院内と院外を強固なセキュリティ対策で安全につなぎ、医師の業務効率化をはかる「CONASAS」
2024年4月から始まる医師の働き方改革で、医師の時間外労働の上限規制が適用されることになりました。しかし、長時間労働は常態化しており、有効な改善策はまだ見つかっていないようです。
また、新型ウイルス感染拡大なども影響し、オンライン診療による遠隔医療やAI問診などのデジタルヘルスサービスが増えており、こうしたサービスの活用による業務効率化や質の高い医療の提供が求められてきています。
このような状況のなかで、キヤノンITソリューションズ株式会社は、医療DXを実現する新たな医療機関向けサービス「CONASAS(コナサス)」の提供開始を発表しました。
今回は、キヤノンITソリューションズ株式会社の松本柚実さまと菅屋俊祐さまより「CONASAS(コナサス)」についてお話をお伺いしています。
(松本)キヤノンITソリューションズ株式会社は、キヤノンマーケティングジャパングループのITソリューション事業の中核を担う企業です。
弊社には大きく4つの事業があり、私どもはデジタルイノベーション事業部門に属しています。
これまでもキヤノンマーケティングジャパングループの一員として、クラウド事業やセキュリティの課題に取り組んできました。その経験を活かし「CONASAS(コナサス)」で、院内ネットワークと院外ネットワークを安全につなぐ医療機関向けのプラットフォームを提供いたします。
「CONASAS」とはどのようなものなのでしょうか?
(菅屋)「CONASAS」は、医療DXを実現する医療機関向けサービスです。多層防御による強固なセキュリティ対策を施しており、医療機関の院内ネットワークと院外ネットワークを安心安全に接続します。
電子カルテがある院内のクローズドネットワークと、AI画像診断支援などのデジタルヘルスサービスや医療機関が閲覧を希望するサイトのある外部ネットワークを安全に接続することで、診察の効率化を図ります。
運用のアウトソースによって、医療機関側の負担も軽減され、IT人材が少なくてもセキュリティ対策が可能です。
初期費用はかからず、月額利用料のお支払いでサービスを開始できるので導入しやすくなっています。
ICT技術の進展、コロナ禍、医師の働き方改革を背景に「CONASAS」を開発
開発のきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
(松本)私どもがいるデジタルビジネス部門では、もともとセキュリティについて取り組んでおり、クラウド活用を推進するという課題がありました。
医療情報システムを用いて、安全かつ適切に情報を運用・管理するための指針として厚生労働省、経済産業省、総務省の3省が提示する「3省2ガイドライン」のコンサルティングを行っていた実績もあり、医療業界のクラウド活用とセキュリティ対策について検討していました。
新型ウイルス感染拡大により、オンライン診療やAI問診などのデジタルヘルスサービスの急速な成長、遠隔医療が求められるなど、医療の在り方が大きく変容し、より一層、医療DXの実現が求められるようになったことも開発を加速したきっかけになっています。
医師の働き方改革も影響しているのでしょうか?
(松本)2024年4月の医師の働き方改革では、時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。
外部のデジタルヘルスサービスなどを活用できれば、業務の効率化が期待できますが、現状ではセキュリティなどさまざまな障壁があり十分に活用できていません。
そこで、強固なセキュリティ対策によって、院内から外部のデジタルヘルスサービスへ安全に接続できるプラットフォームとして「CONASAS」を開発しました。
これまで医療現場にはどのような課題があったのでしょうか?
(菅屋)医療機関では、電子カルテのデータがある院内ネットワークと外部のネットワークはつながっていません。情報漏えいを防ぐために院内と院外を完全に分離させるという考え方があるためです。
院内ネットワークがクローズドで外部に接続できないと、外部のデジタルヘルスサービスは利用できません。
また、院内ネットワークとは別の端末で外部のデジタルヘルスサービスを閲覧できても、電子カルテのある院内ネットワークとはつながっていないため、得た情報を見て書き写す手間がかかっていました。
(松本)外部のデジタルヘルスサービスで得た情報を書き写したり、電子カルテとは別の端末から見たレントゲン写真を印刷し、PDFデータに変換して取り込んだりといった診療以外の事務的な時間を削減でき、業務の効率化につながります。
オプションメニューでは、あらかじめ登録された医療従事者が院外から電子カルテを閲覧できるようになります。たとえば、複数の病院を掛け持ちするお医者さまは、カンファレンスなどの会議だけのために病院に行くことがありますが、外部から安全に接続できればリモートで会議に参加できるようになります。
お医者さまの在宅勤務はあまり想像できませんでしたが、自宅で電子カルテを見ながら病院にいるスタッフに指示を出すことが実現できるかもしれません。
「院内ネットワークと院外ネットワークがつながっていなければ安全」とは限らない
過去には病院がサイバー攻撃を受けた事案もあるようですが、外部とつながっていなければ安全なのでしょうか?
(菅屋)医療機関では院内ネットワークと院外ネットワークが分離しており、接続していないから安全と思われています。
しかしシステムの中には、ふだんは閉じていてもメンテナンスのために外に通じる出入り口があり、そこから侵入されたというケースがあります。
ファームウェアをアップデートすればある程度の攻撃は防げます。しかし、病院内だけで万全のセキュリティ対策を行うのは困難です。
「CONASAS」は、どのようにして強固なセキュリティになっているのでしょうか?
(菅屋)院内ネットワークから外部のネットワークへ接続するときのセキュリティを「UTM」と「CASB」で確保します。
「UTM(Unified Threat Management)」は院内と院外の出入り口の門番のようなものです。複数のセキュリティ機能を包括的に管理するので統合脅威管理と訳されます。
「CASB(Cloud Access Security Broker)」には、サービスの可視化・コンプライアンス・データ保護・脅威への対策といった機能があり、クラウドサービスのセキュリティを強化します。
また、お医者さまが診療に使われるデジタルヘルスサービスや学術サイトについては、われわれが安全性を確認できたサイトだけアクセスが可能です。UTMとCASB、当社運用チームでの多層的なセキュリティ対策を施しています。
「CONASAS」で医療DXを実現し、すべての人が健康にいきいきと暮らせる世界をつくる
御社の今後の展望などはありますか。
(菅屋)「CONASAS」で医療機関のデジタルヘルスサービス活用促進、業務効率化を支援することにより、お医者さまだけでなくその先にいる患者さまへも価値を提供したいと考えています。
お医者さまが診察時間を効率的に使うことができれば、患者さまに向き合う時間が増えます。
厚生労働省「保健医療2035」の提言には「子どもからお年寄り、また患者や住民、医療従事者まで、すべての人が安心していきいきと活躍し続けられるようにさまざな暮らし方・働き方・生き方に対応できる20年先を見据えた保健医療システムをつくる」とあります。
適切な診療を、適切なタイミングで受けることができる、健康寿命を延ばして生き生きとした生活を送ることができるためのより良い医療を提供する体制づくりの一助となれるよう、同じ想いを持ったデジタルヘルスサービス事業者さまとの協業をはじめ、今後も「CONASAS」の機能を順次拡充します。
key point
- 「CONASAS」は多層防御による強固なセキュリティ対策を施しており、医療機関の院内ネットワークと院外ネットワークを安心安全に接続する。
- IT人材が少なくてもセキュリティ対策が可能で、初期費用はかからず月額利用料の支払いでサービスを開始できる。
- デジタルヘルスサービスや学術サイトを活用できるので、診療以外の事務的な時間を削減でき、業務の効率化につながる。
いかがでしたでしょうか。
医師の働き方改革が行われる背景には、医師の長時間労働が常態化している現実があり、早急に改善しなくてはなりません。
改善のために取り組むべきことのひとつに、医師の仕事の見直しがあります。看護師などへのタスク・シフトとともにICTによる業務の効率化も労働時間削減の手だてとなるでしょう。
医療DXが普及して医師の労働条件が改善され、患者が安心して受診できる日が来ることを期待しています。
「CONASAS」製品紹介サイト
https://form.reg.canon-its.co.jp/l/939353/2024-04-15/5yx3fr
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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