ドローンは空の産業革命!常識を打ち破る挑戦で日本を豊かにしたい
2022年12月の航空法改正により、インターネットで注文した商品をドローンが届ける「SF映画」のような世界も現実味を帯びてきました。
さまざまな分野でドローンを活用したDX化を検討している企業も多いのではないでしょうか。
一般社団法人国際ドローン協会(IDA)は、ドローン業界のパイオニアとして、教習所の運営、空撮や薬剤散布、測量などあらゆる事業を牽引してきました。
今回は、IDA代表理事の榎本幸太郎氏から、前編と後編の2回に渡ってお話をお伺いしています。
後編では、ドローンによる農業のDX化、若者を中心とした後継者の育成、ドローン業界の未来についてご教授いただきました。
日本の食糧自給率は38%程度で、輸入が止まると食糧危機に陥るリスクがあります。
同じ先進国でも、フランスは160%、アメリカは200%ですから、日本は従来のやり方に固執せず、DX化を推進する必要があるでしょう。
弊社では、ドローン、AIなどあらゆる技術を駆使した農業のDX化の可能性を模索しています。
具体的にはどのようなことをされているのですか?
農地を借りて、完全自動化による米作りが可能かどうかを検証してきました。
実際の作業としては、測量ドローンで水面の高さを計測し稲を植えます。
さらに、スペクトラルカメラをあてることで、稲がどのように成長するかが分かるので、それを参考に肥料を散布します。
全ての作業データを厳密に管理することで、農地当たりの収穫量を均一化することを目指してきました。
将来的には、ネットワークとGPSを搭載したトラクターとドローンを併用することで、農家の負担が大きく軽減するでしょう。
DX化の道筋が見えてきた!培ってきたノウハウを連携させて農業のイメージを変える
AIとドローンを駆使した農業が実現すれば、若者の担い手も増えるのでしょうか?
個人的な見解として、農業は「最も理にかなっていて人間の根幹の最低ラインを維持できる素晴らしい職業」だと考えています。
農業のイメージを変える「ICTの技術によるDX化の道筋」がようやく見えてきました。
今後も農家の方々の助言をいただきながら、農業のDX化を推進し若者の担い手が増えると嬉しいです。
DX化を推進するうえでの課題などはありますか?
一般的に農業用ドローンを利用すれば完結すると考えられていますが、DX化には測量ドローンが欠かせません。
具体的には、測量ドローンを用いて精度の高い測量写真を撮影し、そこから自動マップを形成します。
小さな田畑であれば、精緻な測量は必要ないかもしれませんが、100haや1,000haを超える大規模な田畑のDX化は難しいでしょう。
弊社は、空撮からスタートして、点検、農業などあらゆるドローンに関する業務に携わってきましたが、DX化を推進するためには、ノウハウの連携が必要不可欠であると考えています。
今後のドローン業界を担う人材を増やしていくことに関してどのようにお考えでしょうか?
業界全体が右肩上がりですが、実際に運用ができる人は非常に少ないのが現状です。
しかし、自己流で挑戦して諦める人が増えると「ドローンが市場から撤退」という状況になりかねないので、単純に人を増やせば良いとは考えていません。
ある程度高いハードルを設定して、そこを超えた知識と技術を持った人のみが操縦できるようにすべきだと考えています。
ドローンは「無人航空機」ですから、パイロットになる覚悟を持った人や能力を備えた人が増えなければ意味がないと思います。
専門性の高いエキスパートが常識を打ち破るような挑戦をして、新しい世代が入っていきたいと思わせる状況を作っていきたいと考えています。
そのためにも、ドローンにおける最難関の仕事に従事する私たちが、メーカーに対して、確実にフィードバックをすべきだと思います。
ドローンによるDX化成功の鍵は「柔軟な発想とデータ」を示して成功のイメージを描くこと
若手を育成するという観点では、一般のスクールではなく若者を育成する専門学校などが必要になるのでしょうか?
現在のドローンに興味をもっている中心の層が40代ですので、若者を育成するための専門学校の設立は既に視野に入れています。
せっかく技術を身につけるのであれば、10代20代の頃から切磋琢磨して、世の中に貢献して欲しいという思いもあります。
そういった願いもあって、私たちは、小学校でドローンの歴史や操作の体験ができる無料の講習会を開催しています。
どれだけ小さなことであっても発信して、ドローンで何ができるかを知ってもらうことが大切だと思っています。
若者に興味を持ってもらうためには何が必要だと考えておられますか?
高度経済成長期を駆け抜けてこられた世代の多くは、既に、子供の頃に夢みた未来に到達していることに気づいていません。
時代は驚くほど進んでいるのに、経営陣がその先の未来を描くことができなければ、具体的な指示が出せないので、若者が動くことは難しいでしょう。
今までの常識を打破した柔軟な発想と事例を駆使して、具体的な成功のイメージを示すことができれば若者が興味を持つのではないでしょうか。
全国的な「次世代通信のアップデート」はDX化に向けた課題
最後にドローン業界の課題について教えていただけますでしょうか?
弊社では最先端のドローン業務に従事していますが、高速通信回線がなければ成立しません。
弊社では、NURO光を利用していますが、1回に1テラを超えるデータのやり取りが頻繁に発生しています。
そういった業務にも充分対応できるので非常に頼りにしています。
また、ドローンを操作する場合、正確な高さ情報を取得するために、インターネット回線は欠かせません。
現状、地方では回線が遅い地域があるので、全国的な次世代通信のアップデートはDX化に向けた課題のひとつではないでしょうか。
ドローン業界や御社の将来の展望についてお伺いできますでしょうか?
世界のシェア7割を占めるDJI社は、産業用と並行して常に初心者向けの小型ドローンを販売して裾野を拡大してきました。
DJI社の素晴らしいところは「ドローンは空の産業革命であり、あらゆる産業を変えていく」という一貫したスタイルです。
日本におけるドローン業界は、これからの10年で大きな変革を迎えます。「ドローンは凄い!やってみよう」と思ってもらえるような事例とノウハウを蓄積しながら世の中をより豊かにしたいです。
key point
- 日本は輸入が止まると食糧危機に陥るリスクがあるため一刻も早く農業のDX化に舵を切る必要がある。
- IDAはドローンやAIなどあらゆる技術を駆使して農業のDX化を実現に向けた実証を行っている。
- ドローン業界全体は右肩上がりだが、実際に高度な運用ができる人材は非常に少ない。
- ドローンは「無人航空機」なので「パイロットになる覚悟」を持った人や同等の能力を備えた人が業界の新しい人材として望ましい。
- 全国的な次世代通信のアップデートはDX化に向けた課題のひとつである。
いかがでしたでしょうか?
航空機やヘリコプターは地上150メートル以上を飛行することが義務づけられており、150メートル未満の空域は「鳥しか飛ばないフロンティア」と呼ばれてきました。
この空域をドローンで自由に走行すれば、業務の効率性が格段に上がり、新たなサービスを生み出し少子化をはじめとする社会課題の解決につながります。
豊かな日本の未来を実現するためにも、ドローン業界における法改正や人材育成、次世代通信のインフラ整備などに早急に取り組む必要があるでしょう。
intervieweeプロフィール
榎本 幸太郎
一般社団法人国際ドローン協会代表理事・一等無人航空機操縦士
10歳からラジコン飛行機、16歳からラジコンヘリコプターを始め、以後40年にわたって無人航空機を操縦してきた日本におけるドローン操縦の第一人者。2008年からはドローンを使用した多くのミッションに関わり、映画・CMの撮影、都内やDID上空の飛行、山岳地・局地での撮影および調査・測量、3Dマップ製作や壁面調査など豊富な経験を持つ。海外での撮影経験も多い。それらの経験・技術を生かし2018年よりドローンスクールを主宰。2023年3月にはIDA無人航空機教習所を開き、一等無人航空機操縦士および二等無人航空機操縦士の技能認証が取得できる全国でも少ない施設を運営している。
一般社団法人国際ドローン協会
https://ida-drone.com
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TEXT:PreBell編集部
PHOTO:iStock
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