身近になったものの1つに「脳波測定」があります。
以前は、脳波測定というと専門の機関で実施する必要がありました。
ですが、現在は睡眠中の脳波測定といったこともネットショッピング等で簡単に入手することができ、比較的簡単に実施することができます。
こういった「脳波測定」の分野を主な分野として事業を行っている「SandBox」という企業があります。
SandBoxは「脳波測定」をどのように実施し、どういった事業につなげているのでしょうか。
今回は、株式会社SandBox 代表取締役CEO 菊地 秋人さんにお話を伺っていきます。
Point
- SandBoxは脳波測定の事業を実施している
- 脳波を測定することにより、広告や製品がより効果的に訴求できる形で作成することができる
- 今後日常生活の動線(タクシーの車内等)で脳波測定を実施して、脳波測定を身近なものにしようと尽力をしている
脳波分析を事業に活かす
SandBoxはどのような事業を実施しているのか、簡単に教えていただけますでしょうか?
菊地:弊社のメインの事業は、脳波計測によるマーケティング支援です。
具体的には、人間の五感をリサーチフィールドとして事業を行っています。
人間が何かを見たり、聞いたり、あるいは匂いをかいだ際にどのような変化が脳に起こっているかを研究することを主な事業としておこなっています。
会社のメンバーとしては研究のバックラウンドをもったメンバーも多く、海外の大学や研究所に所属しながらリモートで副業として参画していただいているメンバーも多くおります。
脳波測定を実施することで、どういった企業のどういった事業に役立つのでしょうか。
菊地:商品や広告に触れた消費者がどのような反応をするのか、脳波の観点から数値化することが可能です。
お客様としてはToCの企業様が多く、食品や消費財、自動車や広告といった企業様が多くいます。
どのように脳波をそのような企業様の活動に活かしているかというと、脳の活動の数値化です。
たとえば、広告の脳波を分析する場合には、被験者に広告を見ていただきます。
その広告を見た時脳内でどのような反応が起こっているかを分析し、どのような広告を打つのが効果的なのか、脳波の観点から分析をさせていただいています。
この分析をテレビCMに適用したところ、購買率が130%に増加したという実績もあります。
その他にも食品業界のお客様では、睡眠に寄与する食品に添加する香料の選定をする際、「どの香料がリラックスに寄与するのか」を脳波の観点から分析をさせていただきました。
脳波分析を行っている企業は他にも多くありますが、御社はどういった強みがあるのでしょうか。
菊地:他社と比べて、納期までのスピード感が強みかと思います。
他社が多く実施している脳波測定では、その分析工程の一部を目視チェックで実施しているものが多いです。
ですが、弊社は脳波測定に加えてAIや自動化といったエンジニアリングに対して創業当初から投資を実施しています。
したがって、目視チェックで行っているところをAI等で自動化することが可能です。
このことから、納期を大幅に短縮することができ、それが他社との差別化要因になっているかと思います。
脳波測定をより身近に
脳波を測定するとなると専門の研究所のようなところに行かないと実施できない印象です。
菊地:たしかにそういった研究もあります。
たとえば音の研究をしたい場合、静かな場所が必要になるので、どうしても特定の静かな場所に被験者に来ていただく必要があります。
ただ、これから弊社では「日常の動線の中で脳波を測定する」ことを広げていきたいと考えています。
現在計画しているのは、個室かつ多くのユーザーが利用している個室の場所に設置することです。例えば、タクシーのような場所で脳波を取れないかと考えています。
これが広まっていくと、タクシー内に広告が流れていますが、そのような広告を見ることによる脳波の測定が日常的に可能になります。
ただ、なんのインセンティブもないとタクシーに乗車するお客様はやって頂けないと思いますので、クーポン等を通じてインセンティブを付与する必要はあるかと思っています。
ただ、タクシーに乗られる方は情報感度が高い方が比較的多いので、こういったことも実施いただける確率も高いのではないかと考えています。
今後どういったデバイスで脳波測定ができるようになっていくのでしょうか。
菊地:イヤフォン等、日常的に装着するデバイスで脳波測定ができるようになっていくのではないのでしょうか。
現在もAmazon等で簡単に脳波測定の機械を購入することができますが、やはりサイズ的には大きいものが多いです。
加えて、脳波測定をしても数値をただ表示したりするだけで、一般の人にはあまりメリットが多くないのも現状です。
ですが、今後イヤフォン等で脳波を測定することができるようになってくるかと思います。
実際、AppleがAirpodsを脳波計として使用する特許を取得しており、そのような流れが出来ているかと思います。
そうなると、脳波測定がより身近になり、脳波の測定を実際にやってみたいと考えるユーザーも増えていくのではないでしょうか。
ゲームでの経験から脳の分析の分野へ
菊地さんはゲーマーとして国際大会で大きく結果を残した経歴があるかと伺いました。このことは脳波の事業を行うにあたってどういった関連があるのでしょうか。
菊地:ゲームでは、すべてのものが数値化されています。
たとえば、RPGでは何か技を覚えたいとなったら「この数値をこの程度達成すればゲットできる」といったパラメーターがはっきりと確立されています。
このように数値化ができていると、自身が歩むべき道筋が明らかになるため、ゲームの世界では努力が報われないということがあまりありません。
一方で、現実の世界はそういうわけではありません。
例えば、人間の身体では数値化されていないものも多くあります。
血圧等の身体的なものであれば数値化されていますが、たとえば「集中力」といった内面のものはまだ数値化されていないものも多くあります。
ゲームの世界において、数値を使って歩むべき道筋が見えていた世界を、現実の世界にも実装したいという考えはあるかと思います。
まだ脳の分野は未知数
今後成し遂げていきたい分野はあるのでしょうか。
菊地:今後成し遂げていきたいのが、「脳の拡張」です。
今は脳の分析としてデータを取得分析している段階ですが、脳に刺激や介入を与えることでなりたい状態になるようなことができたら良いかと思っています。
たとえば、ゲームをやっていると「ゾーンに入る」ことがあります。
ゾーン状態になると、時間がスローモーションになったように感じられ、自身の思考がクリアになり頭の回転が早くなります。
そういった原体験があり、現在ゾーンの研究ではゾーンに入っている瞬間の脳波の分析を行っています。
将来的にはその瞬間の脳波のデータと属性のデータを組み合わせることで、「介入」をやっていきたいと考えています。
例えば、「私は二十代の男性です」と属性等の情報とゾーンに入っている瞬間の脳波の情報を掛け合わせることにより、意図的にゾーンを作り出すといったイメージです。
今後脳の分野はどういった形で発展していくと考えていますでしょうか。
菊地:我々の脳波の事業に価値を感じて挑戦したいと思う企業が増えていくことや、Appleなどの超大手が多くのユーザーに脳波のハードウェアを提供していくことで、どんどんと拡大していくのではないかと思っています。
それに合わせて、先ほどお話をした「介入」の分野も増えていくと思います。
現在、脳の分野は宇宙が一部のことしか分かっていないのと同じくらい分かっていないことが多いです。
たとえば、睡眠1つとっても、なぜ1日何時間も意識を失って寝る必要があるのかはまだ解明されていないところもあります。
こういった謎を取得するデータが増えることによって少しずつ解明されていって、それに合わせて今までは考えられなかったソフトウェアも充実していくかと思います。
そうすると、現在よりも脳波の測定や利用がより身近になっていくのではないかと思います。
終わりに
key point
- SandBoxは脳波測定の事業を実施しており、エンジニアリングに強みを持つチームである。そのことで他社と納期の圧倒的な速さで差別化をしている
- 代表の菊地さんはゲーマーとして多くの実績を残しており、その経験をもとに脳波の事業を行っている
- 今後、脳波測定の機材が身近になっていくとソフトウェアも充実し、脳波測定のデータが増えていく。結果として、まだ解明されていない脳の分野が分かっていく
いかがだったでしょうか?
脳波測定には、大きな機材を使って研究所で実施するものといったイメージもあり、自分には遠い存在であるとイメージを持つ方もいます。
ですが、脳波測定は普段自分が見ている広告や商品をより良い体験にするもので使われている技術です。
今後、機材がより身近になってくることで、自分自身もそういった研究に参加する機会が増えるかもしれません。
ぜひ、今後広告や商品を見たり使用する際には、こういった脳波測定の結果が使われているかもしれないと考えて見てみると面白いかもしれません。
株式会社SandBox
2017年2月創業。
「ヒトの脳を読み解き、潜在能力の地図を創る」を目標に、脳波解析による映像分析や、製品開発サービスを提供している。
主にToC企業向けに、脳波によるデータを測定して課題を特定し、改善提案までサポートする。
その測定はクライアント企業の広告や商品開発に役立てられている。
Microsoft for StartUpsやForbes Japan等様々な賞を受賞。
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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