香りを言語化するAIシステム「KAORIUM」とは
海外旅行のおみやげとして香水をもらったり、知人にあげたりした経験のある方が多いのではないでしょうか。
海外の香水はとても芳しいのに、いざ身にまとってみると香りが強すぎて、人から香水臭いといわれてしまうことがあります。
知人のキャラクターを思い浮かべながら、その人に合う香水を選びたいと思っていても結局よくわからず、適当に有名な香水を選んでしまうこともありがちです。
このような状況の中で、SCENTMATIC(セントマティック)株式会社は、香りを言語化するAIシステム「KAORIUM(カオリウム)」を提供しています。
今回は、SCENTMATIC株式会社の金子様より「KAORIUM」についてお話をお伺いしています。
※KAORIUMはSCENTMATIC株式会社の登録商標です。
香りを可視化し、言葉から香りを選び出す「KAORIUM」
御社の業務内容について教えていただけますでしょうか?
SCENTMATIC株式会社は2019年に設立し、香りを言語化するAIシステム「KAORIUM」の開発を行っています。
「KAORIUM」は2021年のリリース以来、フレグランスやお酒を扱う専門店など、約600店舗様に導入されています。
弊社の主な事業には、フレグランス事業と酒事業があります。
フレグランス事業では、フレグランス、コスメ、トイレタリーなどを扱う国内メーカー様の直営店様や、その商品を扱う専門店様とお取引させていただいています。
酒事業では、国内で酒を扱う小売店様や飲食店様とお取引させていただいています。
これまで、気分に合わせた日本酒選びをAIがサポートするサービスを展開していましたが、2024年9月からはワインにも対応したソムリエAI「KAORIUM for Sake & Wine」をリリースし、利き酒師やソムリエのようにAIがお酒選びをサポートできるようになりました。
「KAORIUM」とはどのようなものなのでしょうか?
「KAORIUM」は、香りと言葉を相互に変換するAIシステムです。このシステムは、目に見えない香りを言葉で可視化し、逆に特定の言葉から関連する香りを選び出すことが可能です。パネルの上に、香りが入ったミニボトルが並んでいて「KAORIUM」はどれがいいかと質問してきます。香りを嗅いで好きな香りのミニボトルを中央に置くと、「爽やか」「上品な」など、その香りを表現した言葉がいくつかパネルに浮かび上がります。
そこから言葉を選んでいくと、その言葉の印象を持つ香りのミニボトルのリストが表示されます。何度かやり取りすると、自分の好みに合う香りがAIによってリコメンドされるシステムです。
香りの専門家の感性と膨大な言語表現を取り入れたAIが融合
まず、一つの香りに対して、その香りを表現する言葉をデータとして集めます。パフューマーやソムリエ、利き酒師の方に、香りから感じられる言葉を出してもらいデータ化するのです。
例えば「甘い」「フルーツ感」などのさほど難しくない言葉や一般的には判断し辛い抽象的な言葉もあります。
インターネット上の膨大な言語表現を取り入れたAIに、香りの専門家たちの感性のデータを融合させ、香りを一般の方がキャッチアップできるような言葉で表現します。
香りの言語化に取り組むきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
香りの言語化に取り組む背景には、弊社の「ゼロからプラスを生み出し新しい価値を提供する」という理念がありました。
日本では、これまでフレグランスやアロマの市場は小規模でしたが、今では年平均5〜6%成長しています。また、視覚や聴覚におけるデジタル技術の進化が成熟段階にある一方で、大企業が香りに関するサービスに続々と参入している状況があります。
弊社が持つIT分野の知見とユーザー体験のデザインスキルを融合させ、活性化する香りの市場で新しい価値が提供できるのではないかという思いがあり、弊社を設立しました。
どのようにしたらユーザーが新しい体験を楽しめるのかと考え、行き着いたのが香りを言葉に置き換え、逆に言葉から香りを選び出すシステムでした。
日本酒やワインを言葉で可視化し、新しい価値体験を創出
酒事業をはじめたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
弊社が酒事業に取り組んだ背景には「香りを通じて人々の体験を豊かにする」というビジョンがあります。
弊社は「KAORIUM」の開発を通じて、香りの感性を広げる取り組みを行っています。その中で、香りの持つ可能性を活かして価値を提供できる領域として日本酒に目をつけました。
日本酒は約2万〜3万SKU(商品点数)が存在し、ハードルは高いのですがチャレンジし甲斐のある領域です。香りを通じた体験価値を飲食分野に活用することで、単なる商品選びを超えた個々のニーズに応える革新的な仕組みづくりを目指しています。
酒事業では「KAORIUM」はどのように使用されているのでしょうか?
ソムリエAI「KAORIUM for Sake & Wine」は、日本酒やワインをわかりやすい言葉で可視化し、飲食店様でのお酒選びをソムリエのようにサポートすることで、新しい体験価値を創出するシステムです。ワインや日本酒を選ぶのはかなり難しいことです。ギフトだからといって、とりあえず1万円くらいの商品を選んだり、自分の知っているブランドを判断軸にしたりするのは、もったいないと思います。
我々のアプローチは、なりたい気分や好みの味に合わせて言葉を選ぶと、それに沿った商品をリコメンドします。
SCENTMATICが目指す香りの民主化とは?
取引先の企業は香りについてどのようなニーズがあるのでしょうか?
メーカー様から「香りの感じ方は個人によって異なるので、店舗スタッフのお勧めがお客様の感じ方と一致するとは限らない。『KAORIUM』はお客様の感じ方に基づいて香りを選べる体験だからよい」という言葉をいただいたことがあります。
香りを楽しむ商品は、お客様が商品に共感して買っていただくことによって次につながるので、メーカー様には、お客様が納得して商品を選ぶ体験を提供したいというニーズがあるのだと思います。
飲食店様では、ソムリエなど香りの専門知識を持つスタッフの方が少ない場合に、商品選択を支援するソムリエAI「KAORIUM for Sake & Wine」が価値を提供します。
御社は「香りの民主化」を目指していると伺いました。それはどのようなことでしょうか?
「香りの民主化」とは、個人が自分の感性と価値基準で香りを楽しむ未来を実現するという理念です。マーケットで売れるものを大量に仕入れ大量流通するやり方には経済合理性はありますが、それだけではユーザーに届かない商品がたくさんあります。
お客様が自分の感性で香りを選ぶ体験を喜び、そのようなお客様が増えれば、経済合理性より自分の感性に基づく購買行動が増えて、今よりも人の暮らしは多様で豊かになると思います。
香りを今よりも豊かに感じられる未来を実現する
海外展開も考えていらっしゃるのでしょうか?
弊社は、2024年5月にロンドンに新たな拠点を開設し、海外展開を進めています。
イギリスに拠点を置いて目指すのは、EU市場全体への販路開拓です。ヨーロッパは香りに関する文化や市場規模が日本を上回るとされ、挑戦する価値が高いと考えています。
ソムリエAI「KAORIUM for Sake & Wine」はインバウンド向けに英語版や中国版があるのですが、単に言葉を外国語に置きかえるだけではネイティブの人に刺さりにくかったという経験があります。「高貴な」という言葉をそのまま翻訳しても、その言葉が持つ意味を表現しきれません。
しかし、その後の改修により「KAORIUM」をロンドンのデザインフェスティバルに出展した際には、「面白さ」「店舗にあったら使うか」「言葉の妥当性」など3つの質問に5点満点で評価してもらったところ、総じて4.5以上の好スコアでした。
香りの感受性に国籍や文化の違いはあっても、「KAORIUM」への期待は日本と変わらなかったので、EUでも期待ができると思います。
御社の今後の展望などはありますか?
言葉は人の知覚を支援する働きがあると我々は考えています。
音楽に言葉を載せたら歌になり、絵に言葉を載せたら漫画になり、香りが言葉と結びつけば香りの解像度が上がり、これまでにない体験が作れるのではないかと思います。
弊社の今後の展望は、「香りの民主化」をテーマに、体験の幅をさらに広げることです。
店舗の固定費削減やオペレーション効率の向上を支援するとともに、利用者にとって没入感のある体験を提供します。
お客様の購買をどのように後押しをするか、協業する企業様とともに検討していきたいと思います。また、今は言葉だけですが、言葉から連想されるシーンや音を伝える方法論も並行して検討していきたいと思います。
「香りを今よりも豊かに感じられる未来を実現する」という大きなビジョンを持ち、これからも「嗅覚のデジタライゼーション」に取り組んでまいります。
終わりに
KeyPoint
- 「KAORIUM」は、香りと言葉を相互に変換するAIシステムである。このシステムは、目に見えない香りを言葉で可視化し、逆に特定の言葉から関連する香りを選び出せる。
- ソムリエAI「KAORIUM for Sake & Wine」は、日本酒やワインをわかりやすい言葉で可視化し、飲食店でのお酒選びをソムリエのようにサポートすることで、新しい体験価値を創出する。
- 「香りの民主化」とは、個人が自分の感性と価値基準で香りを楽しむ未来を実現するという理念である。
いかがでしたでしょうか?
休みの日に森林浴をして、森の香りが心地よいと感じた体験をした方もいらっしゃることでしょう。
香りはとらえどころがないものですが、リラックス効果やリフレッシュ効果など、さまざまな効果をもたらすことが実証されているそうです。
「集中して仕事に取り組む」「気合を入れてプレゼンに臨む」「週末をまったり過ごす」など、その日の気分に合わせて自分だけの香りを自分の感性で選び、身にまとうことができたら、今より少し暮らしが豊かになるような気がします。
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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