研究者が研究に没頭できる世界を創る「リプルア」とは
日本の研究費はアメリカ、中国に次ぐ世界第3位で年間20兆円程度です。3位と言っても、日本は競争力がずっと落ち続けていると言われています。
「世界最高水準の研究力を取り戻す」ことを掲げる日本政府ですが、アメリカの70兆、中国の50兆と比べると使える金額は限られています。
アメリカの3分の1以下の研究費で世界最高水準を取り戻すことはできるのでしょうか。
このような状況の中で、株式会社Inner Resource(インナーリソース)は研究室の業務効率化を支援するクラウド購買管理ソフト「リプルア」を提供しています。
今回は、株式会社Inner Resource 代表取締役 澤田英希様より「リプルア」についてお話をお伺いしています。
研究施設に特化した購買・在庫管理システム「リプルア」とは
御社の業務内容について教えていただけますでしょうか?
株式会社Inner Resourceは、理化学系の研究所や実験室に物品を納入する代理店や商社で働いていた創業者たちが2017年に創業した会社です。「研究者が研究に没頭できる世界を創る」ことをミッションとして掲げ、ウェブコンテンツの企画・制作・管理・運営やシステムの開発・管理・運営などを行っています。
弊社が開発した「リプルア」は研究施設に特化した購買・在庫管理システムです。見積もり・発注・請求などの購買フローと試薬や消耗品の在庫管理をカバーし、研究施設の業務効率化を図ります。
「リプルア」とはどのようなものなのでしょうか?
「リプルア」は、研究室と理化学系の代理店や商社をつなぐプラットフォームです。物品の見積を取りたいとき、「リプルア」は最大3社の見積を一括で依頼できます。
代理店や商社は見積の依頼があると、金額、納期、キャンペーンの内容など備考を提示します。研究者は、提示された複数の見積もりを比較して購入する商品を選べるシステムです。
購買のほか、物品の在庫管理もワンストップで効率化できます。研究室へのヒアリングを重ねて研究室向けに特化しているので、研究室で本当に必要な機能が備わっています。
デジタル化で研究者の研究時間創出に寄与
「リプルア」を作ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
私自身、大学時代は研究室にいたのですが、当時必要な物品は数百ページもある分厚いカタログから選んでマーカーを引き、研究室の入口に貼ってある発注書に手書きで注文していました。
弊社が創業した2017年頃も状況はあまり変わらず、今でも注文は紙に書いていたり、エクセルで管理していたりするお客様が多く、インターネットで発注する割合のほうが少ないという現状があります。
紙で書いていたのでは、いつ、誰が、何を発注したのか共有できませんし、在庫管理もできません。そのような業界の古い慣習をデジタルで改善したいという想いが「リプルア」を生み出しました。
「リプルア」によって研究室にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
日本の研究開発は、この30年間ずっと競争力が落ち続けていると言われています。主な原因の一つに研究者の研究時間が減少しているという話があります。研究者は、国からの補助金を得て研究を進めることがよくあるので、何にお金を使ったか、集計して提出しなくてはなりません。しかし見積もりのプロセスが抜けていると補助金が不適合となるようなケースがあります。
研究者が時間を割いて集計するプロセスをデジタル化すれば、発注も在庫管理も効率化が可能です。単にアナログをデジタル化するというだけではありません。デジタル化が進めば研究者が研究に専念できる時間が増え、ひいては日本の研究開発の発展に寄与します。
購買・在庫管理から機器管理サービスも
かなりニッチな市場だと思いますが、市場規模はどの程度でしょうか?
日本の研究費は年間20兆円程度で、そのうち物品や機器の購買は年間で2-3兆円のマーケットがありますが、BtoBのEC化率は35%程度と言われていますし、現時点のデジタル発注による年間流通金額は数千億円程度と言えるでしょう。
そのため、研究者を支援する軸を変えず、弊社は既にマルチプロダクトでビジネス展開しております。在庫管理もその一つで、物品の流通額に拠らず、研究施設から月額利用料を頂いておりますので、購買とは別のサービス領域でマネタイズもできております。
今後事業を拡大していく上で意識されていることはありますか?
研究自体の精度や質に貢献できる機器管理というサービスも立ち上げています。研究室ではさまざまな機器を使用していますが、メーカー名や機種、購入日や点検日などの管理があまりできていません。
重さを量る機器の場合、10gを量りたくても機器本来の正しいスペックで動作していなければ実際には9gなのかもしれません。機器が正しく動作する状況を担保するためにメンテナンスが必要です。
いつメンテナンスしたか、次回はいつメンテナンスすべきかを一括登録できる資産台帳としてのツールを適切に運用すれば、研究の質の向上につながります。
「リプルア」は研究室だけでなく代理店にもメリットがあるのでしょうか?
あります。顧客である研究施設との購買プロセスをデジタル化することで、情報流通の精度・スピードを上げることができ、顧客からの問い合わせにもスムーズに回答することができます。また、機器管理では、研究室が所有する機器の情報を代理店に共有しながら機器管理オペレーションが進められるようになっています。
代理店にとって何がメリットかと言うと、顧客管理システムとして機能するということです。
あの研究室のあの機器は何年前に購入されたから、3年後には切り替えを提案すべきだということがわかります。
これまでは見積もりを依頼されたり、相談されてから提案していたりしたのが、代理店側から「そろそろメンテナンスの時期が近づいてるので弊社で引き取りますよ」と提案できれば売上にもつながります。
投資会社、コンサルタントで経験を積み経営に参加
澤田様が経営に参加されたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
私は新卒でベンチャー企業に出資する投資会社に入社して株主の立場で経営を経験し、経営コンサルタントやM&Aの外資系コンサルタントでは、グローバル企業の組織改革や業務改革も経験しました。
経営に必要なキャリアを積み、自分も事業に携わりたいと思うようになりました。そんなときにインナーリソースの創業社長が辞任するという会社にとって大きなイベントがあり、弊社株主から経営への参画を打診頂きました。
私も大学院では動物実験や細胞培養をする研究者だったので、すぐにこの事業に魅力を感じました。また、学生時代を費やした研究へのリスペクトは忘れていませんので、役に立てるのであれば経営に参加したいと考えました。
サラリーマンから起業家へ
起業を考えている若い世代へのアドバイスはありますか?
本当にやりたいことは何か、よく考えることが重要です。起業したいと言っても多くの人は会社を経営したいのではなく、自分の考えたプロダクトやサービスを広げたいのではないでしょうか。
事業計画を書き、銀行と折衝し、人を採用し、士業の先生方にもご協力を頂きながら法令順守を意識し、経理書類をさばく。これは本来やりたかったことでしょうか。起業したいと言っても、必ずしも経営をしたいとイコールではないことが多いと思います。
株式会社の原則に「所有と経営の分離」があります。会社の所有者と経営者を分けたほうが、企業が効率的に運営されるということです。自分が100%のオーナーシップを持ち、永続的に経営者であり続けるだけでなく、適時適切、事業のフェーズに合わせて経営自体は後任に任せるなどの手段もあるのではないかと思います。
御社の今後の展望などはありますか?
日本で企業が使っている研究費の9割は、資本金10億円以上の大企業が使っています。「リプルア」をより多くの研究施設でご利用頂き、価値を提供していくには、今後はエンタープライズ営業を進めていかなくてはいけないと考えています。
そのためには、安心してサービスを利用いただけるよう弊社自身のサービス提供体制を強化したり、より良質なカタログを提供するなどにより精度の高い情報を提供することが必要と考えております。
終わりに
KeyPoint
- 「リプルア」は研究施設に特化した購買・在庫管理システムである。
- 見積もり・発注・請求などの購買フローと試薬や消耗品の在庫管理をカバーし、研究者の業務効率化を図る。
- 物品の購買・在庫管理のデジタル化が進めば、研究者が研究に専念できる時間が増え、ひいては日本の研究開発の発展に寄与する。
いかがでしたでしょうか。
日本の研究開発力が落ちていると言われても、毎年のように日本人のノーベル賞受賞者が出ています。
しかし、受賞しているのは研究者が35歳までに行った研究が多いことが統計的にわかっているそうです。
これからも日本の研究開発が発展し続けるためには、若い研究者の研究環境が大切なのではないでしょうか。
若い研究者がアナログで時間を取られる雑用から解放されて、思う存分研究に没頭できるような環境になることを期待したいと思います。
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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