世界の患者を救うため内視鏡AIで「がん見逃しゼロ」を目指す
日本人の死因のトップは「悪性新生物(がん)」です。2022年度の厚生労働省「人口動態統計(確定数)」によると、がんによる死亡者数は38万5787人で、全体の24.6%を占めています。
食道・胃・大腸など消化管のがんによる死亡者は、がんによる死亡者全体の約3割です。しかし胃がんは、早期に発見できれば9割以上の人が治ると言われています。
がんを早期に発見するためには、検診を受けることが重要です。しかし人間の目でチェックするのには限界があり、早期がんの約2割は見逃されていると言われています。
株式会社AIメディカルサービスは、医師の診断を補助する内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI-model G」を開発しました。
今回は、株式会社AIメディカルサービス経営企画責任者の金井様より内視鏡の画像診断支援AIについてお話をお伺いしています。
医師の診断を補助する内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI-model G」
株式会社AIメディカルサービスは、内視鏡の画像診断支援AIの開発を行っています。
内視鏡にAIを搭載することによって早期がんの見逃しをなくし、世界の患者を救うことが私たちのミッションです。
弊社が開発した内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI-model G」は、胃の内視鏡検査を行う医師の診断を補助する内視鏡診断支援システムです。2023年12月に厚生労働大臣から製造販売承認を取得しました。
「gastroAI-model G」は、内視鏡検査中に肉眼的特徴から生体組織診断などの追加検査を検討すべき病変の候補を検出します。病変と疑われる部分を発見してフリーズ操作を行うと、AIが解析を始めてモニターに結果を表示します。
「gastroAI-model G」は、国内外の100施設以上の医療機関から提供いただいた胃病変画像データを学習したAIを搭載しています。
ソフトウェアの構成は非常にシンプルです。主要な内視鏡メーカーの内視鏡システムに接続して使います。標準端子にケーブルを繋ぐだけなので、内視鏡に合わせてカスタマイズする必要はありません。
AIの画像認識能力の向上が内視鏡AIの開発を加速
内視鏡検査にはどのような課題があるのでしょうか?
内視鏡検査は、専門医がいる大病院だけでなく、町中のクリニックでも受けることができますが、医師のレベルにはばらつきがあるといわれています。
弊社の目標は「がんの見逃し」を撲滅することです。内視鏡検査は早期がんを発見できる検査方法ですが、2割程度は見逃しがあるといわれています。
小さな病変を見つけることは専門医でも難しいものです。また、自治体が主導する胃がん検診において、ダブルチェックを担当する医師は大量に読影しなくてはならず、人の目だけでは見逃しをゼロにすることは困難です。
AI研究の第一人者である東大・松尾豊氏の「AIの画像認識能力が人間を上回り始めた」という話がきっかけです。
日本の内視鏡医療は世界でもトップクラスで、質的にも量的にも高水準なデータが蓄積されています。
膨大な画像データをひとつひとつ精査してデータベースを構築し、ディープラーニング(深層学習)の手法で精度を高める研究を進め、専門医の平均を上回る評価結果が得られたことから事業化に本格的に着手しました。
弊社では創業当初からさまざまな医療機関と共同研究をすすめてきました。2018年に、世界ではじめて胃がんを検出できるAIを開発して論文発表するなど、40本以上の論文を発表しました。
がん研有明病院、大阪国際がんセンター、東京大学医学部附属病院など、100を超える医療機関との共同研究の実績があり、AIの開発に欠かせない高品質なデータを提供していただいております。
海外の医療機関からも引き合いが多く、シンガポール国立大学病院やスタンフォード大学医学部などと共同研究契約を締結しています。
医療業界は規制産業です。薬機法やQMS(品質管理監督システム)省令に加え、個人情報保護法、各種工業規格などさまざまな法規制を遵守しなくてはなりません。人に対して使用するものなので有効性と安全性を検証する必要があり、医療機器が世に出るまでには時間がかかります。
ひとつひとつデータを積み上げて、細かく手続きを踏んでいかなくてはいけない仕事なので、資本力を大量につぎ込めばできるというものではありません。
将来的に成長が見込まれる市場ですが、グローバルジャイアントが競合になりにくく、参入障壁が高い市場の中でポジションを確立できていることは、弊社の強みだと思います。
対策型胃内視鏡検診サポートサービス「gastroBASE screening」といいます。「gastroBASE screening」は胃内視鏡検診と二次読影データをクラウドで共有できるようにしたシステムです。
クリニックや病院で実施した胃内視鏡検診の画像データやレポートを「gastroBASE screening」を通してクラウドで共有します。二次読影は医師会・病院・自宅など、どこからでも読影可能です。
二次読影を行った医師が読影結果をクラウドで共有すると、胃内視鏡検診を実施したクリニックや病院で読影結果を確認できます。
がん検診には対策型検診と任意型検診があります。対策型検診は、集団の中からがんの可能性がある人を早期に発見して全体の死亡率を下げることを目的としており、市町村や健保組合などが提供する医療サービスです。
対策型検診は、国の指針で、検診の精度を保つために胃内視鏡検査についてダブルチェックの実施が求められています。従来はUSBやCDを検診会場に持っていき読影していました。
クラウドにすれば、読影する医師は読影会場に集合する必要がありません。手持ちのPCで読影できるので専用回線や専用のPCも不要です。検診結果の集計がラクになり、書面紛失のリスクも減るなど、業務の効率化が期待できます。
画像診断支援AIの開発を加速しグローバルな事業展開を目指す
御社の今後の展望などはありますか?
がんを早期に発見し、早期に治療すれば、患者の身体的、経済的負担は少なくてすみます。
内視鏡の画像診断支援AIを用いれば、早期がんの見逃しが低減することが期待されており、患者にとってメリットがあるのはもちろん、医師の負担も軽減できるでしょう。
画像診断支援AIの開発を加速し、内視鏡検査の品質の「均てん化」、つまり専門医がいない地域でも高度な医療が受けられるよう、格差を是正することを目指します。
グローバルな展望もありますか?
弊社は海外の病院から引き合いが多く、世界で10か国を超える地域の医療機関と共同研究契約などの協議を進めており、グローバル化の足掛かりはできています。
2024年2月には、弊社が開発した内視鏡画像支援システム「gastroAI-model G-SG」がシンガポールの健康科学庁の審査と機器登録手続きを完了しました。
世界の患者を救うというミッションのため、内視鏡AIの機能拡張や対象器官の拡大のための研究を進めていき、海外での承認取得や事業展開を目指します。
key point
- 株式会社AIメディカルサービスは、医師の診断を補助する内視鏡画像診断用ソフトウェア「gastroAI-model G」を開発し、2023年12月に厚生労働大臣から製造販売承認を取得した。
- 対策型胃内視鏡検診サポートサービス「gastroBASE screening」は胃内視鏡検診と二次読影データをクラウドで共有できるようにしたシステムで、対策型検診の業務を効率化することができる。
- 内視鏡の画像診断支援AIを用いれば早期がんの見逃しが低減し、患者にとっても医師にとってもメリットがある。
- 画像診断支援AIが普及すれば、内視鏡検査の品質の均てん化が期待でき、専門医がいない地域でも専門家並みの精度の診断を受けられる。
いかがでしたでしょうか?
市町村から検診の案内が届いても、内視鏡検査は気が進まないという方が多いのではないでしょうか。
しかし、画像診断支援AIが医師をサポートして早期がんの見逃しがゼロに近づけば、受診の動機付けになるかもしれません。
均てん化とは本来「生物が等しく雨露の恵みを受けてうるおうように」という意味です。がん治療においては「どこでも誰でも等しく質の高いがん治療が受けられるように、医療技術の格差を是正する」という意味で用いられます。
世界でもトップクラスといわれる日本の内視鏡医療の恩恵を受けられるのですから、もっと積極的に検診を受けてみてもよいのではないでしょうか。
関連記事
- 人間の五感を数値化へ。脳波測定を通じて人間の内面を数値化するSandBoxの挑戦
- 聞こえ難い音をクリアに解放。ドイツ企業「Mimi」が提唱する音のパーソナライズ化とは
- 血糖値管理を通じて、複数疾患の予防・治療、医療費削減を目指す。「Perfood」の展望とは
- 姿勢が変わると、人生が変わる。人生100年時代を幸せに生きる秘訣とは
- 日々の体重に一喜一憂する時代は終わった。体重計でもバスマットでもない「近未来型ヘルスケア」
- 専門用語学習機能を強化した議事録DX 「One Minutes」
- スマートグラスシステム「ロジスグラス」で2024年問題に挑む
- TOPPANの「VoiceBiz®UCDisplay®」が創造する「言葉の壁」を超えた多言語ソリューションとは
TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
この記事を気にいったらいいね!しよう
PreBellの最新の話題をお届けします。