TOPPANの「VoiceBiz®UCDisplay®」が創造する「言葉の壁」を超えた多言語ソリューションとは
日本政府観光局の調査によれば、2023年の訪日外客数は約2500万人とコロナ禍以降右肩上がりで上昇しました。
その一方で、観光や小売、行政などあらゆる分野で訪日外国人や外国人就労者への多言語対応が課題となっています。
このような状況のなかで、TOPPAN株式会社は、昨年10月から多言語コミュニケーションを支援する「VoiceBiz® UCDisplay®」の提供をスタートしました。
今回はTOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部 ソーシャルイノベーションセンター室長/部長の小出伸作氏と同センター 係長の野阪知新氏より「VoiceBiz® UCDisplay®」のソリューション、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に向けた取り組みや将来の展望についてお話をお伺いしています。
創業から培ってきた「情報伝達技術」を武器に多言語コミュニケーションを実現する
TOPPANグループは1900年の創業以来、「印刷テクノロジー」をベースに、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクスの3つの事業分野でお客様と社会の課題を解決してきました。
長年培ってきた「情報をわかりやすく正確に伝達する技術」を活かしてさまざまなソリューションを展開しています。
「多言語コニュニケーションサービス」はその一つであり、翻訳技術、デバイス、アプリケーションを組み合わせて、TOPPANだからこそ実現できるサービスを提供しています。
「VoiceBiz® UCDisplay®」は、弊社の音声翻訳サービス「VoiceBiz®」と同じ翻訳エンジンを用いて円滑な多言語コミュニケーションを実現するサービスです。
スマートフォンやタブレット端末等を使った翻訳アプリは、翻訳結果を見るために視線が端末に落ちてしまうのに対し、「VoiceBizⓇUCDisplayⓇ」は会話する2者の間に設置した透明ディスプレイに翻訳結果が表示されるため、相手の目を見ながら自然な会話ができるのが特長です。
インターネットに接続されたタブレット端末、透明ディスプレイとマイクなどで構成され、設置スペースと電源、ネット環境があれば導入できます。
鉄道や観光窓口での実証実験を経て2023年10月に本格的な提供を開始しました。
「グローバルコミュニケーション計画」の技術を活用した音声翻訳サービス「VoiceBiz®」
「VoiceBiz® UCDisplay®」はどのような経緯で開発されたのですか?
弊社は2014年に総務省が策定した第1期の「グローバルコミュニケーション計画」に参画し「自治体向け音声翻訳システム」に関する研究開発に着手しました。
2018年には、日本語を含む音声翻訳12言語、テキスト翻訳30言語が可能な「VoiceBiz®」の提供をスタートし、2020年からスタートした第2期となる「グローバルコミュニケーション計画2025」では「多言語翻訳技術高度化推進コンソーシアム」の研究代表機関に選出されました。
2025年の大阪・関西万博や東京で開催されるデフリンピックを機会に国際交流が活発化することを視野に入れながら「VoiceBiz®」を搭載したサービスを模索してきましたが、その一つが今回の「VoiceBiz® UCDisplay®」です。
VoiceBiz® UCDisplay®は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した国産のニューラル翻訳エンジンを採用しています。
NICTの翻訳エンジンは、自治体、学校、観光業界での窓口対応に多用される固有名詞を標準搭載していますし、日本企業のニーズに合わせて開発しているため高い精度が期待できます。
音声をインプットする際に周囲の騒音を拾ってしまうところが難しかったです。
空港内にある駅の実証実験では、物珍しさから外国人の長い列ができてしまって、騒音によって音声が聞き取れないケースがありました。
音響関係の専門企業と共にマイクなどの音響装置を改善することで、現在は、空港や駅など騒音が多い場所でも問題なくインプットできるようになりました。
2017年に登場したDeepLは、ニューラルネットワークに大量のデータを与えて学習を行うことで、翻訳精度を飛躍的に向上させました。
一般的に、日本語を話す人口の割合は世界のなかでは少ないので、データの収集量に大きな差が出ているのではないかと考えられています。
しかし、総務省とNICTは、2017年に自動翻訳の高精度化のために必要なデータを集積する「翻訳バンク」を立ち上げて翻訳データを大量にサーバに格納し、最先端の深層学習を実施するなど、日本も多言語翻訳技術向上に向けた取り組みもおこなっています。
こうした取り組みの後押しも受け、今後も機械翻訳の精度はさらに向上するのではないでしょうか。
大阪・関西万博では、パビリオンにおける出展者と来場者のリアルタイムな対話や講演会場における自動同時通訳など、日本の多言語翻訳技術を提供し、世界に先駆けて発信できればと考えています。
また、2025年は、大阪・関西万博だけでなく、デフリンピックや世界陸上が開催されます。
「VoiceBiz®UCDisplay®」は、翻訳だけでなく、音声が聞こえにくい方には字幕、発語が難しい方にはキーボード入力をサポートするなどユニバーサルコミュニケーションを実装しています。
海外からのお客様への多言語対応はもちろんですが、障がいを持つ人々のサポートなど様々なシーンでの活用を考えています。
「VoiceBiz® UCDisplay®」の販売から半年が経過しましたが、既に10カ国以上からお問い合わせをいただいています。
アプリがあれば簡単な通訳はできますが、さらに手軽に多言語コミュニケーションを実現するツールがあれば、より気軽に日本にお越しいただけるのではないでしょうか。
そういった意味では、大阪・関西万博は、TOPPANの多言語コミュニケーションサービスをアピールする素晴らしい機会になると思います。
将来の展望について教えていただけますでしょうか?
世界の人口約80億人のなかで日本語を母国語とする人々は約1億人強ですが、言葉の壁に阻まれて様々な機会を損失してしまうのは非常に残念です。
歴史的な円安により、インバウンド需要が高まっている今、多言語翻訳の精度を高めて円滑なコミュニケーションを実現し、日本の経済の発展にも寄与したいと思います。
key point
- TOPPANグループは1900年の創業以来「印刷テクノロジー」をベースにお客様と社会の課題を解決している。
- 長年培ってきた「情報伝達技術」を活かし、2023年10月に多言語コニュニケーションサービスのひとつである「VoiceBiz®UCDisplay®」の販売を開始した。
- 「VoiceBiz®UCDisplay®」は、音声入力された言葉を相手の言語に翻訳し、透明ディスプレイに表示することで円滑な多言語コミュニケーションを実現するサービスである。
- 2014年に総務省が策定した「グローバルコミュニケーション計画」に参画し「自治体向け音声翻訳システム」に関する研究開発に着手した。
- 「VoiceBiz®UCDisplay®」は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した国産翻訳エンジンを活用している。
いかがでしたでしょうか?
日本ではこれまで、言葉の壁によってコミュニケーションが自由にスムーズにできないケースがあり、ビジネスシーンをはじめとした多くの場面における機会損失にも繋がっていたのではないでしょうか。
総務省の「グローバルコミュニケーション計画2025」によれば、2025年には端末やアプリによる同時通訳システムを社会実装し、2030年を目途にシビアなネゴシエーションへの対応を目指しています。
国を挙げた同時通訳システムを浸透させることによって、グローバルで自由な交流が実現するのではないでしょうか。
intervieweeプロフィール
TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部
ソーシャルイノベーションセンター
室長/部長 小出 伸作 氏
TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部
ソーシャルイノベーションセンター
係長 野阪 知新 氏
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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